71 犯罪シンジケートの星
「か、か、か、か、艦長、ダメです、絶対にダメ、ダメだったらダメです!」
「ええー、いいじゃん。人生博打なしで生きてくなんてできないよー」
私はゴブリン副長。
今日までダイワの副長として、クレト艦長の傍で艦の運営を取り仕切ってきたが、今最大の危機に立たされている。
「放射能除去装置とダイワを賭けて、勝負だー!」
「やめて―!」
我々は目的の放射能除去装置が売っている星にたどり着いたが、なぜか放射能除去装置とダイワを賭けた、大博打となってしまった。
「いいぜ、俺が勝ったらお前たちの宇宙戦艦はいただきだ」
「ふふん、この僕相手にガルデミラン式麻雀で挑もうとは、片腹痛い。で、ルールってどうなってるの?」
ああ、ダメだ。
放射能除去装置を販売している商人……もといガルデミラン帝国の犯罪シンジケートに所属しているバイヤーが、クレト艦長からボッタクル気満々だ。
この星にはガルデミラン帝国中から、表には出せない品物が集まってくる星だそうだ。
「ルールも分かってないのに、どうして相手の土台で勝負しようとするんですかー!」
「僕の戦闘力は53万くらいあるから大丈夫だよー」
「戦闘力とギャンブルには何の関係もないでしょうー!」
私はクレト艦長にしがみついて、必死になって止めようとした。
副長として、なんとしても艦を守らなければならない。
「ていっ」
だけど無常、私程度の力ではクレト艦長の膂力に全く抗することができず、投げ捨てられてしまう。
「艦長、どうして自分の船を賭けの対象にするんだよ」
「ここで負けたら、俺たちどうやって帰るんだ」
ドワーフ技術主任とグレー科学主任も困り顔。
しかし物理的に止めることができないと分かっていて、私のように艦長に縋りつくことはなかった。
「クレト艦長、我の研究成果が船に残ったままなので、それを降ろすまで待ってもらいたい」
船に乗っていたエルダーリッチの科学者なんて、クレト艦長が負けること前提で話を進めている。
「ハハハ、今のうちにお前たちの艦を惜しんでおけ。この賭けが終わったら、俺たちのものになるからな。ハッハッハッ」
「フフーン、負けないもんねー」
ルールが全然分かってないのに、クレト艦長はとにかく強気だった。
……それから2時間後。
「グオオオオー、負けたー」
「アハハハハー。とうことで、放射能除去装置は僕がいただいてくねー」
ルールも分かってないのに、クレト艦長がぼろ勝ちした。
「き、貴様絶対に何かしただろう。初心者のふりして、実は手練れだっただけじゃない。イカサマをしただろう」
「シテナイヨー」
「嘘つけ、俺は駒を操作してたのに……」
「あれー、そっちがイカサマしてたんだー。酷いなー」
口にしなきゃいいことを、バイヤーが口走ってしまう。
クレト艦長が半眼になって、バイヤーを睨みつける。
「クッ。だがここは、俺たちが支配している島だ。賭けの結果なんてどうでもいい、お前たちの船は俺達が無理やりいただくぜ。何しろここは、ガルデミラン帝国の正規軍すら近寄らない、犯罪者の星だからよー」
盗人猛々しいとはこのこと。
逆切れして、自分の都合のいいように行動し始めるバイヤー。
周囲にいたシンジケートの人間たちが武器を手にして、我々ダイワのクルーを囲んでくる。
「ええー、僕が賭けに勝ったのに、掌返しなんてひどいよー」
頬を膨らませて、不満そうに立ち上がるクレト艦長。
その拍子に艦長の服の袖から、ポロポロと大量の牌が零れ落ちた。
ガルデミラン麻雀で使用される牌だ。
「やっぱり手前も、イカサマしてたんだな」
「テヘッ、バレちゃった」
クレト艦長が、あざとく可愛い子ぶる。
男の艦長にそんなことをされても、全然可愛くもなんともない。
「野郎ども、俺たち相手にイカサマを働く連中の末路がどうなるか、徹底的に教えてやれ」
「「「オオーッ」」」
バイヤーとその仲間たちが勢いづいて、私たちダイワのクルーを拘束しようとしてきた。
「クリスタちゃーん」
「はい、クレト艦長」
もっとも相手がガルデミラン帝国の犯罪シンジケートであれば、こちらは魔神王アーヴィン様の配下。
クレト艦長が一声かければ、空中に巨大な立方体の水晶が出現した。
ああ、クレスタさんが今日もとても輝いて見える。
「この星って価値のあるお宝がたくさんあるから、僕たちのものにしちゃおう。こいつら、全員滅ぼしていいから」
「分かりました、艦長」
なんて会話が終わると、空中からダイワの主砲並に強力なレーザーが、雨あられと降り注いできた。
「空中要塞だと!シンジケートの上層部に連絡して、今すぐ迎撃艦隊を……」
