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【吟遊詩人の男 part2】

「ねぇねぇ!お兄ちゃん達、もしかして芸人さん?どんな芸をするの?」


吟遊詩人は下を見た。幼い魔族の少女に声をかけられたのだ。猫耳族らしく旺盛な好奇心を抑えきれなかったようでその大きな目をキラキラと輝かせている。周囲の大人達は心配そうにそれを遠巻きから眺めていた。魔族は多種族国家であるがこう言った連帯感は共有しているのであろう。


「そりゃあもう世界一の詩曲を歌うのさ。お兄さん達はね、すごく有名で人気があるから旅をしながら芸を披露しないと街が狭くなっちまうんだ」


吟遊詩人は助かったとばかりに勢いよくしゃがんでニコリと精一杯の笑顔を浮かべた。一瞬の周囲の空気の変化から、自分達と同じで魔族も恐いんだと知ることが出来た。おかげですくんでいた脚があからさまに楽になったのを感じる。


「えー!そんなにすごいんだ!じゃあさ、じゃあさ!これで歌を歌ってくれない?一曲でいいからさ!」


猫耳の少女は持っていた籠から一輪の青い花を差し出す。人間領には生息しない種類ではあるがそれ以外何の変哲もない花。だが芸を披露する絶好の流れだった。流石に無邪気な少女の前で乱暴はされないだろう。いや、されないと信じたい。


「なあ、二人ともいいよな?」

「いいんじゃないかな。それにこんな可愛らしいお嬢さんが初めてのお客さんなんて光栄じゃないか!」

「……どうせ暫く芸の機会も無さそうだからな。いいだろう。安売りは感心しないが」


三人はそれぞれの反応を示しながら満更でも無さそうに準備を始める。吟遊詩人がリュートと呼ばれる小柄な弦楽器を取り出す、絵師が人形用の中型の舞台を組み立てる、人形使いが自慢の人形達を箱から取り出す。気付かないうちに見物人も増えてきた。人間界ではいざ知らず魔族領ではこう言った娯楽は少ないのかもしれない。


「それでは皆様、お待たせしました!世にも珍しい人間と魔族の物語!どうぞ最後までご観覧くださいませ!」


絵師がよく通る声で始まりを宣言する。人前に立つのに慣れているのもあって実に様になっている。観客の魔族達も興奮し息を呑む。


「────これは切ない、忠義の物語」


突如覗かせるゾッとするような絵師の色気。先程の明るく社交的な雰囲気とは一変した暗い怪しさが歓客を劇に惹きつける。求心力は抜群だ。


「『かつて鉱山で栄えた小国があった』『その国は諸外国との争いが絶えない』『常に武器が不足していた』」


吟遊詩人が詩を奏で始める。悪態をついていた人物とな別人のような心地よい声が広場を包み込む。


「『王は若く優しい人物だった』『しかしその哀しみを見せる地位にはなかった』『唯一心を開けたのはある鍛冶屋の娘だけだった』」


人形使いが慣れた手つきで手製の木偶人形を操る。劇場に王冠を被った青年が悲しみに暮れる様子が動きを通じて表現されていく。


「『娘は孤児で話す事ができない』『だから王は度々鍛冶場に現れた』『その心を癒すために』」


背景が絵師の描いた鍛冶場に変わる。劇場に娘が現れて必死に鉄を打つ。そこに王が現れ、畏まる少女に仕事を続けてくれと促す。


「『だが年月が過ぎ王は立派な男になっていった』『貴族の女性と結ばれ』『鍛冶場にも行かなくなった』」


娘の人形が一人寂しく鍛冶場に取り残される。

見事な人形術だ。木偶人形ながらその姿からは並々ならない哀愁が漂っている。


「『そんな時ある怪物の噂が流れる』『一つ目の恐ろしい怪物らしい』『不思議な事に街に現れては大量の剣を置いていくらしい』」


劇場に単眼の魔物が現れる。そのおぞましい姿。場の空気が張り詰めるが自分と仲間の技術を信じて続ける。


「『王は部下と共に城門で待ち伏せた』『怪物の目的は何だ』『怪物の剣は不気味なほどよく切れた』」


立派な姿となった王が何人もの騎士を引き連れて陣取る。一体何体の人形を動かすのか。相変わらず腕が二本か疑うほどの腕だ。


「『そして怪物が現れる』『王は愕然とした』『それは変わり果てた娘の姿だった』」


唐突な展開にピリピリしていた観客さえも釘付けになる。よく見るとその怪物は娘の姿と酷似していた。


「『娘は泣き虫で優しい王に惚れていた』『だが自分は卑しい身』『だからその恋心を忠誠心とすり替えたのだ』」


クライマックスだ。一層詩に感情を乗せてその切なくも涙ぐましい物語を歌う。


「『娘は鉄を打った』『何年も何年も何年も』『火を見つめた瞳の一つは潰れ』『片足も動かなくなった』『それでも娘は打ち続けた』」


孤独な鍛冶場で娘が鉄を打ち続ける。火の熱さに苦しみながら忠誠を誓う王の為に。優しいあなたがこれ以上悲しまなくて済むように。


「『王はその忠義に感銘を受け、怪物に爵位を与えた』『かの国には単眼の怪物が住むと言う』『その真相は当人のみが知っている』」


最後は登場人物全員が舞台に登場し和気藹々とした動きを見せると一列に並び礼をする。人形使いの手持ち木偶をもとに創る吟遊詩人お得意の即興詩曲。開始口上と使う人形だけは事前に仲間に伝え後は流れに任せるのだ。果たして反応は如何に。


「「「────────────!!!」」」


結果は大盛況。あれだけ威圧的だった魔族達が歓声をあげている。猫耳族の少女も喜んでくれたらしくパチパチと小さな手で力強く拍手している。旅芸人冥利に尽きるとはこの事だ。単眼族の魔族のおっちゃんが照れ臭そうにしている。ああ、なんかごめん。おっちゃん。


「フフフ、広場で芸を披露したいと言う命知らずな人族がいると聞いてな。心配して様子を観に来れば、なに。実に見事な詩曲であった」

「えっ……」


突如周囲の魔族達が地面に一斉に跪く。

現れたるは魔族の長。魔族領中立区の最高権力者。

吸い込まれるような漆黒の瞳。栗色の髪と頭には見事な巻角。そして躰に隠すように折り畳んだ美しい翼。何もかもが現実離れした美しい存在。


「我が国に歓迎するぞ。定命の者共よ」


亜人の女王。彼女は悠然と広場に君臨したのだった。

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