52 惑星ザルギース攻防戦
銀河帝国と名を改める前の銀河連邦は、民主制をとる国であり、国策の最高機関である評議会にて、多数決の採決をもって、国の方針が決められていた。
かつてはそれでよかったが、もはや民主主義は力を失い、民衆のみならず、議員を務めるような者までが、無知蒙昧な輩へ転落していた。
民衆は自由という名の責任を伴わぬ無分別を叫び、官僚たちは汚職を当然のこととする。
議員たちは形骸化した選挙で選出されるが、そのほぼ全てが代々議員を務めてきた家系ばかり。世襲制となんら変わらない状態になり果てているうえに、政治を執り行うほどの理性が奴らにはない。
ゆえに銀河帝国は民主主義などという衣を捨て、新たに選ばれた者によって統治される国家へ変貌しなければならない。
そのために、余は皇帝となったのち、無能どもを粛正していった。
血筋のみを誇る、知恵のないバカを一族ごと消し去り、余の治世に反対を唱える愚かな民衆を殺戮した。
余1人に絶対権力を集中させ、余が選んだものによって、帝国の統治を行わせる。
粛正によって20億の人口が消えたが、銀河全体からすればホコリのようなもの。
なくなったところで、気づくことさえない数だ。
だが、何を勘違いしたのか、民主制の復古を唱える連中が反旗を翻した。
帝国軍を掌握している余の元には、1万隻を超える宇宙艦隊が存在する。
軍事的優勢は余にあるのに、能書きだけを垂れるバカには、現実というものを教えてやらなければならないらしい。
惑星ザルギース。
民主制復古を唱える、銀河帝国に反旗を翻した”反乱軍”の拠点となった星。
余自ら赴き、この星を銀河より消し去ることで、反乱軍の息の根を止めてくよう。
今回反乱軍を鎮圧するために、宇宙艦隊を招集した。
全長120キロの大きさになる、艦隊旗艦として主に用いられるエンペラー級3隻。
80キロ級大型戦艦、スターバースト級26隻。
空母80隻と、そこに搭載された戦闘機群1万機以上。
対大型艦戦闘に長けたミサイル艦に、小型艦のコルベット艦に至っては、数えることすら意味がなくなるほど。
総勢1千隻の艦隊。
そこに動員された人員は、実に120億に達する。
有人惑星一つ分の人口を有する艦隊だ。
もっとも、それらすべてを圧倒するのが、我が帝国の新兵器として建造された、人工惑星スターブレイカー。
全長6千キロにおよぶ完全機械仕掛けの人工天体で、この巨大なサイズにありながら、ワープ航法が可能。
さらには、対惑星兵器として開発された、惑星破砕砲が搭載されている。
銀河連邦時代においては、対惑星兵器の開発自体が禁止されていたが、余が皇帝となった折に法を改め、開発させた。
スターブレイカーは、シールドと通常兵器を搭載しているものの、主目的は艦隊戦になく、惑星を破壊することにある。
「惑星ごと破壊することで、余に楯突くことがどういう事か、銀河系全ての民に知らしめる必要がある」
余は惑星ザルギースを破壊する。
それによって反乱を企てる愚か者を始末すると同時に、これ以上余に無用な戦いを挑む愚か者を出さないための方策とした。
つまりは、見せしめだ。
「我が弟子、黒仮面卿よ」
「ハッ、御前に」
そして余は、今回の戦いにザ・パワーの暗黒面に長けた弟子である、黒仮面卿を共として連れてきた。
余が教えてきた弟子たちの中で、もっともザ・パワーを使いこなし、余に次いで優れた才を持つ者である。
「卿が艦隊を率い、反乱軍どもを始末せよ。しかる後、スターブレイカーによって、惑星ザルギースを破壊する」
「承知いたしました、我が師よ」
