51話 襲撃
皆様、いつもありがとうございます。
重々しい空気の中、この状態だと足の進みは遅く、周囲に気をつけながら歩いていた。
暫く進むと広場に出たが、やはり人の気配はなかった。
「しかし不気味ですね、いつもは夜でも人がいる広場も人がいません」
ミラルクが警戒しながら、そう呟いた。
「異常なのは間違い無いけど、戦闘の痕跡は一切ないわね」
通常、人が消えるとなると魔物もしくは人による殺害、拉致が考えられる、そうなると何かしらの痕跡が残るのはずだ。
私も常に魔力眼を発動させているが、何も感じ取ることはできなかった。
広場を抜けようとした時、風切り音が微かに聞こえたのだ。
直ぐ話そうとしたら、ガキン!と金属をぶつけた音が鳴り、ミラルクが警戒を促した。
「奥様、アニエスお嬢様、危ないので近くにいてください、投擲物です」
先程の音は、ミラルクが飛んでくる物を弾き落とした事による音だった。
地面に落ちた物を見ると、黒色のナイフのようだ。
すぐに視点を飛ばした方向に向けるが、投げた者が見当たらない
直後に左右から同時に投げナイフが飛んでくるが、これもミラルクが連続で地面に落とした。
特徴のない黒いナイフ、何処から飛んで来たのか分からなかった。
「黒い…ナイフ…まさかね…考えたくないわ…」
「お母様、何か知ってるのですか?」
「正式な呼び名はわからないけど、確実に存在する殺しの達人が集まった者達、魔法教会の記録で凶器に黒いナイフを獲物に使う者がいると見たことがあるわ、もしその1人なら…アニエスだけでも逃さないと…」
お母様は見た事がないほど焦り動揺していた。
「お母様!相手がどうであれ、私はお母様達を見捨てて逃げる事はできません!その者だと仮定して、何か他に情報はありませんか?」
「黒いナイフを操り殺す事しか分かってないわ、詳しい情報はほとんど無いのよ」
生き延びた者は少なく情報も殆どない様だ。
「とにかく足を止めるのは危ないと思います、相手がナイフを操るなら目通しがいい所は狙われやすいです」
「奥様、アニエスお嬢様、敵に見つかった状態で下手に動くのは危険です。敵の位置が分からない為、移動中に襲われる事を考えると、この場で撃退した方が良いかと思います」
「そうね、恐らく敵の目的は私でしょうから、ミラルクはアニエスを連れて邸に戻ってほしいわ」
「私は絶対にお母様を置いて戻りません。ミラルクも一緒に3人で帰りましょう、その為に私も頑張ります」
何があってもお母様を守りきると決意した。
見通しがいい所なら私達が見えてるのと同じで、相手を見つけやすい可能性は高い、もちろん危険だが下手に動けないのならこの場をうまく活用するしかないと思った。
創世の杖を使って精霊を呼ぶ事も考えたが、頭を振り忘れる事にした。
理由は3つあり、1つは精霊が使う魔法、精霊魔法は、魔法より強力なので、街の人を巻き込む危険性がある事、2つ目は殆ど間違いなく相手は死ぬ事、3つ目が一番危険で万が一、創世の杖を攻撃されると反撃行動を行うが、今の私の魔力では止めれないので暴走する、そうなると街に甚大な被害が起きてしまうからだ。
悪人であっても命を奪う覚悟は私にはない…
そんな事を考えている暇はなく、次々とナイフは飛んでくる
その度にミラルクが落としているが、いつまでもできる事ではないはずだ。
早く相手を見つけないと!
