43 星魔とディラック
惑星破砕砲。
グレー宇宙人どもが使った、対惑星兵器の光が炸裂し、触手魔神が直撃を受けて消え去った。
「あーあ、触手の野郎、あれじゃあ体の欠片も残らないぞ。死んだな」
「フッ、所詮奴は高位魔神100柱の中で最弱よ」
俺たちのボスの庭を荒らしたグレー野郎。
それが許せないから、グレーを種族ごと根絶やしにしてやろうという触手魔神の提案に乗っかり、俺たちは奴らの宇宙船を追跡し、グレーの母星を見つけた。
俺たちは“向こう側”から眺めているので、グレーどもは触手魔神以外に、俺たちがいることに気づいていない。
科学力を大層自慢にしている連中のようだが、大したことはない。
俺たちがこうして近くに潜んでいるのに、未だに気づいていない間抜けたちだ。
おまけに、念話を用いることで、連中の司令官が頭の中で考えていることを、俺たちは一方的に聞き取っている。
相手の頭の中をすべて読めるので、敵の考えが筒抜けだ。
「だが、対惑星兵器に、重力兵器も持っている。向こうも星を砕けるだけの力を持っているから、油断はするなよ」
「フッ、分かっているとも」
俺たち……”星魔”の俺と、”ディラック”。
触手魔神とともに、高位魔神である俺たち2柱も、この場へとやってきたのだ。
戦うからには、せいぜい楽しませてもらうとしよう。
「では触手の弔い合戦も込みだ」
「フッ、せいぜい楽しませてもらおうぜ」
「「ヒャッハー」」
俺たちは声を合わせて、今まで潜んでいた”向こう側”から、”こちら側”へ姿を現した。
さあ、グレーどもの屠殺パーティーの始まりだ。
触手生命体の殲滅に成功した。
小型戦闘機に張り付いた残骸がまだ残っているものの、こちらは装甲表面を熱滅菌処理することで、触手生命体の残骸を残さず焼き払えることが確認された。
「ふうっ、とんでもない生き物であったが、これで我らの母星が守られ……」
「司令非常事態です。艦隊展開方面とは、本星を挟んで真逆側に、巨大な亜空間反応を検出しました」
「なんだと!」
私は決して、フラグを立てたわけではない。
だが、触手生命体を撃破した途端に、惑星の反対側から新たな亜空間反応とは、都合がよすぎる。
確実に関連した動きとみるべきだろう。
まさか、まだ触手生命体が潜んでいたというのか!
「大規模な亜空間反応より、何かが通常空間へ出現します。大きさ……大、極めて大」
「正確な大きさを出さんか!」
「推定質量6×10の24乗。天体クラス……惑星サイズの何かが出現します」
「わ、惑星サイズだと……」
司令室のモニターが切り替わる。
問題となっている宇宙空間を、母星から捉えた拡大映像が移される。
「なにもないな」
「いえ、既に出現しています。現在映像に光学処理を施し、画像データを解析……解析による画像を表示します」
モニターの中に、緑色で輪郭部分が強調された、巨大物体が浮かび上がる。
見た目はただの球形。大きさは、我々の母星より巨大で、質量も向こうの方が上。
暗い宇宙の中に、まるで宇宙の闇と同化したかのようにして存在していた。
処理された映像でなければ、その姿を完全に見落としてしまう闇だった。
「出現した物体の解析結果が出ました。”星魔”……過去に一度だけ目撃された巨大宇宙生物で、星を食らう化け物です」
「……」
「星魔が移動を開始、本星の方向へ向けて前進を開始しました」
なんという事だ。
巨大な危機が去ったと思ったら、ただの前哨戦でしかなかった。
もう1体、宇宙における巨大生物が現れるなど、これは何の冗談だ。
だが、我らの母星の危機だ。
ここで私がボケっとしているわけにはいかない。
「大至急艦隊を転進させろ。防衛戦闘を急がせろ」
「りょ、了解。全艦隊に通達、ただちに転進。目標座標は……」
触手生命体に続いて、星を食らう化け物の出現。
ありえない。何者かによって、この星が狙われているとしかおもえない状況だ。
「ひ、非常事態、地上居住エリアにて、大規模な災害が発生!」
