【ある聖女の手記 part4】
人族の集落を通過する度に問題は起こった。
魔族との闘いは熾烈を極めているらしく、その負担は税という形で大衆に重くのしかかる。物価が高いのはまだ良い方で、中には明日の食事すらままならず旅人である私達に助けを求めるほど困窮した村もあった。その度に彼らは数日留まり問題を解決しようと奮闘する。安全な水源を探し、食糧となる魔物を狩る。有毒な物が大半であったため彼等が毒見を行い、私が【解毒】で治療を行う。進まない進路とは対象的に私達のスキルの修練度は上がっていった。何故この人は他人の為にここまで苦しめるのだろう。分からない。私は無視して先に進むべきだと何度も進言したが彼は困ったように謝るだけだった。彼の常軌を逸した善性には嫌気がさしてくる。
時間は過ぎていく。それは決して止まることはなく。戻ることもない。すべてが手遅れになる焦りに苛まれながら必死に前に進む。
旅の最中ある村に辿り着いた。もはや珍しくもない食糧難の村だった。だが何か嫌な感じがする。身なりの悪い浮浪者のような人間しかいない。ギラギラと血走った村人達の視線が痛かった。「これはもしかするかもな」仲間の言葉に彼は押し黙る。気付けば私達は武器を持った人間達に囲まれていた。村ぐるみで通りすがりの旅人を襲っているようだ。武器と言っても農具が殆どで痩せ細った手足から必要に駆られての行動である事が容易に想像出来た。
「俺は人殺しだ」彼は暗い表情で血に濡れた直剣を拭う。人の脂がこびり付きてらてらと妖しく光った。また嫌な役割を彼に押し付けてしまった。必死の説得も無意味に終わり、襲い掛かってきた数人を斬り伏せてようやく私達は村から出る事が出来たのだ。仕方のない事だった。
自分達は間違っていないはずだ。
いつもならそう思えばすぐに気持ちを切り替えられた。
そうやって納得させて、己の行動を省みることを避けた。
だが私は彼に聞いてみたかった。
自分達は間違っているのか、と。




