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51 宇宙艦隊という名のロマン建造計画

「さらばーローラシアよ。旅だーつ船はー、宇宙戦艦ダーイーワー」


 ある日の事、大賢者の塔を揺るがす振動とともに、クレトの能天気で下手な歌声が聞こえてきた。

 派手に念話(テレパシー)をばら撒いているので、塔の住人全員の頭に響いている。



「今日は何をやらかしたんだ?」


 クレトがトラブルを起こすのはいつもの事。

 塔全体が振動するのは珍しいが、どうせいつものことだと俺は思っていた。



「兄上、大変です。ダイワが……封印の間に置いていたダイワが、動いています」

「ええーっ」


 クレトのバカ、今日も今日でろくなことしないな。

 ダイワと言えば、超巨大宇宙戦艦のことじゃないか。

 あの戦艦には、惑星破砕砲が装備されている。


「ダイワって動力炉が壊れてて動かなかったはずだろ」

「技術交換できたグレー科学者が直した」

「……」


 イリアが説明してくれて、原因は分かった。

 だからと言って、なんの助にもならないが。



「まあ、いいか。昔は惑星破砕砲がヤバいと思って封印してたが、今の高位魔神は誰でも惑星壊せるから、たいして危ないものじゃないな」

「兄上、危険の基準がズレ過ぎです!」

「そうか?今のクレトなら惑星どころか、銀河系半分くらい破壊できるぞ」

「……」


 あれ、なぜかクリスが黙り込んでしまった。


「……兄上は、それ以上のことができるんですか?」

「……」


 いろんな感情が籠った目で、クリスが俺の目を見てきた。

 俺は目を逸らすことにした。


「普通でノーマルな俺が、そんなことするはずないだろ」

「しないだけで、できないわけじゃないんですね」

「ピー、ピーピー」


 下手な口笛拭いて、誤魔化しておこう。


「いいなー、大火力は大正義」


 クリスからはヤバいものを見る目で見られてしまったが、逆にイリアからは羨ましがられてしまった。




 なお、こんな出来事の後、宇宙軍を率いるゴブリン提督がやってきて、俺に謝罪してきた。


「申し訳ありません、主。クレト様と一緒に、宇宙軍から300名を超える兵士が、ダイワに乗り込んでいました。軍の指揮官として、命令違反を犯した兵士には、きちんと処罰を……」

「いいって。どうせクレトが無理矢理連れて行ったんだろ。お前たちじゃ、逆立ちしてもクレトに逆らえないから仕方ないさ」

「……はい。ですが戻ってきた際には、やはり罰は与えておかなければなりません」

「その辺のさじ加減は、指揮官である提督に任せる」


 ゴブリン提督も大変だな。

 この時の俺は他人事のように思ったが、大賢者の塔では、こういう出来事がよくあるので今更だ。


 星が砕け散ったり、有人惑星の生命体が絶滅したりするのに比べれば、全くたいしたことでない。


 あとのことは、提督に丸投げしてしまおう。


 なお、肝心のクレト率いるダイワだが、その後なぜかお隣の銀河系に向かって旅立っていった。


 念話(テレパシー)を使ってクレトに確認したところ、

「放射能除去装置を買いに行ってきまーす」

 とのことだ。


 あいつが何をしたいのか分からないが、とりあえず放っておくことにした。

 俺には他にもしないといけないことが多いので、バカにばかり関わっていられない。







 さて、クレトを放置してやらなければならないことの一つに、新設する宇宙艦隊建造計画がある。


 以前から作っていた超巨大宇宙要塞が完成したので、今度は艦隊の建造計画に取り掛かったのだ。


 と言っても、今はまだ計画段階だ。

 まずは船にどんな武装を取り付けるかで、技術者たちが大激論している。



「電磁投射砲のロマンが分からないのか!電磁レールから核融合弾を投射し、それが数十秒とかからずに光速の数パーセントの速度へ達する。敵艦に命中すれば融合弾が爆発し、船体を一撃のもとに破壊できる強力な兵器だぞ!」

