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53 大賢者の塔御一行様、超巨大宇宙要塞で異世界へ行く

 異世界とはいえ、銀河系をひとつ支配する、銀河帝国皇帝に会う。

 予期していなかった事態だが、既に了承してしまったので、今更なかったことにできない。


 相手の身分を考えれば、さすがに俺が身一つで行くのはダメだと思い、準備してから行くことにした。


 そのせいで、準備に1週間もかかってしまった。



「田舎者が初めて都会に行くから、おめかししてるみたいですね。まるでお上りさんじゃないですか」


 そんなことを言ってきたのは、メフィストだ。


「しかたないだろ。銀河系ひとつ支配している帝国の皇帝だぞ。さすがに、このまま行ったらダメだろ」

「銀河を支配しているといっても、所詮は下等生物が相手です。主からすれば、塵芥の存在ではないですか」


 メフィストの病が重すぎる。

 こいつは俺以外の全員を、常に見下して貶していけいと気が済まないのだろうか。

 俺に対しても、若干貶しが入っているけどな。



 しかし今のメフィストは、美人な見た目になっているので、冷徹な目で見下されると……


 ローラシアを管理している駄女神のように、変な扉が開いたら大変なので、俺はそこから先を考えるのをストップさせた。




「でも兄上、本当にこの宇宙要塞に乗っていくつもりですか?」


 そしてもう1人。話しかけてくるのは、弟のクリスだ。


 向こうの皇帝と会うにあたって、宇宙空間に浮かんでいた巨大岩石を改造して作った、超巨大要塞に乗り込んでいくことにした。


「銀河帝国の皇帝様に合うんだぞ。できるなら、こっちも宇宙艦隊を勢ぞろいさせて向こうの世界に行きたいが、試作段階の宇宙船を作ってる段階だからな。今回は要塞で我慢するしかない」


 全長60キロの要塞。

 銀河系の支配者に会うからには、こちらも魔神王としての体面を立てなければならない。


 俺の場合はなんちゃって魔神王だが、それでも一応支配というか、大勢の部下を抱え込んでいる。

 どいつもこいつも、星を壊すとか、ヤバい実験をしでかすとか、駄女神といった連中で、銀河系の支配者を相手にして、自慢できるような部下でない。


 それでも、魔神王としての体面を立てておく必要がある。

 要塞一つでは相手に侮られるかもしれないが、それでも何もないよりマシだ。



「フフフ、ようやく私の作った要塞が、日の目を見る時が来ました」


 なお、銀河皇帝に会うにあたって、この要塞の設計・建造の責任者である、リッチ技術者も同行している。

 自分の作った要塞で、向こうの世界に行くことに興奮しているようで、とても嬉しそうにしている。


「……お前、この前は骨の姿だったのに、なんで人間の姿になってるんだ?」


 ところでリッチ技術者だが、なぜか銀色……というよりは白髪だな。

 真っ白な髪に、それなりに整った顔立ちの人間の姿をしていた。

 ぎりぎりイケメンに分類できる程度に、顔立ちがいい。


 むろん高位魔神たちと同じで、これは”人化”によるものだ。

 なので、本来の姿は骨のままだ。



「要塞が完成した後、建造に携わったメンバーと一緒に完成祝いがあったんです。商業フロアにある、美人エルフがいる夜のお店に行ったんですが、骨の姿だとモテなかったんです」

