熊は!悪くないクマ!
ウラジオストク陥落!
この知らせは、ソ連中央を震撼させた。
十分な兵力を与えた上での、局地紛争と考えていた戦いでの大敗北なのだ。
擁護するわけではないが、これはソ連側の認識が甘かったわけではない。
史実のノモンハン事件であれば、圧倒的な勝利を収めていたであろう兵力が、極東には集積されていた筈なのだ。負ける方がおかしい。
相手が死霊術であったとしてもだ。並みの死霊術師が、繰り出してくる死者の津波であれば、極東軍はこれを叩き返し、援軍の来訪を待った上で、返す刀でハルピン辺りまで進撃できたであろう。
相手が悪いのだ。
死霊術師永山は、現代戦争のど素人であるが、制空権が、勝利の要である事ぐらい知っているし、現代の砲兵火力が如何に強力かをしっている。
そして彼の支配する(なんか近ごろ良いように利用されている気もする)帝国は、この時代の一応の近代国家である。彼のブレーンたる不死者は、如何に無限に近い兵力を持とうと、剣と馬で圧倒的な勝利が得られると思うほど能天気ではない。
もしもの話であるが、ソ連がダークエイジの世界に召喚された、異世界国家であったなら、結果は変わっていただろう。
ソ連を征服せんと襲いくる、暗黒の勢力は、現代軍について無知なのだ。
悪戯に、大規模な死者でに平押しを続け、ソ連に研究させる時間を与えた上、空と陸から火力を叩きつけられ、本拠地たるカタコンペごと埋葬される運命を辿っているの違いない。
死者の津波に対抗する手段は幾らでもある。
火砲火砲と言っても、現代では、その種類は多い。
重砲、野砲、平射砲、対戦車砲、山砲に迫撃砲、、、、
迫撃砲などは骨津波対策に適任だろう。重機関銃、鉄条網、地雷で防御された陣地に一万や二万突っ込ませた所で、降り注ぐ擲弾でバラバラにされるのが落ち。
その内、近代国家たるソ連は、軽戦車と野砲(重砲なんて贅沢だ)を主体とした部隊で、全戦線で反撃に打ってでるだろう。
空からの攻撃も暗黒軍は対抗できない。I-16で全ては事足りる。新鋭機など不必要、複葉機で空はソ連の物だ。
全ての暗闇を打ち破る、大神マルクスと、使途レーニンの加護の元、ソ連邦は、異世界を赤き光で清め、常しえに世界を支配する事になっただろう。
でも駄目、この世界では駄目。
いま、極東に忍び寄る魔の手は、相手のやり口をよーく知っている。
手加減などしない。舐めた真似など絶対にしない。永山は、圧倒的な兵力で踏みつぶすのが、好きなのだ(だから死霊術師なんてジョブを選んだ)。
夜の闇を一機の輸送機が飛んでいる。九七式輸送機。日本軍の輸送機だ。
目的は、敵野戦飛行場への、空挺強襲である。
どうやら首尾よく、目的地にたどり着いたようだ。良くもまあ、真っ暗闇の中、飛んでこれた物だが、パイロットは可視光に頼って飛んでいない。
では何を頼って操縦してるのか?
魂だ。
獲物が発する温かい光を、幾ら離れていても、不死者の無常の目は逃さない。そして、夜は彼らの世界なのだ。 昼の日中に飛ぶ、不健康極まりない任務より、安心して操縦桿を握れる。それは、乗客にしても同じ事。
乗客である、空挺部隊員を見てみよう。
空挺とは大変な仕事だ。体中に必要な物を巻き付け、嵩張る落下傘なんて物を抱えて、、、、、?
彼らは何一つ、空挺降下に必要な物を持ってない。
その姿、ほぼ唯の歩兵。
彼らは、目的地上空にたどり着くと、無言で立ち上がり、ハッチを開けて、、、
飛び降りた。
自殺にしか見えないが、躊躇なく飛び降りていく。
落ちる、落ちる、落ちる、ドスン!
グチャ!とかメキャ!とかビチャ!と言うグロテスクで、人が高度千メートル以上から、飛び降りたら、当然に聞こえる重力の洗礼による音はなかった。
頭から地面に突き刺さり、藻掻いている阿呆はいるが、それは御愛嬌。今、仲間に引っこ抜かれたところだ。
「何回やっても、慣れませんねこれ」
「ボヤくな。これからは、落下傘なんて高価な物は使えん。早く慣れんと、またぞろ、地面と接吻する事になるぞ」
引き抜かれた空挺隊員のボヤキに、引き抜いた方の隊員が、諦めろと言う風に答えた。その言葉には何とも言えない虚しさが漂っている。
「肉体的に耐えられるなら、落下傘なんて必要ないよね!」
と言う上からの鶴の一声で、空の神兵たちは、挺進兵から、自由落下歩兵に格下げされてしまっていた。
「「そんな理由で人間を止めさせられるこっちの身になれ!」」
空の神兵一同も抗議したのだが、問答無用で、全員化け物に変えられてしまったのだ。
「近代化は、金は掛かるが、妖怪化ならタダ!」
死霊術師の悪影響を受けた、帝国軍はフルスロットルで斜め上に突き抜けようとしてのだ。
「金がない、金がない。嫌ですねぇ、化け物になっても金から逃げられないんだ。はぁ~あ、、行きますか」
同僚に言葉に、自分もまた虚しさを覚えた隊員は、ため息をつき、任務を開始すべく、その姿を闇に消した、同僚の方また、相方に続いて行く。
そして、悲鳴と僅かな咀嚼音が、風に乗り、辺りに響いた。




