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お花見ロワイアル(アホ女子高生達がわちゃわちゃ)

 ここは私立花丘女子高校。私こと夏目ゆうきは、そのごく一般的な生徒をしています。四月になり新しいクラスなって、なんだか落ち着かない今日この頃。その上、春のあったか陽気で、自然にうとうと瞼が重い……

「「はあー」」

 漏らした欠伸が、横から聞こえてきた溜息と重なる。

「どうしたの、委員長?」

 隣の席には、去年から引き続き同級生で学級委員長の名瀬さん。今日も前髪をカチューシャで上げて、背中に流した髪はきれいなキューティクル。そのきっちりとした見た目通り、しっかり者で覇気のある彼女が何やら考え込んでいる。

「ああ、夏目さん。ほら、今度の学級会。新しいクラスだし、みんなで楽しめることないかなって。仲良くなる機会があれば、早くクラスに馴染めるでしょ?」

「委員長……!」

 私は委員長の心遣いに感激してしまいました。彼女に大賛成だった私は、この時奇跡的に冴えていて、すぐに閃きました。

「裏庭の桜で、お花見とかどうかな? 飲み物とかお菓子とか持ち寄って」

 私の提案に委員長はパチンと手を合せて、

「素敵ね!早速、提案してみましょ」

 それがまさか、こんな事態になるなんて。このときの私はまだ知るよしもないのです。懺悔。


***


 校舎の裏手にある大きな桜の木の下、広げられたチェック柄のレジャーシート。絶好のお花見日和に、ジュースにお菓子にと、私は心から満喫していました。

「なっちゃんおいしいね~。それに桜、満開だ~」

 幼なじみのなっちゃんに抱きつくと、寒がりの彼女はいつでも長いマフラーを巻いているので、モフモフしていてとても癒されます。はーモフモフ、って、

「あれ、なっちゃん顔赤くない?」

「……そんなことない」

「そんなことあるよ。大丈夫?」

 寒がりで色白の彼女の頬は赤くなって、いつも無表情の瞳が、なんだかトロンとしています。

「風邪ひいちゃった? 大丈夫?」

 額に手をやってみけど、熱くはない。首を傾げたところで、私はふと気付くのです。

「なんか、人、減ってない? てか全然いなくない!?」

 見回すと、始めは数十人いたはずのクラスメイトが今や数人。いつの間にお開きになったのだろう。お花見はまだまだこれからのはずだけど、あれ? 残った面々もなんだか様子がおかしい。

「はあ、なんかあっっついわね!」

 そう言ってブレザーを脱ぎ捨てる委員長。その上、ぐいぐいと首元のリボンを引っ張って緩め始めて、

「ちょ、ちょっとどうしちゃったの委員長! 顔も赤いし!?」

 私は慌てて宥めますが、委員長は聞いているのかいないのか、うーんと眉間を押さえて唸り、そしてグイッと手にしたグラスを思い切りよく煽ります。

 私は唖然として一連を眺めていましたが、彼女を止めるべくその手からグラスを奪い取って、

「それ私のおー」

「委員長、ちょっと落ち着こう、ね?」

 グラス目指してぐいぐいと迫ってくる委員長を体でガードする。

 改めて見渡すと、みんなおかしい。

 いつもクールな上坂さんは猫みたいに丸まって寝てるし、斜に構えたところがある沙羅ちゃんがとても楽しそうに上坂さんに猫じゃらしを振っている。

「いつも、その、だから……、ありがとう。私だって、一応感謝はしてるの!」

 ましろちゃん、誰に言ってるつもりかわかんないけど、それは人じゃなくて桜の木だよ!

 その反対側では、あ、佳奈ちゃんそこでリバースするのはまずい。

「……まさか」

 私は青くなります。委員長の手にしていたグラスをのぞき込む。

「これ、ジュースじゃないんじゃ!?」

「ふっ、ご名答。ようやく気付いたね!」

 降ってくる声に向かって見上げると、桜の木の上に人影が!

「だけどもう、遅い」

 シュタッと華麗に、着地したのは、見覚えのある長い金髪。

「あなたは、う、ウルフちゃん!」

 金髪碧眼のゴージャスな見た目をしたハーフ美人さんで、うちの学校では珍しく不良で通っている一匹狼ウルフちゃん。

「あんたのも、中身は同じハズだけど。とんだザル野郎ね」

「ザル野郎……?」

 フン、と鼻を鳴らして彼女は飲んでいた缶を放ってくる。受け取って表示を読むと、

「げーっ! お酒って書いてある上、思いっきしSTRONGって書いてあるぅうう」

「中身はみんな、それにすり替えておいたわ。昨晩一人で」

「一人で!?」

 うっかり謎の健気さを感じてしまったけれど、これはもう私の手には負えません。為すすべなく、相変わらず正座でフリーズしてる、なっちゃんに泣きつきます。

「もーカオスだよなっちゃん!しかもこれ、お酒飲んでたなんてバレたら学校どころか、警察沙汰だよ!私たちぶっちぎりで未成年だよ。どーしよう!!!あうっ」

 お酒が入ってるからか、いつものより強めのパンチが返ってきます。グーはひどいよ、なっちゃん。

「ちょっと、ウルフ!」

 グラスを取り戻した委員長が仁王立ちで、ビシリとウルフちゃんを指差します。

「あなた、いつもいつも、制服ちゃんと着ないで! いい加減きちんとなさいよ!」

「ハッ、今のあんたが言えたこと?」

「何よ、文句あるなら言ってみなさい!」

「私に喧嘩売った代償は大きいよ」

「臨むところよ! 今日こそはっきりさせてやろうじゃないの」

 ドン、と背後に効果音が鳴りそうな迫力で、二人は手にしたグラスになみなみとお酒を注いで、そして勢いよく煽る!

 こうして飲み比べ対決の幕は切って落とされた。ていうか、ウルフちゃん実はもう酔っぱらってるでしょう。

「うわー、正気なの私だけだよ! もうヤダっ」

 委員長がみんなのこと思って開いてくれたせっかくのお花見会なのに。もういっそのこと、私も飲んだくれようかとグラスに手を伸ばしたその時、

「ん?」

 すっと横からなっちゃんが手を差し出す。その手に握られているのは、閉じた扇子。

「なっちゃん、その扇子どうしたの? って、ええええ」

 驚くことに扇子の先から、きれいな弧を描き、ちょろちょろと水が出ています。

「なんで水出てるの!?」

「うるさい」

「あうう冷たいよお!」

 容赦なく扇子の先が向けられて、降り注ぐ水はとても冷たい。

「これ、なんか、頭がすっきりする、気がする。これだよ、なっちゃん!」

 相変わらずクールな反応のなっちゃんを連れて、次々にみんなの頭に水をかけていく。

「うぅ、頭痛い……」

 正気に戻ったり、そのまま眠ってしまったり。ひとまずこれで、騒動は収まったのでした。

「ありがとう、なっちゃん! グッジョブ! 」

 うん、と表情は変えず、一応なっちゃんは頷く。

「けど、よく覚えてない」

「ほら、今、甘酒ブームだから。みんな持って来ちゃって、結果すごく飲んじゃったみたい。だよね、委員長!」

「なんだかよくわからないけど、そうみたい」

「……嘘っぽい」

 ぎくり、と肩を跳ねさせつつ、ホントのことは私の胸の内にしまっておこうと思います。甘酒のせいという理由だけでみんなを納得させた私を、誰か褒めて欲しいとちょっと思いますが、それはもっとずっと大人になってからでいいかなー、なんて。

 それではみなさん、お粗末様でした。

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