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【吟遊詩人の男 part5】

「安心しろ、旅芸人共。取って喰おうと言う話ではない。もっとも…それは詩曲の内容次第であるが……」


亜人の女王がその部下に囲まれながら玉座から俺達を見下ろす。変装をして城下に降りてくる姿とは訳が違う。最上級のきめ細やかな絹で織られたドレスに身を包み、至る所に宝石で出来た装飾があしらわれている。脚や胸の露出が多く、見方によっては非常に扇情的な嗜好の衣服でありながら女王の威圧感がそれを堂々たる芸術の域に高めている。

まさに一国の主として君臨するに相応しい出立ちであった。


「本日はお招き頂き恐悦至極。当代一の演目をご覧にいれましょう」

「ほう、それは楽しみだ。期待の裏切りは高く付くと知っての煽り文句か。死に急ぐ事はあるまい。精々我が気分を害さぬ事だ、人族の芸者よ」


絵師が深々と例をするのを真似て俺達も頭を垂れる。魔族の礼儀作法は分からないが相手に敬意を払う行動は取るべきであろう。


「かしこまりました。もしつまらない芸をするようであればこの場で討ち捨てられようと文句は言いません! 皆様是非にご期待くださいませ!」


(馬鹿っ!煽りすぎだ絵師っ!)

(大丈夫だって〜!毎日来てくれるお得意さんなんだからさぁ!)

(………………)


一瞬の目配せで俺は絵師に抗議したが却下された。この顔と愛想だけはよい女は自分が話を考えないからとまるで他人事である。調子の良い麗人だ。人形使いも呆れて物も言えないようだ。


豪華で規模の大きい玉座にしては見物人は少なかった。女王を除けば幹部クラスらしき三人と直属の部下らしき魔族が数人。他は後ろに控えている従者ぐらいである。普段の見物人の方が多いのではないかと思考がよぎるが俺達初めての晴れ舞台である。

気合いをいれなければ。


「ヒヒっ……!そう気負う事はなイ。栄華を誇った我らが四天も今やニ柱欠きニ天止まリ…随分と寂しくなってしまったものだからナっ!」

「……不快。小鬼風情がべらべらと喚くな」

「これは失礼っ!歳を取るとつい本音が出ルっ!ヒヒィヒ…!!!」


何故だかゴブリンとアラクネが口論している。事情はよく分からないが早く始めた方が良いだろう。


(楽しみにしてくれてるファンもいるみたいだしな)


吟遊詩人の視線の先には今か今かといつも通りその漆黒の瞳を輝かせている女性がいた。部下の前でも情熱が抑えられないのであろう。

吟遊詩人の芸歴は決して明るいものでは無かった。流れ着く街々で難解な詩曲から人気は出ず、行商人としての活動が旅の資金源の半数を占めていた。

凡百な商人であればどれだけ楽であろう。毎度期待が砕かれる事がないのだから。

吟遊詩人は亜人の女王に対してかなり好意的な印象を受けていた。どれだけ自分に好意を向けてくる異性よりも、作品を愛してくれる観客を彼は求める。

例え、それが魔族であったとしても。

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