8 大賢者の塔リフォーム 2
まえがき
今回は9割方説明回です。
RPGゲームの定番の一つ、迷宮。
この世界にも、当然ながらダンジョンが存在する。
ダンジョン内部は複数の階層から成り立っていて、各階層間を移動するための階段がフロアのどこかに必ず存在している。
ダンジョン内部には魔物が徘徊しているが、その数には上限があり、ある一定以上の数から増えることは決してない。
そしてモンスターが人間の手によって倒されても、時間経過によって再出現することで、ダンジョン内部は絶えることなくモンスターの群れが存在する。
なお、残念ながらアイテムの入った宝箱がドロップすることはないので、この点はRPGゲームと違っているので要注意だ。
ダンジョン内部に沸くモンスターは、解体することで素材を収集することができる。
価値のない物から、街で当たり前のように消費される魔物の肉や、魔石の欠片。物によってはドラゴンの鱗など、一獲千金となる素材まである。
それが冒険者をダンジョンに引きつけてやまない魅力となっている。
また、ダンジョンによっては内部に鉱山を有する場合があり、そのような場所では銅や錫、鉄鉱石などの採掘が可能だ。
場合によっては、金や銀鉱石にもお目にかかれる。
下手に素材当ててモンスターと戦うより、採掘している方が稼げるなんてこともあるくらいだ。
もっとも、レアリティの高い高位の鉱石が採掘できるほどの場所となれば、それに応じて周囲を徘徊するモンスターも、強力になっていくが。
そんなダンジョンだが、実は生物だ。
ダンジョンにはダンジョンコアと呼ばれる核になる部分が存在し、このコアによってダンジョンが形作られる。
洞窟や、荒廃した都市、神聖な聖堂を思わせる建物。
時には、ダンジョン内部でありながら、平原や森、凍てつく凍土、溶岩洞窟などと言った、自然環境が再現されることさえあった。
特に自然環境が再現されているダンジョンにおいては、ダンジョン内部なのに空が存在し、朝昼夕夜の時間変化まである。
ダンジョン内の階層間の移動は、基本的に上下をつないでいる階段によってしか行き来できず、天井や床に穴を開けようとしても、強力な魔法効果によって穴を作れない。
よしんば穴をあけられても、その先には謎の空間が存在しており、その先存在しているはずの上下のフロアが存在しない。
これは一種の次元魔法によって各フロアが隔てられているせいで、階段以外の方法では、他のフロアへ行くことができないからだと考えられているからだ。
コアはダンジョン内部のモンスターのリスポーンを制御し、時にボスと呼ばれる強力なモンスターを生み出す。
コアはモンスターが放つ余剰魔力や、ダンジョン内部で朽ち果てた人間や生物、モンスターの死骸を食らう。
また、内部で戦闘が起きた際に魔法などが使われると、使用された魔法の残滓も食らって、自らの栄養とした。
そうしてコアは栄養を蓄えていくことで成長し、自らの体であるダンジョンをより複雑に、そして深くしていく。
ダンジョンのフロア数が増え、ダンジョンとして深くなればなるほど、より強力な力を持ったモンスターが内部に生み出されていく。
そんなダンジョンだが、大賢者の塔も実はダンジョンの一つだったりする。
ただし大賢者の塔にあるダンジョンコアは通常の物でなく、親父謹製の特別仕様だ。
「大賢者が昔、生物実験とか言って、あちこちからダンジョンコア拾ってきて、いじってたんだよねぇー。それで人工的に、ダンジョンコアを操作できるようにしたんだってー」
とは、クレトの談。
相変わらず親父の過去の業績が恐ろしい。
しかもダンジョンにコアが2つ以上あると、強いコアが弱いコアを食らって吸収し、より強力になる。
親父は各地から拾ってきたダンジョンコアを共食いさせることで、大賢者の塔のダンジョンコアを、規格外に強化したそうだ。
「この塔のダンジョンコアほど強力なものは、世界中探しても存在するか怪しいところですね」
と、メフィストも保証しているほど。
規格外の親父のことだ。
拾ってきたダンジョンコアにしても、その一つ一つが、人間の手に負えるレベルのダンジョンのコアではないだろう。