余の命を受け、黒仮面卿は艦隊の指揮を執るべく、エンペラー級の1隻へ向かっていった。
「さて、愚か者たちが死にゆくさまを、特等席にて見物させてもらおう」
余はスターブレイカーの司令室に留まり、ここから滅びゆく反乱軍の姿を眺めることにした。
さて、布陣した銀河帝国軍宇宙艦隊に対して、反乱軍は300隻程度の艦隊で挑んできた。
反乱軍にしては予想外の数であるが、銀河系辺境地帯に巣くう、無法者たちの戦力を取り込んだものとみえる。
銀河系辺境地帯は、連邦時代に続発した反乱が原因で、統治の手がほとんど及ばない地となっていた。
そのために、無法者どもが幅を利かせてしまっている。
帝国時代になってからも、未だに内部の混乱が収束していないため、辺境地域の秩序回復に向ける軍事的、政治的余力がなかった。
とはいえ、帝国内部のゴタゴタが片付けば、次は辺境地帯の秩序回復のために、艦隊を派遣するつもりだ。
「ちょうどいい。奴らが合流したというのであれば、この機にまとめて叩いてやればよい」
敵の戦力が合流して増強されてしまったが、この1戦でまとめて駆除してしまえばいい。
奴らの戦力を何度も叩き潰して回るより、1度の戦いでケリを付けたほうが早く済む。
それに反乱軍には、帝国軍に存在す120キロ級エンペラー級がなければ、80キロ級大型戦艦スターバースト級相当の軍艦がない。
最も大きいもので、40キロ級の巡洋艦クラス。
その他中小の戦力がひしめいているものの、戦艦クラスが欠如している有様だった。
艦の性能は帝国軍が上回り、数でも圧倒している。
「なんと愚かな者どもか。勝てぬと理解すらできぬのか?それとも星を破壊されまいと、必死になって戦力をかき集めたか?」
銀河連邦時代から、対惑星兵器が登場することがなかったため、この銀河で星が人為的に砕かれたことはなかった。
だが、今やそんな戦い方は過去のものとなった。
今回の戦いに、対惑星兵器を装備するスターブレイカーを投入したことで、反乱軍側は星を破壊されまいと、悪あがきをしてきたのだろう。
「黒仮面卿よ、敵を殲滅せよ」
「イエス、我が師」
通信を介して、命令を下す。
余の命令によって、此度の戦いの火ぶたが切って落とされた。
戦闘の始まりは、両軍の戦闘機部隊の戦いからになる。
艦隊に先行して、先陣を切った両軍の戦闘機部隊が接触する。
反乱軍側は、拠点である惑星ザルギースがあるため、惑星から出撃した戦闘機も存在する。
そのため艦隊の規模に比べて戦闘機の数が多く、実に3千機に及ぶ数となった。
ただし、その多くが旧式であり、帝国軍の最新鋭戦闘機を相手取るには、1世代ほど古い。
接触と同時に、帝国軍の戦闘機が放つレーザー攻撃によって、反乱軍の戦闘機が次々に撃墜されていき、戦力差が開いていく。
反乱軍側も抵抗するものの、数と質で帝国軍が圧倒している以上、戦闘と言うよりも、一方的な蹂躙戦と言っていい戦いになる。
戦闘の第一幕である戦闘機部隊の戦いは、帝国軍の圧倒的優位となる。
反乱軍の戦闘機部隊を蹴散らし、敵の艦隊に肉薄して、制宙権を確保する。
この頃になると帝国軍艦隊の後方に布陣するミサイル艦隊が、大型ミサイルを放って攻撃を開始する。
ミサイル艦は非常に脆弱な装甲しかなく、接近戦闘ができない艦だ。
ただし、発射する大型ミサイルは超長距離攻撃が可能で、その一撃は大型艦相手に無類の強さを持つ。
当たり所によっては、帝国軍が誇るエンペラー級とて、一撃で沈む可能性がある。
もっとも大型ミサイルの移動速度は遅く、発射してから敵艦にたどり着くまでに、かなりの時間がかかる。
