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もしも人生をやり直せるとしたら俺は過ちを繰り返さない  作者: 大神 新
俺は一ノ瀬梨香と添い遂げる
15/18

第97話:酒は飲んでも呑まれるな

「それじゃ、梨香(りか)ちゃんの大学合格を祝って、乾杯!」

 康平(こうへい)の掛け声で、俺達はグラスを上げた。


「いやー、良かったね! 本当におめでとう!」

「ありがとうー!」

 神戸(じんと)さんはビール、一ノ瀬はレモンサワーを片手に持っている。


 うーん、何だか嬉しいな。過去の世界では俺の大学生活に一ノ瀬は居なかった。

 このメンバーで飲み会が出来るなんて、本当に夢のようだ。


 俺は前から一ノ瀬には内緒で合格祝いの飲み会を企画していた。

 開催は念のため、3月後半にしたので発表からはそれなりに時間が経っている。


「で、何で理絵(りえ)もいるわけ……?」

「えー、いいんじゃん! 私も春からD大生だよ? 後輩だよ?」

 ジト目の麗子(れいこ)に理絵さんは慌てて答えていた。


 あの遊園地での騒動後も理絵さんと俺たちの関係は特に変わっていない。

 色々と文句を言いたい気持ちもあったが、俺の方が大人なのだ。

 それに、予備校で一ノ瀬と仲良くしてくれたことについては感謝している。

 俺の居ない間に一ノ瀬が寂しい思いをしなくて済んだのは理絵さんのおかげだ。


「でも、夜間主でしょ?」

「うー、そうだけど!」

 そして、一ノ瀬から理絵さんへのあたりは強い。上下関係がしっかりしていた。


「まあまあ、夜間主も昼間も卒業したら一緒だから」

「さすが高木君! 優しいから好きー!」

 相変わらず、理絵さんは突っ込みたくなる人だった。


「ふーん、高木くんは理絵の味方するんだ……」

 一ノ瀬の声が冷たい。何故そうなる。


「まあ、いいんじゃね、理絵ちゃんも可愛いし」

「アンタは相変わらずね」

 康平は麗子に睨まれていた。口は災いの元である。


 それにしても、こうやって集まってお酒を飲むのは楽しいものだ。

 賑やかな店内には雑音と笑い声が響き渡っている。

 大声を出さないと会話も難しいぐらいだ。俺はこの雰囲気が好きだった。

 お金のない貧乏学生からすると、こんな居酒屋でもそれなりに奮発している。

 

