第6話 戦闘訓練 羅掌組手 其の弐
倒れそうな体をギリギリまで脱力させて、地面すれすれになる。
その重力に準じてきた体を、左足を踏み出しそれを拒絶する。
全体重を一点に受ける左足の骨がミシミシミシと悲鳴を上げる。
その痛みを無視し、その踏み込んだ足で地面を蹴った。
ッドン!
地面を蹴って推進力を得た全身を開き右足を引く。
地面を蹴った体は桜葉さんの目の前まですぐ到達させる。
右足の『渾身』の一撃を桜葉さん目掛けて蹴るモーションをとる。
すると、桜葉さんは蹴りの軌道を読み手をクロスにした。
ピュン!
僕の渾身の一撃は桜葉さんの胴を捉えるでもなく、空を切る。
桜葉さんは受ける体勢に入っていって、驚いている。
(ここだ!)
その空を切った右足の遠心力を使い、体を捻る。
捻った体は横倒しになり、桜葉さんに背を向ける。
そこから、左足のかかとを桜葉さんの頭に落とす。
桜葉さんは空を切った足に気を取られ、僕の攻撃にすぐには気付けず、反応が遅れた。
けれど、流石にそれで終わるはずもなく、腕でガードされる。
その、踵落としを横に反らしていきながら、地面に右手を着き体を回転。
その勢いで右足の強襲を狙った。
この攻防で、僕の意識下には、僕と、桜葉さんだけになっていった。
何となくではあるが、感覚感覚が閉鎖されていくような気した。
今まで感じたことがないような。
時間が歪む。
以前、スポーツ選手かなんかの特集をTVでやっていたのを思い出す。
が、よく思い出せない。
「おい。よそ見していいのか?」
「おっと」
さっきから、桜葉さんの動きが手に取るようにわかる・・・訳ではないが。
感覚的に防戦一方だった最初よりも攻撃も出来るようになり、その時間歪みにも適応してきた。
・・・・始まってから、30分経ったあたりだろう。
「・・・・」
「・・・・」
二人が同時に動く。
二人の間合いは、零に等しい距離。
連打を食らわないように避けながら、こっちも仕掛ける。
打。回避を零距離で。
「ッ!」
桜葉さんの一打が入る。軽く体勢がよろけるが、勝機は今だ。
後ろによろけながら、足を払う、そんなのでは倒れるはずもなく、桜葉さんが振りかぶる。
ギリギリまで引き付けながら、桜葉さんの懐に入り、背負う。
「ぜいりゃぁぁ・・・・-----!」
「ッッッ!」
投げれそうなところで、急に力が抜ける。
けれど、動くなら!
背中に乗る桜葉さんを投げ飛ばさず、身体をずらしてズリ倒す。
ドンッ!
やった・・・!
けど・・・息が苦しい・・・
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「お前は途中から【ゾーン】に入っていた。極限状態になる能力だが、体力が大幅に削れる。丁度、全力疾走を続けていれば呼吸も早まるのと同じでな。そうやって長時間使い続ければ倒れるさ」
「・・・・疲れた」
「だろうな、とりあえず休憩だ」
「ほんとですか・・・・」
「案外早く終わったからな」
「もっと長いつもりとか・・・勘弁ですよ・・・」
「ま、結果オーライとするか」
「・・・はい」
「あんまり動くとまた倒れる。一回寝ておけばいいだろう」
「はい。おやすみなさい」
寝ろって言われても一向に眠くならない。
とりあえず、ストレッチ。
桜葉さんは、猟にいったきりまだ帰っていない。
ゾーンは、極限集中力を高める。だけど僕の場合は、時間が歪んで、呼吸が早まっていくデメリットも存在する。あんまり乱用できないな。
昼の後の訓練は、今までにすれば楽…であることを願うばかりだ。
今日も後1話わわわ!