前日準備!!
お待たせしました。文化祭直前です!
自分もこんな青春を送りたかったなぁ...
文化祭を翌日に控えた金曜日。
叡賢高校の生徒たちはせかせかと文化祭の準備に勤しんでいた 。
渚たちのクラスもわちゃわちゃとしながら看板や内装作りに励んでいた。
「渚?これは何を描いてんだ?」
「えぇ?見ればわかるでしょ?メイドさんだよ?」
「えぇ...メイド...?」
達也が看板にする予定の木の板に描かれた奇怪なモノの正体を尋ね、渚からの返答に言葉を詰まらせる。
メイドどころか人間にすら見えないソレをどう解釈するべきか悩んでいたところ、西澤くんがスタスタと近づいてきた。
「久里山さんどう?メイドは上手くできた?」
「もちろん!コレ見てよ!」
渚は描き途中の絵を見せると、西澤くんの顔が引き攣った。
「...これが、メイド?」
「そうだよ?」
「...まぁ、あれだよね。ミジンコと妖怪と壊れた掃除機と人間を足して3で割ったらこんな感じになるかもね...」
「独特な評価だな...」
西澤くんの辛辣な評価に達也は感心する。
「まぁ、教室の隅に飾っておこう。」
「そうだな。」
「あー!文化祭楽しみだなー!!」
自分の絵を見て沢山の人がクラスの出し物に入ってくる様子を想像しにっこりとする渚を見て、達也は評価を下すのを辞めた。
ありのままを言ってしまうのは可哀想だ。
「そういえば西澤は何か用があったんじゃないか?」
達也が西澤くんにそう尋ねると、西澤くんは「そうそう」と話し出す。
「調理担当の人たちに着てもらう衣装が届いたから試しに着て欲しくてね。今時間どう?」
「え?調理担当も衣装着るの?」
接客担当だけじゃないの?と言いたげな渚のキョトン顔に西澤くんは話を続ける。
「調理室から教室に料理を運んでくるのは調理担当でしょ?雰囲気を崩さないためにも調理担当にも邪魔にならない程度にコスプレをしてもらうことにしたんだ。接客係ほど恥ずかしいものじゃないし動きやすいよう配慮はされてるものだから安心して。」
「そうなんだ。それなら...良いのかな?」
渚は少し迷ったが、ある程度配慮はされていると聞いて了承した。
それよりも
「接客係の衣装ってそんなに恥ずかしいの?」
「...男子全員と一部の女子にとっては黒歴史になるな...」
「...達也の着てる姿あとで見せて。」
「断る」
「じゃあ僕の衣装着てるのも見ちゃダメだよ?」
「....香織が写真もってるから見せてもらってくれ。」
渚のコスプレ姿という誘惑には勝てなかった。
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「あ!ようやくきた!」
渚が教室に入ると、佐々木さんを含めたクラスメイトの女子が駆け寄り、渚の両腕をがっしりと掴む。
「え...?なに...?」
「佐々木隊長、目標を確保しました。」
「ご苦労、奥へ連行しろ」
「「「ラジャ」」」
「え!?ちょっと!!??なにこの状況!?いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ずるずると引き摺られながら渚は教室内にある布で隠された更衣スペースへと連行されていった。
「佐々木さん?渚を一体どうしようと....?」
達也が佐々木さんに尋ねると、佐々木さんは悪魔のような笑みを浮かべて答える。
「久里山さんって男の頃から着崩したりしないじゃない?今はあんなに可愛いのにかわいい格好もしない!ワイシャツも全部閉める、リボンもきっちり。スカートも折らない。」
「あー、まぁあいつは根が真面目だからな。」
「可愛く思われたいっていうのは全ての女の子が共通で思ってることなの!!どんなに真面目でもその根本が変わることはない!!understand!?」
「お、おう」
佐々木さんの勢いに押されてそう答える達也に佐々木さんが畳み掛ける。
「だから、今回は久里山さんを着飾らせて今以上に可愛くなってもらいます!!可愛い衣装を着て恥ずかしがっている久里山さん.....イイ!!最高!!」
「渚の恥じらい....??」
達也は想像してしまった。
