46 我ら魔神は不滅の存在
まえがき
久しぶりに、空気状態になっていた主人公登場。
うちのバカどもがやらかした。
以前捕まえたグレー型宇宙人だが、彼らが宇宙船で母星へ帰るのを、高位魔神の1柱である触手魔神が追跡し、グレーの母星を見つけたそうだ。
そこまではいい。
グレーの円盤型宇宙船がワープ航行可能であり、どうやってワープ空間を進む宇宙船のあとを追跡したのかと、突っ込みたい点がある。
だが、まかり間違っても高位魔神たちは神なので、それくらいのことは普通にできてしまうのだろう。
……俺もタイムロスなしで、遥か彼方の宇宙に転移できるので、部下連中がそれくらいできても不思議ではない。
「ああ、俺は人間でいたいのに、日々人外の道を邁進している……」
そんな俺の嘆きはともかく。
グレーのあとを追跡したのは触手魔神だけでなく、他にも9柱ほど一緒に行ったらしい。
だが、奴らの頭の中には、平和とか、文化交流なんて文字は全くない。
「うちのボスの庭に出したオンドレらは血祭りじゃー!」
という感じで、グレーの母星に襲い掛かり、星を壊滅させてしまった。
その時現場にいた高位魔神に、さらに尋ねる。
「グレーの星の人口はどれくらいだ?」
「さあ、下等種族なのでどのくらいでしょうね?100憶とか、200億?蟻みたいにワラワラ群れてたのは間違いないですぜ」
「……」
傍に控えるメイドが、そっと世界樹の葉の雫を差し出してくれたので、俺は無言でそれを垂下する。
……ぜ、全然効いてる気がしない。
胃痛だけでなく、頭痛までする。
「それで触手と、星魔にディラック。この3柱が死んだのか」
「はい」
「……」
全部で10柱の高位魔神で行ったものの、その中の3柱の魔神が戦闘で死んでしまった。
グレーの持つ科学力は強大で、星を破壊できる高位魔神とて、無事では済まなかったわけだ。
俺はメイドに指で指示し、コーヒーを持ってこさせる。
少し気分を落ち着かせる必要がある。
どいつもこいつもバカで、戦闘狂で、俺の胃に全然優しくない連中だが、そんな奴らでも死んでしまった。
派手に全員と喧嘩したこともあるが、ちゃんと手心を加えて、部下たちが死なないようにしたのに。
……なお、あの時ゴブリンたちが俺の魔法で死んだが、奴らは謎注射で生き返れるので、俺の中ではノーカンだ。
だが、跡形が残らなければ、いかに高位魔神とて復活しようがない。
メイドがコーヒーを持ってきたので、俺はそれを無言で受け取る。
コーヒーの香りを楽しんで、心を落ち着かせる。
胃に優しくするなら紅茶の方がいいだろうが、前世からコーヒー党である俺にとって、この香りが心を落ち着かせてくれる。
「それで、実際に戦ったのは3柱だけで、残りは全員観戦してたのか」
「なかなか派手な戦いで面白かったですぜ」
「せめて仲間が死ぬ前に、援護くらいしてくれればよかったんだがな」
「ボス、俺らにそういうの期待されても無理ですぜ。ワハハッ」
観戦はしていたが、仲間を見殺しにしている。
高位魔神にもいろいろと性格があるが、仲間の死なんて知ったこっちゃないって連中もいる。
今回観戦に行った連中は、そんなのばかりだったようだ。
はあっ。
どうしよう。
グレーの星のこともあるし、部下も死んでしまった。
どうしても気分が落ち込んでしまう。
俺はコーヒーを口に含みながら、これからどうしようかと考えた。
いいアイディアなんて、全く浮かばねぇー。
宇宙人とは言え、数百億人が住んでる星を破壊して皆殺しにしたり、部下が死んだり。
俺みたいな凡人には、とても手に負えない事態だ。
一体俺にどうしろというのだ!?
