68 ガミラン帝国軍強襲部隊3
私はガルデミラン帝国軍強襲揚陸艦所属、強襲部隊隊長。
我らガルデミラン帝国に戦いを挑んできた、ダイワと呼ばれる宇宙戦艦。
その制圧をフューラー直々に命じられ、現在敵の船内で戦いを進めている。
私が直接率いる部隊は敵の抵抗を排除し、敵のブリッチ目指して一路進軍している。
途中で別れた部下たちからは、通信を介して報告を聞いていた。
しかし、
「クリスタルのロボットが暴れまわって手が付けられない」
「無敵の髑髏がパワードスーツを乗っ取っている」
「賭けのために俺は生き残る。絶対に最後まで生き残ってみせる」
などなど、報告が届く。
「意味の理解できない報告が、複数あるな……」
「おそらく精神に影響を与える兵器が、この船にはあるのでしょう。ですが、この先にあるブリッチを制圧すれば、我らの勝利です」
「そうだな、副隊長」
私は同行している副隊長の進言を受け、ダイワの頭脳と言ってもいい、ブリッチ制圧を急ぐことにした。
ブリッチ付近までは進軍できた。
しかし、そこで会話が聞こえてくる。
「敵の勢いを止められない。ブリッチを放棄し、指揮を第二ブリッチへ移行する!総員、ブリッチを退去せよ!」
「「「了解」」」
「艦長とドワーフ主任が寝たままですが、どうします?」
「もちろん、担いででもつれていくに決まってるだろう!」
「……あの、艦長が見た目に反してめちゃくちゃ重いんですが」
「ゲッ、なんでこの見た目で、まったく動かないんだ。仕方ない、艦長は高位魔神だから、敵の手に落ちても自分でどうにかするだろう。急いで逃げるぞ!」
随分と慌ただしい声が、目指すブリッチからしてきた。
「敵のブリッチクルーに逃げられては面倒だ。総員突入!」
「「「オオオーッ」」」
多少の犠牲を覚悟し、私は部下たちに突入を命じた。
そうしてブリッチ周囲を守る敵の兵士を排除し、ダイワのブリッチへ突入した。
ブリッチ内に敵がいないか部下の兵士が確認していき、さらにブリッチの機器も弄る。
「ダメです、回路が全て死んでいます。既にブリッチ機能は、他の場所へ移されています」
「制圧が遅れてしまったか」
ブリッチの機能を抑えられなかったのは痛い。
だがしかしだ。
「スピースピー」
「フューラーからの命令にあった、ダイワの艦長です。絶対に殺せと厳命されています」
「ああ、そうだな」
ブリッチの最上部。
艦長席に眠ったまま座る男がいた。
この非常時に周囲に酒樽を転がしていて、アルコールの匂いがプンプンする。
もしや艦の防衛が不可能と判断して、死を覚悟するのでなく、現実逃避に酒に逃げたのだろうか?
だとすれば、とんだ精神的弱者だ。
「フューラーの命令により、射殺する。引き金は私が引く」
「ハッ」
フューラーからの厳命だ。
私は腰につるしたホルスターから、レーザー拳銃を引き抜き、銃口をダイワ艦長へ向ける。
「さらばだ」
私は敵の指揮官にそれだけを告げ、引き金を引いた。
今まで直接殺してきた人間の数など、数え切れぬ。
だから、私は作業のように敵の艦長を殺した。
「スピースピー」
「な、なに、レーザーが効いてないだと!」
だが、頭にレーザーを撃ち込んだのに、ダイワの艦長は変わることのない寝息を立てたまま、その場にいた。
「レーザーを無効化できる種族なのか?ならばナイフで」
私は即座にナイフを取り出し、それで艦長の首を切り裂く。
「スピースピー」
ナイフの刃が首の上を滑ったが、まったく切れなかった。
「手りゅう弾を使う。全員ブリッチを出ろ」
ならばと、制圧したブリッチから部下を全員出して、手りゅう弾を投げ込んだ。
派手な爆発音とともに、ダイワのブリッチが手りゅう弾によって破壊される。
「スピースピー」
ダイワのブリッチにある機器は手りゅう弾の爆発で破壊されたのに、艦長は相変わらず眠ったままで無傷だった。
ホコリ一つ、ついていない。