可愛い洋服を着た渚が顔を真っ赤にしてこう話すのだ。
『ど、どう...かな?僕...似合ってるかな...?』
「グハァ!!!」
「篠原くん!?」
血を吐いて膝から崩れ落ちた達也に佐々木さんが支える。
「...不覚にもキュンとしてしまった...!!!」
元男の幼馴染に感じてしまった胸のときめきを抑えるために胸に手を置く達也は、荒く息を吐きながら佐々木さんに目を向ける。
「全面的に協力する。俺にできることがあったらなんでも言ってくれ。」
「そうこなくっちゃ!!」
そんな話をしているうちに更衣スペースから声が聞こえてきた。
「(さぁ!久里山さんに着替えてもらうのはこの衣装だよ!)」
「(え...調理担当は動きやすい服って...)」
「(これは本場で調理する人が着ることもあるから、動きやすいし落ち着いた服なんだよ?)」
「(え、そうなの?...こんなにヒラヒラしてるのに?)」
「(この服は夜に激しい運動をするときにも使われる人気の服なんだよ。どんな体勢になっても身体が動かしにくくなることなんてないんだ!)」
「(このヒラヒラで激しく運動できるの!?どんな体勢になってもって...そんなに動きやすいんだ...)」
「おい、奴らは渚になにを吹き込んでるんだ。」
「ありのままを伝えてるだけでしょ」
達也の真顔の問いかけに佐々木さんは明後日の方向を向いてそう答えた。
「(さぁ久里山さん!早速着てみて!!)」
「(着替えるから出てくれないかな...?)」
「(着替え方わかんないでしょ?教えてあげるから早く!!)」
「(わ、わかったよ......)」
ゴソゴソと服を脱ぐ音が聞こえた達也はそっと耳を塞ぎ、窓の外へと視線を移した。良い天気だなぁ。
ちなみに他のクラスメイトの男子はチラチラと更衣スペースに視線を送っていた。
「(これはガーターベルトだね。こうやって...)」
「(ひゃ!!ちょっと、そこは....!!)」
「(いやはや、なんと鍛え抜かれたボディ...胸はあんまりだけど、スラッとしててすべすべでいつまでも触っていたい...)」
「(もう!着替えてるんだから邪魔しないで!!)」
「あれ?なんか人多くない?」
買い出しから戻ってきた香織を含むクラスメイトは、人口密度の高い教室に少し頭をひねる。
「どうして他クラスの人までいるの?サボリ?」
「あぁ...それは多分...」
「できた!!!」
更衣スペースのカーテンがサッと開けられ、その中から姿を現したのは...
「あの.......どう...かな....?」
顔を赤くしスカートの裾を握りしめるメイド姿の渚だった。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
「うわ!!なに!?」
鼓膜が吹き飛ぶほどの歓声が教室の壁を越え、校庭にまで響き渡った。その勢いで突風が吹いたかのようにカーテンが激しく揺れる。
突風がおさまった教室で渚が見たのは、鼻血を流して倒れる男子だった。
「えぇ....?なにこの状況?」
渚は倒れる男子から視線を外すと、立ち尽くす達也と香織に顔を向けた。
二人して口をぱっかり開けて渚に視線が釘付けだ。
「どう?似合ってる?」
渚は二人の目の前でくるりと回転し上目遣いで首を傾げた。
「「.......ぐふ...」」
「あれ?血を吐いてる!?おーい!!」
目の前で膝から崩れ落ちた二人に駆け寄ると、その肩を揺らす。
至福の極みのような表情で昇天する二人に慌てていると
「お!渚かわいいじゃない!!」
「え...お姉ちゃん!!??なんでここに!?」
教室のドアから顔を覗かせた亜紀の姿に驚く渚。
「久里山さんのお姉ちゃん!?」
「え、すごい美人...!!」
「惚れた」
「服がすごくおしゃれ....」
「どうしよう、彼氏よりかっこいい...」
クラスメイトが口々に亜紀の賞賛を口にしていると、廊下がさらに騒がしくなる。
「久里山先輩!きてたんですね!!」
「よかったら今日一緒にご飯でもどうですか!?」
「俺と付き合ってください!!」
亜紀と通学期間が被っていた現3年生がワラワラと集まってきた。
亜紀はそんな彼らに手を振り、「野暮用があったんだ」と話す。
