【聖女 part2】
最後の晩餐は突然の侵入者によって中断された。
「おい、貴様何も
一閃。
予期せぬ来訪者に声を掛けた兵士が鎧ごと真っ二つに両断される。歪み一つない綺麗な切断面が一瞬剥き出しになるが時間差で臓物が溢れ出した。
「ご機嫌よう。 矮小な存在の皆様。 あなた方を皆殺しにするために私は遣わされました」
姿を表したのは無表情な女性だった。
この場にいる全員の死刑宣告を淡々と執り行う。
身に纏う影のように張り付いた衣服はその長身とスタイルの良さを更に際立たせるが、それ以外の特徴らしい特徴は見当たらず、それが彼女の異様さを更に際立たせている。
よく観察するとその両手の輪郭が何処かぼやけているように感じる。まさか、彼女は……
「皆様! 外見に惑わされてはなりませんっ! 早く逃げてくださいっ!」
「良い判断です。反応出来ればですが」
嫌な予感がして私は叫ぶ。
叫び終わると同時に女性の腕がまるで鞭のように伸び、一瞬で建物の内壁ごと周囲を切り刻む。斬撃に巻き込まれた人間は文字通り木っ端微塵になる。
今までの雑魚とは格が違う。圧倒的なまでの速度と威力。この世の物とは思えない絶技。
私自身彼女の動きを目で捉える事が出来なかった。
「もう終わらせましょう。 こんなくだらないごっこ遊び。 あの方の手を煩わせるまでもない」
模倣種。いずれ相対するとは思っていたがまさか単独で奇襲を仕掛けてくるとは。冷徹な無機物のような人物。彼女から聞いていた話とはまるで真逆だ。
甲高い悲鳴が響く。死の予感を感じ半狂乱に叫ぶ王族の姫達の声だ。
「楽にしてあげましょう」
女性は表情一つ変える事なくその細長い腕を流体物のように変形させ無防備な女性達へとめがけて打ちつける。
キィィィィィン!!!
音速を超え、次元を切り裂くような威力。超速で振われる粘性の鞭はその速さによって鋼鉄以上の硬度を実現する。砕けた床で土煙が起こる。
しかし、信じられない事にその一撃を受け止める者がいた。
「すっげぇ殺し文句だっ! グッと来たぜ!! なあ、俺と踊ってくれよ? アンタとならアフターも大歓迎だぜっ!」
その無骨な鋼の塊のような大剣を盾のように両手で構えて狂戦士は不敵に笑ってみせる。
「あなたに興味はありません。 私が会いたいのは彼女ただ一人… 早く彼女を出しなさい!」
模倣種の手が再び蠢いたかと思うとそれは狂戦士の持つ大剣に巻き付き、物凄い腕力で持ち主ごと天井に叩きつけた。
「─────ァガッ!!」
【断章】を発動する間もなく狂戦士は壁を破壊しながら盛大に吹き飛ばされ、そのまま鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。
「──────いけないっ!!」
破壊された上階から何かが降り立った。
両足で着地しながらもそれはバランスを崩して倒れ込んでしまう。マズイ。今の彼はもう……!!
「……救わなきゃ」
ポツリとそれが呟く。
模倣種含め周囲の全員が困惑する中、私だけは彼の存在を隠さなければと駆け出す。
「救わなきゃ。戦わなくちゃ。皆の為に。彼女の為に。守らないと。戦いたくない。助けたかった。救えなかった。何で俺なんだ。痛い。つらい。身体が痛む。助けられなかった。守れなかった。彼女を救わないと。彼女が待ってる。彼女を救えるのは俺しかいない。殺したくない。嫌だ。嫌だ。誰か。救わないと。助けてくれ、誰か」
それは廃人だった。
顔色は悪く、焦点も定まっていない。目は何かに怯えるように瞬きを繰り返し、悪寒がするのか常に震えている。
口にする言葉は意味を成さず、それは無限の後悔と永遠の使命感に精神を蝕まれていた。
「………あなた。 まさか……あの時の吟遊詩人? ではあの中には彼女が?」
「───えっ」
変わり果てた彼の姿に動揺しながらも、女性は高速で身体の一部を影のように地面に這わせ、無防備な白騎士の兜を弾き飛ばすように動かした。
ガシャンッ!!!
「」
短い悲鳴を上げた白騎士の兜が地面に落下し、けたたましい金属音を立てた。
「まさか、いえ、なるほど。 そういうことでしたか。 私も甘い夢を見たものですね……」
白騎士の胴体の上、つまり頭部には何もなかった。頭がもげたのではない。血は一滴も流れない。
そもそも鎧の中身には何も入っていなかったのだ。
優しい夢はいずれ覚める。偽物は本物にはなれない。すべては一つの優しい嘘。
最初から勇者なんていなかったのだ。
吟遊詩人は気が触れ、絵師は自ら命を絶った。
残されたのは朽ち果てるだけの人形使いと何者でもない私だけ。
周囲の人間がざわつく。皆をまとめていた勇者の伝説という魔法が解けていく。
そう、これは偽りの勇者の物語。




