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邪神戦艦大和

 何があったかを説明する前に少し時を戻したい。


 1940年8月、一隻の船が進水式?を迎えようとしていた。?が付くのは、その儀式が行われる場所が内陸も内陸、満州帝国首都新京郊外であるからだ。


 正直進水式とは言い難い。ここには海水も真水も一滴も無くだだっぴろい荒野があるばかり、その荒野に日本本土から送られてきた各種工廠設備が配置されている。

 

 一番目立つのは今回進水式?を迎える船である。彼女は大日本骨食み帝国が威信を掛けて作り出した科学と魔道の融合体なのだ。


 彼女を作り出す為の労力は凄まじい物があった。金銭の問題ではない。帝国の懐事情は大変に暖かく、列島改造と大陸復興の名目でアメリカからは大量の鋼材を買い付ける事にも大きな支障は出ていない。


 列強各国も、よもや陸で艦船を建造するアホがいるとは未だ理解していない。帝国にとっても陸上戦艦は虎の子の新兵器と言う訳で防諜も万全である(嗅ぎまわっていた者は全て工員や警備員の腹に収まるか「問題無し」と本国に送る生命無き操り人形だ)


 問題は動かす為の膨大な量の生贄である。魔を宿し、絶え間なく魂を求める暗黒のボイラーと艦本式タービン4基に火を入れるにも、竜骨と骨組みだけだった船体に赤く蠢く何かを流し込んで固めるのにも生命が必要なのだ。


 この船は生きている。正確には仮初の生を邪術を持って与えられている。愚図り腹を空かせ、むずがって夜泣きする。不死者であろうと生者であろうとこれを相手にする側は大変だった。ある者は急に動いた25mm3連装機銃に弾きとばされ、あるものは46サンチ砲に引きずり込まれ空を舞った。


 生ある工員の三分の一が作業中に不死者への転生を願い出たと言うのだから過酷も過酷な建艦だったのであろう。


 そうまでして何故にこの怪物を作るのか?それは安くて速いからだ。本来なら彼女と姉妹を作るには1億3551万4321円の予算と五年は要する所を、六分の一の予算と一年で完成させられる。


 子のお陰で、死霊術師永山が帝国をしっちゃかめっちゃかにしている間、海軍の建艦計画は殆どが白紙に戻され、彼女も姉妹も書類上の存在になり果てていたが急ピッチでの建艦が進んでいる。


 今回進水式?を迎える彼女には姉妹が後二隻おり、その姉妹たちも生贄と工員の悲鳴に包まれ鋭意建艦中である。凡そあと二月もあれば姉妹は勢ぞろいする事になるだろう。


 彼女たちが大和撫子ではなく、中華娘娘である理由は安さと速さ関係がある。彼女たちのチャイナ服は血に塗れているからだ。先にも述べたが彼女たちを建造するには魂だけではなく大量の生贄が必要なのだ。


 朝昼の羊と真夜中の人間が彼女らを驚異的な速さで形にしていく秘密だ。これを本国では流石に無理。改装するだけであれば、魔力を有しない者には無害な魂の絶叫が響き渡る位だが、此処では実際に悲鳴が聞こえる。


 聞こえた後盛大な咀嚼音もするし、ゲップも聞こえる。菊の御門のやや下あたり横に亀裂があるのが分かるだろうか?船首部分に美観を損ねるウインチがやたらあり、その鋭いアンカーが偶にウネウネしているのが見えるだろうか?彼女は大食らいなのだ。


 必要なのだ。居なくなって誰も文句を言わない者が大量に出来うる限り迅速に。だから態々中華は彼女たちの揺籃の地として選ばれた。もしもであるが赤い熊が死んだりしたのであれば、北海道あたりが第二第三の呉や横須賀軍港になるかもしれない。あそこなら誰の目にも付かない収容所を幾らでも立てられる。


 さあ、式もクライマックスである。日中満の高官が居並ぶ中、最後の儀式が行われる。メインデッシュ名を蒋介石と言った。


 暗黒の炉に火を入れるには生半可な着火剤ではいけない。意思も欲望もある強い魂が必要なのだ。残念ながら毛沢東は中華代表に食われてしまったが、彼こと蒋介石は日本軍が確保し秘密裡に満州に輸送されていた。


 


 憔悴しきった男、蒋介石は己を見ている悪魔たちを唯々見る事しかできなかった。ここに連れて来られて早五日。毎夜聞こえる悲鳴と咀嚼音、人間の骨がかみ砕かれる音が耳に残り続けている。


 自分はいったい何に負けてしまったのであろうか?自分は清廉潔白な人間ではない、男子と生まれたからには中華を征すると言う欲望も何時しか生まれて居た。


 だが、そんな自分でも本物の邪悪は分かる。後ろ暗い真似を自分だって幾つもしてきたが、こいつ等は別格だ!


 こいつ等は自分の事を全く悪だなんて思っていない!奪い、殺し、犯す事を権利、ともすれば義務だと思っているのだ!慈悲なんて物はこいつ等にはないんだ!嗚呼なんて目だ!喜んでいやがる!心底楽しんでいる!こいつ等は化け物だ!


 目を前に向ければ巨大な船が自分を見下ろしている。自分は此処に跪かされ最後を待つことしかできない。誰か!誰でも良い!こいつ等を止めてくれ!お願いだ!


 


 彼の願いも空しく無常にも、ガラガラと音を立て独りでにウインチは動きだす。遥か高見から降りて来る鎖が蒋介石の体に巻き付き彼を引きずり上げていく、満面の笑顔でそれを見送るゲストたち。軍艦マーチの音も高らかに彼の運命は最後の時を迎えようとしていた。


 口が開いた。菊の紋章の下、嘲る様に歓喜する様に大きく赤く亀裂が笑いの形に歪み、悲鳴を上げる他はない男を一人飲み込んだ。


 咆哮が上がる。無数の生命を飲み込んで新しい怪物が大地を踏みしめる。進水式の筈だが大地を行く。


 怪物の名前は大和。世界最強の戦艦である。


 火山が吼える、巨獣が大地を揺るす。姉妹の進撃を誰も止められらない。それがどの様な軍であろうと、どの様な要塞であろうとだ。


 赤き都市が燃える事はこの時から決まっていた。運命は避けられない、運命は残酷なのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メガテンの超力戦艦がマトモに見える程邪悪な戦艦が進陸w 主砲はショックカノンすら上回りそうw
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