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61 惑星破砕砲を撃ってみたり、ギャンブルをしたり

 とある日の事。

 宇宙戦艦ダイワは、ガルデミラン帝国軍と幾度かの交戦を繰り返しつつも、そのすべてを撃退。

 現在敵勢力は確認されず、平穏な宇宙航行を続けている最中にあった。


 あったのだが……



「惑星破砕砲発射―!」

「惑星破砕砲、発射します!ヒャッハー」


 クレト艦長の何も考えてない能天気な命令によって、ダイワの惑星破砕砲を、無目的に発射することになった。


 クレト艦長だけでなく、惑星破砕砲の引き金を引くゴブリン戦闘主任までノリノリだ。


 子供であれば持っている玩具は使ってみたいもの。


 軍国主義者や独裁者は、新兵器や強力な武器は使わずにいられないもの。

 よほど惑星破砕砲を使ってみたかったようで、2人は超ノリノリだ。


 とはいえ副長である私も、ダイワ最強の兵器である、惑星破砕砲の威力を一度見てみたかったので、命令を撤回させなかった。


 そうして発射されるダイワの主砲だが、強烈な閃光が生み出されるために、ブリッチクルーは全員サングラスをかけて見物だ。


 我々ゴブリンや、グレー、ドワーフたちはともかく、中位魔神であるクリスタさんや、さらに高位の存在であるクレト艦長ならば、サングラスをかける必要などない。


 だがしかし。


「チッチッチッ。様式美、お約束という奴を無視しちゃダメなんだよ」

「はい、艦長」


 指を振りながら、訳知り顔でクレト艦長はそんなことを宣った。

 クリスタさんも逆らうことなく、サングラスを装着する。



 そうして発射されたダイワの惑星破砕砲。

 何もない宇宙空間で発射したので、何もない場所を突っ切っていった。


 破壊する対象がないと、いくら強力な兵器でも地味に見えてしまう。



「報告します。ステルス状態にて亜空間に潜んでいた、ガルデミラン帝国艦隊の反応をキャッチしました」

「なんだと!」


 レーダー担当のクリスタさんからの報告に、私は思わず慌てる。


「惑星破砕砲の射線上にいたため、そのまま敵艦隊が飲み込まれてしまいました。推定艦数7。全て惑星破砕砲によって破壊されました」

「……」


 敵の奇襲に慌てたが、惑星破砕砲の一撃がすべて粉砕してしまった。

 あまりの出来事に、私はしばし茫然となってしまった。


 クレト艦長の命令で適当に惑星破砕砲を撃ったら、ステルス状態にあった敵の艦隊を壊滅させしまった。

 あまりにも出来過ぎではないだろうか。


「まさか艦長は敵が潜んでいることに気づいていたのですか!」


 私はクレト艦長の勘の鋭さ……いや、高位魔神が持つ感覚の鋭さというべきだろう……それがダイワのレーダーを遥かに上回ると気づいて、ハッとさせられた。


 ただし賞賛の声を艦長に送ってみれば、なぜか目を逸らされた。


「と、当然じゃん。僕ってこれでも高位魔神の1柱なんだよ。アハハーッ」

「……ただのまぐれ当たりだったんですか?」

「ソ、ソンナコトナイヨー」


 艦長の言葉は、思い切り片言だった。


「それよりクリスタちゃーん、お酒飲むからお酌よろしく」

「酒を飲むなら、もちろん俺も参加だ」


 この場を誤魔化すように、クレト艦長はクリスタさんにお酒の酌を頼んで、ブリッチから出ていってしまった。


「完全にただのまぐれ当たりだな」

「だな」


 私だけでなく、ブリッチに残ったグレー科学主任も同意する。


「いくら高位魔神でも、ステルス状態にある艦隊を見つけるなんて無理だろう。何しろガルデミラン帝国の科学技術は、グレー連邦より上だからな」


 そう口にするグレー科学主任だった。



 この日の出来事は、これで終わりだ。






 ところでダイワは巨大戦艦というだけあって、その内部に400人近いクルーを収容している。

 ゴブリン兵士たちは約300柱。

 それ以外にも大賢者の塔から、今回の旅に同行した科学者などがいるため、彼らを合わせると400名近いクルーとなった。


 科学者たちの目的は未知の探求。

 宇宙空間という、大賢者の塔から見ても、まだまだ分からないことだらけの世界を、探求したいと言ってついてきたのだ。

 強制されて連れて来られたゴブリン兵士たちに比べ、科学者たちは目的合っての同行だった。


 だがこれだけの人数の腹を満たすとなると、ダイワの食堂はいつも戦場のようなにぎやかさに包まれる。


 料理担当のクルーたちが、いつも怒鳴り声や罵声を上げている。


 上級士官の食堂は、下級士官用の食堂とは分けられているものの、副長という任務がてら、私はたまに下級士官たちが集まる食堂の様子も見ていた。


「さあさあ、半か長か、どっちでござんしょう。ドンドン賭けた賭けたー」

「半に銀貨20枚」

「長に今月の給料全部だ」


 しかし食堂から、賭け事をしている声が聞こえてくる。


「コラ、お前たち、艦内で賭け事は禁止……」


 私は副長として、軍規に乗っ取り、注意しようとした。


「ホヘッ?」


 だが食堂にたどり着いてみると、そこでは首をかしげて私の方を見るクレト艦長の姿があった。


「……艦長、軍規違反なので賭け事はやめてもらえませんか」

「ヤダー」

「この艦のルールだから、ダメです」

「じゃあ、艦長命令で賭け事は合法にしちゃおー」


 ……

 艦長自ら、艦の風紀を乱さないでもらいたい。

