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もしも人生をやり直せるとしたら俺は過ちを繰り返さない  作者: 大神 新
俺は一ノ瀬梨香と添い遂げる
17/18

第99話:一周回って果たされた約束

「はい、どーぞー」

 俺はひたすら肉を焼いては差し出される皿に置いていった。


「こっちもありますよー!」

 隣では美沙(みさ)ちゃんが俺と同じ動きをしている。

 今日はシュシュで髪の毛を上げていた。もはや可愛いでは無く綺麗だ。


「ごめんねー、何か下働きみたいな事させちゃって」

「しょうがないですよ、この人数、高木先輩だけじゃさばけないでしょう」

 美沙ちゃんは額の汗を拭きながらそう答えてくれた。


 毎年恒例となった、元川場高校生徒会室執行部の夏休みバーベキュー。

 今年でもう4年目である。少しずつ人数が増えて今は20人ぐらいになっていた。

 都合、炉はふたつ用意して片方を美沙ちゃんにお願いしている。


「高木先輩はもう社会人ですか。早いですねえ」

「美沙ちゃんは来年、就職するの?」

 話をしながらも、俺達は手を止めていない。


「あー、私は大学院に行くつもりです」

「良いね! なんだか美沙ちゃんらしいよ」

 確か、理系だったっけ。眼鏡をかけている姿を見てみたい。


「美沙ちゃん、私にもお肉ちょうだい!」

(あさ)ちゃん、せっかくだから久志(ひさし)君の分も持って行って」

 当時の1年生達は相変わらず仲が良さそうだ。


正樹(まさき)も来れば良かったのになあ……」

 美沙ちゃんは少し寂しそうな顔で呟いた。


「まあ、男の子は色々と面倒になる時があるんだよ」

「……そういうもんですかね」


 男の子、と言ったがこれは人それぞれだろう。

 大人になるに連れて同窓会に限らず集まるのが面倒に思える時があるものだ。

 特に環境が変わると時間の使い方も変わる。


「あ、(わた)ちゃん、お肉食べなよ! 楽しんでねー!」

 美沙ちゃんは後輩を見つけて嬉しそうに微笑んだ。


「美沙ちゃんは面倒見が良いねえ」

「それ、高木先輩が言いますか?」

 何故か突っ込まれてしまった。


「年下にモテるんじゃない?」

「否定はしません。でも私は年上が好きなんですけどね……」

 そう言ってこっちを見る。ドキドキするから止めて下さい。


 なお、美沙ちゃんは年下の彼と付き合っているという話を聞いた。

 あんな可愛い子がフリーになるほど世の中は甘くない。


「おい、高木、肉をくれ、肉!」

彩音(あやね)先輩、相変わらずの肉好きですね」

 彼女の登場で雰囲気は一瞬にして崩れた。

 

