59 旅立つ船はダイワ
まえがき
今回から、第2章-εとなります。
それと最初はファンタジーで書いてたのですが、ジャンル詐欺が激しくなりすぎたため、ファンタジーからSFにジャンル変更しました。
(2019/11/1)
私はゴブリン副長。
栄えある魔神王アーヴィン様の配下にして、低位魔神の1柱でもある。
現在は大賢者の塔にて、ゴブリン宇宙軍次席の地位にあり、ゴブリン提督に継ぐ実力者である。
……なのだが、こんな地位は大賢者の塔においてはたいして意味をなさない。
ゴブリンの中では私は上から数えたほうが早い実力者でも、高位魔神様から見れば、ただの小間使い程度の存在。
「さらばーローラシアよ。旅だーつ船はー、宇宙戦艦ダーイーワー」
現に本日は高位魔神の1柱、クレト様に拉致られてしまい、300余名のゴブリン宇宙軍の兵士たちと共に、宇宙戦艦ダイワの運用を(強制的に)任されていた。
既にダイワは大賢者の塔を飛び立って、宇宙空間を航行中だ。
私はダイワの副長席に腰掛け、隣にある艦長席にはクレト様が座っていた。
しかし、なんでこうなったのだろう。
クレト様曰く、隣の銀河系に行くとのことだが。
「クレト様、どうして隣の銀河系にわざわざ出向かれるのですか?」
「放射能除去装置が売ってるからー」
「は、はあっ……」
クレト様は大賢者の塔において、アーヴィン様、メフィスト様に次ぐ3番目の実力者。
噂では単純戦闘力だけならば、メフィスト様を上回るとされる高位魔神様で、我々から見れば雲上人と言っていいお方だ。
……なのだが、大変失礼ながら、それに反比例するように、頭が悪い。
何も考えてない。
魔神王陛下は、バカ扱いしている。
「なぜ、放射能除去装置を買いに行くのですか?」
「主が惑星大気圏内で核兵器を使ったら、放射能汚染が起きて生き物が住めない星になるから、使っちゃダメって言うからだよー」
「は、はあっ」
言っている意味がよく分からない。
「放射能除去装置があれば、放射能汚染も怖くなくなるよね。大気圏内で核兵器使い放題になるよ。ワッホーイ」
「……つ、つまり大気圏内で核兵器を使いたいから、放射能除去装置を取に行くと?」
「そうだよー」
クレト様は何も考えてなさそうなに、陽気な声で頷いた。
しかし、よくよく考えれば理解できる。
「確かに、放射能汚染さえなんとかできれば、地上で核を撃ち放題ですね」
「だよねー。僕って頭いいでしょうー」
「確かに、悪くない考えです」
核を地上で使ってはならない最大の理由は、威力でなく、放射能汚染によって惑星が死の星になってしまうから。
しかしその問題を解決できれば、核兵器をいくら使ってもいいと言える。
「大変、素晴らしい考えですね」
「エッヘン」
目から鱗。
クレト様は頭が残念な方だとばかり思っていたが、その考えに私は感動させられた。
世の中の独裁者や軍国主義者なら、垂涎もののアイディアだろう。
私は支配者ではないが、魔神の1柱として、クレト様の考えに深く賛同した。
「……全然素晴らしくないだろ」
だが、不満を述べる声が上がった。
ブリッチクルーの1人。
今回のダイワの旅に同行した、技術部門を統括するドワーフの男だ。
現在は、ダイワの技術主任としてブリッチクルーの1人になっている。
「技術主任、クレト様のアイディアに何か不満が?」
「核兵器撃ち放題なんて、星がボロボロになるだろ。そんなことをしたら、うまい酒が飲めなくなっちまう!」
ドワーフの性か、技術主任はそんなことを言ってきた。
「えっ、おいしいお酒が飲めなくなっちゃうの?」
「そうだぞ。クレト様よ、核なんて使いまくったら、酒の材料がある畑や、醸造所だってだってメチャクチャになっちまう。そうなったら、うまい酒が作れなくなってしまう。そんな世の中、俺は御免だぜ」
「お、お酒、飲めない……ウ、ウウウッ」
ドワーフも酒好きだが、クレト様も大の酒好き。
互いに気の合うところがある故か、目に見えてクレト様が動揺した。
「でも、ローラシア以外の有人惑星で使えば問題ないよね。僕って頭いいー」
動揺したけれど、すぐに自己解決してしまった。
「まあ、別の星だったら問題ない……かな?」
ドワーフ技術主任も、クレト様の考えに適当に頷いた。
「頼むから、俺たちの星でも核を使わないでください」
ただし、今度は強制拉致られメンバーの1人。科学技術者で、現在はダイワの科学部門主任になっているグレーが嘆く。
「大丈夫だよ。グレーとは仲良くしなきゃダメだって主が言ってたから、グレーの星では使わないよ」
「本当に頼みます。俺たちの星を滅ぼさないでください」
