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【人形使いの男 part1】

「まったく、初めて詩曲を披露する王族が魔族とはな。数奇な運命もあるものだ」


人形使いは無意識に出た呟きに我に帰る。歳を取ると独り言が増えていけない。彼は現在、露天商として市場に陣取っていた。平時なら旅先の商売は社交性のある絵師の得意分野なのだが珍しい魔族の街という事もあり交代を頼み込まれたのだ。

同じ芸術を極めるものとして気持ちは痛いほど分かる。何より居ても立っても居られないと言わんばかりの絵師を前に断る事は出来なかったのだ。


旅芸人の商売は単純である。珍しいもの、それも目を引くものを仕入れて売るのだ。希少性のあるものだとなお望ましい。食料は日持ちしないので避ける。在庫は多少抱えてもよい。需要のある街に移る日がいずれ来るだろう。


「さて、今日はこのぐらいでいいだろう」


人形使いはある程度商品を片付けるとさっそくその本業を開始した。無論、人形作りである。

今回はハーピーを作る予定だ。魔族の間では有翼種と言うらしい。

老人は器用な手つきで木片を彫刻刀で削り始めた。先ずは大胆に大まかな形を作っていく。胴体、手、足、そして大きめな頭。木材は生きものだ。だからこそ割れても被害が少ないように部位は小分けにする。こればかりは割り切るしかない。そしてヤスリをかけて角っぽさを取り除く。そして難所である顔の造形に取り掛かる。

顔の出来で人形の価値は決まる。

それは喜怒哀楽の全てを表現する顔でなくてはならない。劇中のすべての感情表現がこの工程にかかっていると言っても過言ではない。慎重に小型の工具で掘っていく。


(─────よし)


会心の出来だ。我ながら見事。入魂の一品だ。一度安堵した所で手際良く羽や肌塗りなどの仕上げに入る。ここまで来れば完成と言っていい。


「いやはや、大した腕前ですナ。憎たらしい顔が女王そっくりダ! ヒ、ヒヒヒっ、ヒヒィヒ…!!!」

「…………貴殿、何か用か」


作業に没頭していた人形使いは来訪者の軽口に不快感を露にする。それは一匹のゴブリンだった。高齢なのか刻まれた皺は深く、目玉がギョロリとしてあらぬ方向を向いており今にも飛び出しそうだ。愉快そうに此方を嘲笑する不気味さの中にまるで値踏みするような狡猾さを感じる。


「外から来る人間は久しぶりでネ。興味本意にからかいに来たのサ!どうせ滅ぶ種族だろうから見ておこうと思ってネっ!!」

「ここは中立国では無かったのか?我々にこの街の平和を乱す気はない」

「平和っ…?ヒヒっ…ヒヒヒっ!!アンタ、面白い事を言うナっ……!!」


小鬼は独特な笑い声を奏でながら人形使いの前に腰掛ける。口は歯並びが悪く塞がらないのか常に半開きになっている。


「亜人の女王がナンデこの国の頂点に君臨しているカ、オマエは分かるカ?一番強いからダっ!先代の龍王モ、蛇王モ、強硬派の魔族モ、皆殺されちまっタ!力で押さえつけているだけなのサっ!偽りの平和ダっ…!ヒヒヒっ…!!」

「………だがおかげで中立国になった。人と和解する日も来るやもしれん」

「和解はありえナイっ。人と魔族は分かり合えナイっ!お前も信じてる訳じゃないだろウ?武人の臭いが隠しきれてないゾっ人間っ…!!」


一瞬触発の空気に人形使いは構える。油断していたつもりはないが気付けば死地に立っていたようだ。


「ヒヒっ…!安心シロ。今は殺さナイ。これは余興ダ。そうだナ… それで競うとしよウ。それは戦術を競うものだろウ?」


ゴブリンが商品の一つを指差す。盤面と駒で戦場を模して闘う娯楽品だ。魔族領にはない筈の物だ。余程戦術に自信があるらしい。


「何故人が魔族に勝てないか教えてやろウっ。ヒヒヒっ…! 勝てたら十倍の値で買ってやル。ワシが勝てば金は払わなナイっ。ルールも知らない遊戯ダっ!それぐらいでいいだろウっ…!」

「……それでいいが、俺は強いぞ?」

「ヒっ…!ヒヒっ……!ココの出来が違うんでネっ…!! イヒヒっ…!」


ゴブリンは大袈裟に自分の頭を指でつつく。こちらを完全に舐めきっているらしい。この魔族には我慢ならない。揉め事を起こすつもりはないが人形使いもただで返すつもりは毛頭なかった。



「ワシはこれにしよウっ…!!」


駒の動きを確認した後、小鬼は一つの駒を選んだ。確かに移動性能は比較的良い駒だがいくらなんでも無茶が過ぎる。叩き潰す気で行くつもりで行く。





(ふむ…。 これなら何とかなりそうだな)


ゲーム開始から数手後、人形使いは思案していた。自軍という障害物無しに動き回る駒に初めは苦戦を強いられたものの、徐々に駒を追い詰めている。確かにこのゴブリン、初めてにしては筋は良い。こちらの駒を数個取られてしまった。だが生憎競技はこちらの得意分野だ。ズブの素人に負ける筈がない。


(よしっ……!)


ようやく逃げ場を完全に塞ぎ、駒を討ち取った。

これで勝ちだと、人形使いはゴブリンを見た。

そこには邪悪な笑みを浮かべる小鬼がいた。


「ヒヒっ…!よくやっタ…!これで勝てルっ…!!」

「なっ──────」


人形使いは困惑した。なんと小鬼が何食わぬ顔で討ち取られた一つ以外の駒を全て並べ始めたではないか。


「おいっ!なんだそれは!話が違うぞっ!」

「ヒ、ヒヒヒっ、ヒヒィヒ…!!!ワシがいつ駒を一つしか使わないと言っタっ?さあ、続けよウ……!!」

「………無理だ。これでは……勝てない」


盤上のゲームにおいて最も大切なのは先を読む力である。数手先を見据え予測するのがこの遊戯の醍醐味だ。だからこそ分かる。こちらの陣形は崩れ、駒の数も敵より圧倒的に少ない。勝てる道理が無かった。


「我々魔族は最初に豪の者を生贄とすルっ。勇ましき者を見た敵兵はその姿を畏怖するだろウっ。見せられた暴力や痛みは脳内で何倍もの恐怖を与エ、本隊と相対した時、前線は崩壊すルっ!今のお前のようにナ、ヒヒヒっ…!」


所詮は老獪の戯言と、人形使いは一蹴出来なかった。勝ち負けの問題ではない。

戦う事を放棄してしまった己自身を恥じたのだ。

間違いなくこの時自分の感情は敗北していた。


「久しぶりに楽しかったゾっ…!滅びゆく種ヨっ!こいつは礼だっ!精々足掻くがイイっ…!ヒヒヒっ、ヒヒィヒ……!」


そう言ってゴブリンは袋一杯のゴールドを置いていった。最初から金はどうでも良かったという事だろう。取り残された人形使いは呆然とした。行き場のない感情が己の中で渦巻いていた。

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