「渚、その服似合ってんじゃん。今度家でも着てよ。」
「えぇ!?いやだよ!恥ずかしいもん...」
裾を抑えてモジモジする渚に亜紀も鼻の頭を指でつまむ。
「....150点」
「え?」
「なんでもない。それじゃあ行くね。」
「え?もう帰るの?」
あまりにも早い退場に渚は惜しそうに言いすがる。
そんな渚に亜紀は優しく微笑むと、「違うよ」つぶやいた。
「校長に呼ばれてきただけだからね。あといくつか気になることもあったし。校長の用事が終わったらまた来るよ」
「ん、わかった!」
渚の返事を聞いた亜紀はそのまま教室を出ていった。
亜紀が教室をでた瞬間、クラスメイトの女子がすごい形相で渚に詰め寄ってきた。
「久里山さんのお姉さんってモデルか何かやってるの?あんなに脚も長くて綺麗で...」
「...いや、特になにもしてないと思うよ?スカウトされたことはあるみたいだけど断ってたみたいだし。」
渚の返答にもったいなーい!!という息を合わせたような声が上がる。そしてちょうど良いタイミングで達也が目を覚ました。
「あ、達也。おは...」
「久里山さん。ちょっとっ...」
「??」
佐々木さんに耳打ちされた渚は少し怪訝な顔をした。
「え、そんなんで達也が喜ぶわけないじゃん。本物がいるんだし。」
「良いから良いから!!やってみて!」
「えぇ...良いけどさ...」
こうして渚は目を覚ました達也の前に膝を下ろす。
「あ、あぁ、渚。俺はなんで...」
「大丈夫?お兄ちゃん?(超絶ロリボイス)」
「スゥ....」
「え!?達也ぁ!!!!????」
翌日の文化祭に向けて準備は続く。
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校長室から出た亜紀が昇降口に向けて歩いている。
そんな亜紀がふと足を止めた。
「私ってさぁ、手加減ってあまり好きじゃないんだよね。」
そういうと亜紀はゆっくりと身体ごと後ろに振り返り、一点を見つめる。
「今ならまだ全員腕を折る程度で済ませてあげる。」
そう言って少し殺気を向けるとなにもない空間が揺らぎ、そこに姿を現したのはクルルだった。
「君は...なるほど、彼女の血縁か」
「あなたは何者?こんなに簡単に見破るなんて。」
誰にも見破られたことなかったのに、というクルルに亜紀はため息をつく。
「『神隠し』は自分以外の他を隠すことで真価を発揮する術だ。君程度の熟練度じゃ私には簡単に見破れるよ。精霊王の娘さん?」
「!!なぜそれを知っている!?」
「さぁ、なんででしょう?」
クルルの質問に亜紀はわざとはぐらかす。クルルはギリっと歯軋りをすると手に魔力を集中する。
「魔法を使うのは構わないけど、それを私に向けて放った瞬間、君の一生は終わるよ?」
「っ...!!」
亜紀から向けられる視線の中に濃密な殺意が織り込まれているのを感じたクルルは冷や汗を垂らし、手に集めた魔力を霧散させる。
「忠告しておく、他の二人にもね。」
そう言って亜紀はクルルの顔を見た後、窓の外にもちらっと視線を向けた。
「引きどころを見誤ると、失くなるのは自分の命だけじゃないんだ。」
そう言うと亜紀は廊下を歩いてクルルの視界から去っていった。
亜紀の姿が見えなくなったところで、緊張の糸が切れたクルルは膝から崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
「クルル、大丈夫?」
へたり込むクルルのそばにニーナが駆け寄る。
「はは、しばらく立てそうにないや。」
弱々しく微笑むクルルの頭をニーナが撫でる。
「むしろあんな空気の中で立っていられたことが奇跡だよ。俺なんかマジで逃げ出したくなったもん。」
「私も。」
ルークとニーナの言葉にクルルは安心したように息を吐くが、頭の中はぐるぐると回っていた。
クルルの正体を見破られ、術の名前すら知っていたような口振り。
そして最初に口にしていた「彼女の血縁」という言葉。
まるで彼女らを生み出した人物について知っているような口振りだった。
「何者なんだ、彼女は...」
クルルのつぶやきは、静かに消えていった。