「楽しいねえ……」

 しみじみと言ったのは隣に座っている一ノ瀬である。


「あんまり飲み過ぎるなよ?」

「高木くんこそ、飲み過ぎないでよね!」

 飲めるが故に、俺たちは悪酔いをしやすい。


「ちょっとトイレ……」

 一ノ瀬はそう言って俺の肩を掴んで立ち上がる。


「大丈夫か?」

「うん、平気だよ!」

 そう答えた顔は少しだけ赤くなっていた。ちょっと心配だな。


「ねえねえ、高木君」

 一ノ瀬が席を立った瞬間に、理絵さんが話しかけてきた。


「良かったねー、色々と上手くいったみたいで」

「……何で知っている?」

 理絵さんも大概、悪そうな顔をしていた。

 この表情だけは相変わらず一ノ瀬によく似ていると思う。


「梨香から聞いたんだよー」

 アイツが人に話すとか、珍しいな……。そういうの嫌いだったはずだ。


「色々と大変だったみたいだね……。

 感謝してよー? 私も結構アドバイスしたんだから!」

 そういうことか……、アイツも結構必死だったんだな。


 何を隠そう、俺も友人たちに相談をしている。

 本来ならこんなこと、誰にも言いたくなかった。でも背に腹は変えられない。

 インターネットで何でも調べられる時代じゃなかったんだ。


 でも、そのおかげで俺と一ノ瀬はあの後、無事に一線を越えることが出来た。

 簡単な道では無かったが、彼女が頻繁に俺の家に来てくれたことが大きい。

 春休み中はほとんど毎日のように会っていた。

 お互いがそうなりたいと望んだ結果だと言えるだろう。


「ああ、それについては感謝するよ、ありがとう」

 理絵さんも知っているということはここに居る全員が知っているということだ。


 ……個人的には恥ずかしくてたまらない。でも頭では分かっている。

 自分が思うほど他人は気にしないだろう。それに皆は喜んでくれた。

 やはり、困ったときは誰かに頼っても良いのだと今更ながらに実感する。


 今の時代なら、きっとインターネットで調べて終わりなんだろうな。

 寂しい時代だと思う反面、それはそれで良いと思う。

 友達の少ない俺のような人間でも情報を手にすることが出来るのだから。

 一番怖いのは、誰の力も借りられないことだ。


「私は高木君の味方だからね! これからも何かあったら報告するよ」

 この申し出は、正直言ってありがたい。


 一ノ瀬が大学に通うようになったら、予備校のように会いに行けないだろう。

 それは少し、心配でもあった。今更アイツを信じない、というわけではない。

 でも交友関係が広がると何かしらの変化は生じるだろう。

 不安じゃないと言ったら、嘘になる。俺は本当に駄目になってしまった。


「嬉しいけど、最優先は一ノ瀬にしてくれ」

「……いいなー、梨香。私も高木君みたいな人に愛されたいよ」

 そう言って俺の腕をさらっと掴む。本当に恐ろしい人だ。

 彼女と同じクラスになる男子たち、どうか気をつけてくれ。


「何話してたの?」

 そんな話をしていると、一ノ瀬が帰ってきた。少し気まずい。


「単位の話だよー。高木くん、頭いいから色々教えてもらってたの」

 嘘への切替が早い。……理絵さんのことはあまり信用できない気がしてきた。


「ふーん……、そうなんだ?」

 一ノ瀬もどうやら、理絵さんのことは完全には信頼していないらしい。


「よいしょ」

 そう言って隣に座りつつ、俺の腕を掴んでいる理絵さんの手を払う。

 何気ないその仕草が凄く嬉しかった。少しでもヤキモチをやいてくれたのかな。


「どうしたの?」

「あ、いや……、ありがとう」

 何故かお礼を言ってしまった。


「意味わかんない、変な高木くん」

 そう言いながら、嬉しそうにグラスを手に持つ。


 一ノ瀬は自分から話すわけじゃない。だから割と静かだった。

 でも皆の話を聞いて、とても楽しそうに笑っている。

 その表情がとにかく好きだった。ずっと見ていたいと思ってしまう。


「ふふふ、今日は来れて良かったな」

「お、いいね! 梨香ちゃん、もっと飲みなよ!」

 ああ……これは良くない兆候だ。


 とはいえ、この流れを断ち切れるほど俺も強くない。

 一気飲みをしようとしたら迷わず止めるけど、これぐらいならいいだろう。

 それに……俺自身、もう少し皆と飲みたかったんだ――。



「お疲れ様ー!」

「また今度ね!」


 俺たちはしっかり2次会まで行って、駅で別れた。

 すでに終電が近い状況である。もちろん、一ノ瀬はもう自宅まで帰れない。


「今日、高木くんの家に泊るって言ってあってよかったー」

「そうじゃなきゃ、そもそも飲めないだろ」

 親に信頼されて預かっている身としては申し訳ない気持ちになった。


「これ、流石にヤバイかな……、フラフラする」

「大丈夫か、とりあえず掴まれ」

 そう言って腕を出したのだが、一ノ瀬はガシッと抱き着いてきた。


「うーん、酔ったー」

「おいおい、本当に大丈夫か?」

 身体に力が入っていない、仕方なく腕で支える。


 一ノ瀬の体重を感じて心地よかった。こんな時でも甘くて優しい匂いがする。

 女の子って凄いな。おそらく俺からは汗と酒の嫌な臭いしかしないだろう。


「高木くん、ありがとね。大学合格してからずっと楽しいことばっかりだ」

「楽しんでくれたのなら、俺は嬉しいよ」

 

 でも、きっと。これからは一ノ瀬の世界の方が広がっていくのだろう。

 彼女はまだ、スタートラインに立ったに過ぎない。

 

