【勇者 part2】
それは明けない夜だった。
地平線の彼方から、魔族の軍勢が溢れ出し、蠢く。
目の前の広大な平原の彼方まで覆うように異形の軍勢が一斉に押し寄せる。
迎え撃つのは人類最後の防衛戦線。残された僅かな人類がその存亡をかけて結成した三百人規模の混合部隊。
その数を減らされながらも今日までなんとか生き残った紛れもない歴戦の強者達だ。
接敵直前。彼らが目にしたのは身の毛もよだつ光景。
それは「肉」の鎧だった。
異形達の前方、軍団を率いるように行進する巨人族達。三メートルにも届こうかという彼らの巨体に何かが縛り付けられている。最初兵達は暗闇でそれが何か分からなかった。鎧にしては輪郭が異様で重量感がまるでない。距離が縮む。
遂に一人が気付いてしまった。
それは四肢を切り取られた人間。
目玉を抉られ、口を塞がれ呻く事しか出来ないが確かにそれらの一つ一つが人間の女性であった。
まるで家畜のように衣服は纏わずその身は泥にまみれ、必要の無い器官は徹底的に削ぎ落とされている。
これが人の姿なのか?誰もが恐怖に悲鳴を上げ、それを嘲笑うかのように前線は呆気なく崩壊した。
遠くから聞こえる誰かの悲鳴を背に兵達は必死に逃げ惑う。
最早それは敗走ですら無かった。
誰もが生き残る為の行動をとる。
それは生物として根源的な捕食者への恐怖だった。
そんな彼らを逃すまいと魔族の軍勢が隊列を食い破るように攻め入った。
ある者は白狼族に生きたまま喰われ、ある者は有翼種によって宙に浮かべられ地面に激突し、ある者は小鬼族に真ん中から裂けるまで引っ張られ、ある者は巨人族に鎧と骨の境目が分からなくなるまで砕かれた。
ぐじゅっ、ぐじゅっ、
と生肉に幾度も刃を突き立てる音が聞こえる。
振り返ると蜥蜴族達が死体の頭を胴体から切り離し槍に刺して天に掲げていた。
自らの強さを誇示するように異形達は勝利の咆哮を上げる。
──────ああ、人間が、滅びる。
呆然と一人の新兵が思った。
世界の終わりの光景。指が、舌が、髪の毛が、眼球が。地面を覆い尽くすばかりの死体のパーツが。
その全てがこの先に待ち受ける人類の絶滅を予言する。まるで他人事のように、感情の伴わない感覚。
望みを捨て、立ち尽くす新兵を魔族が取り囲む。




