支払いは最後に
遂に投入された死の軍勢であるが、これを見た世界は何を思ったのであろうか?
「バカも休み休み言え」
「見間違いだろ?」
「巨人が攻めてきた?死体が歩いてる?信じろと?」
現地の租界に住む人々が悲鳴を上げても無駄であった。
「信じてくれ!今も目のまえで、腐った死体が交通整理をしてるんだ!」
無理じゃないかな? 現地に居る、ファルケンハウゼンだって半信半疑なのだ。
死体たちが、無駄に知能指数が高いのも、信じられない一因だろう。
これこそ、死霊術の大家である、永山の邪術の凄い所だ。骨と腐肉に魂を縛り付け、現世に留め置く死霊術の秘中の秘。それを永山は惜しげもなく弟子たちに授けている。
今、活動している動く死体共は、木っ端死霊術師が行う様な、そこらの雑霊や精霊を一時的に憑りつかせた、朝日が昇れば消える三流品とは訳が違う。
死者たちは、永遠の行進を続けるのだ。飴だってある、彼らは、魔力の他、絶え間なく注がれる犠牲者の苦悶と希釈されたライフエッセンスで動いている。
これが気持ちいい。生きている事?を実感させてくれる最上の蜜だ。
「死霊術の秘奥は、死人を喜んで働かせる事にある。鞭だけでは駄目、飴が必要なんです」
日本本土にて、育成に励む永山は、集まる死霊術師見習いに笑って講義をしている。
だがどうやって、それを集め続ける?戦争は永遠には行えない。何時かは全てが死に絶えるか、抵抗を諦めて剣を置くときがあるだろう。
「人間の牧場でも作るんですか先生!」
近ごろは軍だけでなく、各省庁のエリートたちにも邪法を授けている永山は、霞が関で行われる講座で質問を受けた。
「そんなことしません!私たちは、活きが良い魂を求めているんです! 養殖物はダメ、生贄が精々! ライフエッセンスを搾り取り、時に優秀な手駒になって貰う魂は天然モノが一番!」
邪術の行使者にとって、人は鮭の親戚である。
さて、ここで、元ネタであるゲーム「ダークエイジ オブ フォールン エンパイア」のフレーバーテキストを引用し、大日本暗黒帝国がこれから行おうとしている支配の一旦を説明したいと思う。
肩の力を抜いてお付き合い願いたい。永山の、専門的に過ぎて退屈で、吐き気を催す有害さがある、長大な説明よりは幾分かマシであろう。
「皆さんは死霊術師の支配をどうお思いだろうか? 不死者が骨を持って生者を踏みつぶす、狂気の支配を予想されるだろう。だが意外なことに、彼らの支配は、如何なる現実の帝国より緩やかで、穏健とさえ言える物なのだ……大いなる欺瞞ではあるが」
「帝国の常として、支配下より収奪するのは、帝国主義を振りかざした、紅茶狂い。押し込み強盗が国を名乗っていた、ジャガイモ。自国民を虐める事に喜びすら見出した熊の帝国。支配する民の消費は義務と思い込んでいた触手マニア等と同じである。だが死霊術師が収奪するのは、現実にいた、そして今もいる国家や企業とは違うものである」
「現実の暴君たちは、物質的な収奪を行う。金、土地、作物、そして奴隷、それらは物質世界で必要だからだ。拡大する帝国を養い、己の頭上に揺れる、ダモクレスの剣が、脳天に突き刺さるのを遅らせる為だ」
「死霊術師はそんなもの求めない。彼もしくは彼女の支配に、泣く泣く服する羽目に落ちいった、農奴たちは、驚くべきモノを目にするだろう。捻じれ歪んだ作物を生み出す、豊穣の汚れた大地。ともすると食い殺されるが、丸々と太った家畜。唾棄すべき錬金術が生み出す、腐敗した金銀は気前よく下賜され、街道に跋扈した野盗は忠実で勤勉な骨の衛兵となり、寛大な領主が課す税は雀の涙だ」
「驚くだろう。喜ぶだろう。もっと早く、お殿様に来てもらいたかったと言うかもしれない。だがそれは罠だ。現実の帝国が作り出す、如何なる地獄と言えど、死霊術師のもたらす堕地獄の所業には敵わない」
「定命の人間が作り出す地獄。死ぬまで働かせ、しまいにはガス室に突っ込んで、死体から金歯を抜き取り、剝ぎ取った皮で、ランプシェードを作る。明日生きる糧の、全てを奪って、飢餓の中、死んでいく我が子を見せつける。働きが悪いと、娘の手を切り取る。船に積めるだけ詰め込んで、船底に穴をあける。死ぬと100%分かる戦争に追い立て疫病と砲火に晒す。そんな所だ」
「だが全ては死で終わる。(やらかした連中は、未来永劫、外道と罵られ、永遠に天使に尻をシバキまわされるか、顔面を掴まれて火と硫黄の中に放り込まれるであろうが)いかな暴君でも、犠牲者たちの生命が終了した後は、手出しは出来ない」
「死霊術師は違う。死こそ収奪と搾取の始まりだ。死霊術師の領地において、安らかに死ねる者は一人もいない。彼らは死の床で詐欺に気付くだろう。自分の魂が骨張った手でガッチリと捕まれ、堕地獄に引きずられて行くことを。彼もしくは彼女の領地で死ぬものは、今際の際に絶叫をあげる事になる」
「残された家族も恐怖する。愛する者は苦悶の内に死に、程なくして魂の去った抜け殻の回収へ、漆黒の馬に曳かれた馬車がやってくる。そして取りすがる家族を追い払い、死体を奪っていくのだ。決して抵抗しようとしてはいけない。御領主様は生者には寛大だが、逆らう様なら、首無し騎士が、新しい死骸を作りに派遣されるだろう」
以上がフレーバーテキストである。大日本魂食い帝国は、これを支配地で行おうとしているのだ。そして、これでお分かりだろう。この帝国と永山は、人の世に居て良い存在でも国家でもない、何かになり果てているのだ。
恨むなら、愉快犯である邪神を恨んで欲しい。後、永山。
これに気付ける人間がいるだろうか?非科学的で、迷信に塗れ、途轍もなくファンタジーな所業なのだ。
支配される者たちが差し出すのは三つ!いや二つ!魂!そして死体!
見よ!北京郊外にあった墓が次々に暴かれるのを!市内の寺院は汚され、古びた骨が立ち上がり、戦列に加わっていくのを!
魂!神の与えたもうた最上の燃料よ!堕地獄の戦争機械は回転し、止める者はいない!