「少し休んでいくか。南口に噴水あるからさ」

「えー、いーの? 電車は?」


「そんなものはどうとでもなる」

 そう言って俺は一ノ瀬に肩を貸して歩いた。


 3月ももう終わり、季節はほぼ春だったが、夜風は冷たい。

 けれど、火照った身体には丁度良かった。


「とりあえずここに腰かけて」

「うん、わかったー」

 そう言ってベンチに座ったの良いけど、自立出来ていない。


 上半身がグラグラと動いているから心配になった。


「ちょっとだけ我慢してな!」

「えー? どこ行くのー?」


 俺は出来るだけ急いで近くの自動販売機の下へ行く。麦茶を買った。

 本当はダッシュしたかったが、いかんせん、俺もかなり酔っている。

 転んでしまう可能性があるので無茶は出来ない。


「高木くーん!」

 一ノ瀬の下に戻ると再び抱き着いてきた。


 この様子を見て、心底不安になる。

 俺と一緒の時はともかく……、大学の友人と飲んでもこうなるかもしれない。


「ほら、これ飲んで」

 ペットボトルの口をあけて一ノ瀬に手渡す。


「んー? 麦茶?」

「明日、二日酔いになりたくないだろ?」


「わかった! ちゃんと飲む!」

 凄まじく素直になっている。今なら何でも言うことを聞きそうだ。


「なあ、一ノ瀬。俺の事、少しは好きか?」

 思わず、聞いてしまった。


「ばーか! あーほ! 高木くんなんか嫌いだよ!」

「お前……それは流石に傷つくぞ?」

 やはり、酒の力を借りても無理だったか。


 結局、彼女は1度しか俺のことを好きだと言っていない。 

 まあ今更、そんな言葉など貰わなくても気持ちは伝わっているのだが。


「ぎゅーってして!」

「ああ、分かったよ、これで良い?」

 リクエストに応えてきつく抱きしめた。幸いにして人通りはほとんどない。


「んー! ねえ、高木くん、今夜もする?」

「お前なあ……、今日は飲み過ぎだから止めておこうよ」

 というか、多分この状態だとコイツはベッドに入った瞬間に寝るだろう。


 すでにほとんど水たまりのようになっている。

 もはや軟体生物だ。俺にもたれ掛かっていないと立てないレベルである。


「えー!? 本当はしたいくせにー、分かってるよ?」

「ああもう、その通りだよ!」

 何をするにも恥ずかしがった3週間前の一ノ瀬がちょっと懐かしい。


「えへへー、やっぱり高木くんは私のこと好きすぎるよね」

「お前、嬉しそうだな」

 笑っている顔が見たくて、少しだけ力を緩めた。後ろに回した手で頭を撫でる。


「嬉しいよー、何かねー、私。前より高木くんのことが好きなんだ」

「えっ!?」

 今まで、そう簡単に言わなかった言葉をあっさりと口にだす。


 確信した。やはり、アルコールは脳細胞を破壊する。

 いやー、やっぱり酔っぱらうのは良くない事だな。

 ……すでに深刻に酔っている俺が言うのも酷い話だけど。


「高木くんといっぱいしたいな」


 一ノ瀬は俺の目を真っすぐに見てそう言った。

 ……いいのか、お前。今、大変な事を言っているぞ?


