77 銀河団が俺色に染まる
「魔神王陛下、15歳の御誕生日おめでとうございます」
「……」
魔神という訳の分からない神たちの王になってしまった俺。
この世界に転生してから、めでたく15年目を迎えることができた。
15歳と言えば、この世界では正式に大人として扱われるようになる歳だ。
……だけど、そんなことは今の俺にはどうでもよかった。
「ひとつ聞きたいが、こいつらは誰だ?」
俺がいるのは、大賢者の塔にある魔神王玉座の間。
闇の皇帝や世界を支配した大魔王でも、真っ青になって平伏する力を持った高位魔神たちが、この場には集っている。
そしてそこから1ランク以上落ちてしまうが、大魔王や魔王と同程度か、それ以上の力を持つ中位魔神たちもいる。
その他おまけとして下級魔神たちもいる。元ゴブリンから、”神化”して神へと至った連中だが、元がザコモンスターのため、神になってもそこまで実力のない連中だ。
そんなヤバい魔神たちが集う玉座の間において、俺の知らない連中がいる。
知らない連中の先頭にいる男は、かなりヤバゲだ。
玉座に座っている俺の横に立つ、高位魔神のメフィストとクレトの2人に近い実力を感じ取ることができた。
その背後にいる無数の連中も、高位魔神と同程度の力を感じる。
こいつら全員、星を破壊できる以上の力を持っている。
そんな連中が、玉座の前にある階下で跪いていた。
もちろん、跪いている先には、玉座に座っている俺がいる。
ハハ。
訳が分からなくて、笑うしかない。
「お初お目にかかる……かかります。私はこの銀河団を管理している神だ……です」
「……」
敬語を使うことに慣れてないようで、いちいち言い直してくる戦闘の男……神。
だけど、今なんて言った?
「銀河団……暴走族か何かか?」
「主、それはボケで言われてるのですか?」
「ボケだったら、ありがたいんだけどな」
横にいるメフィストが話しかけてくるので、俺は心の中で本当にボケで終わってくれと思う。
「よろしいですか、銀河団というのは、この宇宙に存在している……」
そこでメフィスト先生による唐突な説明が始まった。
メフィスト先生曰く、この宇宙には銀河系が均等な距離で存在しているわけでなく、重力の影響によって、ある程度の数の銀河系が固まって存在している。
複数の銀河が塊まってあることを、銀河団と言った。
逆に言えば、銀河団の中には、銀河系が複数存在していることになる。
「言葉の意味は理解しているぞ」
「では、説明は不要でしたか」
「必要だったぞ」
物凄く必要だった。
「確認だが、この男はメフィストが説明した、銀河団を管理している神で間違いないな」
「左様です。我々のいる惑星ローラシアが所属している銀河団の神です」
「そんなお偉い神が、どうしてこんなところにやってきたんだ?」
銀河団なんて超巨大な世界を管理している、偉大な神。
そんな存在が、俺たち魔神のいる場所にやってきた理由が、俺には理解できない。
俺に対して跪いている理由は、さらに理解できない。
理解したくない!
「その説明は、当人(当神?)からさせた方がよいでしょう。さあ、続きを述べなさい」
「承知した……しました」
銀河団を管理する神相手に、メフィストの口調は上からだった。
お、おかしいな。
なぜか俺の額から、止まることなく冷や汗が流れるんだが。
物凄く嫌な予感がして、この場から逃げたくて仕方ない。
「この度、我は偉大なる魔神王陛下の軍門に下ることにした……しました。なにとぞ、魔神王陛下の眷属としてお認めいただきたい。ここにいるのは私の部下であり、それぞれが銀河ひとつを管理している神だ……です」
「……」
何を言ってるんだ、この神は?
あまりにスケールの大きな神が、俺みたいななんちゃって魔神王に降るとか言わなかったか?
