弟子との出会い
ゲームしてます。
???年 ー●●ー
「....こんなーーーためにーーーを犠牲にしーーーいけーーーんて...」
目の前の女性は涙を流しながら、彼女の服の裾を握りしめる。
「気にしなーーで、この中でーーールギーに余裕ーーーのはボーーし、君たちーーいに多種族を管ーーていーーーでもなーーから。」
彼女は女性の頭を撫でて慰めていると、背後の男性もこう話した。
「でも彼らーーーは悲しむぞ。『ーー者』でありーーーーーお前がーーしたとなれば。」
「彼らはーーーーを持っているから、ーーーくても大丈ーーさ。だから...二人とも、そんなに泣かないでよ。」
「でも、魂までもーーーーに変換ーーては、もうーーーることーーないではないですか!!!」
女性は彼女に抱きつき、盛大に泣きじゃくる。
男性も必死に涙を堪え、拳に血が滲むくらいに握りしめている。
彼女は2人を抱きしめ、こう言い残す。
「いつかまた、3人でお茶をしよう。生まれ変わったら、また会おうね。」
彼女自身も一筋の涙をこぼし、その場は光へと包まれた。
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「ん...?」
渚が目を覚ますと、そこはいつもの自分の部屋。
身体を起こすと、腕に水滴が落ちてきた。
「..んん..?」
自分の顔に手をやり、
「なんで泣いてるんだろう...」
そういえば、なんだかとても悲しい夢を見ていた気がするんだけど、思い出せない。
とても大事なことだと思うのだけど、靄がかかったように何も思い出せない。
「...まぁ思い出せないならしょうがない。」
そうして気持ちを切り替えると、渚は朝の支度を始めるのだった。
「さぁ、というわけでログインしたわけなんですが...」
毎度おなじみ、噴水の前です。
今日は街の中を色々見て回ろうかと思います。
近々新しい都市が開放されるらしく、それに向けてレベル上げをしているプレイヤーも多いのだとか。
ナギも新都市解放後はすぐさま行こうと思っているので、それまでに今の街を一通り回ってしまおうと考えたのだ。
達也と香織も誘ったところ、珍しいことに今日はログインできないかもしれないとのこと。
昨晩、母親から連絡があり、今日中に宿題を終わらせるよう通告があったそうなのだ。
まだ夏休みは中盤だが、早めにやっておくに越したことはない。
ちなみに僕はもう終わってます。えへん!
というわけで、まずはNPCが経営する防具、武器のお店へ。
皮や鉄の鎧、剣や槍など数多くの武器が立ち並んでおり、値段も手が出しやすく設定されている。
しかし、やはり量産品のため質はいいとはいえない。
すぐ横にプレイヤー作の防具店があったので、そこに入ってみる。
NPCの店と比べても、いささか武器や防具の質が高いように感じる。
その上デザインも凝っているので、おしゃれをしたい場合にはうってつけだろう。
しかし、値段設定が高い。
質も高い上にデザインも凝っているので値段が高いのも納得ではあるのだが、ナギはこれといった興味は湧かなかった。
今自分が所持している武器よりも質の劣る武器や防具を買うことの意味がないからだ。
ナギの持つ【妖刀“穿血刃“】や、現在装備している【赫血】がどれほど優れた装備なのかがよくわかる。
てなわけで防具店に行く必要がなくなったので、回復薬を販売するゲーム版薬局へと入る。
以前、赤熊と戦った時は初級回復薬にとても助けられた。
今回は初級回復薬だけでなく、中級回復薬も大量に購入しておく。
今のレベルでは初級回復薬では間に合わない可能性があるからだ。
そしてナギは店を出ると、そのまま街をでる。
せっかくログインしたのだ、新しいモンスターを探してみよう。
そう考えてナギは歩き始めた。
街周辺は草原が広がっているが、角ウサギ等のモンスターは幾度となく狩ってきた。
そろそろ新しいのが出てきてもいい頃だが...と考えていると、
「お!人型モンスターがいたぜ!」
「これは貴重だ!狩って素材をゲットしてやろう!」
「どんな素材が落ちるのかしら...ワクワクするわね。」
そう話している複数人のプレイヤーの声が聞こえた。
へぇ、人型モンスターか。
僕もそういえば遭遇したことはないなぁ。
いつか僕も遭遇できるといいなぁ...と考えて通り過ぎる。
「や、やめてよ...わたしはモンスターじゃない!」
かのプレイヤーたちの方からそんな声が聞こえた。
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「ん?」
ナギが振り返ると、先ほどのプレイヤーの集団に囲まれるように1人の女の子がいた。
身体は小柄で、身長は見た感じ120cmほどしかない。
腰まで伸びた髪は真っ黒で、毛先に行くにつれて赤くなっている。
毛先を血に漬けたようなその髪は、どこか威圧感を感じる。
しかし、人型モンスターと間違えられる要素はそこではなかった。
両側頭部から生やした角は天に向かって15cm程度伸びており、閉じた口からは他より数cm長い牙が顔を覗かせている。
姿だけを見た時はまるで鬼のように思えた。
しかし服装は初心者装備であり、背中には初心者装備である木製の棍棒を背負っていた。
装備を見ればプレイヤーだと分かりそうなものだが...?
