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【亜人の女王 part1】

気が付いた時から他人が信じられなくなっていた。


高貴な家柄に生まれ、膨大な魔力を備えていた私は周囲の期待を一身に受けていた。

皆が私の存在を讃える。選ばれし者だと羨望の目を向ける。だが自身はどこかそれに寂しさを感じていた。普通の生活がしたい。友情を育み、恋を知り、老いていきたい。だが内に宿る魔の恵みがそれを許さなかった。私の気持ちとは関係なく魔族の叡智がまだ幼かった私に注がれていく。意思に反して体内の魔導はそれをよく貪った。

すべては魔族の未来の為。


物心ついた時から常に畏怖と侮蔑の視線に晒されていた。無理もない。理解出来ないものを恐れるのは生命の本能だ。

誰もが私を知っていた。誰もが私を恐れていた。

私という兵器の完成に携わった者たちでさえ、私を“化け物”扱いする。


近づいて来る他人は軒並み私の肩書きにしか興味が無かった。

他人に心を許す事が出来ない。他人を信用する事が出来ない。常に張り詰めた緊張感の中、形成された人格はまさに臆病者のそれだ。

操る事が出来る力に対して生身の私は無力に等しい。その歪みが私の心を軋ませる。いつしか他人の存在そのものに嫌悪感すら抱くようになった。


全員殺そう。最初にそう思ったのは、随分昔だったような気がする。誰かの悪意が常に身近にあった。

五月蝿い。不快だ。気に食わない。私には私だけあればいい。

初めての殺意。相手を視界に捉え、少しばかりの魔力を込めた。スキル【邪眼】の発動条件。たったそれだけの行動でまるで水風船のように他人が血肉となって破裂する。

その瞬間、罪悪感を押し退けて噴き出した爽快感を忘れた事はない。自分を蔑んだ他人の生殺与奪を握る快楽。私は一体何を悩んでいたのだ。

私はようやく静寂を手に入れた。


おかしい。他人を消し潰したのに不快感がなくなるどころか増していく。私の中が雑念で満ちる。

私には何かが欠けている。それが他者との交流である事に気付いた時、何もかもが手遅れであった。

手当たり次第魔族を虐殺し、殺戮の限りを尽くした私を畏れない種族など魔族にはもういなかった。

私は永遠に孤独だ。


そんな時、人族との戦争が始まった。

私は驚愕した。なんだこの脆弱な種族は。爪も牙もな無ければ鎧のような外骨格もない。空が飛べるわけでもなく魔力量も少ない。どうして滅びていないのか疑問しかない。貧弱な種、だがだからこそ彼らになら私は等身大の自分を曝け出せるかもしれない。


それは一種の愛玩動物に向ける類の感情だったかもしれない。だが私はその可能性に縋るしか無かった。即刻私は国境近くの国に乗り込み、先代の王を捻じ伏せ乗っ取った。他愛もない闘いだった。強い者に従う魔族の慣習もあり存外に苦労はなく反抗勢力も力で黙らせた。

亜人の女王として私は国を人族に開き、国交を開始した。願わくば彼等が私の心の空白を埋めてくれる事を願う。

さもなくば……

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