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【ある聖女の手記 part5】

旅を初めてから数ヶ月が経った。

想像以上に彼等は疲弊している。特に心配なのが彼だ。

常に闘いの先頭に立つ彼は回復薬の副作用に苦しんでいた。最近出回っている質の悪い回復薬は使用者の精神を汚染する副作用があるらしい。

しかし疲弊しきった市場では副作用の無いものを探せたとしても手が出ないほど高額だった。彼の様子が日に日におかしくなっていく。独り言が増えた。

私の【解毒】でも治せない類のものらしく心苦しい。


数え切れないほどの集落を通過していくうちに、私はこの世界が必要としている物の正体に気付く。

それは暗闇を照らす灯火。それは闇を払う光。

どれだけの絶望や苦痛を前にしてもそれが有れば人は前に進む事が出来る。つらい苦難を耐え抜き明日を目指す事が出来る。

そんな奇跡を起こす祝福の正体、それは希望だ。


私は彼等にその話をした。軽口を叩かれ一笑に終わるかと思われたが意外にも皆は熱心に聞き入り賛同してくれた。私はそれが素直に嬉しかった。


ちょうど仲間の老人が脚を痛めており、旅の進行速度が停滞していた最中だった。

どのみち療養が必要だ、そう言って彼等はある計画の準備に取り掛かった。幸い材料となる鎧や衣服は死体から頂戴したものが幾つかあった。

罪悪感は多少あったがきちんと埋葬したので許して欲しい。神様もきっと許してくれる。

それは希望を創る試み。

物語の発案者は私だ。


(文章の一部が黒くインクで塗りつぶされている)


仲間達は大いに喜んだ。

魔王が誕生してから人族の世界は荒れ果て、詩曲で生計を立てるのが難しくなった。娯楽は嗜好品に過ぎない。残された人類にそんな余裕は無かったのだ。

だからこそ創作は久しぶりで仲間達は水を得た魚のように生き生きとしている。

彼等は根っからの芸術家だと強く実感する。

彼が笑うと私も嬉しい。


完成品は圧巻の一言でまるで本当に神話の世界から出てきたようだった。さっそく彼がそれを身に纏い、私も聖女の姿となった。

これが■■の伝説の始まりだ。


私達は旅をしながらその物語を広めていった。

数は少ないが他の吟遊詩人達にも代金を払い協力してもらった。

最初は半信半疑だった人々も本物を見ればすぐにそれを信じた。人は信じたいものを信じる傾向にあるらしい。

恒例の支援活動も問題なく成し遂げる事が増えた。

救世主たる私達を無下に扱う人族は少ない。

その希望の下なら人と人は助け合う事が出来る。


これは偽りの希望かもしれない。

でもその偽りが今の人類には必要だった。

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