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【聖女 part1】


「いやはや、流石勇者様の御一行っ!! 英雄的なまでの活躍! 人類最後の希望とはまさにあなた方の事だ!」

「いえいえ、皆様のご助力あってこそです」

「噂に聞くところによると勇者様は千の軍隊を率い人類を導き、千の魔術を操り、聡明な頭脳の持ち主であり、その怪力は山をも動かすとか!!」

「おぉ、それは心強い! しかし、それにしては先の闘いでは御姿があまり見えなかったようですが……」

「勇者様は来たるべき決戦の為体力を温存されています。ご心配感謝致します」


ハエが五月蝿い。

聖女は適当に生き残った王達をあしらいながら内心悪態をついていた。


先の闘いの戦果によって魔王城進行の際に要所となる廃都市が開放された。私達はその屋敷を借りて決戦前夜の宴を開いているのであった。士気を上げる為とは言えまるで気乗りしない。

食料物資を魔王軍から押収出来たと指揮官達は喜んでいたが、何の肉か分かったものではない。

魔族は人間を家畜にするという報告もあがっている。同族食いはごめんだ。


「ちなみに聖女殿、この戦いが終わった後はどうされるおつもりですかな? もし宜しければお仲間と一緒に我が国の保護下に入るというのはいかがでしょう? 戦後処理と復旧事業も我々が代わりに行いますゆえ……」

「奇妙ですな、私の記憶では貴殿の国は既に滅びていたはずですが。 いかがでしょう、聖女様。 戦後は是非私のもとに。 ちょうど年頃の息子がいましてね、是非あなたにお会いしたいと…」

「いえ、私は聖女ですので。 残念ながら生涯婚姻は結べません」

「…ということは、ふふ……これは失礼、御身は聖処女様であらせられると?」


死んでしまえ屑共が。

人類の主要都市が壊滅して久しい。この闘いに敗北すれば辺境の村々が滅びるのも時間の問題であろう。王達が自ら正当な勝者として報酬を受け取る為の後ろ盾を求めている様は滑稽であった。

国民を真に愛する名君ばかりが最後まで抵抗し亡くなった。残るは民を捨てて逃げ延びた臆病者と他国の援軍を断り力を温存した卑怯者ばかりだ。


「オイオイ! ここは一人じゃ女も口説けねぇ玉無し野朗ばかりなのかよォ!! 何なら俺様が直々にアンタらの国を治めてやってもいいんだぜ? テメェの息子は一生俺のオナペットとして可愛がってやるよ!」


人を殺しかねないドスの効いた声とあまりに頭のおかしいレベルの下品な内容。間違いない。狂戦士だ。

彼女はジャラジャラと戦装飾を鳴らしながら王達に歩み寄る。凶悪な容姿と眼力に圧倒されて王達はそそくさとバツが悪そうにこの場から離れていく。


「狂戦士、味方を威嚇するのは感心しません。 好む好まざるに関わらず、彼等無しでは兵の指揮系統を保てないのは事実です」

「よく言うぜ。 あのまま放っておいたらアイツら全員殺しちまうんじゃないかヒヤヒヤしてたんだからよぉ」

「………その点は感謝します。 やはり自分ではないものを演じるのは慣れませんね。 私はあなたが羨ましい。 あなたは自分ではないものになろうともしないのですから」

「それ褒めてんのか? ありがとよ! まあ俺達の中ではアンタがぶっちぎりでうまくやってると思うぜ?」


皮肉のつもりだったのだが礼を言われてしまった。

間違いなく私達の中で彼を除いて最も強いのは彼女なのだが最も勇者に相応しくないのもまた彼女だった。魔族との熾烈な闘いで別れてしまった大賢者が恋しくなってきた。その戦力以上に精神的に助けられていた部分が大きい。

彼ほど信仰に敬虔な人格者は他にいないだろう。

無事に生き延びれているだろうか。


「あの、戦士様? 食事もよろしいですがもしよろしければ私と一緒に踊っていただけないでしょうか?」

「………………………」

「も、黙々と食べていらっしゃいますねっ! まさか私が晩餐に嫉妬する事になろうとは……あははは」

「……………………………」

「……………………………」


屋敷の他方では屈強な大男が王家の令嬢を無視して黙々と並べられたご馳走様を平らげていく。

それはある種の哀愁と笑いを誘う光景で、姫は自らの一族の復興の為に必死に付け入ろうと媚びて会話を投げかけるがその悉くが無駄に終わっている。

彼女あたりであれば絵を描きたいと提案していたかもしれない。


「勇者様と踊るのは私よっ!」

「譲らないわっ!私が先に誘ったのよっ!」

「フフ、困ったお姫様達だ。 喧嘩はよくない。 それに私が二人と踊れない道理は無いだろう?」

「「??」」

「ほら、よく腕に捕まって」


別の人集りでは勇者と呼ばれる白騎士を囲むように数人の女性達が勇者を取り合っていた。当然だ。もし勇者の目に留まるような事があれば戦後の立場は安泰そのものだ。そんな醜い争いを気付いてか気付かずか白騎士は片腕で容易に彼女達を持ちあげるとそれを軽々と振り回す。それは踊りというよりも拷問の類のようであり踊り相手は悲鳴をあげている。


「遊びすぎですよ」

「すまない。 賑やかなのは久しぶりだからな」


私は部屋の隅で座る痩せこけた老人を諫めるように注意した。手足は長いがまるで枝のように弱々しく老いのせいか背骨も猫のように丸まっている。

とても外見からは兵士には見えず避難民が紛れ込んだというほうが自然だろう。


「勝てますか、私達?」

「どの道、闘うしかないんだ。 勝ったかどうかなんて生き残った奴が決めればいい」


思い切って聞いた私に、そんな事は分かりきっていると老人は笑う。

そもそも、あの人を相手にしてまだ生きている事の方が不思議なんだ。

いや、寧ろ私達が負けないギリギリの戦力を送って来ていると考えた方がしっくりくる。

事実、闘いの最終局面の今日までその幹部である四天を一角も崩せずにいる。

今も昔も私はあの人の手の上なのだろう。


「……思えば遠いところまで来ましたね」

「ああ、そうだな」

「彼が目を覚ましてくれれば…… ごめんなさい。これはもう言わない約束でしたね」

「…………ああ。 勇者なら奇跡の一つでも起こしてもらいたいものだな」


寂しげに老人は俯く。分かっている。分かりきっている。この数ヶ月、彼は戦地に立つどころか正気を保つことさえ満足に出来ていない。

ずっと何かに取り憑かれたように呻いている。

果たしてまだ生きているのかとさえ疑問に感じるほど生気を感じられずさながら廃人のようであった。

今も誰にもその姿が見られないように宮殿の別室で軟禁している。


私達はこれから死ぬ為に魔王城に攻め込む。

始めから有効な策など無い。

魔王に対抗出来るほどの戦力も無い。

勝てると信じて止まない愚かな人類を眺めながら、私はどこかまだ彼に期待してしまっている。

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