「聞くが、なぜ俺に降ることにした?」
とりあえず、理由を聞いておこう。
理由を聞いて、なんとか断る方向にもっていかなければならない。
俺に、銀河団を管理しているの神(以後、銀河団の神と呼ぼう)を配下にするなんて無理だ。
能力的にも、精神的にも、その他いろいろ的にも無理だ。
「理由に関しては、ガルデミラン帝国の膨張を止めてくれた……止めて下さったことです」
「……もう面倒だから、敬語を使わなくていいぞ」
「それはありがたい」
銀河団の神だが、言葉遣いをいちいち直されても面倒だ。
そして俺は、無言で続きを促す。
「ご存じのようにガルデミラン帝国は、ガルデミラン銀河系のみならず、周辺の銀河系にまで勢力を広げていた。今すぐにとは言わないが、いずれは我ら神に取って代わられる危険があった。そこで討伐のために、我らは神の軍勢を組織して戦いに臨もうとしていたのだ。だがその矢先、そこにいるクレト殿によって、ガルデミラン帝国が崩壊へ導かれたのだ」
「エッヘン」
そこで胸を張ってみせるクレト。
こいつは何も考えてないだろうが、褒められたので、とりあえず胸を張ったのだろう。
だがしかし、俺は心の中でクレトを呪う。
お前、本当に余計なことをしでかしてくれたな。
「銀河を支配する神を集めても、ガルデミラン帝国を滅ぼすのは容易なことではなかった。しかし、クレト殿は単騎にて、あの帝国を崩壊にまで追い込んだ。ゆえにクレト殿の主君である魔神王陛下に、我らは降ろう。この通り、陛下に忠誠を捧げることを誓う」
「「「忠誠をお誓いいたします」」」
銀河団の神が頭を下げると、背後にいた銀河系を支配する神々まで、一斉に頭を下げてきた。
俺の方に向かって。
「……」
俺、銀河団の神なんていらない。
惑星ローラシアの神々でさえ、本当は部下にしたくなかった。
規模がでかすぎる銀河団の神と、その部下連中なんて、さらにいらない。
「魔神王陛下、大変おめでたいことにございます」
「やったねー。これで今日から、主がこの銀河団の真の支配者だよー」
俺は何とか断ることができないかと、必死に頭の中で考えているが、そんな俺にとどめを刺すように、メフィストもクレトも祝いやがった。
お前ら俺の内心が分かっていて、俺にとどめを刺しに来たんだろう!
魔神は性格が悪いから、十分にあり得る話だ。
それでも、俺は断るぞ。
銀河団なんて規模は、俺の手に余るどころの話じゃない。
「俺は銀河団なんていらな……」
「もし我らの忠誠に不信を抱くのであれば、我の首を差し出そう。だからなにとぞ、我の部下たちは受け入れていただきたい」
銀河団の神が自分の命まで使って、俺の退路を塞いできやがった。
もう、泣いていい?
話がでかすぎて、俺は口から泡拭いて気絶しそうなんだけど!
しかしここで受け入れないと言えば、本当に目の前で腹を掻っ捌いて死にかねない雰囲気を、銀河団の神は漂わせていた。
むろん、腹を掻っ捌いた程度で神は死なないので、言葉の綾だ。
とはいえ、銀河団の神なんて存在に死なれては、マズイ。
多分惑星ローラシアのレベルを超えて、銀河団レベルで、大変マズイことになる。
「……わ、分かった、受け入れよう」
だから、俺は心にもない言葉を口にした。
「ありがたい。陛下のお言葉だ、二言はあるまい」
「あ、当たり前だ」
やっぱりやめた、なんて言い出せる雰囲気が、完全にゼロになった。
そんなもの最初からゼロだったが。
「俺の眷属になった証として、印をつけておいてやろう」
既に約束した以上、引き返すことができない。
俺はこの場にいる銀河団の神と、その部下である銀河の神々に、魔神王の魔力を若干渡してやる。
すると、この場にいる銀河団の神と銀河の神々が黒く輝き、俺色に染まった。
以前も思ったが、俺色って何色だろうな?
そんなバカなことを考えて現実逃避してないと、目の前の現実を受け入れられない。
「ウオオオー、魔力が溢れてくる」
「こ、これが陛下のお力」
「あっ、ううんっ、とっても太くて逞しい……」
男の神はともかく、大きな胸とヒップをしたエロい格好の女神様が、とてつもなく誤解を生む言葉を口にした。
だが、その点は無視させてもらう。
突くと、確実に藪蛇になってしまう。
「これからも銀河団の管理はお前たちに任せる。俺たち魔神は君臨することはあっても、統治をすることはない。お前たちで、今まで通り銀河団を管理していくがいい」
「承知した、偉大なる魔神王陛下よ」
「「「承知いたしました、魔神王陛下」」」
なんて感じで、銀河団の神と銀河の神々が、俺の部下兼眷属となった。
いらねー、今からでもクーリングオフは効かないか?
表面では魔神王としての態度を取り繕っていたが、俺の心の中は真逆の思いでいっぱいだ。
俺は世界征服なんてするつもりがコレッポッチもないのに、世界の方から征服されに来るのはやめていただきたい。
マジで。
あとがき
これにて『異世界転生したら魔神王だった 魔王よりヤバい魔神たちの王だけど、世界征服も世界破壊もしたくない。マジで。』は完結となります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本当は3章以降の展開も考えていたのですが、当初はただのファンタジーで書いてくつもりだったものが、何やら書き進めていくうちに予想の遥か彼方の代物に。
一応プロットらしきものは存在しているものの、これ以上ダラダラ書いていっても仕方ないかなーと言うことで、これにて終了です。
続きを書くことがあるとすれば、気が向いた時ということで~




