死んでも現役!帝国軍人は永遠に不滅です!
靖国神社。そこは帝国の為に命を捧げた者たちが、無軌道な帝国が続く限り、もしかしたら、変わってしまった後でも、祀られる場所だ。
気に食わない者もいるだろうが、国家にはこの様な施設が必要なのだ。靖国はよそ様に比べ、少し好戦的に過ぎると言う問題があるが。
まあ、何時か酷い目にあったら変わったかもしれない……残念ながら、この世界では永遠にその機会は訪れない事になってしまった。
死霊術師が、超自然の存在を、この世に大々的に発表してから数日、一つの法案が国会でスピード成立したのだ。
徴兵制度廃止と、志願制への移行、これに合わせて施行される永久現役制度だ。
これより、上は元帥から、下は二等兵まで、帝国陸海軍に所属する者は、死ぬまで、そして、死んだ後も帝国の栄光に、奉仕し続ける事になる。
一応、予備役には入る。五十、六十のヨボヨボ兵が使える訳はないのだから当然だろう。
だが死んだ後は違う。戦死であろうと、畳の上で死のうと、彼らは帝国が必要とあらば、骨と腐肉を纏い、または機械の体に縛り付けられ、黄泉路から進軍を行う。因みに給与は出ない。
靖国招魂社、それに全国の護国神社は、その為に汚される。
境内に入ればそこは異界! 人魂が舞い、やさぐれた英霊が煙草をふかし、鳥居と本殿には、ルーン文字と暗黒文字が刻印され、不気味な光を発し、遺族が死んだおじいちゃんと談笑している!
もはや大日本暗黒帝国に、生死の垣根はなくなったのだ!
臣民の義務!それは永遠に国家に奉仕する事!
だがこれはマシな方なのだ。何もなければ寝ていられるし、魂を黒い炎で炙られ、擦り切れるまで、ライフエッセンスを絞りとられる事はない。
奴隷は違う。
1937年10月 北支方面軍第一軍と第三軍は南京に入城した。
なぜ第二軍ではなく第三軍なのか?
第三軍の名前を言えばわかる「乃木第三軍」だ。
死霊術師をオブザーバーに加えた陸軍は「だれ呼びたい?」との永山の問いに、まだ信じられない様に、「マジなら乃木さん呼んでみろよ」と答えた。
そして驚愕。白骨と腐った死体が、行進するのを目にしても、信じられない、信じたくない気持ちの、正気の将兵も、これで諦めた。そしてやる気を出した。
増援は無い、補給も少し、それで支那大陸を制圧しろと言われ、途方に暮れていたのだ。何かの嫌がらせかと思った程だが。(自分たちの、今までの所業を顧みろ!)が、これなら勝てる。
しかし、不思議に思われる方もいるだろう。「主力が小銃一つ持たない死体で勝てるのか」と。
勝てる。なぜなら数が違うからだ。
24時間戦えます!な死者の群れは、三百万を優に超えている。ただ行軍し、如何なる攻撃で身を砕かれても、一切の躊躇を見せず、抵抗する者を貪り続けるのだ。
そして増える。犠牲者は立ち上がり、吠え、死者の世界に仲間を引きずり込もうと襲い来る。
後から続く日本軍本隊も、兵力補充に余念がない。彼らが確保するのは先ず墓場、そして古戦場だ。
死霊術を行う者にとって、戦場での死は資源である。止める民衆を蹴飛ばし、「仲間に加えるぞ!」と脅しつけ、彼らは死体を回収する。
そのせいで、死者の軍団の構成は種々雑多。
元、明、清、の古の兵隊たち、古いのは漢までいる。屠城の伝説が残る地では幾らでも呼び出せる。
子孫が、なぜ敵に協力するのかと叫んでも無駄だ。彼らに自由意志などない。彼らは奴隷なのだ。
日本軍の戦法は、意志持つ日本の不死者が、奴隷を指揮して行う人海戦術である。死体が死体を使い、更に死体を増やし続けていく。
同月上海戦線にて
必勝の確信の元、構築されたジークフリードラインに死者の波が寄せている。
奴らは夜に来る。
闇と霧の中から青い目を燃やして、笑いながら迫ってくるのだ。
「いったい何時終わるんだ?」
三度目の波が終わった時、腐臭漂うトーチカで、その兵士は呟いた。
自分の小隊の生き残りはたった六人。他は皆、あの化け物共に、泣き叫びながら連れていかれてしまった。
小銃など効きやしない。自分たちが生き残れたのは、三丁あるチェコ機銃が、真っ赤になるまで撃ち続けているからだ。
だがそれもここまでだろう。残りの弾は千を割ってしまった。そして自分たちは孤立している。
「俺たち、朝まで生きてられるかなぁ」
弾倉に弾を込めながら、相方の胡の奴が情けない声をだしている。(小隊長の奴が死んだ今、俺たちが先任なんだ、そんな声だすな!)
