【ある聖女の手記 part6】
ようやく私達は人間の住む大都市に辿り着いた。
その街は古くから大聖堂で知られた聖地であるらしい。その噂を聞いて此処ならば彼の精神汚染も治せるのではないかと立ち寄ったのだ。
彼の容態は芳しく無かった。粗悪な回復薬の後遺症が思ったよりも重い。ずっと何か独り言をボソボソと言っている。また暫く黙ったかと思えば急に何かに怯えるように叫び散らした。
それだけではない。もう一人の仲間も弱っていく一方で最近嫌な咳をするようになった。
私に戦闘能力は無い。そんな状態であるから鎧は彼女が身につけている事が増えた。
弱っている■■を人々に見せる訳にはいかない。
都市に入国した私達は愕然とした。
そこには噂に聞く神聖な聖都の面影は無く、堕落と退廃の街に変わり果てていた。
街の大通りには昼間から遊女が客を誘っており、中には魔族の娼婦までいた。街の空気は溢れかえるゴミや糞尿で悪臭を放ち、生きてるか死んでるか分からないような浮浪者がそこら中に寝転がっていた。
旅の商人に事情を聞くとどうやらこの街で内戦があったらしく、統治者が神官達から変わったらしい。
新しい支配者は暴君で、毎日のように開く姦淫の宴によって街は穢されたという。その費用は人々の重税から算出され、民衆はその日食べる物さえままならないのだそうだ。
事情を聞いているうちに私達は領主の手のものに囲まれその御前に連行された。■■の伝説を聞き及んで支援を求めている、というわけでは無さそうだ。
領主は背の低い小太りの中年だった。下卑た笑みを浮かべながら話す最中私を値踏みするような気味の悪い視線を感じた。
兵士に囲まれ逃げ場がない。震えが止まらない。
私達は名ばかりの宗教裁判にかけられて無実の罪を被せられた。彼女が兵士達に拘束されそうになり必死に抵抗する。
しかし彼女はあろう事か自身より■■の伝説を優先した。
力は圧倒的に上でも人殺しは出来ない。
隙をつかれ身動きを封じられる。
彼女が鎧を脱がされた。それがいけなかった。
あの時この目で見た邪悪な笑みを私は一生涯忘れる事はないだろう。
「まさか■■が女だったとはな。それにとびきりの上玉ときたもんだ」そいつは上機嫌で彼女に近付くと私達に聞こえないような小さな声で何かを耳打ちした。それまで嫌悪感を剥き出しにしていた彼女の顔が青ざめたのが分かった。その後、彼女をその場に残して私達は牢に監禁された。
武器や防具を含む持ち物はすべて没収され、食料も最低限死なない程度の残飯しか与えられなかった。男女で部屋が分けられているのか皆の様子は分からない。心配だ。最悪の事態が脳裏をよぎった。
牢に入れられてから数日後。
彼女とようやく再開出来た。私が感極まって抱きつこうとすると彼女は「近づくな」と怒鳴った。
あまりの事に動揺していると彼女から漂う独特の匂いを感じた。入国した時に感じたそれと近い、しかしもっとエグみのあるようなそれ。
「こんな姿、見せたくない」震える彼女から私はすべてを察した。酷い。なんて酷い。これが人間のする事か。気付けば私は涙を流していた。私は汚れなど気にせず、彼女を力強く抱きしめながら何度も謝った。彼女はずっと一人で私達を守っていたのだ。
彼女がそれまで纏っていた粗末な布が擦り落ちその痛ましい身体が露わになる。品の無い言葉とピアスで身体中覆われ、秘部は目も当てられ無いほどに腫れあがっている。それらがどれだけ彼女の尊厳を踏みにじったのか想像に難くない。
「君はきれいに生きてくれ」私はもう汚れてしまったから。とでも言うように彼女の声は弱々しい。
あの自信に満ちた高潔な麗人と目の前の人物が同一人物とは思えなかった。なんと痛ましい事か。
「一つお願いがあるんだ」彼女が耳打ちした恐ろしい言葉を私は全力で否定する。
彼女は何も言わずに力尽きたように眠りに落ちた。
とっくの前に私から人類を救うなんて感情はなくなっていた。こんな種族、滅びてしまえ。




