決着
憑き物が付いたクマのぬいぐるみが盗まれて数日。仕事から帰宅した俺は車の中でぼんやりと外を眺めていた。
あの日から俺は心に穴が空いたような気分を味わっている。
生活に支障をきたしていないのがせめてもの救いだが、なんと言っても寂しい。
だが、傍から見ればただのぬいぐるみだ。いつまでも落ち込んでいるわけにはいかん。
俺は自分に言い聞かせるように頭を振ると車を降りた。
「え?」
アスファルトに右足を着けた俺はフリーズした。
なんと足元にあのクマが転がっている。
「お前、戻ってきたのか!?」
驚いて拾い上げるとボロボロになってはいるが間違いなくあのクマだった。
「こんなになっちまって・・・ん?」
よく見ると破れた腹部から綿と一緒に何かはみ出ている。
引っ張り出してみるとクシャクシャになった一万円札だった。全部で五枚ある。
「取り返してくれたのか・・・ありがとな。」
俺は礼を言うとすぐに部屋に戻ると、クマを洗ってやり、慣れない裁縫で何度も指を刺しながらも破れた箇所を修復した。
その結果、元通りとまではいかないがクマを直すことには成功した。
しかし、以前のように部屋を小移動することはなくなった。
週末。俺はクマのお祓いを依頼しようとした神社を訪れていた。
「突然すみません。」
「いえいえ、構いませんよ。」
俺は穏やかに笑う神主に事情を話しクマを見せる。
「こちらにはもう何も憑いていませんね。」
「やはり、そうでしたか・・・」
薄々わかっていた。しかし、こうして事実を突きつけられた俺の目には涙が滲んでいる。
「・・・今度こそ供養をお願いします。」
俺は右手で涙を拭って申し出た。
「わかりました。手厚くご供養いたしましょう。」
神主は穏やかにそう言ってクマを受け取った。
こうして俺の元からクマは去った。こんな形での別れになるのは非常に残念だ。
神社での供養よって俺の中で決着がついたのか、今はクマのいない日常を問題なく送っている。
ちなみに空き巣の犯人は割と早い段階で捕まったと警察から連絡があった。
最後になるが、結局あのクマには何が憑いていたんだろうか・・・