「くっくっくっ、当然だ。私は肉食系女子だからな」

「彩音、それ意味が違うから」

 沙希(さき)先輩が的確にツッコミを入れる。


「ん、高木、ちゃんと飲んでるか?」

 彩音先輩はそう言って缶ビールを渡してくれた。


「あんまり飲み過ぎると一ノ瀬に怒られるので……」

「ははは、すっかり尻に敷かれているんだな」

 彩音先輩はそう言って豪快に笑う。相変わらず整った顔立ちだ。


 俺は酒に酔うと何度も同じ話をしてしまうらしい。

 一ノ瀬からは「面倒臭いから飲み過ぎないで!」と、きつく言われている。

 俺も酒とは距離を置きたい、この申し出はある意味で助かっていた。

 彼女が言うことであれば守れる。だから、俺は酒と上手く付き合っていた。


嘉奈(かな)先輩は欠席ですか、残念です」

「仕方ないよ、子供生まれたばかりだから」

 沙希先輩は少し寂しそうな顔だ。ふたりは卒業してからも仲が良かったらしい。


「良いなあ、嘉奈。私も早く結婚したいよ」

 そう言ったのは彩音先輩である。


「彩音先輩、良い人いないんですか?」

「そうなんだよー、聞いてくれるか、高木?」


 何故か愚痴を聞く羽目になってしまった。

 今でも超絶美人な彩音先輩が何故放っておかれているのかは疑問である。


「彩音は自分からアプローチしないからねえ……」

 沙希先輩はあきれ顔だった。


 なるほど、分かった気がする。要するに高嶺の花すぎるのだ。

 彩音先輩に彼氏が居ないなんて、普通は思わない。

 だから、大抵の人は声をかけるのすらためらうだろう。


「先輩はきっと、綺麗すぎて近寄りがたいんですよ」

 何もかも自分で出来てしまう、というも問題なのかもしれない。


「そういうものかなー……」

「そういうものです。なんなら、この辺の男子で手を打ったらどうですか?」

 確か、大場(おおば)中森(なかもり)もフリーだったはずだ。


「いや、それは流石に……」

 逡巡するのも分かるかな。今更そういう対象に見るのは難しいだろう。


「何話してるの?」

「お、梨香(りか)! お前は良いなあ。立派な旦那が居て」

 ……どうやら、彩音先輩は少し酔っぱらっているようだ。


「な、何言ってるんですか!? まだ結婚してないですよ!」

「まだ……ってことは将来そうなる予定なの?」

 突っ込みを入れたのは意地悪な顔をした沙希先輩である。


「どうなんだ、一ノ瀬?」

「ごめんね、ちょっと考えられないな」

 即答である。久しぶりに胸に刺さる一撃だった。


 俺の方は出来れば一ノ瀬とそうなりたいと思っている。

 けれど、彼女がそれを望んでいない事は知っていた。

 だから今までずっと話題には出していない。

 俺はこの願いも、彼女が居なくなった原因のひとつだと考えていたのだ。

 きっと、重たかったのだろう。一ノ瀬は恋愛に大きなウェイトを置いていない。


「じゃあさ、私が貰ってもいいか?」

「ちょ、彩音先輩!」

 からかうにも程がある。でも彩音先輩と結婚とか考えるとドキドキするな。


「良いですよー、こんなので良ければ!」

 そう言って一ノ瀬は俺の肩を叩いた。


「お前なあ……」

「ふふふ、良かったじゃん、高木くん! 貰ってくれるらしいよ?」

 相変わらず、悪い顔をしている。


「くっくっくっ、やっぱり良いなー、お前たち。ずっとそのままで居て欲しいよ」

 彩音先輩はそう言って、楽しそうに笑ってくれた。


「よし、じゃあ肉も補充で来たし、(りゅう)にも酒を飲ませに行くか!」

「ほどほどにしときなさいよー」

 完全なアルハラである。でも彩音先輩に渡された麦酒は有難かった。


 ――プシュッ!


 気持ちの良い音ともに缶を開ける。どうやら自販機で買ってきてくれたようだ。

 真夏によく冷えたビールはたまらない。喉も渇いていたのだ。

 ……まあ、アルコールは水分補給にはならないけどな。気持ちの問題だ。


奈津季(なつき)さんとはもういいのか?」

「うん! こないだも会ったし」

 そう言って、にっこりと笑う。やはりこの顔が一番好きだ。


 1年目のバーべーキュー以来、一ノ瀬と奈津季さんの交流は復活していた。

 俺も時々、ふたりの食事会に参加することもある。

 なお、奈津季さんはお酒がほとんど飲めないので飲み会ではない。


「高木くんも少し休んだら?」

「でも、秋刀魚も焼きそばもあるからな……」

 幹事が飲み会を十分に楽しむことが出来ないのは大自然の摂理である。


「あのさ、さっきの話……」

「ん? どうした?」

 一ノ瀬は珍しく神妙な面持ちをしていた。


「高木くんは私と結婚したい?」


 ――ブハッ!


