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富士山?でもないし?六甲?アルプスでは何か違うし、、、、

 結論から言うと、可哀そうな国務長官が折れた様に、合衆国の大統領も折れた。民主党の長老連から、合衆国の真の主と言える大資本家のお偉方までもが、何処から聞きつけた物か猛烈な圧力を掛けて来たのが原因である。


 何処でどう情報が漏れた物か。ハワイから極秘通信を受けた翌日には、ホワイトハウスに黒塗りの車が列をなし、「おいゴルァ!何見て国政してんだ!大統領だせぇ!」とシークレットサービスを押しのけて、ルーズベルト氏をワシントンの超高級ホテルに連行し、目を血走らせた見た目だけは若い老人たちが(誰もが例の薬を、金に飽かしてがぶ飲みしている)泣きつくやら、脅しつけるやら。


 すわ何事かと飛んできたマスコミまでもが騒ぎ出し、「もしや対独宣戦布告か?」「第二次ルシタニア号事件でも!」とあること無い事書き立て報道に至る。


 「あー!もう滅茶苦茶だよ!どうしてくれんのこれ!日本が悪いよ!日本が!」


 と大統領は叫んだと叫ばないとか。 

 

 歴史上の権力者たちが求め続けてきた、究極の目標である不老不死、それが不死とはいかない迄も、自分たちから見たらはした金で手に入るのであるから、是が非でも欲しいのは当たり前である。


 大事な大事なスポンサーから、「もしこれを飲まないのであれば、テメェらにはびた一文払わん!」と言われれば、如何に合衆国の大統領であろうと折れる他はない。大統領であるためには金が必要なのだ。大統領選に勝つために幾ら金があった所で足りる物ではない。


 


 「誰だ!この事を漏らした大馬鹿は!」


 欲まみれの(見た目だけ若い)爺と稀にいる婆の集団に襲われ、這う這うの体で白き館に戻った主は、居並ぶスタッフを怒鳴りつけた。裏切者がいるのだ、絶対にこの中に。


 ギロリと視線を向ければ、そっぽを向くやつ、下を向くやつ、「私裏切って等おりません!目を見て!この目を!」と見返す奴。


 (嘘つけ!目の中が金と権力欲で濁りきってるだろうが!こいつ等皆裏切者だ!)


 「ふん!まあ良い。分からんでもない、誰しも政治生命が大事だからな。だが、幾らなんでも裏切るのが早すぎではないのかね?昨日の今日だぞ?そんなに私は頼りないか?大統領なんだよ私は?君たちはそのスタッフだ。もう少し義理とか責任とかを感じてくれても、天罰は当たらないと私は考えるんだが?」


 (問い詰めて無駄だなこれ)そう感じた大統領は、呆れるとしか言いようのない表情で、昨日までの優秀で愛国心ある腹心たちを見渡し言葉を掛ける。


 「それで、事態はどこまで漏れているのだね?まさか共和党の連中にまで、告げ口して回った馬鹿はいないだろうな?」


 疲れたよ私は。と言いながら席に着いた大統領は、流石にそこまでの馬鹿は居ないかと思いながら再度周りを睥睨する。


 「嗅ぎまわっているのはおりますが、まだ知られてはおりません。ですが、時間の問題かと。業突く張りどもは、我々が日本の要求を飲まなければ、直ぐにでも鞍替えするつもりの様ですので、、、」


 大統領の質問に答えたのは、彼と同じく疲れた顔のヘンリー・A・ウォレス副大統領である。訳も分からず大統領が何処かに連れ去られると言う前代未聞の珍事に、先ほどまで走り回っていたのだ。


 彼としても、事は青天の霹靂と言う奴だ。何某かの重大事が起こっている事は大統領から既に聞かされており、それが対日関係である事も承知していたが、今朝から、ありとあらゆるコネクションを通じて「融通を!」だとか「是が非でも大統領を説得しろ!」だとか「君を大統領に押しても良い!」とか言った声(それも民主党関係の政界財界の大物から)がひっきりなしに飛び込んできている。


 「あの閣下?実の所、私も正確には事態を把握しかねております。日本が我が国に何某かの重大な要求を突き付けて来たのは承知しておりますが、一体何事が起ったのですか?」


 (何を知らん顔しおって!、、、、、こいつはまあ信頼できるか、我が党に基盤が薄い男だし)


 本気で不思議がっている腹心を見やり、内心で失礼な事を思う大統領。

 

 (後の連中も不思議そうな顔はしているが、内心で舌をだしている可能性はある。ああ!疑い出したらきりがない!)