何しろゴミ拾い感覚で、異世界の超文明の遺産を拾ってくる人間だからな。
このようなわけで、大賢者の塔はダンジョンコントローラーと呼ばれる装置で、塔のコアを人工的に操作することができる。
塔内部に複数のフロアを設け、フロア内部に設定を加えていくことができる。
通常のダンジョンコアが行っているように、フロア内を洞窟や聖堂仕様にしたり、平原や人間の住む都市風にしたりすることもできる。
1フロア当たりの広さに関しても、最大で20キロ×20キロ×20キロに設定でき、例の戦争ゴッコをするにも十分なスペースが取れるだろう。
しかも各フロアは次元魔法によって隔てられるので、戦車砲や野戦砲をぶっ放しても、他のフロアまで音が響くことがない。
今までの大賢者の塔は、中心部分が拭き向けになっていたせいで、各フロアの音がそのまま伝わっていた。
この際設定を大幅に弄って、中心部分の吹き抜けを潰し、各フロアの音が漏れることがないようにしておこう。
そしてフロア数は、100くらい用意しておけばいいだろう。
必要になれば後から追加することもできる。
フロア間の移動は階段では面倒なので、各フロアごとに転移魔方陣を設置し、それで自由に移動できるようにする。
もちろん、封印の間など重要施設の移動に関しては、制限を加えておく。
超兵器が封印されてる場所に、誰でも侵入できるようになっては一大事だ。
なお、ダンジョンコントロールで塔の設定をいじる場合、作業に必要になる魔力を、操作している者がコアに送らなければならない。
魔力の塊みたいな俺や、高位魔族であるメフィストやクレトならば、大量の魔力を消費しても問題ないが、魔力量が少ない者では、設定変更を加えることができなかった。
またコントローラー自体も安全装置が付いていて、塔のメイン管理者である俺と、サブ管理者権限を持っている者ではなければ、操作することができない。
俺たちに比べてクリスは魔力量が少ないので、1フロア操作するだけでも、魔力が枯渇するかもしれないな。
「こうやってると、ゲームを作ってるみたいで面白いな」
前世でツクールなゲームで、ゲームを作ろうとしたことがあるが、その時は操作を覚えきれずに挫折してしまった記憶がある。
たがダンジョンコントローラーを使うと、塔内の設定を自分の思うとおりに作れて、かなり面白い。
既存のフロアを別の場所へ移動させるだけでなく、フロアとフロアの間に、新しいフロアをねじ込んだりもできる。
フロアごとに次元魔法が用いられているので、物理的な制限を全く受け付けないからだ。
そうやって、フロアを複数作っていて気づくことがあった。
「取引のできる場所……商店街があると便利だな」
大賢者の塔には、魔族が多くいるので、経済活動だってそれなりにある。
他にも近隣に住んでいるエルフ、獣人族、ドラゴンたちとも交流があるので、商業活動ができる区画があると大変便利だ。
「商業系のシミュレーションゲームみたいだな」
なんて思いつつ、俺はにやけた顔をしながら、大賢者の塔内に商店街フロアを作っていく。
大通りを引いて、建物を区画ごとに建てていって、区画間の道もきちんと整備していき……
何もない大地の上に石畳の道が直線で引かれ、建物の群れが地面からポコポコとはえてくる。
区画間の道も、光り輝くとともに一瞬で整備され、完成していく。
これらの操作をする度に魔力が消費されるが、俺の魔力総量からすれば微々たるもの。
それどころか時間経過で自然回復する分だけで、魔力がすぐに満タンに戻ってしまう。
「あとは風光明媚な観光地……海岸線沿いに白い建物が立ち並んだ光景なんかいいな。それと温泉があるフロアを作って……そうだ、混浴露天風呂。これは男のロマンだから仕方ない。そう、仕方がないことなんだ」
男のロマンも込めて、俺は大賢者の塔の魔改造にノリノリになった。
なお、大賢者の塔は一応ダンジョンに分類されるが、この塔ではモンスターは一切沸かないように設定している。
ここはあくまでも、生活や研究などの場所で、そんなところにモンスターが沸かれては邪魔にしかならない。
それに今更モンスターを追加しなくても、魔族ひしめく魔境だからな。