準備中編?
お待たせしました。
新年度が始まりますね!
体調を崩さないように頑張ります!
佐々木さんに指名されて料理担当になった渚は、エプロンをつけて調理室へと来ていた。
「さて、料理担当を任された訳だけど...」
渚は目の前にいる同じ料理担当のクラスメイトに顔を向ける。
佐々木さんは手元の紙を見ながら話し始めた。
「メニューは飲み物を含めて5つ。ケーキ、サンドウィッチ、オムライス、コーヒー、紅茶。あとミルクティーって案が出てたけど、紅茶にミルクを入れるのとは違うの?」
「いや、ロイヤルミルクティーならそれでよかったはずだ。親父は茶葉多めの紅茶に温めた牛乳とか豆乳入れてたぞ。」
耳にピアスをつけているヤンキーっぽいクラスメイトの茶峨くんがそう話すと、渚たちの視線が彼に集中した。
「親父ってことは、茶峨くんのご実家カフェか何かやってるの?」
渚の質問にヤンキー風の彼が頬を掻く。
「駅近くにあるカフェが俺んちなんだ。店を継ぐために修行してたからコーヒーや紅茶も淹れられる、ついでに言うならサンドウィッチも作れるぞ?オムライスはまだやらせて貰えないけど。」
「...逸材」
渚は思わぬ収穫に目を輝かせた。下手をすれば全てのメニューを自分が指導する必要があったからだ。
そこでもう1人の調理担当の男子、賀塔くんも言葉を発する。
「俺の家ケーキ屋だから作り方知ってるぜ?ショートケーキが一番得意だ。」
「な!?ここにも逸材が!?」
渚が顔を綻ばせると、同じく調理担当の女の子達が賀塔くんに駆け寄る。
「賀塔くんのおうちってケーキ屋さんだったの!?なんて言うお店!?」
「え、あぁ。駅前の【デリー・シュガー】って店なんだけど」
「【デリー・シュガー】!?この前テレビに取り上げられてたあそこだよね!?すごく美味しかったから覚えてるよ!」
「ほんとか!?父さんに伝えたら喜ぶな!」
スイーツの話題で盛り上がる女子と賀塔くんを横目に佐々木さんがそれぞれに指示を出す。
「それじゃあ賀塔くんは試食用にショートケーキを1回作ってもらってもいい?文化祭だから小さめに切る予定だから四角いほうがいいかも。」
「わかった!腕がなるな!」
「茶峨くんはコーヒーと紅茶、ミルクティーを入れてもらえる?材料は好みのものを使っていいから」
「おう、サンドウィッチはいいのか?」
「食事は久里山さんにおねがいするよ。茶嵯くんは飲み物の入れ方を教えなきゃいけないから大変だと思うし。」
「そうか、わかった。」
そう言うと茶峨くんと賀塔くんはそれぞれ調理に入る。佐々木さんは渚に向き直った。
「久里山さんはサンドウィッチとオムライスをお願い!試食を作ってもらってから他の調理担当に作り方を教えてもらうことになるから。難しくないやつがいいかも」
「わかった!」
渚はそう言って他の二人と同様調理に入った。
作るサンドウィッチの種類は2種類、BLTサンドとたまごサンドだ。
作り方は簡単。たまごサラダを作りハムと一緒に辛子マヨネーズを塗った食パンに挟む。その後で形が崩れないようサランラップに包み、冷蔵庫にしまっておく。後で取り出して斜めに切れば完成だ。
次に焼いたベーコン、ちぎったレタス、スライスしたトマト、おまけでスライスチーズを準備し、辛子マヨネーズを塗った食パンに挟む。その後の工程は先ほどと同様にすればBLTサンドの完成だ。
オムライスの作り方は誰でも作れるように簡単に。
みじん切りした玉ねぎと冷凍のミックスベジタブル、そして細かく刻んだソーセージをオリーブオイルで炒める。その後お米を入れ、塩胡椒で炒める。最後にケチャップを入れればオムライスの中身の完成だ。
フライパンに油を慣らしガスコンロに火をつけ、温まったフライパンにかき混ぜた卵を流し込む。
最近見かけることが多いのが、中身とろとろのオムレツをケチャップライスの上で包丁を入れる動画。
とろとろの卵がケチャップライスの上に広がる様子はとても食欲をそそるのだ。
渚は何回かこの「ふわトロオムライス」を作ったことはあるのだが、初心者にいきなりこれを作れと言うのは無理がある。
だから渚は誰でも作れそうなやり方で作ることにした。
フライパンに広げた卵液がある程度固まったら卵の中心に茶碗一杯分のケチャップライスをのせ、周りの卵を徐々に被せていく。
見栄えや形はあまり良くないかもしれないが、これぞ文化祭というものだ。学生の文化祭にクオリティを求めてはいけない。
ケチャップライスを卵で包んだら、お皿の上にひっくり返す。最後にケチャップをかければ完成だ。
「久里山さんの手際良すぎじゃない?」
「お母さんよりも料理早かったよ?」
そばで渚の料理を眺めていた調理担当の女子たちが口々に渚を賞賛する。
作ったサンドウィッチとオムライスを持って試食待ちのクラスメイトが待つ机へと向かった。
「お待たせ。」
「お、早いな。俺も紅茶とコーヒーは準備できたぞ。」
渚が机に料理を乗せると茶峨くんもちょうど準備ができたようで、ポットごと料理ののる机に持ってきた。
「うわぁ...良い香り...!!」
「そ、そうか?よかった...」
渚の賞賛に茶峨くんも照れながら頬を掻く。
「お、二人とも完成したのか。」
エプロンをつけた賀塔くんが手を拭きながらこちらに歩いてくる。
「お疲れ、ケーキの進捗はどう?」
「生地を今オーブンで焼いてるところだ。焼けるまで後10分くらい、冷やしとかもあるから食べるのは3時くらい、ちょうどおやつの時間じゃないか?」
