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50 銀河帝国初代皇帝

 間抜けな師を殺し、魔神と呼ばれる存在により不老の祝福を受けてから、170年の歳月が流れた。



 私は各地を旅し、ザ・パワーに適性がある者たちを選び出し、弟子として育て上げた。


 ザ・パワーの暗黒面を持ってすれば、超常の力を振るうことができ、弟子たちは力に魅力され、憑りつかれたように修行に励んだ。


 もっとも、私に匹敵するほど才ある者はいなかった。


 と同時に、私と同じレベルに立てる者を、私は生み出すつもりがなかった。


 弟子たちは、私の道具であればよい。

 ザ・パワーの奥義を教えることなく、弟子たちが死に絶えるその時まで、私に従い続ければいい。




 そんな私には、敵が存在する。

 私がこの銀河を支配するためには、私と同じくザ・パワーの力を扱える者が邪魔になる。


 聖堂騎士団。

 この銀河を統治する、銀河連邦における組織の一つである。

 奴らは銀河系中から、ザ・パワーに適性のある子どもたちを探しては、聖堂騎士団本部に連れ込み、以後外部から隔離した空間で、徹底した洗脳教育を施し、聖堂騎士団に絶対の忠誠を誓う騎士たちを育て上げる。

 騎士団のメンバーは、子供の頃からの鍛錬によって、全員がザ・パワーの力を使いこなした。


 軍事を持たないことを旨とする連邦において、唯一武力を持つ集団であり、ザ・パワーの力を独占することで、連邦政府に食い込んでいる者たちだ。


 奴らが扱うザ・パワーの力は、私が有する暗黒面の力に比べれば取るに足りぬが、それでも軍事的には脅威足りえる。


 何よりこの私と同じく、ザ・パワーの力を扱う事こそが、何よりも許せない相手だった。


 ザ・パワーの力は、私によってこそ、独占されて然るべきだ。


 他者がザ・パワーの力を有するなど、認められることではない。





 そんな聖堂騎士団は、私が銀河を支配するために、滅びてもらわなければならない。


 この100年の間、銀河連邦は毎年のように小規模な内乱、および内乱未遂事件が頻発している。


 銀河連邦は、かつては平和と自由を愛する国であったが、長い統治の故か、過去に比べて力が衰え、統治能力の無さを露呈するばかりの無能な国家へ成り下がっていた。


「特にこの10年の間に、大規模な内乱が2度も発生した。機械生命体であるドロイドたちの反乱により、我らは軍事力の増強を余儀なくされ、それによって宇宙艦隊の戦力が膨れ上がってしまった。軍事を持たないことを伝統としてきた連邦において、傲慢な聖堂騎士たちが力を振りかざし、軍の指導的立場へと躍り出てしまった」


 ドロイドとの戦争によって多くの惑星が戦場となり、膨大な人命と資源が失われた。

 それと引き換えに、連邦の軍事力の増強に歯止めがかからなくなり、気が付けば強大な宇宙艦隊と、惑星上で戦うための地上軍の規模が際限なく拡大してしまった。


 そしてそれを指揮する立場に立ったのが、連邦唯一の軍事力を持つ組織、聖堂騎士団だった。



「2度目の大きな内乱では、連邦から分離独立を訴える者たちによって、商業連合と呼ばれる国家があわや打ち建てられてしまうところだった。しかし理解できるだろう。彼らが連邦から独立しようとしたのは、連邦にかつての統治能力がなくなり、連邦を見限った故の行動であると!」


 分離独立主義者との内乱にも、連邦は勝利できた。

 だがその内乱で受けた被害は、銀河全体を統治する連邦にとっても、無視できぬものだ。


 銀河系全体の経済活動が乱れたことで、都市には大量の失業者が溢れ返り、銀河辺境星域では犯罪者たちが蔓延り、無法地帯となっている。


 昔日の栄光は失われ、今や軍事力によってのみしか、自らの存在を維持できないのが連邦の姿だ。

 そして軍事力を率いるトップが、聖堂騎士団の連中だ。




「つい先日、聖堂騎士団は自らの軍事的背景をもって、クーデターを敢行しようとした。銀河連邦評議会議長である私の暗殺を目論み、その時の戦いに巻き込まれた私は、顔に大怪我を負って、このような姿となってしまった!」