「凄い、軽やかな動き…じゃない!何処から投げてるのか見つけないと!」
相手を探そうとした私は、ミラルクの動きに目が奪われてしまう、軽やかな身のこなしに的確な剣の動き、飛んでくるナイフを簡単に落としていく、短く足を動かし最小限の移動で、剣の長さを利用した行動は、熟練者の動きにしか見えなかった。
「恐らくですが、複数いるか、投げたら移動してるか、のどちらかです、落としたナイフは毎回位置をずらして飛んで来てるので、投げた位置を捉えてもすぐ移動してる可能性が高いと思います」
ミラルクはそう言いながら、飛んでくるナイフを落とし続けた。
ここは街の中で森ではなく、隠れる場所と言うと建物の影になるが、投げた後はどうやって移動してるのだろうか
次々とナイフが飛んでくるが、ミラルクは動きながら地面に落とし続ける
「水の精霊よ、我を守りたまえ、ウォータースクード!」
お母様が詠唱を行うと、大量の水が現れて私達を囲った。
通常は水の盾を作り出す属性盾だ。
炎に強く、投擲物は減衰されるので、遠距離攻撃に強い盾となる。本来の詠唱よりも短く、更に囲む様に改変してるようだ。
飛んでくるナイフは水の囲いにより、勢いは失いそのまま地面に落ちていくのだが、直ぐに状況は変化した。
数回ナイフが当たると、水の囲いが無くなってしまったのだ。
水囲いは形を保てなくなると、そのまま足元の地面を濡らした。
「そんな!私の魔法が消滅したなんて!」
「お母様、シールドで囲います!」
シールドを半球状に形成したが、直ぐに消えてしまう
ナイフの威力が高いとは思えない、そんな簡単に消えないはずのシールドが割れるのではなく、魔法の発動が失敗したような消え方をしたのだ。
発動した魔法の魔力が広がり、分解される様に拡散してしまった。
「もしかして魔法阻害されてる!?」
水の魔法や私のシールドも割れたのではなく消えてしまった事を考えるとそれしかなかった。
悪魔の結界以外で阻害できるとなると解除魔法しかないはずだけど、そんな形跡はなかった。
再度お母様が魔法を使うが、今度は発動しない、私もシールドを出そうとするが、同様に発動しなかった。
「さっきは使えたのに魔法が使えない!」
「こんな事は今まで一度もなかったわ、魔法を封じる何かがあると見ていいでしょうね」
お母様も初めての事で戸惑っている
魔法使いが魔法を封じられると、その先は死に繋がりやすいからだ。
今はミラルクが剣で落としているけど、何か考えないとダメだ。
この場から動きたいがナイフが止まず、無理に動こうとすると相手が何処にいるか分からないので迂闊に動けなかった。
「アニエス、離れないでね、こんな事なら剣を持ってくるべきだったわね」
「剣なら出せますよ」
「アニエス、ありがとうね、でも私の剣じゃないとダメなのよ」
魔法使いと聞いてたけど、近接でも戦う魔法騎士タイプなのだろうか
私は数回、他の魔法を発動させようとしたが、詠唱を行っても発動できなかった。
最初の分解される状態ではなく、発動直後に魔力が拡散してしまうのだ。
この感じはやはり悪魔の阻害と同じ感じがする、そうなると襲ってきたのは悪魔だろうか、いや違うと思う、悪魔ならナイフなんて投げる必要がないはずだ。
悪魔じゃないなら相手も同様に魔法は使えないと思う、そうなるとナイフはスキルなのだろうか…
「流石に数が多いですね、相手はナイフを無尽蔵に所有してるのでしょうか」
ミラルクは汗を流してはいるが、息は上がっていないが、早く何とかしないと…
ナイフは1回目以降、同時に2つ飛んできている、それも対になる様に飛んでくるので分かりやすく、対処できている。仮に2人いるなら違う投げ方をすると思うし3人いるなら三方向から狙えばいい、そうなると1人でスキルを使ってナイフを投げてる可能性が高そうだ。
ナイフの投擲スキル…記憶にないのと、仮にスキルじゃないなら相当な手練れじゃないと出来ないと思う。毎回飛ばされる位置が変わるから、全方向を動きながら投げる事なんて考えれなかった。
「このままでは、厄介ですね。私の近くから離れない様にお願いします」
ミラルクが疲れ始めてきた。
早く何とかしないと!ダメだ、落ち着け私、深呼吸だ。
ゆっくりと息を吸い込みゆっくりと息を吐く、それを数回繰り返した。
飛んでくる焦りに惑わされず、冷静に考えよう
ナイフは何処から飛んできているか、建物の影を利用してると思ったけど、建物がない方向からも攻撃を受けている、ナイフは幻影とかではなく実在して弾き落とすことができる、必ず対に飛んできて毎回方向が変わる。魔法は阻害される事から魔法ではないはずだ。
「相手は透明?見えない相手なのかな…」
考えてもよく分からなくなってきた、魔法が使えれば、周囲を燃やしたり吹き飛ばせば良いだけなのに!!
「透明…もしそうなら制限か何かありそうね。透明なら近寄って攻撃すればいいはず、近寄れない理由かあるいは…」
お母様の言葉で1つの可能性を感じた。
飛ばした者の場所を考えてたけど、投げてる者が透明ならナイフが現れる瞬間を見極めれば何とかできるかもしれない!