なんて思ってたら、突然目の前にいる高位魔神の頭が弾け飛んだ。
パンッて音をたててだ。
人化しているので人間の姿をしていたが、赤黒い血と肉片が周囲にぶちまけられる。
頭が丸ごと吹き飛んで、首なし死体が棒立ちになってその場に残った。
「俺、復活!」
そして吹き飛んだ頭の部分から、触手魔神がでてきた。
ミミズみたいな姿をしているが、本来の大きさとはけた違いに小さくなっていて、長さは30センチくらいしかない。
感じ取れる魔力量も、以前とは比べ物にならないほど小さくなっていた。
それだけで終わらなかった。
「うおっ、足からツタがはえてきた」
別の人化している高位魔神の太ももから、緑色のツタがニョキニョキと生える。
ツタは瞬く間に人化した魔神の頭の上まで伸びていき、先端に蕾ができる。
そう思ったら、早くも蕾が開花して、ハスの花が咲いた。
「俺も復活!」
ハスの中から、黒い球形をした星魔魔神が出てきた。
ただこいつも触手魔神と同じで、本来の姿とは打って変わって、超小型化していた。
ほんの10センチくらいの大きさだ。
ブッ。
さらに別の高位魔神が屁を出した。
と思ったら、黒い物体が出てきた。
ゲッ、どうしてクソをする。
「フッ、俺様再臨!」
クソが出てきたと思ったら、黒い影の姿をしたディラック魔神だった。
ただ、こいつも数千キロはあるはずの体が、メチャクチャ縮んでいて、クレープ程度の大きさになっていた。
「……」
死んだと思っていた連中が、いきなり蘇った。
俺は唖然としながら、その光景を眺めていた。
驚きすぎて、瞬きすることすら忘れてしまった。
「おーい、誰か俺の頭を元に戻してくれー」
「そら、回復魔法・特異回復」
頭が弾け飛んだ魔神が普通にしゃべり、仲間の高位魔神に回復魔法をかけてもらう。
口の部分まで吹き飛んでいたが、うちの連中を人間と同じに見てはいけないので、これくらい驚くに値しない。
「このツタ邪魔」
太ももからツタがはえた魔人は、はえてきたツタを手で遠慮なく引き抜いてしまう。
引っこ抜いても、痛くもなんともないらしい。
「ち、違うんだ。我慢してたわけじゃねえぞ」
約1柱、クソを出したと思い込んでいる高位魔神だけは、そんなことを言っていた。
こいつのあだ名、ウンコ君になりそうだな。
しかし、死んだと思っていた3柱が、妙な方法で復活した。
魔神の生態って一体どうなってるんだと、激しく疑問が浮かぶが、とりあえず部下が生き返ったのでよかったとしておこう。
「……」
とはいえ、それでも俺は無言で目の前にいる魔神たちを眺める。
「ボス面目ねえです。ザコだと侮って手加減してたら、殺されちまいやした」
「「申し訳ねえっす」」
触手、星魔、ディラックがそう言って、俺に頭を下げてきた。
と言っても、今の連中は超小型サイズで本来の姿をしている。人間のように頭を下げることは物理的にできなかった。
しかし、だ。
「おい、俺が飲んでたコーヒーどうしてくれるんだ」
高位魔神の頭が弾け飛んだ際、血と肉片が俺の飲んでたコーヒーの中に入ったんだよ。
あと、全身にも血と肉片がこびりついている。
「あー、申し訳ねえっす」
頭を弾け飛ばされた高位魔神が、特に悪いと思っている様子もなく、口だけで謝る。
「すぐに湯殿の準備をいたします」
かわりに、メイドの方が素早く対応してくれる。
「ああ、大至急頼む。まったく、こいつらときたら、どうしていつもこうなんだ」
死んだと思っていた部下が復活したのは嬉しい。
正直かなり安堵している。
こんな連中でも、この世界に転生してからの付き合いだからな。
もっとも俺が態度に出せば、こいつらが付けあがるだけなので、俺は口では不機嫌そうに言っておいた。
なお、生まれ変わった魔神たちだが、その後3日ほどで元の大きさに戻り、魔力量も全回復していた。
死んでもデスペナルティーで、以前より弱体化するなんてことは全くなかった。
ほんと、魔神の体ってどうなってるんだ?




