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第9話 討伐できるか!?

ようやく更新できました。

 自分以外の誰かのために。とか、助けたい気持が強いときこそ、この剣の威力が強くなる。父はそういってた記憶がある。朧気だが、確かそうだった気がする。

 曖昧な記憶だから、定かではなかったけれども、そのようなことをロックは記憶していた。

「だけど、これ以上どう願えというんだ? 願って叶うなら、もう叶ってても、いいだろ!」

 ロックはぼやく。実際何度か繰り出す攻撃はその剛毛などに弾かれ、わずかにキズをつけた程度。ベヒーモスの強靱な肉体を貫くにはまだ足りない。

 ベヒーモスの攻撃をかわしながら、ロックは懐に潜り込むと突きの一撃。

 が、わずかに傷つけたのみ。煩わしそうに振り払う腕はロックの左のショルダーガードを砕いた。

 ロックは間合いを取りながら一旦後退。

「ショルダーガードが粉々。何という攻撃力」

 盾役を買って出てくれた兵士が、下がってきたロックの傍で呟いた。先ほどの盾もそうだが、直撃したらただでは済まないのは明白だった。

 あの時ロックのパーティー不意打ちを受けたにしても、ロック以外に生き残れなかったのは、あの破壊力で壊滅に追いやられたからだ。

 ロックは今、嫌と言うほど思い知っていた。あの時、自分を残して全滅した理由を。

 仮に全員が消耗していなければ……それでも互角の戦いを出来たかどうか、かなり怪しい。

 ベヒーモス。まさに災害級と言っても過言ではない。そんな魔獣だった。

 どうしたものか。ロックは頭を悩ませるが、深く考えても仕方がない。突破口を探りながら、ベヒーモスとの距離を一定に保ちながら牽制を繰り返す。

 ロックたちは次第に街壁へと追いつめられていった。これ以上は……下がれない。背中が街壁に当たったときに、ロックはふと、あることに気づいた。

 ベヒーモスはさっきから脇目も振らずに町を目指していることに。

 もしかしたら……。ロックは魔法で牽制してもらう間にベヒーモスの左側に回り込み、二、三撃ほど続けざまの攻撃に、しかしベヒーモスはうざったそうに腕を振るって応戦してくるが、やはり町を目指して歩みを止めない。

 ロックが気づくのに続き、兵たちもそれに気づき始めていた。

「まずいな」

 町を目指すとは何か目的があるのか。あるいは、このベヒーモスは操られてるだけかもしれないが。

 町への進入はさすがに許すわけにはいかない。

 ロックは剣を青眼に構え渾身の力を込めて斬りかかった。

 不意に剣がこれまでと違った反応を見せる。

 振り下ろした一撃が、難なくベヒーモスの左腕を切り落とした。

 ぐぁぁぁぁ……

 ベヒーモス痛みと怒りでこれまでにない咆哮をあげた。そして、注意がロックに向く。町への歩みは……止まった。

「そうだ、それでいい」

 ロックは自身を囮としてベヒーモスを町から遠ざけるつもりだった。

「ロックさん、無茶です」

「無茶は承知の上。みんなは援護を頼む!」

 ロックはそう言いきると、ベヒーモスに向かって正面から突っ込んでいく。

 ベヒーモスの薙ぎはらいをかわし、避けた先にはしっぽが鞭のようにしなって襲い来る。

 しかし、それも予測済み。

 上に飛んでロックはそれをかわすと、剣を振りかぶった。いつの間にか、刀身は青白く輝きを放っていて。振り下ろされた刃は抵抗もなく、ベヒーモスの首を寸断していた。


 魔法も矢も効かなかったその怪物は、思った以上にあっけなく倒れた。大地倒れ込み、もう動くことはなかった。

 ロックを始めとした一同も、この展開についていけず、呆然としている。誰もが、状況を飲み込むのに時間を要した。

「倒したのか?」

 誰かが呟く。

「……ああ、そう、みたいだな」

 ロックが返す。一瞬の静寂。そして、一気に歓声が沸き上がる。

 ロックもホッとした表情を浮かべ、空を見上げる。終わった。あいつらの敵もようやく討てた。亡き友たちへの弔い。敵討ち。ロックの心にようやく一つ筋の光が差してきたようだった。


 それから、一同は歓喜にわき、倒れた魔獣は貴重な素材としてギルドが引き受けることになった。

 サブギルドマスターをしているマリンは、ロックを応接室にて素材の流れや換金したあとの報奨金の支払いなど、説明していた。さすがに貴重な素材であることと、割と綺麗に討伐されていることから、かなりの金額になることは火を見るよりも明らかだった。

 さすがにギルドにもこの報奨金を先払いで払う事は出来ず、素材が換金できてからということで話はついた。

 ロックも金に困っているわけではないし、ギルドのことは信用しているので、快く了承したのだが、一つだけ確認しておきたいことがあった。それは討伐報奨金が自分にだけ払われるのではないかということだ。

 仕留めたのはロックだし、それを多くの兵や冒険者が見ている。だが、

「ロックさんが討伐されたということで、素材の仕分け、換金が終わりましたら、報奨金が支払われます」

「俺、一人で討伐したわけじゃないから……それに、冒険者は辞めたはずだけど……」

 ベヒーモス討伐は一人では出来なかった。それは間違いない事実。独り占めするわけにはいかない、というのがロックの考えだ。

「まだ、ロックさんは登録抹消されてるわけではありませんから、冒険者を引退してませんよ。ギルド的には……」

「あ、そういえば、保留だったけ……」

「それにギルド的にも、優秀なロックさんに引退されては困るので、まだしばらくこのままにしておきますね」

 前にも同じようなこと言われたな、と思いながらロックはため息をついた。とはいえ、今回のベヒーモス討伐で今までよりも気持は少し軽くなったのも事実かも知れない。

「それと、討伐報奨金はロックさんの意向も踏まえて協力してくれたニコラスさんたちにも分配いたします。兵たちにはギルドから気持ということで、金一封の心づけを。それでよろしいでしょうか?」

「ああ、それなら。それとあの時、協力してくれた人たちと打ち上げというか慰労の飲み会をと思うけど……」

「いいですね、場所は……踊る子鹿亭でいいでしょうか?」

「そうだね。連絡と場所の手配をお願いしてもいいかな?」

「それくらい、お安いご用です。お時間は夕刻からで?」

「お任せするよ」

 ロックはそういって応接室から出ようと立ち上がる。

「ロックさん。心持ち表情が明るくなりました?」

「そうかな?」

「ええ。何となくですが」

 隻眼のベヒーモスの件はこれまで誰にも話した事はなかったから、マリンも知らないはず。だが、確かにロックの表情はこれまでより和らいでいた。

 亡き仲間への贖罪。仲間はロックを生かすために犠牲になった。けれど、本当は彼らも怨んではなくて、その事への贖罪で自分を縛っていたのはロック自身の罪の意識だったのかもしれない。

 自分だけ助かったという、申し訳なさ。それらがロックの心を縛り付けていたのだ。

 剣を置こうとこの町に。生まれ故郷に帰ってきたのだけれど、やっぱりロックには剣を持っている方が性に合うのかも知れないな。

 そう思うのだった。

まだまだ続きます!

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