 口に含んでいた麦酒を少し吹き出してしまった。


「うわ……汚い……」

「ドン引きするなよ、半分はお前のせいだろ」

 こんな公衆の面前でするような話ではないはずだ。


「その話は、帰ってからちゃんとしよう」

「うん……わかった」

 彼女はそう言って頷くと、いつもの様子に戻った。


「じゃあ、後でね! 久志君たちと話してくるよ」

 手を振って麻美(あさみ)ちゃんと久志君の方へ走っていく。


 一ノ瀬と将来について話す……なんだか怖かった。

 拒絶されるのではないか、そんな風に思ってしまう。

 もう付き合ってから7年目だ。結婚を考えてもおかしくない。

 そもそも、4年近くほぼ一緒に住んでいるようなものなのだ。

 事実婚といっても過言ではないだろう。


「高木先輩、大丈夫ですか? 酔っちゃいました?」

 美沙ちゃんの声で意識が現実に戻る。


「ああ、大丈夫、そろそろ秋刀魚焼いちゃおうか」

「……私、この匂いだけは苦手なんですよね」

 確かに生臭い。でも、個人的にはむしろ好きな匂いだった。


 塩をよくふって、網の上に置く。銀色の艶やかな魚体が美しい。

 旬にはまだ早いが、俺たちのバーベキューでは定番になっていた。


 匂いにつられて、生徒会執行部の皆が炉の近くに集まってくる。

 やっぱり、こうやって皆で居られるのは良い事だな――。



「今回も楽しかったねー!」

「そうだな、来年もまたやろう」

 帰りの電車の中で、俺と一ノ瀬はそう話していた。


「高木くん、煙臭いよ」

「それは仕方がないだろう。っていうかお前もだぞ」


「帰ったらすぐにお風呂だね」

「ああ、先に入っていいぞ」


 俺は大学の学部を卒業した後、過去の世界と同じ会社に就職した。

 そして、あの頃に住んでいた部屋を借りている。

 一ノ瀬からは「ちょっと遠くなった」とだけ文句を言われた。

 だが広さと設備は気に入ったようで、前より居心地が良さそうにしている。

 風呂も全自動なのでシャワーではなくお湯を張ることが多い。


 会社の方は面接時に希望部署を伝えることで前の上司との鉢合わせを回避した。

 ……だが正直言って、今の俺なら同じ上司の下についても大丈夫だろう。

 あの頃の俺は子供だった。上司に対して持っていた反発を隠そうともしない。

 その態度が自分の状況を悪化させていた事に気づいていなかったのだ。

 やりようはいくらでもある。まずは徹底的に好意を示せば良い。

 今の俺なら、不平や不満を飲み込んで対応することが出来るはずだ。

 何せ、俺の方が大人なのだからな。この余裕を当時も持っていたら良かった。


 わざわざ同じ会社を選んだのにはいくつか理由がある。

 一番の理由は友人だ。同期入社の仲間とは本当に仲が良かった。

 新人研修からずっと関係が続いているかけがえのない人達だ。

 一ノ瀬が居なくなった後もかなり助けてもらっている。

 大学の友人と同じで、俺は彼らにもう一度逢いたかった。

 それに、仕事のやり方を知っているということも大きい。

 最初から学び直す必要がないので、序盤はかなり楽が出来る。


「明日は仕事でしょ? 大丈夫?」

 吊革につかまりつつ居眠りしそうな俺を一ノ瀬が心配してくれた。


「ああ、大丈夫だよ。最初のうちは教育受けつつ電話取るのがメインだから」

「電話取るのが仕事なの?」

 俺はまだ研修を終えて部署に配属された直後の新人だ。


「そうやって部署にいる人の顔と名前、それから担当してる客先を覚えるんだ」

 簡単な仕事だが甘く見てはいけない、人見知りの俺には結構辛い仕事だった。


「ふーん……なんだか、また高木くんだけ先に行っちゃったね」

「そんなことないよ、今は戦力になっていないし」

 むしろ、養ってもらっているようなものだ。会社の利益には貢献していない。


「そうかもしれないけどさ、なんだか大変だなって思ったの」

「いや、今はお前の方が大変だろ、毎日俺より遅いじゃないか」


 基本的に定時上がりの俺は一ノ瀬が大学から帰ってくるよりも帰宅が早い。

 4年生になった彼女は朝から晩まで勉強している。

 何度か徹夜紛いだったこともあると言っていた。

 ただ、休日は普通に遊んでいることも多い。今日も時間を作ってくれた。


「私も早く仕事したいな……」

 ぼそりと呟く彼女に、俺は何も言えない。

 