「そりゃ、骸骨がモテるなんて、かなり特殊なケースだけだろうな」


 骸骨愛好家のエルフなんて、この塔にはいないと思う。

 絶対と言い切れないのは、この塔にはアンデッド研究者が多いので、ひょっとするとそういう特殊な趣味のエルフがいるかもしれないからだ。


「そこで人間だった時の姿をとってみたら、モテたんです」


 そこでニヘッと笑う技術者。

 イケメン度が低下して、なんちゃってイケメンになってしまった。

 残念系イケメンだな。


「そうなのか。それで、以後人間の姿をとるようになったんだな」

「はい。おかげで、今度エルフのマリリンちゃんとデートの約束までしちゃいました。フフフッ、今の俺にはモテ期がきてるんだー!」


 なんて言って、技術者は有頂天になっていた。



 なお、この技術者だが、名前はロージという。

 既に死者(アンデッド)なのに、今になってエルフとデートできるとは、世の中何があるか分からない。


 とりあえず、2人がうまくいくことを祈っておこう。

 このロージを見ていると、生前は一度もデートしたことがない童貞オーラを感じるので、うまくいって欲しいものだ。

 まあ、既に本来の体には肝心なものがなくなってるので、ロージが童貞卒業するのは不可能だけど。



 このロージ以外にも、現在塔のドックで宇宙船の試作をしている技術者たちも、勢ぞろいしていた。

 なんでも現物の宇宙艦隊を直接見たいというのが理由で、ついてきた。


 彼らの参考になってくれるといいな。



「宇宙艦隊。フフフッ、全て私のものにする」


 そして要塞に乗り込んでいるメンバーには、イリアもいる。


「イリア、間違っても向こうの国と戦いになったり、略奪なんてことにはならないからな」

「……そうなの?」

「そうだぞ」


 小首をかしげて、不思議そうにするイリア。

 宇宙艦隊至上主義を掲げているが、艦隊がないなら略奪して自分の物にしてしまえという考えに、たどり着いて欲しくない。


 クレトだけでなく、高位魔神たちのバカな考えに、染まってほしくないものだ。



 なお、クレトは現在隣の銀河系に向けてダイワで航海している最中で、今回は欠席だ。




「……」


 こんなメンバーたちの中に、今回新しく、銀髪の美人さんが加わる。


 エルフ以上に整った姿をしているが、美女というか、美青年というか、性別の判断に困る見た目をしている。


 クリスも、やや女性寄りの中性的な容姿をしているせいで、性別不詳に見られてしまうことがあるが、それに負けず劣らず、この美形さんも性別を感じさせない。




「アカシックレコードさん」

「はい、造物主」


 この美人さんだが、実はアカシックレコードさんだ。

 正確には、アカシックレコードさんの分体。


 塔の技術者集団といろいろやり取りをしているのだが、本体が銀河系サイズのせいで、話し合いや会議がし辛いらいらしい。


 そこで生物実験大好き科学者のロウハメドゥー老師の協力を得て、人間サイズの大きさで活動できる分体として、この体が用意された。


「望むのであれば、不老不死の神の体も用意しますぞ」

 なんて感じで、ロウハメドゥー老師はノリノリだったが、アカシックレコードさんの体は、普通の人間のものだ。



 神の体に比べれば、普通なんだけど……


「アカシックレコードさんの性別って、どっちなの?」

「私の本体には、そもそも性別と呼べるものが存在しないので、男でも女でもありません」

「じゃあ、その体は?」

「ロウハメドゥー老師に肉体の製造を要請した際、性別はなしにしてもらいました。なので、この体も男でも女でも、中性ですらありません」


 アカシックレコードさんの性別が、不明、もしくはなしとのことだ。

 分体である人間の体も、それに倣って性別不明かなしだ。



 中性的で、ややもすれば性別の判断に困るクリス。

 昔は戦女神で、その後は男の悪魔に転生し、両方の性別経験があるメフィスト。

 そして今度は、性別が存在しないアカシックレコードさん。



 いろんな意味でぶっ飛んでいる連中が集まる大賢者の塔だが、アカシックレコードさんまで、その枠の一つに入ってしまった。


 なお、この枠の中に、野太い声を出すメイドは加えない。

 あれは、俺の精神的外傷(トラウマ)なので、存在そのものを思い出したくない。




 こんなメンバーたちが要塞に揃っている。


 さらに今回の話を持ち掛けてきた高位魔神の1柱、種族名はシャドウと呼ばれる(シャドウ)魔神が加わるのは当然として、塔で暇を持て余して、適当についてきた高位魔神も数柱加わった。




 そして、要塞を動かすためのクルーとして、ゴブリン宇宙軍の面々も加わる。


「提督、総員配置完了。すべての準備が整いました」

「うむ、ご苦労である」


 部下のゴブリンから報告を受けているのは、宇宙軍を率い、今回は宇宙要塞司令官の任にあるゴブリン提督だ。


 以前は試作宇宙軍だったが、これからは塔の正規軍として活躍していってもらうつもりだ。

 宇宙艦隊の建造が始まれば、彼らが実際に艦隊を動かす人員になるからな。




 さて、部下からの報告を受け取った提督は、改めて俺の方を向いた。


「アーヴィン様、全ての準備が整いました。いつでも出発可能です」

「よし、それじゃあ行くか」


 ということで、銀河帝国皇帝に会うために、要塞ごと別世界の宇宙へ飛ぶとしよう。



 銀河を作るのに比べれば、宇宙要塞を異世界に飛ばすなんて簡単なこと。


 俺は魔力を込めて、目的の異世界へ要塞を飛ばした。






「要塞上部エリアに被弾。被害エリアの範囲を測定中……要塞の3割の施設から連絡が途絶えました」

「第6、7、8番核融合炉からの反応途絶」

「放射能汚染は確認されず。発電施設ごと、消滅したものと思われます」


 ……

 要塞を異世界に飛ばした次の瞬間、床が大きく振動したかと思うと、司令室にいるゴブリンオペレーターから物騒な報告が上がってきた。


「……俺は何もしてないぞ」


 要塞を異世界に飛ばす際、ミスってなんかないぞ。

 とりあえず、俺は無実だと口を開いた。

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