【勇者 part3】
一片の望みさえ絶え、人の時代が終わる。
希望の灯火が消え果てる。暗黒の時代が始まる。
誰もがそう諦めかけた時だった。
ある者が暗闇を僅かに照らす光の存在に気付く。
初めこそ知覚が難しいほどに弱々しかったそれは、しかし、次第に強さを増し、確実に周囲を照らしていく。
「──────!!!」
もはや眩しいほどな光を放つそれに夜目に慣れた魔族達は悲鳴をあげて怯み、異形の軍団の進軍が一時的に止まる。照らし出されるのは人間の影。
敵味方問わずその姿を知らぬ者はいなかった。
「あ、あぁ……!なんと神々しいお姿……っ!!
勇者様だ……!!勇者様が我々を救いに来てくださったのだ………!!」
一人の兵士が歓涙に咽ぶ。
闇を祓うように。天命に導かれるように。
勇者と呼ばれた純白の騎士が瑠璃色のマントをはためかせ、その荘厳な聖剣を掲げる。
それを合図に祝福されし勇者の同胞達がこの好機を逃すまいと無防備な敵陣に奇襲をかける。
「『救いなき世界』『悲しみで満ちたこの世界に』『一つでも多くの希望を乞う』『せめて彼らに勝利あれ』」
スキル【回復領域】を適用。
周囲の味方のHPを一定時間回復し続ける。
スキル【戦闘支援】を適用。
周囲の味方のステータスが上昇した。
先ず動いたのは白装束の聖女だった。
顔立ちは幼いながらその恵体は白き聖装で覆われている。白を基調とした布をなぞるような金色の装飾は霊的な効果を上げる礼装の役割を果たしていた。まるで俗世から隔離されたような神聖さを感じさせる。
聖女の唱えた【断章】と呼ばれるその詩節は世界の理に呼びかけ自身や相手に変化をもたらすもの。
スキルにより瀕死状態だった味方の傷が癒えていき、未だ剣を振るう者達は活力が湧き上がった。
「グォォォォォォォォォォォッ!!!!」
さっそく体勢を立て直した巨人族の一体が聖女のスキルを止めようと強力な棍棒の一撃を振り下ろさんとする。
「『これは糸に操られた憐れな男の物語』『作品名《吊るされた男》』」
スキル【人形操作】を適用。
傀儡を複数体操作出来るようになった。
スキル【人形操作・重装兵】を適用。
重装兵の傀儡を操作出来るようになった。
スキル【人形操作・騎馬兵】を適用。
騎馬兵の傀儡を操作出来るようになった。
スキル【人形操作・斧槍兵】を適用。
斧槍兵の傀儡を操作出来るようになった。
スキル【人形操作・歩兵】を適用。
歩兵の傀儡を操作出来るようになった。
「【重装兵】大盾で防御。【斧槍兵】巨人族の討伐。【騎馬兵】並びに【歩兵】は周囲の戦闘支援」
ぶつぶつと消え入りそうな掠れ声が響いた。
それと同時に空間から突如として屈強な兵士の集団が召喚される。聖女を守るように大盾を構え、攻撃を受け止め火花が散る。その隙をついて斧槍兵二体が無駄の無い動きで巨人族の首元に刃を突き入れ、その巨体が後方に土煙をあげながら倒れ込む。恐ろしく統制の取れた見事な連携攻撃。
勇者達の登場により戦況は一変した。召喚されし兵団の快進撃は勿論、それまで逃げ惑うばかりだった兵士達が己を奮い立たせ再び戦おうと武器を振るい始めたのだ。その状況に焦りを覚えた魔族達が各々の指揮官の指示に従い再び陣形を組み始める。
まるで隙の無い防御陣形。
そこに長髪を靡かせて一人の凶戦士が隊列の中央に飛び込んだ。
「───揃いも揃って化物共が、雁首揃えて選り取り見取りじゃねぇか。唆るなぁ、誘ってんのか?
ちょうどいいぜ。今日はやけに身体が火照りやがるんだ。テメーら全員一匹残らず相手してやるよぉ!!!!」
凄む声は意外にもドスの効いた女性のものだった。
それは異様な風貌の褐色の女戦士。身の丈以上もある大剣、刈り込みの入った編み込み髪、奇怪な鉄装飾のついた毛皮鎧、鎧から覗く豊満な胸、身体どころか顔を覆う程の刺青、身体には勲章である無数の傷跡。勇者陣営で明らかに異彩を放つ風貌。
「『ありったけの愛を込めて、くたばりやがれ』」
【贖罪ノ指輪】を装備しました。
(効果)敵を倒すほど攻撃力が上昇する。
(代償)最大HPが減少し続ける。
【獣達ノ指輪】を装備しました。
(効果)攻撃する毎に敏捷と攻撃力が上昇する。
(代償)一定時間攻撃しなければ敏捷が下がる。
【死ヲ謳ウ指輪】を装備しました。
(効果)敵を倒すほどHPが回復する。
(代償)一定時間毎にダメージを受ける。
【昏キ夜ノ指輪】を装備しました。
(効果)自身の反応速度が上昇する。
(代償)索敵能力が下がり続ける。
短い【断章】に反してその効果は絶大であった。
ジャラリ、と凶戦士が左右それぞれの指輪を鳴らすと、魔力が注がれ魔導具がまるで稲妻を纏うかのように凶悪な力と共に激しく鼓動する。
「─────シャァ!!!」
蜥蜴族が槍を突き刺す。
白狼族が牙で噛み付く。
小鬼族が身体に纏わりつく。
巨人族が拳を振るう。
あらゆる異形の攻撃を受ける直前。猫科の獣のような動きでその四肢が上に跳ねる。
そして上から襲う大剣の一撃。絶対的な物量が巨人すら吹き飛ばし、化物達が肉片となって飛び散る。
凶戦士は【付呪師】である。特殊な術式を指輪掘り込めば代償と共に凶悪な効果が発現する。
常人であればその一つを装備するだけで倒れることもある。その曰く付きの代物を彼女はあろう事か四つその指に嵌めていた。
「そんなんじゃぁ一生満足出来ねぇんだよぉ!!!泣けぇ!叫べぇ!テメーの弱さに絶望しろぉ!
つまんねぇ戦いのせめてもの償いに、断末魔で私を楽しませろクソインポ共がぁぁぁ!!!!」
その効果は常軌を逸していた。凶戦士は指輪の代償など歯牙にも掛けず心底楽しそうに戦場で暴虐の限りを尽くす。骨を砕き。胴体を両断し。意趣返しに生首を掲げる。その動きは消耗するどころか徐々に加速さえしており、駆ける彼女とすれ違う魔族が一瞬で肉塊となっていく。
理不尽なまでの強さ。
彼等こそが人類最後の希望。
文字通り人外の域にまで各々の「強さ」を極めた超常の存在達。人は彼等を救世主と崇め、魔族は彼等を最大の敵と忌み嫌う。
再び白騎士が聖剣を掲げた時、闘いは終結していた。兵達は喝采し勝利の雄叫びをあげる。命ある事、生きてて良かったと喜びを分かち合う。
そんな彼等を巨大な瞳が見下ろす。
その生物とも建造物とも取れない奇怪な物体の名は魔城カリギュリア。敵の本拠地であり、人類を滅ぼす為創造された大量殺戮兵器。
そして何より【魔王】の待つ玉座のある場所。
それは明けない夜だった。
世界が闇に包まれてから半年。朝日が昇る事の無い暗黒の世界で遂に反撃の狼煙が上がったのだった。




