4 お好みは世界征服ですか?それとも世界破壊ですか?
転生して9年目。
国語に科学、数学、歴史、地理、魔法、剣術、統治学……
俺は大賢者の塔にて、勉強の日々を送っていた。
「てか、ファンタジー世界のはずなのに、なんで科学があるんだ?」
「一時期大賢者の野郎が、異世界って面白れぇーって言いながら、別世界に行っていたことがあります。主の前世と同じ世界か分かりませんが、その世界で様々な知識や書物を仕入れてきたんですよ」
「お、おうっ。今じゃただのボケ老人なのに、親父ってそんなことしてたんだ」
俺に勉強を教えてくれるメフィストを見つつ、親父の所業に呆れた。
なんでもありだな、大賢者。
この前なんて、食事をしながら「爺さんや、飯はまだかいな」って、介護してくれてるメイドに言っていた。
男扱いされたメイドは、こめかみに青筋を浮かべながら、「もっと食えや、この爺が」と、野太い声で叫んでいたが……
あのメイドの性別は、怖いから知りたくない。
世の中には知らない方がいいことがたくさんある。
あの時のことは忘れよう。
「しかし、別の世界に魔法で行けるんだな」
「そうですね。もっとも私はその術式を知らないので、おそらく使えるのは大賢者だけでしょう」
「そうか……」
もし異世界に行ける魔法を使えたら、日本に帰れるんじゃないか。
そう思ったものの、今の俺は前世と姿が違う。
黒髪黒目なので、ギリギリ日本人と言い張れなくもないだろうが、この年齢にして、既に顔立ちが日本人離れして整い過ぎている。
今世の俺はイケメン。
ヨッシャー。
と思うけど、これで日本に帰るのは、無理があるかもしれない。
まあ、今の日本は外人やハーフが珍しくないから、日本に行っても大丈夫かな?
だが、異世界に飛ぶ魔法については全く知らないので、今の段階で日本に帰れるかと考えるだけ無駄か。
肝心の魔法を知ってる大賢者は、今じゃただのボケ老人なので聞き出しようがないし。
「科学ですけど、この本なんてどうです?」
「核融合理論……人工太陽の作り方について……」
メフィストから差し出された本のタイトルを見て、パラパラめくってみる。
だが、明らかに危険な臭いしかしない。
木星内部で核融合を発生させ、それによって太陽系に第二の人工太陽を作り出し、莫大なエネルギーを得る。
それによって地球統一政府に対するエネルギー的優位性を覆し、我らスペースノイドは真の独立を……以下、ナンタラカンタラ。
「これ、俺の知ってる地球と絶対違う。平行世界か未来だな」
「そうですか」
「それに人工太陽を作るなら、もう間に合ってるから」
わざわざ木星を太陽に変えなくても、俺が初めて使った魔法が人工太陽レベルだったからな。
しかもあれ、俺の魔力が続く限り連続して出せるので、頑張れば3桁単位で量産できる。
量産した結果、太陽からこぼれだす熱だけで、この星が死の惑星と化しそうなので、絶対にやらないが。
「俺、異世界でチートはしたかったけど、世界を滅ぼしたくはないから。絶対に、そんなことしたくない」
「なるほど、主は私と同じ考えですね」
「そうか、お前も悪魔だけど、この星は滅ぼしたくないんだな」
「もちろんです」
よかった。
メフィストの奴が、そこまで破滅思考の持ち主じゃなくて。
高位魔族なんていっても、さすがに星が滅ぶのはダメだよな。
「私個人としては世界を滅ぼすより、征服をして、下等種族たる人間どもを奴隷としてこき使うほうがいいです」
メフィストは、にこりと笑った。
とてもいい笑顔だ。
顔が美形なだけあって、同性である俺でも、思わず一瞬息を止めてしまったほど。
だけどな……
「やっぱり、お前悪魔だな」
「ええ、悪魔ですから」
こいつはダメな悪魔だ。
好き勝手させておくと、この世界に魔族による支配国家が誕生して、人間全てが奴隷化されかねない。
「ちなみに主が世界の覇権を握られれば、人間だけでなくエルフや獣人族なども奴隷にできますよ。主も好きなのでしょう、奴隷エロフや首輪でつながれた猫耳獣人少女が」
「ぬおっ!」
こ、こいつ、なんでそのことを知っている。
前世で、確かにそういうエロゲを……
「お前、俺の心をどこまで読んでるんだ!」
「主がまだ小さかった頃に、『異世界だからエロフもいるよなー』って妄想していた心の声を、たまたま聞いちゃいましてね」
「……」
ク、クソッ。
この悪魔野郎に、俺の恥ずかしすぎる妄想を読まれていたとは、何たる不覚。
幼いことろの俺は、メフィストが心を読めるなんて知らなかったから、異世界での生活について色々妄想していた時期があった。
ベビーベッドから出られなくて、それ以外することがなかったからしょうがないだろ。
まさかその時のことを、全部読まれてるんじゃ……
「フフフッ」
「……」
俺の隣で、とてもいい笑顔を浮かべるメフィスト。
その姿に、俺は背中から冷や汗が流れた。
俺の恥ずかしい妄想を知っているこいつを、敵に回せない。
クッ、人の弱みを握っているとか、なんて卑劣な悪魔だ。
「クソッ、性悪悪魔め!」
「お褒めいただき光栄にございます」
メフィストは優雅に一礼する。
勝ち誇った、勝者の余裕を漂わせながら。
俺は、このままメフィストの手の上で踊らされてしまうのではないだろうか?