 仕事なんて、そんな憧れを抱くようなものじゃないと思っている。

 責任感持って一生懸命やって、その先にあるのは幸福じゃない。

 次の仕事が待っているだけだ。そうやってずっと繰り返していく。

 人に必要とされているわけでもない。

 俺が居なくなっても会社は困らないだろう。


 過去の俺は真面目だったと思う。徹夜も休日出勤も厭わない。

 出張であちこちに飛び回る。それこそ、身を粉にして働いていた。

 でも今は自分を犠牲にしてまでやることじゃないと思っている。

 一番大切な物を守れなかったら、本末転倒もいいところだ。

 仕事も生活の一部分だと思う。だから適度に手を抜く必要があるんだ。


 ……でも、こんな話は今の一ノ瀬にはとてもできない。

 きっと、嫌われてしまう。仕事は彼女にとって、夢なんだ。

 恋愛よりもは遥かにウェイトが大きい。

 もしも医者になれたのなら、それを誇りに思って必死に働くだろう。

 俺は、その気高さに水を差したくない。


「お前が医者になったらさ、きっと沢山の人が救われるんだろうな」

「何? 急に……?」

 一ノ瀬は怪訝な顔でこっちを見ている。


「今ね、何となく、そう思った」

「変な高木くん。でも……、ありがと」


 彼女が医者になりたい理由は今でもちゃんと覚えている。


 ――大好きなおばあちゃんを病気で亡くしたから、それを治す人になりたい。


 それはシンプルでありきたりなものかもしれない。

 でも、そういう分かりやすい理由が1番の原動力になることを知っている。


「着いたー!」

 玄関を開けると一ノ瀬はそう言って伸びをした。


 俺は空に近いクーラーボックスを玄関の脇に置いて、風呂のスイッチを押した。

 全自動とは本当に便利である。まあ、掃除はしなきゃいけないのだけど。

 流石に暑いのでエアコンを全開にする。


 しばらくして交代で風呂に入るとやっと人心地着くことが出来た。

 


「夕飯は軽くで良いよな?」

「むしろ、今日はもう要らないかも」

 確かに、腹はほとんど減っていない。


「それよりさ、ちゃんと話そうか」

 そう言って一ノ瀬は俺に向き直った。


 お互い風呂上りなので石鹸の良い匂いがする。

 一ノ瀬は両手を俺の腕に添えてくれた。触れ合えるのが、とても嬉しい。

 どんなに彼女を抱きしめても、この気持ちは無くならなかった。


「私ね、結婚する気ないの」

「ああ……、分かったよ、それで良い」

 俺はこの話がしたくなかったんだ。悲しくなるから。


「別に高木くんが嫌とかじゃないんだよ。ただ私……仕事に集中したいの」

 一ノ瀬の生き方だ、俺は好きに決めて良いと思う。


「だからね、……私たち、別れた方がいいのかもしれない」


 衝撃で一瞬思考が停止する。頭の中が真っ白だ。

 まさか、こんなことを言われるなんて思っていなかった。


「一ノ瀬……?」

 思わず、涙が零れる。また、彼女が居なくなるなんて考えたくない。


「高木くんが結婚したくて、子供が欲しいのなら私じゃ駄目。

 彩音先輩とかさ、いいんじゃないかな?」

「何でそんなこと言うんだよ……。彩音先輩のは冗談に決まってるだろ」

 また、気持ちが伝わらない。すれ違いたくないのに、上手くできなかった。


「私ね、高木くんには幸せになってもらいたいの!」

「俺はお前が居てくれれば幸せだよ。結婚したくないし子供も要らない」

 ただ、お前が居てくれれば……俺は笑顔で居られるんだ。


「それ、嘘でしょ? 私、わかるんだ。無理しないで良いよ」

「良いんだよ、俺は。結婚も子供も諦められる」

 どうして伝わらないのだろう。涙が止まらない。


「お父さんとお母さんも悲しむよ? 孫の顔見たいって思ってるはずだし」

「そんなの関係ない、俺はお前が居なくなったら、もう生きていけないよ」

 みっともなく、すがりつくことしか出来なかった。


「大丈夫だよ、居なくならないから。友達で良いじゃん、私とはさ……」

 一ノ瀬の言葉をこれ以上、聞きたくない。


「ん……!」


 だから、俺は黙ってキスをした。


「友達じゃ、こんなこと出来ないだろ」

「それはそうだけど……」

 彼女が俺のことを考えてくれていることは嬉しかった。


 一ノ瀬にとって俺なんか居なくても良い存在だ。

 今なら解るよ、とてもそんな風には思っていないだろ。


「頼むよ、一ノ瀬。俺はお前を愛しているんだ」

 そんな寂しそうな顔をしないで欲しい。


 ――ドンドン!