「じゃあお前はなんの種族だってんだよ!?」
「そんな姿の種族は選択肢にはなかったぞ?」
男のプレイヤーたちが詰め寄ると、その娘はジリジリと下がりながら答える。
「だって...特異種族ってなってたから...」
そう答えた瞬間、周りのプレイヤーは大きく笑い出した。
「そんな種族はねぇよ!!わかったらとっとと素材落とせやぁ!!!」
「きゃあ!」
そういって剣を振り下ろすプレイヤーと頭を抱えてうずくまる女の子。
...これはいただけないな。
そう考えたナギは瞬時に間合いをつめ、男プレイヤーと女の子の間に入り片手で剣を受け止めた。
「んん!?誰だテメェ!!?」
「...彼女はプレイヤーだっていってるじゃんか。初心者装備を着ているのになんで襲いかかるんです?」
そういうと男はさらに剣に力を込め、大声で吠えた。
「うるせえ!そんな角が生えてる時点でプレイヤーなわけねぇだろ!いいからそこを退けぇ!!」
そういって話を聞かずさらに剣に力を込める男にため息をつくと、ナギは剣先を真横へずらし、足を掛ける。
「!!」
バランスを崩し倒れかかった男の手から剣を抜き去り地面に突き立てると、男はそのまま地面へと倒れ込んだ。
その間にナギは女の子を横抱きにし、跳躍して距離を取る。
「っく!お前はあれだろ!!俺たちが先に見つけたモンスターを横取りしようって魂胆だろ!!」
そばにいた弓を持ったプレイヤーがそう声を張り上げる。周りも便乗してそうだそうだと声をあげており、ナギはため息しか出ない。
「だから彼女はプレイヤーだって言ってたのに...」
「うるせえ!お前ら!やっちまえ!!!」
そういってプレイヤーたちが襲いかかってきたのでその場で戦闘が始まった。
「お姉さん...?」
「大丈夫、じっとしてて」
ナギはまず振り回される剣をかわし、剣を蹴りで弾き飛ばす。飛んでくる魔法攻撃を拳で打ち消し、プレイヤーを2人まとめて地面へ叩きつける。
そのプレイヤーの顔を踏み台として高く飛び上がり即座に〔龍の翼〕を展開し、
「〔龍魔法〕“炎“!!」
地面にいる敵プレイヤーへ向けてそれを放つ。
「ギィヤァァァァ!!!!」
「おい!あの姿...まさか!」
「イベント5位のやつか!?」
ナギの放った“炎“に地面は覆い尽くされ、そこにいたプレイヤー達は全員HPを全損して光となって消えていった。
「勢いの割に大したことなかったなぁ。」
そうしてナギは脇に女の子を抱えたまま、空を飛んでフィールドを移動した。
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川辺のフィールドに降り立ち、女の子を下ろすと彼女はペコリと頭を下げる。
「ありがとうございました。助けていただいて...」
「いいって。あれはあのプレイヤー達が全面的に悪い。」
ナギは女の子の頭を撫でながら答える。
「僕はナギ。君はなんていうの?」
「あ、はい!わしはカエデっていいます。よろしくお願いします!」
カエデはニコッとしてお辞儀をした。
とても礼儀正しい子だ。見た目からして小学生っぽいのにしっかり敬語が使えてる。
「それにしても、その角よくできてるねぇ...」
「は、はい!でもナギさんの翼もすごいと思います!」
「そういえば、僕も楓ちゃんの種族がわからないんだよね...特異種族って言ってたよね?」
そう聞くと、カエデはビクッと身体を揺らす。
「は、はい。」
「あぁ、僕も特異種族だから。そういうのがあるのはわかってるから大丈夫だよ。ちなみに僕は【龍種】だから。」
「りゅ、龍!?そんな種族があったんですか!?」
カエデは目を丸くし興奮していたが、なんとか落ち着いたタイミングで話し始める。
「わたしの種族は【鬼人種】と言うらしいです。」
「【鬼人種】?」
カエデの説明はこうだ。
聞くところによると、【鬼人種】とは近接戦闘に超特化した種族であり、魔法系スキルを取得できない代わりに、物理攻撃力が超絶上昇、物理防御力、魔法防御力が上昇という超近接特化型種族なのだ。
種族固有スキルとして〔鬼剛力〕〔金剛〕〔怨魂〕〔羅生門〕〔百鬼夜行〕〔閻魔〕があるそうだ。
これらのスキルの説明書きを読ませてもらうと、まぁ凄まじかった。
スキルだけなら当初のナギを越すんじゃないかと思うほど。
しかし、種族固有スキルの発動条件がなぁ。なかなかに困難だ。
自動発動のものもあれば、相手の体力残量によって発動可能なもの、プレイヤーのレベルによって未開放のものがあった。最後のものはナギの〔龍化〕と同じようなものだ。
最初の時は自分に知識が全くないせいでスキルの異常さに気がつかなかったが、今となってはよくわかる。
特異種族はやばい。とんでもなくやばい。
「でも昨日始めたばっかりなので、何にもわからなくて...ナギさん!よければわたしの師匠になってくれませんか!?」
目の前で頭を下げるカエデの姿を見て、渚の脳裏には自分が道場に最初に行った時のことを思い出す。
その時の自分とカエデの姿を重ねる。
「わかった。僕ができる限りのことを教えるよ」
「ありがとうございます!!わたし、頑張ります!!」
「よし!行こう!!」
「はい!師匠!!」
そう言って固く握手をした2人。
渚に初めて弟子ができた瞬間だった。
短編を投稿しました。
もしよければ読んでみてください!
https://ncode.syosetu.com/n0620hf/