「だがしかし、電磁投射砲は船体のスペースを長くとってしまう上に、発射角度が狭いという欠点がある。そのような兵器では、実戦での使い道がなかろう」


「レーザー兵器こそ至高。宇宙空間を光の線が駆け巡り、敵味方の陣営で打ち合う姿を想像してみよ。なんと美しくも幻想的な光景か」

「レーザー兵器って、無力化しやすいからゴミだろ」

「なんだと、この野郎。レーザーたんをバカにするなー!」


「ベターに光子魚雷装備でいいんじゃね?」

「貴様、ベターとはどういうことだ。ロマンが足りないぞ。光子魚雷は発射した瞬間から、高速の十数パーセントの速さに達し、核融合弾には劣るものの、それでも非常に強力な爆発力を生み出し……」


「はーい、反物質弾頭を使いましょう。敵に命中すれば、弾頭に搭載されている反物質と、敵艦の装甲を構成している物質が対消滅を起こし、相手の艦を破壊することができます」


「愚か者どもがー!重力兵器に勝る破壊力を持った兵器が、他にあろうはずがない。レーザーも巨大な質量兵器も、重力兵器によって全て軌道を曲げることができる。重力の前では、いかなる兵器をもってしても無力よ。あ、もちろん向こうさんも重力兵器を持ってたら、重力兵器のぶつかり合いで、そこら中にミニ・ブラックホールができて、戦場周辺の空間がヤバいことになるけどな」


「貴様ら全員たるんどるわ!なぜ重質量砲のロマンが分からぬ。敵艦サイズの超巨大弾を撃ち込むことで、ただ一撃で敵を踏み潰す。これこそが至高のロマンよ。まあ、ロマンの代償として、命中までに時間がかかるうえに、命中精度自体も悪くて、搭載できる弾数も限られるし……だが、諸々の不利を分かっていながらも、それでも使わざるを得ない。これこそが、真のロマンだー!」



 なんて感じで、侃々諤々の大論争会だ。



 正直引く。

 俺も宇宙艦隊にロマンを求めているが、まさか技術者集団の論争が、こんなになるとは思ってなかった。


「ムー、宇宙艦隊―」


 宇宙艦隊主義者のイリアも、議論してないで、さっさと宇宙艦隊作れと言いたげだ。



 どうしてこうなったんだ?


 技術者の多くは、エルダーリッチやリッチといったアンデッドで、体力なんて関係なし。

 お互いの意見を、ぶつかり合わせ続ける。


 まったくもって非生産的だ。



「ここまで争うなら、いっそ全部搭載した宇宙船を作ればよくないか?」

「なんと愚かな!2代目大賢者ともあろうアーヴィン様が、そんな考えでどうするのです!すべての武器を搭載した艦など、見た目がゴテゴテして美学がありません!さらに武装を搭載しすぎると、宇宙船の内部スペースがなくなってしまうので……」


 ああ、藪蛇だ。

 論争を止めようとしたら、即大反対を食らってしまった。

 アンデッド技術者の目が、マジになってて怖い。


「お、俺が悪かった。だが、そんなに争うなら、いっそのこと自分たちの作りたい宇宙船を、1隻ずつ作ってみたらどうだ。完成した後に運用して、その中から一番優れたものを量産して使えばいいよな」

「……我々のロマンを、全て作るですと!?」

「……」


 ああ、この場にいる技術者全員が、俺を殺さんばかりの目で睨んできた。


 高位魔神が放つ圧力とは別の、技術者たちのマッドな圧力が襲い掛かってくる。

 俺は、またしても間違ったことを言ったのか。

 今の大賢者の塔なら、技術者たちが言う宇宙船を、全部作れると思うのだが。


 少なくとも20隻くらいなら、同時に建造しても問題ないはずだ。


「素晴らしい考えです。そうなれば、こんなところで無用な議論をしている時間などない。各々方、さっそく自らが至高と思う宇宙船を作るのです。これにて会議は解散。全員急いで、宇宙ドックで船の建造を開始です!」

