文化祭DAY1 前編!!
文化祭は2話で終わる予定だったのですが、思ったより筆が進みましたのでDay1,Day2をそれぞれ前編、後編に分けようかと。
Day2にはミスコン、ミスタコンもあるのでお楽しみに!!
まあ次週はまだDay1ですけどね...
青い空が地平線まで広がるほどの晴天に恵まれた土曜日。
校門の前には文化祭の入場希望者が長蛇の列を作っていた。
学校の知名度が高いせいか入場希望者の中には動画配信者や報道陣も紛れている。
「さぁ!本日は私立叡賢大学附属叡賢高校の文化祭に潜入したいと思います!この学校はあの有名女優の出身校でありーー」
「先日とある動画が話題になりましたが、その動画に写っていた女子高生がこの私立叡賢大学附属叡賢高校に通っているそうです。本日は生中継でその女子高生の正体を探っていこうと思います。」
校舎を背景にスマホで動画を撮影する動画配信者もいれば、カメラマンに撮影してもらっているアナウンサーもおり、開場の時間を今か今かと待ち構えている。
「すごい人だね...」
「この高校って有名だからね...」
教室の窓から校門を覗きながら呟く香織に渚は苦笑いしながらそう答える。
「そういえば渚、今更だけどこの動画知ってる?」
「ん?」
渚が達也の開いた画面を覗き込むと、そこにはとある事件の動画が写っていた。
ひったくり犯を少女が追跡している動画らしい。
....あれ、何か見覚えが.......っ!?
「わかったか?渚だ。」
「な、なんで動画が...」
「誰かが撮ってたんだろうなぁ、あの時の渚の動きやばかったし。」
「いや、あれくらいなら誰でも...」
達也は額に手を当てて「できる訳ない...」と呟きながら話を続ける。
「お前の姿はこの動画によって日本中に拡散されてるから、今日来る奴らには人一倍気をつけろよ?特にあそこにいる動画配信者とかな。」
達也が顎で刺した先には、あまり関わり合いになりたくないような男性が屯していた。
「無関係な一般人に難癖つけてキレさせ、その様子を配信する害悪配信者だ。」
「うわぁ...」
渚が思いっきり顰めっ面をすると、佐々木さんが教室中に声をかける。
「はい!色々不安はあるけどまずは自分達が楽しむことが第一!集客数が一番多かったクラスが最優秀賞だからね!100万円とるぞーーー!!!」
「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」」」
先ほどまでの不安は何処へやら、一気にクラスのボルテージは上がった。
文化祭、スタートだ!!!
「3番テーブル、コーヒーとサンドウィッチです!」
「5番テーブル、オムライス4つ!!!」
「1番テーブル、紅茶、コーヒー、ケーキ、サンドウィッチ各1ずつ!!」
「2番テーブル、ケーキとコーヒーを2ずつ!!」
「君かわいいね、この後一緒に回らない?」
「6番テーブル、ミルクティーとサンドウィッチ!!」
「なぁ知ってるか?バニーガールのコスプレをした娘がいるらしいぞ?」
「まじ!?見に行かなきゃな!!」
渚たちのクラスは現在、人がごった返している。
まさかコスプレの影響でここまで繁盛するとは思わず、調理室と教室の運搬が間に合っていない状況だ。
そんな中渚は、メイド服を着て調理室でひっきりなしにフライパンを振っていた。
現在の調理室はまるで中華料理屋の厨房のように熱気が立ち込めている。
「久里山さん!オムライス5つすぐ出せる!?」
「...っ任せて!!」
コックさんも脱帽するほどのフライパン捌きで瞬く間にオムライスを完成させる渚。
「あ」
おもむろに冷蔵庫を開いた渚は声を漏らした。
「どうしたの!?」
「今のでオムライス200食終わった。」
「うそ!?まだ2時間しか経ってないよ!?」
運搬係の生徒が悲鳴をあげる。
現在時刻は11時15分。文化祭開始が9時のため、予想よりも大幅に早い在庫切れだ。
その後すぐに別の運搬係が調理室に飛び込んできた。
「後オムライス何食残ってる!?」
「さっき出たので最後!!」
「追加で15食出すことになった!悪いが作ってくれ!!」
そう言って運搬係の男子くんはサンドウィッチを持って駆けていった。
渚はケチャップライス班に声をかける。
「15食分いけそう!?」
「明日の分の材料を使えばなんとかなると思うぞ!」
