最強のプレイヤー
この話から第2章に入ります。
VRMMOのゲームにおいてやりたいことの一つです。
私もフルダイブ型のVRMMOやりたいなぁ...
日が容赦なく照りつけ、蝉がせわしなく鳴き続ける今日この頃。
カツカツとヒールの音を響かせ、漆黒の長髪を靡かせ歩くその姿に、周囲の人々は幾度となく振り返る。
高層ビルが無数にならび陽炎が立ち昇るコンクリートの道路にて、彼女は額に浮かぶ汗をハンカチで拭った。
ようやく大学も最後の講義を終え、夏季休暇に入った。
正直なことを言うと講義が大変というわけでもない。
テストもすでに満点を取れるほど理解しているし、大学の方針でテストで点数を取れれば自由にして良いと言われている。そのためわざわざ講義に出る必要もない。
しかし教授が、
「単位が欲しかったら全講義に出席しなさい!出なければ単位を上げません!!」
と言っていた。
単位をもらう為に授業に出ざるを得なかったということである。
「なんでこの授業取っちゃったかなぁ...」
取る必要のなかった授業というのはなんとも退屈なものか。
来年度まで我慢しないと。
しかし、それもとりあえずは終わりだ。
夏季休暇はやることがたくさんある。
まずは実家にいる弟と妹に会いに行こう。
両親は今海外に行ってしまっているから会うことはできない。そのため、家事は弟と妹で回しているのだそうだ。
せめて夏季休暇の最中はちょくちょく会いに行ってあげよう。
弟と妹はどんな成長しているのだろうか。
できれば健やかに可愛く成長していて欲しいものだ。
あ、弟たちのことを考えたらうずうずしてきた。
あのかわいい顔をぐりぐり撫で回して、ぷにぷにした頬を両手でぶにっとしたい!
実家に帰ったら最初にやることにしよう。
次にやりたいことはゲームだ。
ようやくサービス開始された『Liberal Online』。
大学も休みに入っているので、一日中プレイできる。
βテスターとして最後にプレイしてから、この日をずうっと待ち侘びていました。
そういえば、βテスターの中に知り合いの子がいたな、名前は...忘れた。
まぁ実家に戻ればわかるだろう。弟と仲が良いらしいし。
弟や妹もこのゲームをやっているのだろうか。
妹はやっているのだろう。あの娘はゲームが大好きだったからな。
運動はあまり得意ではなかったからやるとしたら魔法主体だろう。
弟は昔からゲームの類に興味を示していなかったから、おそらくやっていないんだろうな。
とても残念だが、興味がないものは仕方がない。
とりあえず、一般プレイヤーに遅れを取らないようにレベル上げを頑張んなきゃな。
私は同じβテスターの中で最強と呼ばれていた。
自慢するわけではないが、私は結構強い。
地道にプレイしていたらいつに間にか最強になっていただけなのだが。
サービス開始してから2日、ログインが遅れていたがβテストからキャラの引き継ぎができるので、レベルはまだ抜かされていないと思う。
多分だが、数週間後くらいにイベントがあるはずだ。
そこでまた名を知らしめることにする。
私の使うキャラ、「アリエル」を最強としてまたプレイヤー全員に認知させなければ。
そんなことを考えながら彼女、
【久里山 亜紀】は家路を急ぐのだった。
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あれから一週間が経ったある日のこと。
「ねぇ、達也ってβテストの時すごく強いプレイヤーだったんだよね?」
渚は買い物袋をぶら下げ、帰路を歩きながら達也に問いかけた。
「ん?まぁ自慢じゃないが、そこそこ強かったと思うぞ?負けたこと一回しかないし」
一回かぁ..香織と戦ったのかな?
知り合いのβテスターが達也と香織しかいないので香織の方が強いのかと思ったが、その考えを達也は否定する。
「香織じゃないぞ。あいつとは戦ったことがないんだよ。機会がなくてな。負けたのは別のやつだ。」
渚はその言葉を聞いて少々驚いた。
周りのプレイヤーと比較した場合、達也の動きは結構化け物レベルなのだ。
パワーやスピード、そして技術は一線を画している。
一度手合わせしてみたが、かなりの実力者だった。
ゲームの中とは思えないほど動きが洗練されていた。
普通の人は反応すらできないだろう。
これがゲームを極めたものの力か。
恐ろしや。
「相手はすごく強かったの?」
渚は達也を負かしたその相手のことがとても気になり、詳しく聞こうとした。
しかし、達也は歯切れが悪そうにしている。
「いや、、、実は勝負にならなかったんだよ。相手が強すぎて。」
「...え?」
「惨敗だったんだ、気づいた時には負けてた。」
あの達也が負けるなんて....