「うんうん、分かってるよー」
グレーの大きな瞳に、涙らしき汁が流れていた。
一度高位魔神様たちが原因でグレーの母星が滅びたとあって、グレーの態度はかなり必死だった。
こんな感じで会話をしつつ、ダイワは宇宙空間を進んでいく。
ワープ航行も可能なダイワなので、ワープを使いつつ、隣の銀河目指して航海していく。
「……暇だねー」
「星を見飽きたら、宇宙の旅なんてこんなものですよ、クレト艦長」
星を見ながらの旅だったが、早くもクレト様……艦長と呼ばないとダメだと言われたので、今では艦長と呼んでいる……が、退屈し始めた。
「そもそも転移魔法使えば、隣の銀河系でもすぐに行けるんじゃないですか?」
高位魔神様の真の実力がいかばかりか。
その限界を私は知らないが、クレト様ほどの実力であれば、転移魔法ひとつで、この宇宙内ならどこでも一瞬で行けると、私は思っている。
だけど艦長の考えは、少し違っていた。
「チッチッチッ、旅って言うのはね、道中でブラリと寄り道するから楽しいんだよ。転移魔法を使ったら、寄り道の楽しさがなくなっちゃうよ」
「ハアッ、できないわけじゃなくて、やる気がないってことですか」
「そうそう。お菓子でも食べながら、外の景色見てるのが楽しいよねー」
なんて言って、艦長はどこからともなくお菓子の袋を取り出して、バリボリと咀嚼し始めた。
「コラー、ブリッチは飲食禁止だ。食い物食いたきゃ、食堂か艦長室にでもいってろ!」
「はーい」
ドワーフ技術主任に怒られてしまう艦長。
大人しく叱られて、元気よく返事をすると、さっさとブリッチを出ていこうとする。
「クリスタちゃーん。艦長室でおつまみ食べながらお酒飲むから、お酌よろしくー」
「はい、艦長」
艦長はブリッチを出ていく前に、ダイワのレーダーを担当している、クリスタル魔神のクリスタさんに声をかけた。
大賢者の塔にいる魔神たちは、元が魔族なので、種族名はあっても個体名を持つ者は少ない。
魔族とは、名前がないのが普通の生き物だからだ。
そんな中でクリスタさんは、珍しく名前を持っている名前持ちだ。
それも魔神王アーヴィン様から、直々に名前を賜るという、名誉ある存在だった。
「クリスタちゃーん」
「やん、艦長」
艦長はセクハラ親父の如く、クリスタさんの胸をタッチする。
クリスタさんも満更ではないようだった。
見た目が美人のクリスタル魔神のクリスタさん。
ブリッチのクルーの中では紅一点で、美女のクリスタルの体はとても可憐だ。
彫像めいた美しさではあるものの、滑らかに動いて見せるクリスタさんには硬質的な硬さがなく、女性らしい柔らがあった。
「艦長羨ましすぎる……」
そんな艦長の姿に、私は思わず呟いてしまった。
クリスタさんは、我らゴブリンから見れば高値の花。
「艦長、俺も酒の席に混ぜてくれー」
そしてそこに、ドワーフ技術主任まで加わろうとした。
「いいよー、お酒の飲み比べで賭けよっかー」
「おうとも、ドワーフ相手に酒で勝負をしてくるとは、艦長も分かってるじゃないか」
「フフン、酒好きなのはドワーフだけじゃないよ。地獄の鬼だって負けてないんだからねー」
「ガハハ、俺様だって負けねえからな」
そんな風に言い合って、3人がブリッチから出ていった。
「いいな、クリスタさん」
「ゴブリン副長、あんたも行っていいんだぜ」
ブリッチに残された私に、グレー科学主任が言ってきた。
「いや、どうせ俺なんかクリスタさんの視界にすら入ってないよ。高嶺の花には、俺なんて相応しくないもんな……」
「あんた見た目は怖いのに、案外奥手なんだな。そんなのだと、結婚の機会を逃しちまうぞ」
生まれた星が違う異星の住人だが、グレー科学主任と私はそんな話をする。
「結婚か。だけど俺、一応神の1柱だから、結婚しても子供ができないんだよな」
「えっ、そうなの!神様ってのは何でもできると思ってたけど、まさかそんな欠点があるとはねえ。生物的に頂点にいるから、繁殖できないのかな?生物学的に気になっちまう」
やはり科学者だからか、グレー科学主任はそんなことを言いだした。
とはいえ、大賢者の塔の科学者たちも自分の興味を優先するので、こういうことに私は慣れている。
「私みたいな低位魔神だと子供ができない。高位の方々も子供はできないが、代わりに分体や眷属を作ることができるな」
「分体に眷属?子供とどう違うのか、興味がわくな」
気が付いたら私の淡い恋心の話から、グレー科学主任の興味へと話が移っていた。
ああ、クリスタさん。
あなたは高根の花だけど、ブリッチの中で同じ空気を吸えるだけで、私は満足だ。




