表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/78

75 日本だけど日本じゃない

「あー、ストレスがたまる」


 星々を面白半分に壊して回り、世界を暗黒に叩き込む支配者に祝福を施し、乱世を呼び起こしてそこで賭けに興じる。

 そんな魔神たちの王をしている俺は、常にストレスにさらされている。



 塔に所属する科学者連中も相変わらずやりたい放題していて、この前なんて惑星(ローラシア)軌道上に設置した人工衛星から、地上に向けて高出力マイクロウェーブ波を照射して、海の一部を沸騰させていた。


「やった、やったぞ。私のマイクロウェーブが、海に住むクラーケンを茹でイカにしてやったー!」


 イカレタ科学者が、そんなことを喜び叫んでいた。


 クラーケンと一緒に、ローラシアの海底にいた半魚人の国が半壊したけどな!



 魔法キチ連中も酷いものだ。


「我らがさらなる高みに上がるには、神の世界を探求する必要がある。魔神王陛下への贄を増やさなければならないな」


 そんなことを言って、奴らは高位魔神たちと仲良く別世界に出かけたかと思うと、そこで大量虐殺を犯しやがった。

 原始的な宗教では、人間を生贄にする風習が存在するが、そんなことをリアルでやらないでいただきたい。


 しかも、その後なぜか贄を捧げたことで、連中の魔力が底上げされていた。



「言っておくが、俺は何もしてないぞ」


 奴らの贄を受け取った自覚すらないのに、どうして奴らがパワーアップしたんだ?



 連中を連れて行った高位魔神たちが黒い笑みを浮かべていたので、きっと奴らのせいだ。


 メフィストに倣って、今度物理的な躾をする必要がある。

 奴らが増長しかねない。



 俺は原始人よろしく、腕力を振るって統治なんてしたくないのに、この塔では力がものをいう場合が多いから仕方ない。


「ああ、野蛮人になんてなりたくないのに、状況がそれを許してくれない」


 今度転生する機会があったら、もっと平和で文化的な人たちの中に生まれたい。

 俺は、切実に神に願ってしまった。


 まあ、今の俺が神だけど。







 とまあ、ゴタゴタの数々で俺のメンタルは崩壊寸前だ。

 これ以上ストレスがたまると、また銀河系を増やしかねないので、息抜きするとしよう。


 俺は大賢者の塔から転移して、ボロアパートにある六畳一部屋へ移動した。

 古い畳に、ステンレス製だが汚い流し台。

 穴の開いた襖の押し入れもある。


 ザ・日本のボロアパート。

 それを体現した部屋だ。


「誰もいないけど、ただいまー」


 部屋には俺1人しかいない。

 そして俺が普段している魔神王の衣服を脱ぎ捨てて、外に出てもおかしくない格好に着替える。


「行ってきまーす」


 そのままドアを開けて外に出て、ドアを施錠。


 オンボロアパートの2階にある部屋から、これまたボロくて鉄さびの浮いた階段を降りていく。


 その先にはアスファルトの通りが続き、車が普通に走っている。




 俺はその道を通って、近くにあるコンビニに行き、適当な駄菓子と缶コーヒーをひと缶買う。

 支払うのは、紙でできた1000円紙幣。


 紙に書かれた人物が、古代日本の統治者、邪馬台国の卑弥呼っぽい縄文人だが、そのことを気にしてはいけない。


「ありがとうございましたー」


 硬貨のお釣りを受け取り、買い物を終えれば、アルバイトの店員が俺を送り出してくれた。




 ここは日本。

 正確には、俺の知っている日本とよく似た異世界だ。

 それも20世紀後半から21世紀初頭の日本だ。


 俺は魔神王になったことで、異世界転移も自由にできるようになったので、暇を見つけては日本型の世界がないかと探し回り、この世界を見つけた。


 日本が存在する世界は複数あったが、この世界が俺の知っている日本に一番近い。


 他に見つけた日本はどれもこれも、俺の知っている日本とかなり違っていた。


 その中の一つは、なぜか夜見上げた空に浮かぶ月に、人工の都市が存在して、そこから都市の光り輝く様子を見て取れる、明らかに未来の日本だった。


 また別の世界で見つけた日本は戦時中だったらしく、初陣の兵士を見送るために、万歳三唱をしながら、街中の人たちが集まって見送りしている光景に出くわした。


 あと、21世紀の日本だったけど、巨大なゴリラがスカイツリーに昇って、ウホウホ叫んだり、深海に捨てた放射能廃棄物の影響を受けた生物が超進化を遂げて、口から放射能光線を吐きながら暴れまわっていた。

