表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

悪魔の楽園、狼の遠吠え

 これまで述べて来た通り、ロシアの大地を巨大な食肉処理場に変えて進軍する狂気の軍団の片割れたる、大日本熊鍋食い放題ツアー帝国であるが、この参戦は、もう片方の悪魔にとっては実の所嬉しくない事態であった。


 史実では、何時までも参戦しない日本に、あの手この手で参戦をせっつきながらも、遂には独ソの争いに日本を巻き込む事が叶わず、それどころか日本のお馬鹿で、アメリカの本格参戦まで呼び込んでしまい滅亡の時間を早めた形のナチスドイツではあるが、この世界では単独でソ連を打ち破る確信があったからである。


 まあ、史実の方でも腐った納屋だと思ったから蹴りつけた訳だが、よもや蹴り付けた納屋から飛び出した熊嵐に吹き飛ばされて土饅頭に埋められるとは思わなかっただけだ。


 この世界の納屋は腐っている上に、中で唸っている熊はボロボロもボロボロ。冬眠には失敗し、不死身の猟師に追い回され、三十年式実包を嫌と言う程打ち込まれている。これに負けるとは総統以外にも国防軍だろうとSSだろうと思ってはいない。


 だから参戦してもらっても困る、取り分が減る。タダでさえシベリアと言う熊肉を抉り取っているのに、これ以上可食部を取られては大変に困る。


 大ドイツには明るい展望があるのだ。殺して殺して殺し周り、後は文句を言わない奴隷に変えた熊の死骸で

広大な大地を耕し、自分たちは不労所得で暮らそうと言う大計画がある。


 国民だって期待している。大々的に国内で使役される様になった死体たちは、キツイ労働を肩代わりしてくれ、自分たちはそれを監督するだけで良いのだ。


 当初は仕事を奪われると反対していた労働者も、自分たちが憧れの立場になれるかもしれないと胸を高鳴らせている。


 党は約束した。一部は実現すらし始めているから、口には出さないが心中で胡散臭いと思っていた宣伝相の言葉も真実味を帯びさえしている。


 「ドイツ人の義務は技能労働と兵役のみとなる!労働時間は一日五時間!週休は三日!国民諸君!君たちは御主人様となる!見よ征服地から来る奴隷の群れを!何れドイツ国民は無駄な労働と言う枷から解放され、真理の探究と帝国防衛が君たちの本分となるのだ!そして赤いゴミ共を掃除した暁には君たちは広大な土地を分配しよう!君たちは新たな時代のユンカーとなるのだ!君たちはモーゼルワインを片手に監督し偉大なる祖国を総統と共に描き上げる事になるだろう!」


 ラジオから流れる声は希望に満ちている。勝てば良いのだ。勝ちさえすれば、自分たちは奴隷に鞭を打ちながら寝て暮らせる。


 誰もがローマ貴族となれる時代!穴倉で生肉を齧っていたゲルマン、、、、否!アーリア人から各段の進歩である。だからこそ大量に収穫できる資源を奪われたくはない。


 資源を奪わない事には労働させる奴隷が足りなくなる。無償労働してくれると言っても、誰も戦死した身内を使いたくはない。他人だから他民族だから良いのだ。それが二足歩行型人擬きなら尚良い。熊には人権も死後の安寧も無用だ。だって熊だから。


 皮肉な事にユダヤ人の扱いはこの様な考えにより少しだけ、ホンの少しだけ良くなった。だって無理させたら彼らは死ぬのだ。彼らは意外な事に(ドイツ人にとって)優秀な技能持ちである。死体には出来ない細かく繊細な労働ができる。


 (処理して)物言わぬ奴隷に変えるよりは最低限の物資を与えて死なない程度に労働させる方が有意義であると党のお偉いさんは考えた。何れは死ぬのだからそれから使っても問題なしと結論したのだ。


 最終的な解決策はお蔵入りとなった。そしてそれはドイツ製高性能戦争機械の回転が早まる事にも繋がる。ガス室も収容所も火葬場も動かすのは唯ではないし、それは流石に動く死体が代わりにやってはくれない。本当に皮肉であるが死体は生者を救ったのである(代わりに熊は史実の1.5倍で駆除されているが)

 

 その様な事情もあり、狼の巣で総統は吠えている。ワオーン!ウワーン!ギャンギャン!と吠えている。若がえったから吠え声は更に甲高く勢いも良い。ボルマンとヒムラーが逃げ出す位には勢いが強い、我慢しているのは、これまた若返り、夫人との間に更に子供が増えた宣伝相くらいである。


 吠え声の内容は簡単である。「オウ!日本より早くモスクワに旗を立てるんだよ!国防軍!何してんだ!ヒムラー!逃げるな!SSを動員して墓を掘り起こせ!フランス全土の墓を暴くんだよ!早くしろ!ムッソリーニに負けるな!大陸軍だろうとローマ軍だろうと戦線に叩き込め!」


 はた迷惑な事にSSは大増員され墓荒らしと死体泥棒を兼任している。これでは親衛隊なのか葬儀業者なのか分かった物ではない。なおSAは墓から叩き出されエルンスト初め、北の大地を行進中である。


 そんな狼(自称。最近、恥ずかしくて人に言って無い。十代まで若返って総統を強襲、妊娠したエーファ除く)の耳に凶報が届けられたのは1941年12月8日の事である。


 「モスクワ炎上!スターリン含め、共産党幹部の行方は分からず!日本軍の攻撃と思われる!」

 

 「キャイーン」と狼は己の巣で鳴き声を上げた。 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ▷最終的な解決策はお蔵入りとなった。 …この世界線ではとりあえず悲劇は回避されてましたね。 良かった良かった(良くねーよ) 北の熊?、知らんなあ… [気になる点] ユダヤ人が協力的(死…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