あの小隊長、真っ先に逃げ出して、霧の中に連れてかれた。それだけはいい気味だが、お陰で士気はガタガタ、このトーチカに逃げ込んできた奴らの尻を叩いて、自分たちが指揮をする羽目になっている。
「俺は唯の伍長だぞ……学も無いんだ……指揮官だなんてガラじゃねぇ……糞!」
毒づいてみても何にもならないが、ここまで生き残ってしまうと、皆、自分を頼りにする、勘弁してもらいたい。
「仕方ねぇよ。役立たずのあん畜生より、なんぼかお前さんの方がましなんだ」
こいつまで、そんなこと言う、ああ嫌だ、東洋鬼は憎いが、兵隊なんぞになるんじゃなかった。
「そう言うなよ……まて、なんか聞こえるぞ」
また来やがったか!
「てめぇら!配置に着け!」
「慌てんなよ。これキャタピラの音じゃねぇか?」
確かにそうだ。あの化け物共、戦車なんぞと言う贅沢なもんでは攻めて来てない。初日の内は、徳国から来た戦車が、景気よく骨を踏みつけてたのを見た気がする。するってぇと!
「味方か!」
「そうだ!ありがてぇ、死なずに済む!おい!羅!外でて呼んで来い!この霧じゃ。通り過ぎちまうかもしれん」
相方も叫ぶ、助かったのか俺たち?戦車がいるなら、他の味方も近くまで来てるだろう。反撃でもはじまったのだろうか?
「阿ーーーーーーー!」
死んだ、皆死んだ!なんだよあれ!あんなの居て良い物じゃない!
数分後、伍長は叫びをあげ、霧の中を走っていた。彼の立てこもっていた、トーチカは霧の中からやってきた物に蹂躙されたのだ。
やってきたのは確かに戦車だった。ただし日本軍の。
そしてそれは、トーチカと、伍長の精神を破壊するのに十分な姿と力をしていた。
走る、走る、走る。何も見えない中を伍長は逃げ続ける。
「ぐえっ……いてぇ……」
そして、何かに勢いよくぶつかり彼の逃避は終わった。その生命も。
「よう……一人で逃げるなよ……ひでぇなあ……」
声がする。先ほど確かに死んだ……食われた、相方の声だ。
「いやだぁ!なんだよ!なんでいるんだよ!死んだろお前!」
「死んだぁ?ああ死んだかぁ、でも良いんだ……ここは気持ちいいぜぇ。お前も来いよぉ」
「嘘だ!嘘だ!これは夢だ!悪夢だ!嫌だ!」
伍長は叫ぶ、叫ぶ他はない。だって、目の前にいるのは……
ずるずると、それから手が伸びてくる。その手は体は装甲から「生えて」いた。
「いやだぁーーーーーーー」
89式中戦車改。堕地獄の機械の一両は、新しい乗員をむかえいれた。