 私はそう思うが、この艦長相手に逆らうことができない。


 地位という意味でも、腕力という意味でも。


「ということで、皆ドンドン賭けていこうか。今回は特別企画ということで、賭けに勝ったら高位悪魔3体の魂をあげちゃおう」

「うおおー、すげー。けど、俺らみたいな下級魔神だと、高位悪魔の魂もらっても、使い道がねぇ」


 高位悪魔の魂とか、一体どこから調達してきたのだろう。

 いや、艦長相手に考えるだけ無駄か。


「パワーアップに使おうよ」

「俺たちみたいなザコだとだと、逆に悪魔に体乗っ取られるのがオチですよ」


 私の前で、クレト艦長とゴブリン兵士たちの会話が続いていった。




 この時は、事件はこれだけで済んだ。



 だが後日、私が再び見回りがてら下士官用の食堂を訪れた時のことだ。


 私が下士官食堂近くを通りかかると、やたらと騒がしい音が鳴り響き、ジャラジャラと大量の金貨でもこすれるかのような音が響いてきた。


「今度は何があったんだ?」


 またしてもクレト艦長か!

 そう思いながら下士官食堂にたどり着くと、そこでは……


「さあ、ジャンジャン賭けて儲けて行ってちょうだい」

「そこの素敵なお兄さん、こっちのカードで遊ばない」

「スロットもあるわよー」

「はーい、新しいお客さんのご入店―」


 頭から兎の耳をはやした兎獣人族が、バニーガールの格好をして、たくさんいた。


 下士官用食堂だったはずの場所が、光でライトアップされ、様々な遊具台が置かれている。


「こ、これは一体何なんだ……」


 私の知っている下士官食堂の光景が、一片も残っていない。

 魔改造などという次元を超えた、別の何かへ変わっていた。


「あら、ゴブリンのお兄さんは初めて見る顔ね。ここは大賢者の塔カジノルーム宇宙戦艦ダイワ支店よ」


 兎獣人のバニーガールが、私の前で説明してくれる。

 バニースーツに包まれた胸が盛り上げられていて、ちょうど私の目の前でタプンタプンと揺れ動く。


「カ、カジノルーム?」

「そうそう。ちなみにオーナーはクレト様ね」


 そう言いながら、片目をつむってウインクするバニーガール。


「いや、だがここは下士官食堂だったはず。どうしてこのようなことに」

「うふふ、小さなことを気にしてないで、お兄さんもドーンと賭けて楽しんでちょうだい。さあさあ、こんなところに突っ立ってないで、軽くスロットで賭けてみる?それとも悪魔相手に、魂と人生を賭けたスリル満点の大博打もできるわよー」

「わ、私はこの船の副長で、賭け事などという風紀が乱れ……」

「もう、お堅いことばかり言っちゃって。どうせ男の頭の中なんて単純なんだから、こうしてあげる。えいっ」


 私は副長として、断固抵抗しようとした。

 だが、そんな私の腕をバニーガールが掴んだかと思うと、その拍子に私の腕がバニーガールの大きく膨らんだ胸に当たった。


 な、なんと言う恐るべき弾力。

 魔物だ。

 夜の魔物サキュバスですら恐れる、膨らみだ。


 ついつい私は鼻の下が伸びてしまい、口元がだらしなく緩んでしまう。



 バニーガールの魅力に抗えなくなり、私は近くにあったカードのテーブルに案内されてしまった。


「……」


 だがそのカードテーブルには、先客として我らゴブリンの高嶺の花、クリスタル魔神のクリスタさんの姿があった。


「ハッ、違うんだクリスタさん、これはほんのちょっとした事故で……」


 憧れのマドンナが私のことを見ていた。

 だが、タイミングが悪すぎる。


 私がバニーガール相手にだらしない顔をしていたところを見られるなんて、あんまりじゃないか。


 私はしどろもどろになって、誤解だとクリスタさんに伝えようとした。


 だけどクリスタさんは私のことになんてまるで興味ないといった様子で、すぐに顔を逸らしてしまった。



「ク、クソウ。クリスタさんの中で、私の評価が下がってしまう」


 クリスタさんと同じ空気を吸えるだけでも嬉しいが、もし明日から見下されたらどうしよう。

 そうなったら、私は同じブリッチで働くメンバーとして、クリスタさんと一緒の場所にいるのが辛くなってしまう。

 淡い恋心が粉砕され、心が砕け散ってしまう。


「ロイヤルストレートフラッシュー!」

「まあ、流石は艦長」


 なんて思っていたら、クリスタさんの横にクレト艦長がいた。


「アッハーッハッー、掛け金は全額いただきねー」


 カードで派手に勝って、気をよくしている艦長。

 そんな艦長に抱き着いて、クリスタさんも嬉しそうにしていた。


 もちろん、クレスタさんの視線の中に、俺なんて存在は微塵も映っていない。



 ああ、知ってたよ。

 クリスタさんから見れば、俺なんていないも同然の、ただのゴブリンに過ぎないってことくらい。


 クリスタさんは俺なんかより、クレト艦長のご機嫌取りに忙しいんだな……



「副長もカードするの?普段はお堅いことばかり言ってるけど、やっぱり人生は楽しまないと損だよねー」


 そんな私の前で、クレト艦長は能天気な笑顔をしていた。


 この艦長の能天気すぎる顔を、殴りたくなってしまった。

 まあ私が殴り掛かったら、拳が届く前に反撃されて、私の体がミンチになってしまうだろう。


 何しろ相手は、大賢者の塔指折りの高位魔神、クレト様なのだから。

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