 「すまなかった。事は急を要する事態で、君にも詳しくは話せなかったのだ。正直に話そう、時間は余残されいないようだからな。事が国民にも知られる事になると我々全員の政治生命は絶たれる可能性すらある。皆も聞いてくれ、合衆国は道義を取るべきか、実利を取るべきか、それが問題なのだ」


 罵倒と焦りと疲労で12ラウンドを戦った後のグロッキーな脳内を抑え込み、大統領は出来うる限りの冷静さを捻り出す。これから始まる話し合いは、長い物に成りそうな予感が彼にはしていた。



 

 

 

 満州帝国首都 新京


 「それで?その時のハル長官の顔はどんな物だったんだ?永山君?」


 海とは縁遠い大陸の奥深く、そこで、これまたこの場所とは縁の遠い服装の男が、顔色の悪い男と話し込んでいた。


 「百面相とはあの事でしょうね。青から赤に白から赤にと、行ったり来たりしてましたよ。余程屈辱的だったんでしょうねぇ」


 男の言葉に応える者は可笑し気に応えた。それ程、あの時のハルの顔は正に見ものだった。


 合衆国は折れた。奇跡の薬の大量購入と引き換えに、ソ連に対して一切の援助をしないと確約し、大日本悪徳セールス帝国が、これから行う押し込み強盗殺人計画に、非難以上の事はしないとまで約束を取り付けさせられてしまったのだ。


 「私も一度見たかったなその顔。だが無茶をしたなぁ君も、あいつら迄、譲らせるだなんて」


 「バーターですよ、バーター取引。合衆国の全国民に行きわたるだけの薬を融通するんですから、あれ位は貰わないと」


 二人の男は話を続けながら空を見ている。二人の上空を幾つもの機体が空を飛んでいるのが見える。機体の名前を零式艦上戦闘機と言う。


 元の名前は違う。この世界で世界に伝説を残した機体は存在すらしていないからだ。魑魅魍魎と技術の融合を国是に据えた暗黒の帝国は、最新技術の粋を集めた新鋭機の開発等は遅々としている、と言うより捨てている。


 彼らが目指すのは使い捨て、幾らでも補充できる腐肉と骨、後は霊魂と少々の金属の集合体を雲霞の如く投入する事なのだ。帝国の航空産業を支える技術者たちが、血涙を流して抗議しても今の帝国は聞く耳も持たない。


 だが今の所はそれを投入するのには、時間と何よりも「死んでも戦ってくれる搭乗員」が必要である。それを狩り集めなくてはいけない。


 いま空を飛ぶ機械たちはその為の狩人だ。合衆国の技術力と悍ましき死霊の技の合わさった空を行く怪物、乗っている(死人ではない)パイロットたちからは不満しか出ていない機体の元の名前を、F4F ワイルドキャットと言った。


 ノモンハン事件に連なる一連のソ連との戦争に投入されたブルースター F2Aを防御力と馬力に惚れ込んだ陸軍が国産に踏み切った関係で、海軍にもかの機体は流れてきた。


 史実であれば「格闘戦性能が~」とか「行動半径が~」とか問題は出たであろうが、この世界ではドンガラでも飛ばそうと思えば、叫びを上げる魂を燃料に幾らでも飛ばし続けるし、数で押すをドクトリンに据えている以上、頑丈で長く戦えるならそれで良いのだ。


 「「いっそこいつで、生にしがみ付く定命の搭乗員が、死に切るか魔界転生に合意するまで逝ってしまうか?」」


 と非人道的な事を(人間を止めた)上層部は本気で考えていたが、奇跡の薬の代金を


 「物納でも良い?レンドリースする機体を融通するから!ねっ!良いでしょ?お金ないの!家も不況から脱し切れてないの!赤殺すのに使うなら許すから!」


 と遂に国内紙にスッパ抜かれ、全国民への薬の早期配布を明言せざるを得ない事態に追い込まれた、米政府から打診された事で事態は変わる。


 「「最新鋭機貰えるならそれで良いや!国産はポーイで!どうせ次の機体は、機械なんだか化け物何だか判らない物になるんだ!繋ぎになれば良し!大量に来るならなお良し!再利用もできる!」


 と野良猫の主力化は決まり、彼女らは帝国にて化け猫に改造されて、零式艦上戦闘機と言う名を頂戴する事になったのである。


 因みに型式については大量購入に功のある永山が「海軍の飛行機なら零でしょ!零!だってそれしかないんでしょ?」と意味不明な事を強硬に主張した為、零式となっている。御上の威勢まで駆って我儘を言ったらしい。言う方も言う方だが聞く方も聞く方だ。


 「まあ、タダ貰う物だからこっちも文句はないが、それで?いつ始めるんだい?我々の方も大分慣れて来たから何時でも行けるよ。後は君と政府、、、、、今は御上のお心持ちしだいか、、、それだけだが」


 「近々ですよ南雲さん」


 「そうか。楽しみではあるな。驚くだろうなぁソ連の連中」


 「それはねぇ。これで驚かない方がどうかしてますよ」


 楽し気に話す二人の男、南雲忠一と永山は「旗艦赤城」の艦橋で嫌な笑みを浮かべていた。


 



 「所で南雲さん?登るの新高山かウラル山脈かどちらにします?」


 「ウラルは語感がなぁ?それ言い出したの山本長官かい?」


 「北だからそれの方が良いよって言ってましたよ」


 「なんか間が抜けてるなぁ」

 

 

 


 

 


 

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