その相手は、ゲーム内で人外の動きをしていた達也を大きく上回るということだ。
渚は額に汗を浮かべた。
「どんなプレイスタイルだったの?」
渚は額の汗をハンカチで拭いながら達也に尋ねた。
「そうだなぁ、動きが変則的だったなぁ。」
「変則的?」
「あぁ、こちらの攻撃は全て受け流されるというか...すり抜けているような感じだ。スピードもパワーも俺と大差ないはずなんだが、おそらく奴の技術がそれら全てを底上げしているんだろう。周りからは【死神】と呼ばれている。」
死神かぁ...二つ名っていうものかな。
達也と香織にもありそうだな、と考えたところで「そういえば、」と達也は言葉を挟むと
「なんとなく渚の戦い方に似てると思ったな。」
「僕に?」
渚は達也の言葉に少々驚いた。
渚の戦い方は結構特殊なのだ。拳や蹴り、投げや受け流しなど武術を用いたものだ。
それに加えて様々な武器をプロ顔負けな技量で操る。
武器の扱いにプロ顔負けという表現をするのもなんか変な話だけれど。
つまり、渚のプレイスタイルも変則的なのである。
「あいつは今のところ大鎌しか武器を使っていないが、鎌なんて扱いにくい武器をやすやすと自在に振り回すなんて到底できるものではないからな。とんでもなく強いぞ。」
渚も覚えておくといい。というと達也は顔を上げ、先ほどから流れ続ける汗をタオルで拭った。
「それにしても暑いな、汗が止まらない。」
「ごめんね、重いジュースをいくつも持ってもらっちゃって。」
達也の手にはパンパンに膨らんだ2つの買い物袋がぶら下がっている。
中身はまだ未開封の2Lペットボトル、紙パックの牛乳、そのほかにも根菜を中心とした野菜が入っている。
渚も買い物袋を持っているが、中身はお肉やお菓子、パンといったものだ。
渚は最初重い方を持とうとしたのだが、達也に全力で阻止された。
理由を尋ねると「俺の気分の問題」と言われた。解せん。
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「いやぁ、今日は助かったよ!ありがとう達也!」
「おう!気にするな。」
達也に買い物のお礼を言うと、渚はすぐさま昼食作りに取り掛かった。
昼食は冷やし中華を作る。
きゅうりは細切りに。トマトほどほどにカット、錦糸卵とスライスハムの細切りを丁寧に麺の上に盛り付ける。最後に大葉を刻んだものをふりかけ、冷やし中華のタレをかけたら完成だ。
一刻も早くログインをしたい達也と香織はすごい勢いで麺を啜っていた。
そんなに急ぐとむせるよ...あ、むせてる。
水を渡すと一気に飲み干していた。
「「ごちそうさま!!」」
皿を片付けてそそくさと部屋へ行こうとする達也と香織。
「あ!ちょっと待って!」
渚はそんな二人を呼び止める。二人はすぐに戻ってきた。
「実は二人にしのままからの言付けがあります。」
達也と香織は顔を見合わせ、頭上にはクエスチョンマークを浮かべている。
「“ゲームばっかしていないで課題を先に片付けなさい“とのことです。」
ぎくっとしたように二人の動きが止まった。
「まさかとは思うけど....まだ手をつけてないとか?」
渚は目を細めて二人を見る。
二人はあからさまに顔を背ける。
まぁまだ夏休みは一週間しか経っていないし手をつけていなくても何もおかしくはないのだが。
「皐月と紗良は毎日ログインする前にやっているみたいだよ?」
この二人はゲームにのめり込んでいるから、今年に限っては課題をギリギリまでやらないとかありそうだもんなぁ。
それを予想して僕に言付けを頼んだのだろうか。
まぁ概ね予想通りだった。
と言うわけで
「今日からはログイン前に最低一つは課題終わらせようね。」
「「お、鬼や...」」
「二人なら余裕でしょ?」
二人はすごく頭がいいんだから集中すればすぐに終わるでしょう?と思ってそういうと二人は項垂れてテーブルにて課題を始めた。
「...今日からは一緒にゲームやりたいから頑張ろう?」
「よし達也!早く終わらせて渚くんと一緒にゲームするよ!!」
「おう!香織も遅れんなよ!?」
「ガッテン承知!!」
二人に気合が入ったようだ。
二人も知っていることだが、近々イベントがあるからレベル上げをしたいらしいのだ。
上位入賞者は特別報酬があるらしいので、気合が入っているのだ。
先ほど話していた最強プレイヤーの人も出るんだろうな。
「そういえば達也、さっき話していたすごく強い人は名前はなんていうの?」
この世界における最強の名前くらいは知っておきたいと思い、渚は達也に尋ねた。
「ん?そうだな、やつの名前は...」
達也はそのプレイヤーの名前をこう答えた。
【死神】“アリエル“と。
次話はゲームやります。
お楽しみに。
 