「ねえ! もっとぎゅーってしてよ」

「わ、わかったよ」

 言われて抱きしめる。完全に彼女のペースだ。


「ずっとこうして居たいなー」

「お前がそうしたいなら、いくらでもそうするよ」

 とはいえ、まずは家に帰るべきだろう。


「とりあえず、家に帰るぞ?」

「うん、はやくベッド行こう! あ、でもその前にシャワー浴びなきゃ……」

 今にも寝てしまいそうな一ノ瀬を何とか支えた。


 しかしながら、今の状態で一ノ瀬を抱えて歩くのは厳しいものがある。

 俺だって少なからず酔っているのだ。

 背負うのが一番安定するけど、嫌がるだろうな……。

 仕方なく、フラフラする彼女を支えながらタクシー乗り場へ向かった。


「すいません、お願いします」

 基本的に俺に寄りかかるだけの一ノ瀬を乗せてなんとか自宅まで辿り着く。


 頑張れば歩ける距離だけど、タクシーを使うのは割と大人の発想だ。

 玄関をあけて、一ノ瀬をベッドまで運ぶ。家が狭いのは逆に助かった。


「高木くん、高木くん、高木くーん」

「ああ、はいはい、ここに居るよ」

 そう言って、俺は麦茶を渡す。


「んっ、ありがと!」

 一ノ瀬は大人しくペットボトルを傾けた。


「じゃあ、俺はシャワーを浴びて……」

「駄目! こっちきて!」

 一ノ瀬は有無を言わせなかった。


「ん……」

 彼女からのキスに驚く。こんな積極的になることは今まで1度も無かった。


「高木くーん」

 そう言って力の限り抱き着いてくる。その勢いに負けて倒れてしまった。


 そのまま一ノ瀬は覆いかぶさってくる。重い……。

 血の通った人間だということを身体中に感じた。

 とても柔らかくて、暖かい。そして相変わらず良い匂いがする。


「こっち見てよー」

 そう言って、一ノ瀬は俺の上から真っすぐにこっちを見る。

 俺は言われた通り、彼女の瞳に目を合わせた。


「あはは、高木くんだー」

 完全に酔っぱらっているな。一ノ瀬は笑いながら、顔を近づけてきた。


「ちょっと、一ノ瀬?」

「ありがとね、高木くん。梨香の事を好きになってくれて……」


「ん……」

 そのままキスをする。俺はただ、彼女の行為を受け入れるだけだった。

 こんなこと……初めてだ。過去の世界でもここまでは無い。


「大好きだよ、ずっと一緒に居たい」


 それは信じられない言葉だった。俺が言ったんじゃない。

 一ノ瀬がそう言ったんだ。その瞬間、胸の奥に知らない感情が広がっていく。


「なんで泣くのー?」

「何言ってんだ、そんなことないぞ」


 嘘だ。俺は確かに泣いていた。でも悲しいわけでも切ないわけでもない。

 嬉しいのは間違いないけれど、良くわからないんだ。

 

 過去の世界で、確かに俺たちは愛し合った。

 今ならわかる。ちゃんと一ノ瀬も俺の事を想ってくれていた。

 でも……、やっぱり気持ちは俺の方がずっと大きかったんだ。

 

「高木くん……、私ね、高木くんの泣いてる顔も好きだよ」


 想像もつかない言葉だった。一ノ瀬が俺の事を「好きだ」と言っている。


 そういえば、俺は一度も「好きになってもらいたい」と願ったことはない。

 それは叶わない願いだと徹底的に思い知っていたからだ。

 そんな俺が願ったのはただ「彼女に逢いたい」、それだけだった。


 その願いが叶ってからは、ずっとその日々が続くようにと願いをかける。

 傍に居て欲しい、ただそれだけで良かった。俺はそれ以上を望んでいない。

 願えば叶わず、悲しくなるだけだと知っていたからだ。


「でもね、泣かないでほしいな……」

 一ノ瀬はそう言って俺の涙を手で拭ってくれた。


 一緒に居られた日々は、喜びに満ちた本当に大切な時間だ。

 それは俺の中で、これ以上ないぐらいの幸福だった。

 生まれてきて良かった、心からそう思えるぐらい……。


 だから、分からなかったんだよ。どこか現実味が無くて、理解出来ていない。

 彼女が俺を愛してくれる、そんな世界があるなんて思わなかった。


 俺はもう、十分に幸せだと思っていたんだ。満足していた。

 それなのに一ノ瀬はその上の幸福をくれる。


「お前のことが好き過ぎて、俺の中の嬉しい気持ちが溢れちゃったんだ」

「もう、やっぱり馬鹿だなあ、高木くん」


「私の中も高木くんのおかげで嬉しいでいっぱいだよ?」

 一ノ瀬はそう言って、俺を抱きしめる。


「えへへ、高木くん、大好きー」

「俺も、お前の事が大好きだよ」


 返事は届いただろうか。俺に覆いかぶさっている一ノ瀬は寝息を立てていた。

 シャワー浴びたいし、歯も磨きたい。なんでこんな事考えちゃうかな。

 我ながら、夢のない思考回路だ。でも……もう長く続きそうにない。

 なんだか、とっても眠いんだ。


 一ノ瀬が風邪をひかないように布団を手繰り寄せる。

 今日はこのまま、寝てしまおう。まったくもって、酔っぱらいは質が悪い。


 まいったな……、一ノ瀬の最後の言葉が頭の中をグルグル回る。

 こんな感情、やっぱり知らないよ。溢れる涙はとても熱くて、優しかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの、いつもドライで塩対応の一ノ瀬が、遂にここまで! 感無量です。 ようやく相思相愛のいちゃいちゃする関係に。一線を越えた後も順調に仲が深まっているようで何より。 後は、お酒の席も含めて、…
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