ナイフが現れて、飛んでくるのを、一周分観察すると一定の法則がわかった。
「そう言う事か!そのままミラルクはナイフ落として!私にいい考えがあるから!」
「お任せください」
「アニエス、何をする気なの?」
「ナイフが現れる場所、位置に法則があるのが分かりました。あくまで可能性ですが、私達を中心に円状の結界か何かで囲んでるのだと思います。魔法で作られた物なら、同等以上の魔法をぶつける事で魔力が乱れて消滅するかもしれません、周囲の被害は発生させない様、直接魔力をぶつけます」
「魔法は発動できないのよ、どうするつもりなの?」
「発動自体を阻害してるなら打つ手があります」
悪魔と同じ様に発動時に処理されるのなら、二重魔法で対処できるはずだ。
「二重魔法!マジックソード、フォルムノーマル!」
真っ白の魔法剣が私の手に現れた。
属性を纏わせてないので、魔法で作られた剣という以外はない
一応魔力解放は無属性でも使えるので、いざという時は心強い
「やっぱりこの方法なら使える!」
「アニエス、創造魔法なの?」
「近いですが、違います!時間制限付きの剣です!」
ナイフの投擲は毎回場所が変わるし、繰り返されないから場所の特定は難しいが、ナイフを飛ばす位置は大体わかった。
建物の影からではなく、何もない空間から現れて飛んできている。更にそれが円状になっている様で、その中から毎回ナイフが飛んできている。街全体に魔法阻害なんて出来ないから、この円状に結界が発動されてるはずだ。
足に魔力を送りグッと力を込めると、速度をつけて走った。
「ここだ!斬り裂く!」
円の端、ナイフの現れた位置を縦と横から斬る剣技、十字斬りを使う、鋭い連撃、属性を纏っていれば別の剣技に派生するので、無属性の剣のみ使える剣技だ。
「それは壊せないぜ」
剣技が当たる直前に横から声が聞こえたのだ。
十字斬りが狙った空間に当たると、強い衝撃が発生して後ろに弾かれてしまった。
「きゃっ!!」
「アニエスお嬢様!!」
「アニエス!!」
私の叫び声で2人が驚き声を上げた。
こちらに近寄ろうとしたが、再度ナイフが飛んでくる事で足を止められた。
吹き飛ばされて目を一瞬瞑ってしまったが、すぐ開ける。先程声は横から聞こえたはずだ。
「姿が見えない…誰なの!!何処にいるの!!」
私は円状の結界外から何かの方法でナイフを飛ばしていると思ったが、ようやく声が聞こえた、姿が見えない敵、声がした事で周囲にいる事を確信した。
「とりあえず死ね、ガキ!」
横から声が聞こえると、次の瞬間に視界が白くなり。大きな炸裂音が発生した。
不意打ちに近い攻撃で防御が間に合わない、大きな音と強い光が発生して身の危険を感じたが、何かをするより早く体が吹き飛ばされた。
その瞬間をお母様とミラルクも見ていたようで、2人は私の事を呼んでいた。
「一体何が…痛い、けど死んでない?」
強い衝撃で吹き飛んで叫ぶ事もできなかったけど、生きている様だ。
大きな爆裂音が発生したのに痛みが殆ど感じないのは不思議に思えた。
痛みが消えると、体から仄かに光が出てる事に気がついた。
私の胸が光ってる…もしかして雷水晶が防いでくれたのかな、そうなると、トニトルスの溜めた魔力の防御が発動した事で私は生きている事になる、本来なら死んでいたのだ。
「ガキ…何をした…結界を維持できん…」
冷たく低い声が聞こえた。
先程まで人がいなかったはずだが、黒い服を着た者が現れたのだ。
顔には仮面をつけて、身長は高め、声は低い事から男だろうか、それよりも手に持ってるのは、お父様が王都に持って行った魔導銃と似ていたのだ。
「私達を狙った理由は?街の人は無事なの?貴方は誰なの?」
「質問が多いガキだな、答えるかよ」
手に握った魔法剣を黒服に向かって斬りつける
剣技ではないが、垂直からの斬撃は鋭く早い、肩を狙い攻撃した。
「クソが!!舐めてんじゃねぇぞ!」
肩に当たる直前に手に持つ魔導銃を使い斬撃が防がれた。
そして直ぐに体を回転させて、蹴り飛ばされた。
「ぐっ!結構な威力だね」
2回ほど地面を転がるがすぐに起き上がった。
魔導銃を使われるのは避けないと、距離を取るのはまずいので近寄ると、予想外な事に魔導銃を剣の様に振るい始めた。
刃は無いが、当たるとかなりのダメージは免れないので魔法剣で受け流したり、体を動かして避け続ける、攻撃をしたいが速度が速く上手くいかないのだ。