おまけに簡単に迎撃されるという、著しい欠点があった。
戦闘機部隊に絡まれれば、抵抗できずに落とされてしまう。
そのため戦闘機部隊による制宙権確保を行った後に大型ミサイルを発射しなければ、まず敵艦に命中することがない兵器だった。
大型ミサイルが放たれてからしばらくして、両艦隊の前衛部隊の交戦が始まる。
定石によるもので、両艦隊の前衛を務めるコルベット艦を中心とした、小型艦同士の戦いとなる。
レーザー攻撃に、短距離用ミサイルの応酬。
小型艦は攻撃力と防御力が低いものの、機動性に富んだ艦となる。
互いに攻撃を行いつつも常に移動し、敵の攻撃を回避しながら、さらに攻撃を叩き込んでいく。
防御力が低いとはいえ、それでも艦の展開するシールドが敵の攻撃をある程度防ぎ、シールドが消失しても、装甲が致命的なダメージを食い止める。
ところで大型艦単体と小型艦複数が戦闘になった場合、機動性で上回る小型艦は、機動性に劣る大型艦の攻撃を回避しながらの攻撃が可能となる。
時に小型艦の集団が、大型艦を袋叩きにして沈めてしまうことがあった。
そんな小型艦同士の戦闘を、艦隊の後方に陣取る大型艦が援護し始める。
小型艦に装備された兵装とは段違いの威力を持つ、大出力レーザー砲に、破壊力に富む光子魚雷。
大型艦の攻撃力は小型艦の比ではなく、その一撃で小型艦のシールドを突破し、装甲を突き破って、完全破壊できる。
とはいえ、先にも言ったように大型艦の動きは愚鈍なため、小型艦に自由に動き回られれば、攻撃を当てにくいという難点があった。
大型艦の攻撃は、基本的に同クラスの艦か、中型艦相手となる。
だが、未だに両軍の中型艦以上の艦が射程圏外だ。
まずは前衛を務めている小型艦の戦いに援護を加えるのが、大型艦の役目だった。
しかし、ここでも数の差がある上に、大型艦は帝国軍の独占状態にある。
反乱軍が行う支援攻撃は非常に乏しく、対する帝国軍は有り余る火力をもって、反乱軍の前衛に支援攻撃を叩きつける。
いかに機動性の高い小型艦とて、大型艦の攻撃が雨あられと降り注げば、回避しきれなくなる。
それも同クラスの小型艦と戦いつつの援護射撃であるため、より一層回避行動を難しくしていた。
そうしている間に、反乱軍の前衛部隊が崩れた。
帝国軍の前衛部隊が、反乱軍の中衛を構成している、中型艦を主とした部隊へ襲い掛かる。
反乱軍の中型艦から、これまでより強力なレーザー攻撃と、光子魚雷による攻撃が開始される。
小型艦と大型艦の中間にあるのが、中型艦だ。
小型艦には機動性で劣るものの、火力と防御力で勝る。
逆に大型の戦艦よりは優れた機動性を持つものの、火力と防御力では劣る。
聞けば中途半端に聞こえてしまうが、中型艦の長所はバランスに長けていること。
大型艦が苦手としている小型艦への攻撃が得意であり、大型艦に対しても、それなりに戦える強さがある。
さすがに大型艦相手に、中型艦1隻では戦いにならないが、それでも3から5隻もあれば、大型艦相手に対等な戦いをできるようになる。
帝国軍の前衛部隊と反乱軍の中衛部隊が激突し、両軍の後方に控えている艦から、激戦が繰り広げられる戦場へ援護射撃が入る。
ここでも数の差のため、反乱軍は一方的に屠られる。
むろん質の面でも、帝国軍に軍配が上がる。
この頃になって、ミサイル艦の放った大型ミサイルが、戦場へ到着する。
反乱軍の中型艦に命中すれば、ほぼ確実に一撃で撃沈させる破壊力をもつ。
レーザー機銃によって迎撃されることが多いものの、それでもただ1発で中型艦を沈められる威力は、驚異的な破壊力だ。
