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【吟遊詩人の男 part1】

大きな戦があった。

戦列に加わった者、聞き知った者達が『第一次人魔戦争』と呼んだ大規模な闘い。

この世界を欲望の赴くままに跋扈しあらゆる資源を我が物とする人族と、その巻き起こす災厄を食い止めんとする魔族の、熾烈極まりない狂争。

かの戦を終結させ同胞たちに安寧なる世界をもたらさんとするのが我らが敬愛する亜人女王陛下その人である。


「……だってさ。敵国の新聞なんて読むもんじゃねえな。 『世に悪など存在せず、また別の正義あるのみ』ってな。まあ俺達人間側も他人の事は言えないか」

「まあそう落ち込む事は無いよ、吟遊詩人。皆が必死に生きようと足掻いているだけさ。そんな事もあったね、と笑い合える日がきっと来る」

「絵師、お前は楽観的過ぎる。もっと気を引き締めるのだ。中立区とは言え敵の支配地域だぞ」


魔族領中立区。そこは魔族の土地で唯一人族の入国が認められた特区であった。統治者である亜人女王は親人派で知られており、人間世界との国交を推奨している。地理的に人間領との距離がある程度近く貿易に向いており、国全体が標高の高い山々に囲まれた天然の要塞である事から攻めがたく守りが硬いため成立する政策であろう。


だが未だに人族への差別意識は強く、貿易による恩恵が薄まれば忽ち敵対国へと変わるだけの熱量がこの国にはあった。魔族と言っても一枚岩では無い。

そんな危うい空気が漂う都市の広場で三人の旅芸人、絶賛敵対民族の人族三人は立っていた。


「あ。ってか魔物討伐系の英雄譚歌えないじゃん!マジかよ、俺の十八番が…… これがセルフ検閲ってやつか……」


一人は吟遊詩人。長い髪で片目を隠した垂れ目気味の青年。袖の少し膨らんだ奇妙な布服は緑を基調としており、つばの広い帽子には赤い羽根が添えられている。

世界情勢に嘆いてかその表情は夜のように暗い。


「とか言って吟遊詩人は毎回違う歌じゃないか。だから大丈夫さ。私は反対に魔族のいる風景にさっきからひらめきが止まらないよ。今回は任せてくれたまえ!」


一人は絵師。透き通るような青い瞳の華麗な男装の麗人。まるで何処かの国の王子様よろしく青を基調とした煌びやかな燕尾服を見事に着こなしている。芝居がかった動作で仲間を励ます姿は太陽のように明るい。


「悪い意味で目線が気になる。だが新作の人形も披露したい。むう、どうしたものか」


一人は人形使い。顎髭をピンと伸ばした手足の長い老人。落ち着いた緩めの衣服は黒を基調としたものであり、商売道具であろう木箱を手際良く組み立てている。

周囲をしきりに警戒しその顔の長さも相まって落ち着きのない三日月のようである。


三人は商人を掛け持ちしながら各国で芸を披露し、国々を旅する所謂旅芸人である。珍しい品々を調達しそれを旅先で売りながら各々の技術を磨いてきた。そんな時紛争に巻き込まれ安全な旅路が次第に限られていき、偶然通りかかったこの国に半ば逃げるように入国したのである。

戦が落ち着くまではこの町で日銭を稼がなければならない。彼らも芸人の端くれ。最初は自らの技術がどこまで魔族に通じるのか内心楽しみにさえしていた。しかし、実際に広場に立った今そんな甘い考えは吹き飛ばされた。


「うわー何このアウェイ感… なんかめちゃくちゃ睨まれてるんですけど…」

「あ、あはははは…… きっと皆私の可憐さに目を奪われてるのさ! ……そうだろ?」

「逆に考えてみろ。魔物が街中で歌い始めたらお前達ならどうする?」

「殺処分コースじゃねえか……」

「……………………」


狼狽える三人の旅芸人。

彼等の存在がこの世界を大きく変える事になるのをまだ誰も知らない。

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