7 大賢者の塔リフォーム 1
転生して12年目。
この世界では成人は15歳からだが、12歳でも半人前の大人として扱われるようになる。
大賢者である親父が死んでから、俺は魔族の主としてだけでなく、大賢者の塔のトップにもなっている。
知識面では分からないが、魔力面では大賢者を名乗っても問題ないレベルらしい。
俺は二代目大賢者として、塔の管理もしていかなければならなくなった。
「どうせならば二代目大賢者でなく、魔王を名乗られ……」
「却下」
メフィストがいつものように、余計なことを言うが、もちろん俺は魔王なんて御免だ。
何が何でも、二代目大賢者を名乗らせてもらおう。
「「ブーブー」」
俺の決断に、クレトとイリアの2人も不満そうにするが、俺の決意は変わらないので無視しておく。
ところで、大賢者の塔の管理と言っても、内部があまりにも広大で、俺一人で管理するなんて不可能。
結果、俺がメイン管理者として収まりつつ、それを補佐するサブ管理者としてクリス、イリア、メフィスト、クレトなどのメンバーを置くことにした。
なんとなく、前世でプレーしていたオンラインゲームの、ギルドマスターとサブマスターの関係に思えなくもないない。
そんなサブマスたちを前にして、俺は助力を願う。
「二代目大賢者として努めていくつもりだが、俺1人ではこの塔を管理しきれない。これからの塔の管理を助けてくれ」
居並ぶメンバーに声をかける。
「わかりました兄上、これから頑張っていきます」
と、やる気と決意に満ちたのはクリス。
物わかりのいい弟の存在に、俺は感謝するしかない。
「……」
一方、妹のイリアは無言でコクリと頷いた。
相変わらず表情が乏しいので、何を考えてるのかよく分からない。
そんなイリアの背後にいたメイド(野太い声は出ない)が、バニラとイチゴが2段重ねになった、コーン付きアイスクリームをそっと差し出した。
「ハムハムハム」
「イリア、本当に俺を助けてくれるんだよな?」
「火力こそ大正義。アイスクリームは美味しい」
「……」
俺、イリアが何を考えてるのか、何を言ってるのか、まったく分からない。
……まあ、いいか。
大賢者の塔には、死後も痴呆で辺りをうろついている初代大賢者に、クレトというわけの分からない存在がいる。
そこに妹が加わっても、もう何も言うまい。
さて、続いて俺の前で完璧な所作で一礼したのはメフィスト。
「我が主を補佐することは執事としての務め。これまで以上に、アーヴィン様に誠心誠意仕えてまいります」
彼は俺を魔王にしようとすること以外では、非常に頼もしい存在だ。
「つきましては、大賢者の塔の軍備を拡張し……」
「世界征服はしないからな」
「残念ですねぇ」
いつも通りだった。
相変わらず諦めが悪いな。
「主、僕も頑張ってくねー」
あと、能天気クレトは先ほどの不満も忘れ、陽気で何も考えてなさそうな声で、同意してくれた。
ニコニコニコ。
笑顔でいるが、本当に何も考えてなさそうなだ。
こいつをサブマスにして、本当に大丈夫だろうか?