そして制宙権を帝国軍が確保しているため、反乱軍の中型艦は、帝国軍戦闘機からの攻撃も受けている。
戦闘機の攻撃力では、中型艦に対しては豆鉄砲程度の威力しかない。
それでも、中型艦のレーザー砲や光子魚雷の発射口を破壊できるので、反乱軍の攻撃力を落とすことに貢献していた。
「分かっていたが、なんと一方的な戦いであろう」
余が見ている前で、反乱軍は瓦解していき、もはや戦闘にすらならなくなった。
帝国軍が 反乱軍の中衛部隊を半壊させる頃には、反乱軍は戦闘をあきらめて全力で逃げに入っていた。
「追撃せよ。帝国に楯突く愚か者どもを、一兵残らず始末することで、反乱を終息させるのだ」
通信を介して、帝国軍を指揮する黒仮面卿の声が、全艦に通達された。
「よろしい。敵の戦力が逃げ出したことだ、余も行動を開始するとしよう」
そして敵が逃げ出せば、あとに残されるのは無防備な惑星だけ。
余が乗るスターブレイカーは巨大な人工天体であるものの、主目的が惑星の破壊にあるため、実は艦隊相手にそこまで強くない。
惑星破砕砲のためのシステムと、エネルギー確保のために、機能の多くが割かれているためだ。
むろん、これだけの巨体なので、帝国軍が誇るインペリアル級よりも、強力な戦闘・防御能力を有している。
とはいえ6千キロの人工天体と、大型とはいえ全長120キロのインペリアル級を、同列に論じること自体が、そもそも間違いだろう。
このスターブレイカーを使うためには、敵艦隊の排除は必須事項だった。
「スターブレイカーの針路を、惑星ザルギースへ向けよ。惑星破砕砲にて破壊する」
「イエス、マイロード」
余の命令に、スターブレイカーの司令官が従った。
やがてスターブレイカーが、惑星ザルギース直近の宇宙空間にたどり着く。
「惑星破砕砲の発射準備、整っています」
「発射せよ」
「イエス、マイロード」
司令官に命令を出し、余はモニターに映し出される惑星ザルギースの姿を眺めた。
惑星破砕砲のエネルギーが収束され、それが雷のような光となって星へ向かう。
直後巨大な爆発が発生して、惑星ザルギースが星の中心部より砕け散った。
有人惑星であるため、60億の人口がいたが、星ごと全て全滅した。
この星には、民間人などいない。
全て反乱軍として始末する。
「ふむ、想像していたより、あっけない幕切れだな。だが、これで余に刃向かおうとする者もいなくなるであろう。この星の死は……そうだな、魔神の王への捧げものとさせてもらおう」
余が皇帝になった折、例の魔神が再び語り掛けてきたが、未だに余は不死とはなっていない。
なんでも魔神の上位者である、魔神王なる存在が余に興味を持ったため、魔神王がこの世界に降り立った際、改めて不死にするとのことだった。
不老を手に入れ、銀河を手にした今、次に余が望むものは、決して死ぬことがない不死の肉体。
今の余は、不老ではあっても、ナイフで一突きされれば血が流れる。
そのまま放置すれば、死へ至る脆弱な肉体しかもたない。
我が師がザ・パワーの強大な力を持ちながらも、ただのナイフ1本で死んだように、銀河帝国皇帝となった余とて、未だに死の可能性から解脱できたわけではない。
早く、死を超越したい。
そのためならば魔神の気を引くために、星ひとつを生贄としてもよいだろう。
あとがき
この銀河はスター・ウォーズを元にした、なんちゃってウォーズな世界です。
なので、本家で存在するダースベイダーとか、デススターなんてものは出てこないですよ~。
少なくとも、そのままの呼び名では~