「じゃあそれ使おう!明日の分は追加で買えばいいと思う!」
「おっけ!じゃあたまごの出番が来るまで手伝ってくれ!!」
「うん!!」
渚はそう頷くと、玉ねぎのみじん切りを開始した。
玉ねぎ5つを目にも止まらぬ速さで刻んだ渚はその勢いのままフライパンに刻んだ玉ねぎを放り込み、オリーブオイルで炒め始める。
ミックスベジタブルと刻んだソーセージも大火力のフライパンに放り込むと、豪快にフライパンを振って具材に火を入れる。
「調理室ってあんな火力出せたんだね」
「いや普通は無理だろ。」
「というか、俺らもう足手纏いじゃね...?」
「あ、米炊いてねぇ」
「「「「あ」」」」
オムライスに必要不可欠なお米、今から準備を始めても最低30分はかかってしまう。
「ど、どうしよう...!!」
「クレームが来る....!!!」
調理担当の全員があわあわし始めると渚はフライパンの火を止め、中身を皿にあげると静かに手を上げた。
「僕に任せて、我が久里山家に伝わる炊飯術を見せてあげよう...!!」
そう言って渚がお米を洗い始めると、調理担当と運搬係は固唾を飲んでその様子を見守る。
ーー5分後ーー
「「嘘でしょ...」」
土鍋の蓋を開けると艶々に輝く炊きたてのお米が姿を現した。
横に立つ渚はどこか得意げに顔をニヤつかせている。いわゆるドヤ顔というやつだ。
「久里山家、すごすぎんだろ...」
そんな声が調理室内に響く中、渚はそのお米を丸ごとフライパンに放り込んだ。
周囲から「あぁ!!?」という声が聞こえたが、渚は気にせずお米と炒めた具材を混ぜ合わせる。
塩胡椒、ケチャップで味付けすると即座に卵に取り掛かる。
渚はものの数分で全てのオムライスを作り上げた。
「で、できた...早速運ぼう。これ以上はもう注文受けられないからね...」
「久里山さんありがとう!!助かったよ!!」
運搬係がオムライスを教室へ運んでいく様子を見ながら、渚は調理器具の片付けを始めた。
使用した調理器具を全て片付け終えると、いいタイミングで茶峨くんが紅茶を淹れてくれた。
「お疲れ様、いい動きだったぞ。」
「ありがとう茶峨くん。」
紅茶を一口飲むと、ほうっと息をはく。
「サンドウィッチとケーキはどう?」
他の品の在庫状況をすっかり忘れていた渚が思い出したように尋ねると、茶峨くんは冷蔵庫の中を覗く。
「今日出す分は全て作り終えてるし、飲み物も完売だ。明日の在庫は余裕があるから、追加の買い出しはいらないだろうな。オムライスの材料だけ買えば大丈夫だろう。」
「そっか、じゃあ帰りに買って帰るかな...」
渚が椅子に腰掛けながら手を大きく上に上げ伸びをすると、他の調理担当が渚に声をかける。
「久里山さんは午後は全休でいいよ。もうやることもないし明日も大変だと思うから。」
「そう?じゃあお言葉に甘えようかな...?」
渚は椅子から立ち上がると、メイド服を整える。
一人で文化祭を回るのもあれなので、香織と達也が空いているようなら一緒に回れないかと思い教室に向かうことにした。
廊下を歩いて他クラスの出し物を眺めながら歩いているとやたらと視線を感じ、渚は自分の服装を思い出した。
男心をくすぐるガーターベルトにヒラヒラしたスカートから覗く絶対領域、人目を引く容姿の渚がそんな格好をすることで邪な考えを持つものも少なからず存在した。
今現在、渚に言い寄っているのもその一人である。
「ねえ君、この動画の娘でしょ?かわいい格好してるね、少しお話しない?」
「すみません、用事があるので...」
「ここの学校の生徒でしょ?客をもてなすのも仕事のうちじゃないかな?」
「....」
「少しだけでいいからさ。ちょっと僕の動画に協力してくれればいいから。」
渚の追跡動画を見せながらしつこく言い寄ってくるこの男、自称有名動画配信者らしいがその眼は渚の身体を隅から隅まで舐め回すように見てくるため、当の渚は鳥肌が立って仕方がない。
どうにかして撒くことを考えた渚は、玄関から外の廊下に出て、勢いよく駆け出した。
「あ!!待て!!」
突然ダッシュをした渚に完全に置いて行かれたその男性は、怒鳴り声をあげて渚を追いかける。
しかし、だだっ広い校内を熟知している化け物スペックの渚の逃走に対してノーマルスペックの一般人1人では圧倒的に分が悪い。
瞬く間に渚は男性を撒き、教室の近くへとやってきたのだが...