「うわっ! なにー?」


 まるで隣の部屋の人が壁を叩いているような音だった。

 ……しかし、この音には聞き覚えがある。


「花火だよ、一ノ瀬」

「えっ? こんな音するぐらい近くなの?」


 会話が中断してしまったけど、仕方ない。

 最寄り駅の公園から見える遊園地は夏になると週末に花火を上げる。


 俺と一ノ瀬は玄関に座って、花火を見ることにした。

 冷蔵庫から麦酒とレモンサワーを出して片方を一ノ瀬に渡す。


「綺麗だねー!」

 そう言って笑う一ノ瀬が可愛くてしかたない。


「ん……!」

 たまらずに、キスをする。


「うええ……苦い。麦酒の味がする」

 そう言って舌を出す仕草も可愛いな。


「ごめん、お前の事が好き過ぎて我慢出来なかった」

 ジト目がちょっと怖い。


「えいっ!」

 掛け声とともに一ノ瀬が背中から抱き着いてきた。


「普通に重い……」

「えー!? ちょっと傷つくなあ」


 身体にかかる一ノ瀬の体重が心地よい。そこに存在していることが良くわかる。

 温もりと、甘くて優しい匂い。何を犠牲にしてもいい、失いたくないんだ。

 俺は完全に狂ってしまっている。


「大好きだよ、一ノ瀬」

 そう言って、髪を撫でた。滑らかな感触がたまらない。


「ねえ、高木くん。私は今4年生で卒業まであと1年半あるの」

「うん、知ってるよ?」


「その後の2年は研修で、仕事を始めるのは早くて3年半後。

 そこから慣れるまでは3年はかかると思うんだ。だからあと6年半」

 こうやってカウントされると、確かに途方もない年月に感じる。


「30歳になっちゃうけど、待てる?」

「待つよ」

 即答した。別に6年半の間、会えないわけじゃない。一緒に居られるんだ。


「なあ、一ノ瀬。俺、少しはお前を幸せに出来ているか?」

「……少しじゃない。いっぱい幸せだよ」

 そう言って一ノ瀬は強く抱きしめてくれた。


「そうか、それなら良かった」

「大好きだよ、高木くん」


 ――ドンドン! ドドドン!


「綺麗だね……」

「うん、来週は一緒に近くで見ようよ。唐揚げ買っていこう」

 やはり花火には麦酒と唐揚げである。


「それもいいねー!」

 嬉しそうな彼女の顔を見て、思い出す。


 そうだった、俺は約束したんだ。


 ――来年もさ、またこうやって一緒に見れると良いな。


 出来ることならその次の年も、ずっとずっと。

 こうやって一緒に居られらたらいいのに……。


 そう願って、叶わなかった。

 一ノ瀬も、この家も、俺の中から居なくなってしまったんだ。

 それから俺の中でざっと25年経っている。とても長い時間だった。


 ……不思議だな。過去の世界で俺と一ノ瀬が再会したのが丁度、来月だ。

 この花火を見たのは来年だった。


「高木くん、どうしたの……? 泣かないでよ」

「約束、したからな。来年も、その次も、ずっとずっと。一緒に見よう」


「うん、わかったよ。だから、安心して」

 そう言って、一ノ瀬は俺の頭を撫でてくれる。


 この約束は、もう絶対に果たされることが無い。

 そう思っていたけれど……、そうじゃなかった。

 俺にはちゃんと、幸福になる未来も用意されていたんだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結婚する気がない、で、やっぱり、とがっかりして、 まさかの別れ話で、胸を締め付けられて。 何とか、やっていけそうで安心しました。 一ノ瀬、真面目過ぎるのですね。1年~2年程度、出産でキャ…
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