 ザ・パワーの暗黒面の王。

 だが、今の私はこの肩書と同時に、銀河連邦の政治を取り仕切る、連邦評議会の議長の立場になっていた。

 暗黒面の王であることを隠し、不老ゆえの時間を利用して、政治の舞台に立ったのだ。


 私は連邦の政治を決定する議場にて、居並ぶ議員たちを前にして、自らの素顔を晒す。


 肌がしわがれ、醜く歪んだ老人のような顔。


「聖堂騎士たちとの戦いで、私の顔はこのようになってしまった。聖堂騎士たちの操るザ・パワーの力は、人間をこのように醜い姿へと変えてしまう、邪悪な力なのだ」


「なんという顔」

「あれが聖堂騎士たちの操る力の正体か」

「やはり聖堂騎士団がクーデターを敢行したか。奴らに軍事を任せるわけにはいかん」


 議員たちが口々に声を上げるが、私の顔が醜く歪んでしまったことに対する同情の声が多い。


 そして2度の大きな内乱において、評議会議長として、国家の代表として戦い抜いてきたのが、この私だった。

 そんな私を暗殺しようとした聖堂騎士団の暴挙に、憤りを覚える議員たちが大半だった。



「だが、安心してもらいたい。既にクーデターを企てた聖堂騎士団は、正規軍によって鎮圧された。軍が奴らの本部に突入し、制圧も完了した。だが、最後まで抵抗した聖堂騎士たちは気が狂ったのか、あろうことか本部に監禁洗脳していた、まだ幼い子供たちを刃にかけて殺してまわった。聖堂騎士とは、正義の味方などでなく、内乱で暴れまわり、暴力をまき散らし、残忍な殺戮者として血を貪る集団でしかなかったのだ!」


 私は議員たちに、聖堂騎士団の残虐非道さを伝えていく。


「その通りだ、聖堂騎士なる野蛮人たちには死を!」

「議長が暗殺されそうになりながらも、自ら身を挺して国家を守ってくださったのだ」

「議長にこそ、正義がある」


 居並ぶ議員たちが、私の行いを正しいものだと認定し、聖堂騎士団の悪辣さを呪う。



「だが諸君、連邦は一体いつまでこのような暴挙を許すのであろう。この100年の間に連邦の力は衰え、内乱がない年が訪れないほどだ。ゆえに私は、衰えた国家の再生を果たすために、強大なる権限を持って、国家の改革に取り組む必要があると考える!」


 私の声に、議場にいた議員たちが静まり返った。


「今こそ、かつての強大な国家を取り戻すために、絶対的な権力を持った1個人によって、国家が改革され、強力に統治されるべきであると考える。諸君らが望むのであれば、2度の大きな内乱において、国家の代表として戦い抜いたこの私に。悪辣な聖堂騎士団から、身を挺して国家を守り抜いたこの私こそが、その権力を持つのにふさわしい立場にあると考える」


 私は銀河を支配して見せよう。

 自らの野望と、不老不死のために。


 ザ・パワーの暗黒面の王として、連邦評議会議長として、長い時を生きる不老の者として、私こそが銀河を統治するべきなのだ。


「ゆえに私はここに宣言する。本日より銀河連邦の名を銀河帝国と改め、私が初代皇帝となることを。強力な支配者による統治によって、疲弊した国家を再生し、かつての栄光ある国家を取り戻さんことを約束しよう」


 私こそが、銀河系を統治し、国家が滅びへと向かわないために、独裁者として統治していこうではないか。


「議長こそが、皇帝にふさわしい」

「内乱を勝ち抜いた議長以外に、この国の未来を守れる者は誰もいない」

「偉大なる皇帝陛下の誕生を、我らは指示いたします」


 議場からは、万雷の拍手が巻き起こった。


 この日私は、銀河系を支配する銀河帝国初代皇帝として推戴を受け、銀河系の統治者となった。



 既に連邦はその統治能力を失い、議員の質も昔日の面影などない。

 単に頭が付いているだけの、何も考えることができない間抜けしかいない。

 議員たちは、私の言葉に従うだけの、低能でしかなかった。






 さて、初代皇帝となった私は軍に命じよう。

 私に背き、国家を弱体化させるだけの無能な議員どもを粛正し、逆らう者もまた、片っ端から処刑していく。


「永劫なる銀河帝国のために、国家を弱体化させる愚か者たちに死を。帝国は忠勇なる者のみが、暮らすことができる国家であるのだ!」


 国家に逆らい、私に逆らう者を全て消せば、この国は決して亡びることのない強力な国家となり、未来永劫存続し続けていくのだ。






 そして皇帝となった私の前に、あの魔神が再度現れた。


「喜ぶがいい。我ら魔神を統べる王が、お前に興味を持たれた。魔神王陛下がこの世界に降臨された時、貴様に約束の不死の祝福を与えよう」

 と言って。

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