いつも何かしらやらかしてる、トラブルメーカーだし。
……
改めて勢ぞろいしたメンバーを見ると、全員が個性的で不安にさせられるメンバーだ。
この面子で、トラブルなしは絶対にありえない。断言できる。
そして唯一の常識人がクリスだが、この中で一番弱かった。
クレト式魔法術で、魔法が使えなかったクリスだが、その後本人の努力と鍛錬によって、今では立派に魔法が使えるようになっている。
また、剣術や体術なども鍛え、人一倍努力していた。
俺とイリアという規格外の兄弟がいる中で、クリスの能力が一番劣っていたため、相当な努力をしたのだろう。
それだけ努力をしたものの、俺たち兄弟の中では、クリスが一番弱かった。
メフィスト曰く、
「アーヴィン様が大賢者の血を、イリア様が魔王様の血を濃くお継ぎになったのでしょう……クリス様ですか?残りカスですね」
とのことだ。
人の弟を扱き下ろすとか、相変わらず性格が悪い。
魔族がいるこの塔では、俺の兄弟で、魔王と大賢者の血を引いていても、実力がないクリスは侮られやすかった。
「クリス、苦労すると思うが、頑張るんだぞ。俺はお前のことを一番応援している」
「えっ?」
俺の言葉の意味が理解できないようで、クリスは不思議そうな顔をしていた。
だが、これからサブマスとして働いていけば、俺の言葉の意味が分かるようになるだろう。
これだけ濃い面子の中で、唯一の常識人とか、将来ストレスで胃に穴ができるんじゃないか。
さて、そんなメンバーを集めつつ、俺が二代目大賢者となって最初にすることは、塔の増改築、魔改造だ。
前回、クレトに戦車砲をぶっ放す遊びをするなら外でしろと言った。
そこで外で戦争ゴッコをすることにしたクレトだったが、何を考えたのか、このバカは戦車砲では飽き足らず、野戦砲まで引っ張り出してきた。
「戦場の女神をたたえよー!」
女神を讃えるとは魔族らしからぬが、戦場の女神とは砲兵、野戦砲のことだ。
戦場の兵器を讃えるのは、やはり魔族らしいと言うべきか。
バカの命令一家、ゴブリン砲兵たちが野戦砲をぶっ放し、盛大な戦争ごっこをやらかした。
まるで雷が至近距離で炸裂するかのような大音声が、途切れることなく響き続けた。
大地が砲弾によって穴だらけになり、大気は硝煙と煤の臭いに満ち、空は暗い煙で覆われ、地上に届く光を遮った。
何しろ50台はあった野戦砲が、ひっきりなしに弾を撃ち続けたからな。
結果、大賢者の塔の南に広がる大森林に住む、エルフと獣人族から苦情が来た。
あと、塔の北側には山脈があり、そこには10万年以上の時を生きた、白銀の鱗が輝くエンシェントドラゴンを頂点に、人語を介するドラゴンたちが生息している。
そちらからも、かなり遠慮がちにだが、やはり苦情が来てしまった。
俺が初めて魔法を使った際、山の頂上部分を消し飛ばしてしまう不幸な事故があった。
実はあの山の頂上にはエンシェントドラゴンの住処があったのだが、俺の魔法のせいできれいさっぱり消滅してしまった。
幸い、住居人……住居竜(?)のエンシェントドラゴンは、狩りの最中で山を留守にしていたので無事だった。
でも、帰ってきたら自分の住処が消え去っていた。
「お願いです、私の隠し財産を差し出すので、なにとぞ命ばかりはお助けを」
「お、おおうっ……」
後日、なぜかエンシェントドラゴンが金銀財宝の貢ぎ物を持ってきた。
こっちが賠償しないといけないくらいなのに、なぜか全く逆のことになってしまった。
これはどういうことかと、驚かされたものだ。
「まったく、父親といい息子といい、どうしてろくなことをしないんだ」
そんなエンシェントドラゴンは、去り際にぶつくさと小声で文句を言っていた。
……親父、エンシェントドラゴン相手にも何かしたのかよ。
しかし、あの時は俺まで親父の同類扱いされてしまったので、何とも言えない気分にさせられた。
俺は、親父みたいなことはしてないぞ!
……確かに、山頂部分を消し飛ばしたのは悪かったけどさ。
そんなことがあったので、ドラゴンたちは俺に対してかなり低姿勢だ。
だが、それでも苦情が来てしまったことに変わりない。
近隣住民とは仲良くやっていかないといけないから、この問題は解決しなければならない。
間違っても、
「ドラゴンやエルフ、獣人如きが我らに苦言を呈するなど片腹痛い。まとめて血祭りにあげてくれよう」
などと、どこぞの魔王みたいな対応をするつもりはない。
「大賢者の塔の内部を魔改造して、塔内で戦争ごっこをしても、音が漏れないようにしよう。ついでに生活スペースとかも、この際手を入れた方がいいな」
ということで、唐突にだが大賢者の塔魔改造計画が始まった。
なお、戦争ごっこはクレトだけでなく、魔族のちょっとした遊びになっているので、これを全面禁止するつもりはない。
そんなことしたら、フラストレーションをため込んだ魔族どもが、他の場所でもっととんでもないことをやらかすからだ。