「「「うおおおーっ」」」


 さっきまでの論争が、完全に終わった。

 俺の提案を受けて、技術者たちが今すぐ”自分の考えた最高の宇宙船”を作るために、この場からいなくなってしまった。



「……いきなりドックで建造なんてしていいのか?ちゃんと設計図はあるのか?」

「フフン、この段階で設計図すら用意できていない無能は、大賢者の塔にはいないのです」


 俺の疑問に、この場に最後まで残った技術者が、目を光らながら答えた。



 この塔にいる科学者と技術者連中は、マッドだから仕方ない。

 俺の想像の斜め上や下を行くなんて、いつものことだから。






「ふうっ、疲れた」


 そんな技術者たちの会議が終わった後、俺も議場になっていた場所から出た。


「ムフフ、大艦隊がいよいよ建造されていく」


 イリアは表面上無表情だが、物凄く嬉しいようで、頬がピクピクと動いている。

 どう見ても痙攣しているようにしか見えないが、表情の変化に乏しいイリアが、ここまで感情を露にするのは珍しい。



 ところで、そんな俺のところに、高位魔神の1柱がやってきた。


「アーヴィン様、お話がございます」

「話?」

「はい。実はアーヴィン様が並々ならぬ関心を示している宇宙艦隊ですが、実は私が祝福を与えた男がいる世界に存在しています」

「少し気になる点もあるが、続きを聞こうか」


 祝福って、こいつは何をしでかしたんだ?


 だが、俺は宇宙艦隊にロマンを求める男の子。

 さらに傍にいるイリアが、続きを早くしゃべれと目で訴えていた。


 宇宙艦隊を優先しよう。


「全長100キロを超えた超大型の宇宙戦艦。宇宙の闇とは対照的に、白亜に輝く美しいシルエットをしています。さらに大小さまざまな艦船が戦艦を取り囲み、その姿はさながら宇宙を征服する覇者の風格を漂わせます。ワープ航法から通常空間へ100隻を超える艦隊が舞い降りれば、その姿だけで全ての敵が恐れ多く威圧感があり……」


 こ、こいつ、なんてうまいセールストークをしやがる。


「行く、すぐに見に行く!」


 イリアが超反応して、俺にしがみついてきた。


「アーヴィンお兄様、今すぐ宇宙艦隊を見に行こう!」

「わ、分かったから、俺の服をあまり引っ張るな。コ、コラッ、どうして俺の体に抱き着く」



 イリアの猛烈プッシュを受けてしまったので、俺は高位魔神の言う世界に、行ってみることにした。

 イリアほどではないが、俺も高位魔神のセールストークを聞いて、その世界のことが気になってしまったしな。


 ちなみにその世界だが、俺たちが住んでいる惑星ローラシアがある宇宙とは、まったく別の宇宙にあるそうだ。

 異世界だな。



 高位魔神になると、こことは別の異世界にも自由に出入りできるので、こいつらは俺の知らない所で、いろいろやらかしている。



「それと私が祝福を与えた男にも、ぜひ一度お会いください。銀河帝国皇帝を務めていますので」

「分かった……って、皇帝!?」


 俺はその場のノリで適当に頷いたが、最後に高位魔神がトンデモ発言をした気がする。

 俺はしまったと慌てた。



「おい、俺は皇帝なんかに……」

 会わないぞ……と言おうとしたものの、その時には高位魔神は姿を消していた。



 ・・・・・・

 俺は皇帝と会わないといけないのか?

 俺は、そんなお偉いさんに会えるような身分じゃないと思うのだが。


 なんだか、面倒な予感が漂ってきたな。

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