「なんなのだ、この生き物は?」
「もしやこれはフェイクなのでは?艦長だと誤認させて、我々をこの場に留めるための罠かもしれません」
我々の武器をして、まったく傷付けることができない相手。
そんな存在に、私も副隊長も、不気味さを覚えてしまう。
「隊長、大変です。こちらに向かって、クリスタルのロボットが近づいてきます!部下が交戦中ですが、あまりの火力のちが……フガッ」
私の元に報告に来た兵士の頭が、レーザー兵器によって吹き飛んだ。
「クッ、やはり罠だったか」
「やむをえん、こうなっては戦いつつ撤退するぞ」
この場にいる敵の艦長は、よくできた偽物。ロボットみたいなものだろう。
こんな罠に騙されて、我々は無駄な時間を消費してしまった。
そして迫りくる、クリスタのロボット。
見た目は美しい姿をしていながらも、外見とは似ても似つかない凶悪な戦闘兵器だった。
我々の部隊が放つレーザーを無力化し、手りゅう弾も全く効かない。
爆発系の武器も、結果は同じだった。
艦長席に座る不気味な存在と同じで、まったくこちらの攻撃が通用しない。
それどころか相手の放つレーザー攻撃によって、私の部下が次々に倒されていき、あっという間に戦闘は劣勢になった。
「隊長、すぐに避難を……ガッ」
ついには副隊長がレーザー攻撃によって胸を貫かれ、即死してしまう。
さらに戦いは続くが、クリスタルのロボットは圧倒的な強さで、私の部隊を壊滅させた。
そうして最後に残った私に、クリスタルロボットは無防備に近づいてきた、
そのまま私の手前で、立ち止まる。
「あなたが敵の指揮官ですね。生け捕りにします」
「侮るな、私はガルデミラン帝国軍人。敵の捕虜になるくらいなら、自決してくれる!」
クリスタルロボット相手に、私の部隊は完敗した。
しかし最後の意地を貫き通すために、私は手にしていた手りゅう弾をこの場で爆発させた。
クリスタルロボット相手には効かないだろうが、私が自決するには十分な威力がある。
手りゅう弾が爆発し、私の意識はそこでなくなった。
……なくなったのだが、それからどれだけの時間が経過したのか分からない。
1分だったのか、1時間か、もしかすれば1年以上なのか。
あるいは逆に少ないのかもしれない。
私が目を開けると、そこにはクリスタルロボットの姿があった。
「なぜだ!私は自決したはずだ!」
「クスクス、私は偉大なる魔神王陛下に仕える、中位魔神クリスタ。死ごときで神の前から前から逃げ切れると思うとは、浅はかですね」
「か、神だと!」
「そうです。なのであなた1人の生き死になど、私にとって、掌の上の出来事に過ぎない」
私の前で、クリスタルロボットが笑った。
その笑みは嫣然としていたが、私には死神より恐ろしい化け物の笑みに見えた。
「く、来るなー!」
私はまるで幼子に返ったかのように、目の前の化け物から目を逸らし、必死になって逃げようとした。
だが、クリスタルロボットに捕まれて、逃げられない。
「ああ、クソウ!」
ならばと、腰にあったレーザー拳銃で、自分の胸を貫こうとする。
「何度も生き返らせるのは手間なので、これ以上自殺しないでもらいましょう」
「ギャアアッ」
私の2度目の自決は、クリスタルロボットが私の腕をへし折ることで、阻止してきた。
「い、イヤだ。私は捕虜になどならん。こんな化け物の住処になど、いたくない」
「フフフ」
私が相手にしていた敵は、単純な生物ではなかった。
死んだものを蘇らせることもできる、邪悪な魔の神。
そうとしか表現できない者が巣くう、魔窟へ侵入してしまったのだ。
あとがき
現在のダイワの危険度。
クレトの戦闘能力は、クリスタとは比べ物にならないほど高い。
そして、おつむは弱い。
やることも適当、いい加減、その場の思い付き。
ただし現在睡眠中。
クリスタは死者の蘇生を行うことが可能。
もちろん、自決くらいで許してくれないで気を付けよう。