瞬く間に周囲の施設が破壊されていき、バイヤーが慌てふためく。
直後クリスタさんの本体から強力な陽電子砲が横薙ぎに発射され、周辺が10キロ以上にわたって溶岩の海に変わった。
ついこの前見た地獄の光景が、この星に再現されたかのようだ。
「……」
バイヤーとシンジケートのメンバーは、事態の急変についていけず沈黙してしまう。
その表情は意識を失いかけ、失禁寸前といった感じだ。
「支配人」
「はい、ここに」
そしてバイヤーのことなど、もはやクレト艦長は気にもしてない。
クレト艦長が呼びかけると、背後に白い仮面をつけた中位魔神様が姿を現す。
ダイワにあるカジノルームの支配人だ。
普段人前に姿を見せることのない支配人だが、強力な精神攻撃によって、相手を自分の支配下に置く能力に優れている。
「この星の艦隊が欲しいから、乗ってるクルーは全員奴隷にしちゃおう」
「承知しました。艦隊はカジノの景品にしますか?」
「んー、主が艦隊に興味あるみたいだから、少しプレゼントするとして。あとは僕の玩具にしようかなー」
「では、この星にある珍しい科学技術の品を、カジノの景品にしましょう」
「そうしよっかー」
なんて話をすると、白い仮面の魔神様がこの場から忽然と姿を消した。
「た、大変だ。シンジケートの艦隊が裏切った。奴ら、味方である俺たちの星に向かって、攻撃を仕掛けてきやがったぞ!」
「な、なんだと―!」
そして、失禁寸前だと思っていたシンジケートのメンバーが叫ぶ。
全員身動きできない精神状態と思っていたが、中には気骨のある連中がいたようだ。
そんな連中が叫んでいる。
もっとも、彼らの気骨など意味がない。
白い仮面の魔神様の行動は素早く、早速この星にあったシンジケートの艦隊が、乗っ取られてしまった。
中位魔神の放つ魔法によって、人間が支配されてしまった。
いくら高度な科学力によって作られた艦隊でも、それを動かしている人間が支配されれば、艦隊も自動的に魔神様の支配下になってしまう。
その艦隊が、犯罪シンジケートの星を攻撃し始めた。
「それじゃ、皆も略奪に励んでいいよ。死んでも生き返らせてあげるから、皆で略奪しようか」
「「「ヒャッハー!」」」
もはやこの星は犯罪者が支配する星でなく、クレト様率いる魔神によって蹂躙される星と化した。
調子のいいゴブリン兵士たちが、雄たけびを上げ、レーザーライフル片手に略奪を開始する。
ゴブリン兵士の中には、ガルデミラン帝国から略奪した、パワードスーツを付けた一団まであった。
「犯罪シンジケートが支配している星なら、そっち系の女が大量にいるぞ」
「ウオオオーッ、この星は俺たちの天国だー」
「進め進め、勝利の女神がパンツを振り回しているぞー」
そんな感じで、ハイテンションなゴブリン軍団が進軍する。
抵抗するようにシンジケートのメンバーも、レーザーライフルを担ぎ出して抵抗してきた。
両軍の間で戦闘になる。
「こちら人型戦闘機部隊。地上部隊の支援に入る」
「翼式戦闘部隊、爆雷を投下する」
だが無常。
母艦機能を有するダイワから発進した戦闘機部隊が到着し、抵抗するシンジケートの集団を、施設ごと破壊することで蹂躙していった。
あとに残されるのは瓦礫の山と、死に絶えたシンジケートメンバーの死体。
「我もこの星にある科学技術に興味があるので、確保を急ぐ必要があるな。死霊魔法・不死者創造」
そんな残された死体にも、エルダーリッチの科学者が死霊魔法をかけることで、アンデッド軍団に生まれ変わって蠢き始める。
「この星の技術を確保するためにいくがよい、不死の軍勢よ」
エルダーリッチ科学者は、蘇らせたアンデッドたちに命令を出す。
進軍するゴブリン軍団に負けまいと、この星にある科学技術の品の略奪に精を出していくのだった。
「俺らが完全に悪者じゃないか」
「俺、なんでこんなところにいるんだろう。ただの科学者なのに……」
常識人というべきか、ドワーフ技術主任とグレー科学主任だけは、そんなことを言っていた。
しかしだ。
「我々は魔神ですし、クレト艦長の下にいればこんなものですよ」
そんな2人に対して、私は言う。
何しろ、我らは魔神。
元が魔族だったこともあり、戦闘行為への抵抗があまりない。
おまけにクレト艦長に率いられているのだから、こんなことがあっても不思議でない。
「アッハッハッ、みんな頑張れー」
そんな地獄の光景を作り出したクレト艦長は、呑気に笑っていた。
あとがき
この物語は、悪党を悪党が裁く……なんて質のいい話ではありません。
悪党を、もっとひどい悪党が好き勝手して遊んで回る物語です。
アーヴィン「胃が……俺の胃が……」