お母様とミラルクがこちらに駆け寄ろうとしたら、それに気がついたようだ。
「このガキを殺す事に決めたんでなぁ!お前らは、その場で串刺しになりながら見守ってやれよ!」
少しの間止まっていたナイフの攻撃が再開されると、先程と違い2本ではなく、次々と増えて降り注いだ。
ミラルクは動きをさらに早くする事でギリギリ落とせるようだが、長くは持たないはずだ。
原理がわからない、そうなると本体を何とかするしかなかった。
何とか隙を作れればと思った私は、意識を逸らす事が出来ればと思い危険だが、怒らせる方法をとる事にした。
「男?女?仮面外してくれない?」
「殺し合いに関係あるのか?敵か味方かだけだろ!」
「聞かないまま倒したら、名前わからないからね」
気になったから聞いたのだが、怒らせてしまったようだ。
想定通りだったが、こんなに直ぐ怒るなんて思わなかった。
魔導銃を使って殴ったり、突いたり、パターン化させないように足技も混ぜてくる、戦闘に慣れているのか、やりにくいと感じた。
「ガキ、お前何者だ、俺相手に長時間粘れる奴は殆どいないぞ、事前情報では領主の娘は病弱としか報告になかった。年齢も報告通りなら、俺とやり合うなんてあり得ない、お前は何者だ、苦しまずに死にたくなければ答えろ」
攻撃を受け流しながら、違和感を感じていた。
何故、ナイフの投擲を攻撃に混ぜてこないのか、威力が高い魔導銃も何故使わないのだろうか、魔導銃はさっき使っていた事から飾りではないはずだ。
どちらも使えない理由があると思い、無茶をしてでも攻撃に転じる事にした。
「先に無力化した後で話すよ!死なないでね!」
初めから殺すつもりがなく、目的などを知る必要があるので、本体の無力化か武器の破壊を考えていた。
魔法阻害とはいえ、この距離なら消える前にぶつけれるはずだ。
雷撃は致命傷になる…ファイアボルトにしよう…
私はまだ、殺す覚悟はできない…
「ファイアボルト!」
当たっても即死はしないと思い、魔力阻害を考えて多めの魔力でファイアボルトを発動させた。
無詠唱による魔法と魔法剣の斬撃を同時に対処なんてできないはずだ。
「チッ!詠唱なしで無理矢理使うのかよ!」
そう言うと魔法剣を銃で弾き、ファイアボルトをそのまま銃で防いだ。
「あり得ない!」
ファイアボルトが防がれた事ではなく、魔導銃に当たった直後、ファイアボルトの魔力が魔導銃に吸収されたのだ。
魔法阻害があるとはいえ、完全に想定外だった。
「魔法は使えないはずなんだがな、魔力量的に1回分って所か、粘った褒美だ、自分の体で味わって死んでくれや」
仄かに赤く光る魔導銃を構えて引き金を引こうとしていた。
ま、まずい!そう思った時には遅かった。
「何故、発動しない!」
何も起きない?
その者も予想外の出来事の様で慌ててる様だ。
壊れた?好都合だ!
「吹き飛べ!!」
峰打ち…刃が無い所でいいやと、横から殴りつけた。
人を魔法剣で殴ったはずが、凄く重そうな音がして地面を転がり、同時に何か割れる感じがした。
「ふざけるなよ…壊れるなんてありえねぇ!龍種の魔法も防ぐはずだぞ!」
よく分からないけど、体を殴ったら何か壊れたという事は純粋な魔法ではなく魔法道具なのだろう、魔法剣の圧縮された濃い魔力がぶつかれば、大抵の魔法道具は壊れるから不思議ではなかった。
本来属性を纏わせる分の魔力が剣に凝縮されているからだ。
発動していた物を考えると、今壊れたのは魔法阻害をしてる物なのではと思い、試してみる事にした。
ファイアボルトを発動させると、消える事なく相手に飛んで行った。
弱くなるかもと思って強めに魔力を込めたが、それも魔導銃で受け止めると先程と同じ様に吸収された。
「どんな方法で、それ防いでるの?」
「装置壊しやがって…殺す…我慢の限界だ!テスト終了、足止めも終いだ!殺してやる!惨たらしく泣き叫べよ!!」
煽るつもりではなく純粋に気になり聞いたのだが、完全に怒らせてしまった。
お読みいただき、ありがとうございます。
よければブクマなどいただけると、転がって喜んでます。
評価、いいね、ありがとうございます!!
モチベがもの凄く上がり、頑張る力が漲ります!
戦いは難しいですね。
け、決してアニエスが弱いわけではないのです…
次回はちょっと表現が残酷になるかと思います。