賀塔くんの言葉にスイーツ好きの女子たちが目を輝かせた。
「学校でケーキが食べられるなんて...!!」
「紅茶もセットだよ!!」
「しかもタダ...!!」
「調理担当、最高!!」
実はこの試食に参加できるのは調理担当のみなので、担当決めの時はちょっとした戦争が起きていたのはまた別の話。
渚の作ったサンドウィッチとオムライスに、茶峨くんの淹れた紅茶とコーヒーで試食会が始まった。
「!!美味しい!!」
「え!?コンビニのサンドウィッチより美味しい!!」
「オムライスもお店の食べてるみたい!」
「紅茶の香りが口一杯に広がる...!!」
「ティーバッグで淹れたのとこんなに違うんだ...!!」
「コーヒーってこんなに美味しかったんだ...!!」
「香りだけで大人になった気分になれるな...」
「ミルクティーにしても美味しいな....」
口々に料理の賞賛が飛び交う中、渚は紅茶を一口飲んだ。
「...この紅茶、どうやって淹れたの?僕こんなに美味しく淹れられたことないよ?」
「うーん、そんなに凝ったことはしてないんだが...てか久里山さんのオムライスもめっちゃうまいな!!俺んちのオムライスなんか比にならないくらいうまいぞ」
「そう?それはよかった!」
そんな会話をしていると、匂いを嗅ぎつけた接客兼内装担当の生徒が調理室に顔を覗かせた。
「くそぅ!篠原たちが毎日食べてる久里山さんの料理を!!」
「羨ましいぞお前ら!!」
「俺にも寄越せ!!」
「残念だったな。文化祭当日まで待つんだぞ。」
「「「くそがぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」」」
全てを食べ終わった後、佐々木さんはまた話し始める。
「ケーキはまだ食べてないけど、料理と飲み物はこれで良いと思うんだ。文化祭は2日間だから食事が1日200食、飲み物が1日300杯として2日でそれぞれ400食と600杯かな。実行委員会の試食の時にはまた作ってもらう必要があるから、久里山さん、茶峨くん、賀塔くんもよろしくね」
「わかった」
「おう」
「任せてくれ」
食事を出すクラスはあらかじめ『何を』『どれくらい』出すのか実行委員会に提出する必要があり、さらに文化祭の直前には実行委員会に試食をしてもらうことになっている。
「今回作ってもらったものを出品する状態で出してくれれば大丈夫だから。サンドウィッチはたまごサンドとBLTサンドを一切れずつで一皿、オムライスはもう少し小さめで良いかも。コーヒーと紅茶はカップ一杯分で良いかな。」
「「了解」」
「ケーキは食べてから決めてもらう感じでいいか?」
「そうだね、一つ当たりの大きさがわかってから決めたほうがいいかも。」
「わかった。じゃあ調理に戻るな。」
そういって佐々木さんと会話を終えた賀塔くんは調理に戻った。そこに渚がついていく。
「手伝うよ。何しようか?」
「お、悪いな。じゃあ生クリームをホイップ上になるまで混ぜてくれるか?できるだけきめ細かくな。」
「おっけい」
「それとサンドウィッチ美味かった。紅茶もな」
「ありがと」「サンキュ」
調理担当3人は良く気が合いそうだった。
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接客担当の香織と達也はクラス内の衣装会議に参加していた。
「やっぱり王道のメイド服とかいいよね。」
「ぬいぐるみを着ても面白そうじゃない?」
「バニーガールなんか良いと思うぞ!」
「じゃあお前が着ろよ、写真撮ってやるから。」
「俺を殺す気か!??社会的に!!」
そんな感じで会議をしているため、思った以上に進まない。
達也はおもむろに香織に尋ねる。
「なぁ香織、渚が着るとしたら何が似合うと思」
「渚ちゃんならなんでも似合うに決まってるでしょ。あんなに可愛いんだから。」
「おい、わざとだろ。被せてくんなw」
香織の食い気味の返答に達也は笑いながら衣装を選んでいると、不意に教室のドアが開いた。
「....あれ」
「ちょっとニナ、ノックくらいしなさい。」
教室に顔を覗かせたのは2年のニーナ、クルル、ルークの3人。
「...あの子はどこ?」
「教室にはいないみたいだね。幼馴染くんはいるみたいだけど」
「...おうち誘おうと思ったのに...」
「今の時期に誘うのは迷惑よ。また別の日にしなさい。」
「...むぅ」
そう言ってドアを閉めようとした瞬間、ニナの姿が消えた。そして
ガシャン!!
教室の窓ガラスが割れ、破片のそばでニナが何かを握り潰していた。
「またこいつか。忌々しい...」
手の中の物体を睨みつけながらニナは今度こそドアから教室を出て行った。
ガラスを放置して。
「「「「「「..........」」」」」」
「....とりあえず先生に言って直してもらおうか。」
「うん.....」
教室内は微妙な空気に包まれた。
「またいたのか?」
「うん、殺しておいた。」
ニナはそう言って手のひらを広げる。
そこには親指サイズの蝙蝠のような真っ黒の生き物だったものがいた。
「こっちにまで干渉してきていたのか...体育祭にも来ていたしな。彼女が撃退したけど。」
「文化祭も対策しておいたほうがよさそうだね。」
「俺らがいればなんとかなるだろうが、念には念を入れておくか。」
そう話して彼らは自分たちの教室へと戻っていったのだった。