我らの母星の運命がかかっているというのに、オペレーターの1人が、なぜか地上での被害を伝えてきた。
今、我々は星魔相手に艦隊を再展開中で、それどころではない。
あの化け物は星を食らって生きる生物だ。そんな生き物が、我らの母星を目指している状況で、これ以上の危機などあるだろうか。
「今は地上の被害を相手にしている場合ではない!」
私は報告を上げてきたオペレーターを叱りつけた。
だが、事態は私の予想をはるかに上回っていた。
「いえ、これは必要な報告であると判断します。現在未確認ながらも、地上居住エリアにて推定20億に及ぶ人命が失われました」
「に、20憶だと……」
我らの母星の人口は250億に達する。
たった今入った報告で、1割近い人口が消滅したとは、どういうことだ。
前触れすら、何もなかったではないか。
「問題が発生したエリアを捉えた、人工衛星からの映像を出します」
モニターに、映し出されたのは、母星グレーの姿。
母星グレーは完全環境惑星で、自然の大地を我々の科学技術を用いることで人工的に覆い隠し、その上に都市を築き上げた。
旧時代に存在した自然環境は全て破壊し、代わりに科学技術によって酸素の供給に、大気の温度調整、太陽からの光を惑星全体に十全に届くように調整するなど、ありとあらゆる環境が、科学技術の粋によって維持されていた。
そのため、自然状態の惑星に比べて、全ての住民が住みよい星となっており、惑星は高層建築群によって覆われている。
人為的に改造された惑星であるため、すべての面で効率が追及されており、惑星に住む人口も改造前の旧時代と比べ、桁違いの数と密度を誇っていた。
惑星を衛星軌道から眺めれば、表面のほぼすべてが、銀色の建造物に覆われた半人工惑星だ。
だが、その銀色である惑星の一部に、まるで日食にあったかのように、黒い部分ができていた。
「この日食のように見える部分ですが、この区域に存在していた建造物が、全て消滅しました」
「……」
「黒い影は地上表面部分に展開しており、影に接触すると同時に、その上に存在した建造物が飲み込まれてしまいました。損害の範囲は直径1千キロ以上。その場にあった建物と人命の全てが飲み込まれ、消滅したものと思われます」
「い、一体何なのだ、これは?」
「未知の現象であるため、答えることができません」
「クッ」
まるで訳が分からない。
黒い影が現れると同時に、建物ごと20億人の人命を呑み込んだだと!
そんな非常識な自然現象があるはずない。
そこで私は、この戦いが始まる前に、頭にした声のことを思い出す。
「手前ら、ボスの庭に無断で手を出しておいて、無事に済むと思ってるんじゃないだろうな。ここでお前ら種族ごと、ことごとく根絶やしにしてやるから覚悟しろ」
そう、声は言っていた。
乱雑で、とても文明人とは思えぬ声であったが、明らかに知能を持った生命体だった。
この黒い影もまた、その声の仲間なのか?
何かしらの兵器か、はたまた未知の生物であるのか……
「考えている場合ではないか。……しかし、我らの科学力を持っても理解できぬ存在相手に、一体どうすればいいのだ」
宇宙だけでなく、地上にまで現れた事態に、私はつい天を見上げて嘆きたくなった。
「防衛艦隊、予定地点到達まであと、10分」
そこにオペレーターからの声がする。
「クッ、私1人で同時に対処することはできぬ。宇宙のことは防衛艦隊司令の指揮に委ねる。我々は地上の事態に集中して取り組むぞ」
最悪だ。
だが、なんとしても我らの母星を守らなければならない。
首都星防衛軍司令官である私が、ここで諦めれば、我らの故郷たる星が蹂躙され、グレーという種族が、滅びの危機に立たされかねないのだから。
あとがき
「所詮奴は高位魔神100柱の中で最弱よ」
四天王と言いつつ、実は100柱存在しているパターンも考えたのですが、無難に100柱の中で最弱というセリフにしました。
百天王にしても、ゴロが悪いですしね。