 魔神王なのであの程度の怪獣相手に命の心配はないが、あんな物騒な日本にいきたいとは思わない。


 他だと、日本だけど、普通に戦国武将が暴れまわっている世界もあった。

 もっとも、重たい鎧兜を全身にまとった戦国武将なのに、なぜかジャンプしただけで300メートル飛び、念じるだけで直径5メートルの炎を出したりする、魔法(ファンタジー)世界仕様の戦国武将だった。

 そんな武将たちが、敵の雑兵をバッタバッタと薙ぎ払い、無双していた。


 どれもこれも俺の知ってる日本と違い過ぎる。

 日本であっても、時代が違ったりした。



 しかし、俺が今回やってきた日本は、俺の知る日本ともっとも近い。



「やっぱり、自分の故郷(ぜんせ)と似た場所にいると安心できるなー」


 ここなら面倒な部下たちもいないので、ゆっくりできる。

 何度もこの世界に来ているので、土地勘もある程度ある。


 勝手知ったるなんとやらで、俺は近くにある小高い丘がある場所へ行く。

 ちょっとした散歩気分で丘を登っていき、頂上近くにあるベンチに腰掛ける。


 ここからは近くにある団地の姿が見て取れ、公園がすぐ傍にある。


 そこで缶コーヒーを開けて、口につけた。


「微妙な味だけど、懐かしいからいいか」


 大賢者の塔でメイドたちに出されるコーヒーに比べれば、まるで泥水みたいな味だ。

 だが、この中途半端にマズくて、癖になるコーヒーもいい。


 前世で知っているコーヒーの味だ。


 思い出補正のおかげで、おいしく感じるのだろう。



 俺はしみじみと缶コーヒーを味わいつつ、近くにある公園で子供たちがサッカーをして遊んでいる光景を眺める。


 今の俺が、無職のニートみたいになっているが、そんな些細なことは気にすまい。


「あー、いっそこの世界で暮らした方がいいんじゃないか。向こうに戻ったら、また部下どものやらかしを見ないといけないし―」


 太陽の光がポカポカして、日向ぼっこが気持ちいい。

 ウトウトしつつ、俺は現実逃避に浸った。


 これがただの現実逃避だと、自分でも分かっている。

 でも、こうでもしないと、俺のストレスがたまる一方だ。



「ハー」


 なんてダラダラしてたら、太陽が一瞬陰った。


 空を見上げれば、そこには雲……ではなく、茶色の巨大なハニワが浮かんでいた。


 空には巨大ハニワ以外にも、巨大な土偶も浮かんでいる。

 それも何個も、何十個も。



「……」


 この世界だが、縄文人だか超古代縄文人だかが支配している世界で、空に浮かんでいるハニワと土偶は、彼らの超科学兵器だ。

 科学というか、超呪術(シャーマン)という方が正しいか。


 あのハニワと土偶からは精神洗脳波が出ていて、地上にいる人間を常時洗脳している。


 そのせいで、この世界の日本人は日常の生活を送りながらも、どこかとろんとした目つきをしている。



「もっともメフィストの星の住人より、健全だな」


 メフィストが支配している星。

 俺は勝手に”メフィスト星”と呼んでいるが、あの星の住人は魔神王を狂信的に崇拝しているうえに、全住民が社畜の如きヤバい目をしている。

 それに比べれば、軽めの精神汚染に遭って、目がとろんとしているだけのこの世界の住人は、健康そのものだ。


 少なくとも、俺の中ではそうなっている。



「ああー、いっそここに永住しちまうかー」


 空に浮かんでいるものを気にしなければ問題ないので、本気でそう考えてしまう俺。



 魔神王である俺には、ハニワと土偶から放たれる精神洗脳波の影響はない。

 この世界の方が、大賢者の塔にいるより、よほど平和に過ごせる気がする。



「このままもう少しダラダラして行こう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