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【吟遊詩人の男 part3】

「ねえ。 アレって亜人の女王様だよね!」

「「………………………」」


無邪気な絵師の問いかけに俺と人形使いはあえて沈黙で返した。順調な筈の旅芸人ライフ。杞憂だと信じたかったが明らかに最高権力者が毎日詩曲の観覧に来ている。変装しているつもりなのか巻角と翼をローブで隠しているが如何せん顔が丸見えなのである。周囲の魔族も反応に困っており、気づかれている事を悟られず不敬にならない程度の距離を保っていた。


「熱心なファンが出来て嬉しい限りじゃないか。 やっぱり芸術を嗜む心に貴賎はないのさ!」

「いやいや、国家主席のファンとか愛が重すぎて受け止めきれねぇよ。 ってかほぼ毎日来てるけど公務とかどうなってんだ」

「目的が不明な上に検討もつかん。兎に角内容に気をつけるのだ、吟遊詩人。 間違っても昨日のような内容にはしてくれるなよ」


人形使いが念を押すように俺の胸を指で突いた。

昨日のような内容というのは人形使いがゴブリンに絡まれたらしく落ち込んでいたので励ます意味を込めて作った喜劇の事だ。

ある人族の賢王が魔女に呪いをかけられる。王の世継ぎは皆呪いのせいでゴブリンのような奇怪な姿で生まれてしまう。どれだけ解呪を試みても呪いは解けず犯人の魔女を血眼になって探すが一向に見つからない。話のオチとしては呪いなど最初から無く王は生まれつきの小鬼でありその国は小鬼の王位継承者で溢れゴブリンの王国となった。という笑い話なのだが人形使いは生きた心地がしなかったと猛抗議した。その割にはノリノリでコミカルに人形を動かしていたが。


「ほら、二人とも始めるよっ! お嬢様方を待たせちゃ可哀想だ!」


人形劇という事もあり猫耳族に限らず多種多様な種族の幼児も目を輝かせて待っていた。はやる気持ちを抑え、目をキラキラさせて待っているその姿に芸人魂が疼く。俺は気合いを入れて絵師に前口上だけ伝える。「おっ、攻めるねぇ〜!」と彼女は悪戯っぽくからかい、人形使いは真に受けて首を左右に必死に振る。


「────これは悲しい、復讐の物語」


シンと静まり返る広場。人懐っこい笑顔からは一変。まるで別人のような怪しい色気を発する絵師に一部のご婦人方から小さく黄色い声が上がる。そういう層に需要があるらしい。俺は男ながら嫉妬してしまう。


「『かつて人族の男がいた』『その男は貧しく剣も鎧も買えない』『だが腕っ節だけは強かった』」


人形使いが操る木偶は若い半裸の男だ。別の戦士の人形が現れ男を嘲笑するが拳一つでそれを黙らせてしまった。


「『戦に行きたいと鍛冶屋に相談するが相手にしてもらえない』『そんな時、怪しい商人に声をかけられる』『戦化粧はいかがな?』」


舞台に現れた商人はローブ深く被った怪しい風貌で性別も不詳だ。男は恐る恐る商人に近づく。


「『戦化粧なら安く済む』『目立つから戦果もあげやすい』『その広い背中に描かせておくれ』」


男は仕方ないと肩を落とし商人の前に座る。商人の木偶が筆で簡易な紋章を描く。勿論これも人形使いの操作だ。まさに神業である。


「『男の初陣は大成功だった』『確かにどこか迫力がある』『騎士を倒して剣も手に入った』」


戦化粧の男が騎士に素手で襲い掛かる。騎士は鎧も着ない狂人に動揺し馬から転倒してしまう。


「『男は商人に礼を言い』『また描いてくれと頼み込む』『何故か商人は動揺した』」


男が声をかけると商人は動揺し大袈裟に跳び上がる。その姿に観客から笑いが起こった。


「『男はそれからも鎧を着なかった』『戦化粧は何故か魔力を帯びているらしい』『彼の武勇は轟いた』」


戦化粧の男が騎士や戦士に飛びかかり倒していく。木偶とは思えないほど乱闘は迫力があった。


「『しかしある日、男は秘密に気付く』『ローブを脱いだ商人は』『耳の長いエルフの女性だった』」


商人がローブを脱ぐと中から美しいエルフが現れた。男の存在に気付いた彼女は必死に耳を隠したが男は彼女の両手を握る。


「『男の一目惚れだった』『種族など気にしない』『お前は俺の勝利の女神だ』」


エルフは困ったようにあたふたとするがゆっくりと頷き、二人は抱き合う。見入っている観客の幼児達の目を大人達が塞ぐ。いや、分かるけど。それ以上はしないって。


「『二人は結婚を誓い合う』『しかし運命は残酷だった』『人族に彼女の正体がバレたのだ』」


男が戦場から帰ってくる。彼女は力無く倒れていた。人族に始末されたのだ。男は泣き崩れ彼女の身体を持ち上げた。観客もシリアスな展開に息を呑んでいる。


「『男が嘆いていると声が聞こえる』『それは彼女の作った美しい装飾の鎧』『それが彼女の最後の贈り物だった』」


舞台に漆黒の鎧が出現する。金属感を表現する為に鉛が使用された特製品だ。男はすがるように怪しい鎧に近づく。


「『その鎧は呪われていた』『戦化粧に込められていた魔力の正体は愛情という呪い』『男の無事を願う純粋な祈りが呪いとなったのだ』」


それは彼女が男にかけた優しい呪い。また会いたい。また話したい。そんな本人すら自覚しない感情が戦化粧にはこもっていた。当然、鎧にはさらに強い想いが込められている。


「『決心を胸に』『男は躊躇なく鎧を身に纏った』『ざんねんあなたはのろわれてしまった』」


男の木偶が倒れ込み、それまで動かなかった鎧が不気味に動き出す。悲しい慟哭をあげながら。


「『鎧は愛する彼女の復讐に燃えていた』『人族を蹂躙し暴れ回った』『何日も何日も』」


鎧が人族の木偶目掛けて突っ込み、勢いよく投げ飛ばす。勢い余って舞台から人形が落ちてしまうが人形使いは魂をこめるかのように鎧を動かし続ける。


「『鎧は今も彷徨っている』『人族と魔族が共に手を取り合えるその日まで』」


最後は戦化粧の男とエルフの女が天国で再開し幸せそうに抱擁を交わした。少し作品に気持ちが乗りすぎたかもしれない。ハッピーエンドにしたつもりだったが見方によっては救われない話だ。劇が終わり急に頭が冷静になる。後悔しながらも観客の様子を伺う。


「「──────」」


結果はそこそこ。拍手が俺達に送られ、一同礼をして手を振る。課題は残るが暗い話と明るい話を幅広く作るのが観客への誠意だと俺は思う。世界は都合良くなんかないしつらい事もあるけど。

だからこそ美しいものが一層輝くのだと信じる。

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