「...なんか騒がしくない?」
教室に近づくにつれ大きくなる騒ぎ声が渚の不安を掻き立てる。
教室のある廊下の通りに入ると教室の前は人だかりができており通るのが難しくなっていたが、渚の姿に気がついた西澤くんが慌てて渚に近寄ってくる。
「久里山さん!いいところに来た!!」
「西澤くん、この状況は一体...」
「件の動画配信者のせいで篠原くんと篠原さんがものすごい怒っててね...このままだと手を出しかねない...」
達也と香織が手を出しそうになるほど怒るなんて生まれてこの方見たことがない渚は、事の重大性を瞬時に理解した。
しかし目の前の人混みが邪魔をして、正攻法では教室までたどり着けそうにない。
「目立っちゃうけど、仕方ないか....」
「久里山さん、何を...うわぁ!!??」
渚は西澤くんの膝の裏と背中に手を回して抱え上げると、廊下を壁伝いに走った。
「あ“あ“あ“あ”あ“あ“あ“ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”!!!!」
重力を無視して廊下の壁を走る渚は教室の前までたどり着くと、壁を蹴って頭から教室に飛び込もうとした。西澤くんを抱えたまま。
しかし悲しいかな、スライド式である教室の扉は現在締め切られており、外からは開けることはできない。
そんな扉を渚は......
勢いに任せて蹴破った。
ガッシャァァァァンンン!!!!!!!!
「渚ちゃんはそんな娘じゃない!!!」
「渚はそんなやつじゃねえ!!!!」
渚が扉を蹴破ると同時に達也と香織の怒鳴り声が教室の壁を反響する。
扉を蹴破って入ってきた渚を見て達也と香織、そして数人の男は口をあんぐりと開けて渚を見ていた。
倒れた扉に乗りながら渚は西澤くんを下ろすと、ふらふらしながら西澤くんは地面に倒れた。
「..う..酔った...うぷ」
「あぁ、壊しちゃった...」
渚が額を掻きながら言葉を漏らすと、男の一人がハッと気を取り直し渚に食いかかる。
「おいテメェ!!俺たちのカメラマンに何してくれてんだ、あぁ!?」
「え?カメラマン?どこ?」
「久里山さん!足元足元!!」
「足元....?」
渚が壊れた扉から降りると、さらにその下から気を失った男が現れた。
その手には撮影用のビデオカメラが握られておりつい先ほどまで撮影をしていたようだが、現在のそカメラは原型をなくすほど損傷してしまっている。
渚は倒れた男を壊れた扉の下から引っ張り出し、怪我がないことを確認する。
それにしても気を失うなんて...お姉ちゃんなら咄嗟に反応して扉を蹴り返すくらいなのに。
「......まぁいいか。怪我はないみたいだし。」
「いい訳あるか!!!」
突拍子もない自己完結に激しい怒りを見せるその男の顔を見て、渚はようやく思い出した。
「あ、害悪配信者...ボソ」
「おい、聞こえたぞ!!配信中にカメラもパソコンも壊しやがって!!覚悟はできてんだろうなぁ!?」
達也が開園前に話していた迷惑系動画配信者の集団がそこにはあった。