何しろ悪魔だ。
魔法の能力がかなりおかしい俺だけど、元人間だった俺を操るなど、メフィストにとって朝飯前ではないのか?
力で勝てたとしても、言葉や精神的な面で、俺はメフィストに勝てる気が全くしない。
「そもそも帝王学ってのも、明らかに俺を魔王にするつもりで教えてるよな……」
俺の勉強科目の中に、帝王学があるんだよ。
魔王にはなりたくない。
既に魔族たちの主になっているけど、魔王は勘弁だ。
世界征服なんて、妄想するだけならいいが、そんなもの現実でやれば、俺の心が持たないぞ。
魔族がする世界征服なんてのは、戦争に大量殺戮に大虐殺、その他何でもござれの世紀末戦争だ。
大量殺戮犯のボスとか、そんなのにされた日には俺の心が確実に死ぬ。
俺にヒ○ラーやスタ○リン、毛沢○なんて無理だぞ。
「おや、魔王になっていただけるのですか?」
そんな俺の前で、メフィストが俺の顔をマジマジと見ながら言ってきた。
「イヤだ……っていうか、今の俺ってお前らの主人だから、もう魔王みたいなもんだろ?」
700年前に死んだ魔王の配下たちが、今の俺の部下だ。
そんな魔族たちの主人ってことは、魔王と同じだよな。
そんな俺の意見を、メフィストが否定してくれる。
「残念ですが、魔王とはすべての魔族を束ねし者が名乗る名です。ですので、魔王を名乗られるのでしたら、まずは700年前に魔王様が討たれた事で散り散りになった、各地の魔族を従える必要があります」
「散り散りってことは、この地以外にも、魔族がいるってことか?」
「はい」
てっきり、大賢者の塔に当時の魔王の配下が全ていると思っていたが、この塔以外にも魔族がいるらしい。
「アーヴィン様が魔王を名乗られるのでしたら、まずは魔族全体を力で従えていただく必要があります。魔族は基本弱肉強食、圧倒的強者に対しては従順です。ですので魔王を名乗る場合、自動的に魔族全体に対する戦争から始めないといけませんね」
「うわー、そんなことしたくねぇー」
俺は間違っても、戦争を引き起こしたくないぞ。
そういった血生臭いルートは全力で回避だ。
だけど、俺の態度を見たメフィストは何を思ったのか……
「ああ、申し訳ございません。私としたことが勘違いしていたようです」
「勘違い?」
「アーヴィン様は魔族より、人間の血が濃いことを失念しておりました。まずは人間全体を支配し、しかる後に魔族を従えるのですね」
「お前の頭の中では、俺が世界と戦争することが決まってるのかよ!」
イヤだ。
そんなこと絶対にしないぞ。
「えっ、もしかして主が魔王を名乗るの?」
こんな話をしていたところに、執事で魔族のクレトがやってきた。
最悪のタイミングだ。
「いや、俺は魔王を名乗るつもりなんて……」
「そっかー、じゃあ僕は人間の街を溶岩の海に沈めてくればいいかな?とりあえず大都市を沈めようかなー。久しぶりだから、張り切ってくるぞー」
「人の話を聞け、この能天気バカ!」
とりあえずチョップをお見舞いだ。
無意識レベルで俺の体全体に身体強化魔法がかかり、超高速でクレトの脳天にチョップをぶち込む。
「キャンッ」
無駄に魔力量が多すぎるせいで、俺の身体能力はおかしなことになっている。
素手でも鋼鉄をぶった切れる威力があるチョップだ。
だが、それを受けたクレトは頭を両手でさすりつつ、わざとらしく涙目になって、俺の方を見てきた。
てか、声もあざとい。
女じゃないのに、なんてわざとらしい声を出す。
「主―、痛いよー」
「俺は世界征服はしない。いいな、お前も言ってみろ!」
クレトは能天気だから、きちんと言い聞かせないといけない。
「主は世界征服をしない。そんなの分かってるよー」
頬を膨らませて、不満そうにするクレト。
「本当に、そう思ってるのか?」
「当たり前じゃん。主がしたいのは世界征服じゃなくて、世界破壊でしょう」
「余計ダメだろうがー!」
チョプ、チョップ、チョップ。
この後俺は、能天気バカに小一時間ほど説教をした。
「私としても世界破壊には反対です。ですので、どうか清く正しい魔王として、世界征服を……」
「メフィスト、お前も俺が嫌がるの分かってて言ってるだろう」
「フフフッ」
イヤだ。
配下の魔族どもが、どうあっても俺を魔王にしたがってる。
絶対に魔王も、世界征服も、世界破壊もしないからな!
あとがき~
この時、作者はまだ気づいていなかった。
ボケ老人程度の設定しか考えてなかった大賢者が、主人公なんて目じゃない、とんでもチートを始めてしまうなどと……
次回予告、大賢者チート開始!