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33 真メフィスト現る!?

 俺たちが住んでいる世界、正確には住んでいる惑星の名をローラシアという。


 このローラシアを維持管理している神々の主神代理が、俺に全面降伏すると申し出てきた。



 ドウシテコウナッタ。

 平凡な俺ができるのは、せいぜい二代目大賢者まで。

 魔神王になってしまったのは事故みたいなものだ。

 魔神を従えて、この世界を征服するつもりがなければ、破壊するつもりもなく、さらには神々と争うつもりさえなかった。


 つまり、何もしていない。

 何もしていないのに、勝手に向こう側が全面降伏してくると言ってきた。



 意味が分からん。



 というわけで、ここは使者としてきた大天使アナスフィアでなく、主神代理に直接話を聞きに行くことにした。


 この世界の神々が住んでいる神域へ向かうことにする。



「私の大火力を見せる時が来た」

「イリア、戦争するつもりはないから、見せる機会は来ないと思うぞ」

「ムウッ」


 神域へ行くことにしたら、イリアも付いてくると言い出した。

 だが、なぜに戦うことが前提なのだ。



「か、神様に遭うなんて初めて……ではないのか……」

「そうだな。この塔には、邪悪な類の魔神が、ワラワラ溢れかえってるもんな」


 クリスも同行だ。

 緊張しているようだが、まあ仕方ないよな。

 普通、神様に直接会うと言えば、人間では考えられない大事件だ。


 大賢者の塔にいると、(魔)神様たちがいつもバカ騒ぎして、物を壊したりしてるけど。



 あと、当然ながらメフィストとクレトも同行。


 そしてイリアには戦闘にならないと言ったが、絶対とは言い切れない。

 ローラシアの神々ともし戦闘になった場合を考えると、俺たちだけでは不安なので、高位魔神100柱と中位魔神500柱も、同行させることにした。


 大賢者の塔の全戦力と言っていいレベルだ。

 他にも、研究者のエルダーリッチとか、低位魔神のゴブリンたちがいるが、神々と戦いになった場合、彼らでは付いてこれないレベルになるので、連れてくるだけ無駄と判断して置いてきた。



「我らもお供いたします」

「なにとぞ、高位の神々にお供するご許可を」


 ただゴブリン将軍とゴブリン提督だけは、覚悟を決めた表情で、そんなことを言ってきた。


「まあいいか。ただし、危なくなったら塔に送り返すからな」

「ハハッ、ありがたき幸せ。戦いなれば、せめて銃の1発でも当てて見せます」

「ワシも肉壁程度にはなって見せますぞ」


 説得が面倒だったので、簡単に許可を出したが、何やら2柱とも並々ならぬ決意をしているようだった。


 こいつらも、戦闘前提に考えてないか?

 あと、肉壁って何?

 俺はゴブリンに、そんなこと期待してない。



 ゴブリン2柱はともかくとしてだ。


「完全に戦争のための軍隊ですね」

「高位魔神1柱いるだけで、(せかい)なんて簡単に壊れるよー」


 俺が今回動員した戦力を、メフィストとクレトはそんな風に評していた。



 俺も、少しやりすぎの気がしないでもない。

 だが、相手はまかり間違ってもこの世界を創造し、長年にわたって維持し、支配してきた神々なのだ。

 そんな連中を相手に戦いになれば、戦力の出し惜しみなどできるはずがない。


 むろん、戦いになるのは全力で回避するつもりだが。








 そうして俺たちは、惑星ローラシアの神々が住まう神域へ向かった。

 転移魔法を使うので、移動は一瞬だ。


「ここが、この世界(ローラシア)の神域か」


 穏やかな太陽の光が空から降り注ぎ、草花に包まれた平原。

 その中に白亜の神殿が建てられていた。



「なんというか、うちとは大違いだな」

 うちとはもちろん、大賢者の塔のことだ。

 大賢者の塔は、今ではそれ自体が神域と化していて、(魔)神の住まう塔となっている。


 と言っても、内部は研究設備があるかと思えば、塔に住まう者たちの生活臭が漂う空間があり、一方でご近所の種族が集まっての商業活動をしていたりと、かなり雑多な感じだ。


 そこに、暗黒神殿としか言いようのない、玉座の間もある。

 最近では、無人惑星と有人惑星、さらに宇宙要塞を建造しているフロアまでできて、カオスの度合いが、ますます増している。




「……懐かしいですねぇ」

 さて、ローラシアの神域を見ている俺の横で、女性の声がした。


「?」

 俺の知っている声に似ているが、似ているだけで、知らない声だ。


 不思議に思って、声のした方を見た。


「……」

 黒に近い濃紺の髪に、黄金の瞳をした女性がいた。

 髪は腰にまで届く長さをしていて、目にはどことなく憂いの色が浮かんでいた。

 均整の取れた体に、整った顔立ち。


 ただ女性であるのに、なぜか執事然とした衣服を着ていた。


 そして胸はバランスタイプ。

 それでも駄天使よりは大型だ。


 ただ、胸の膨らみを押さえつけているシャツのボタンが耐えられなかったようで、第二ボタンがいきなり弾け飛んだ。


 胸があらわになる。


「おおっ……って、お前誰だ?」

 いかんいかん。

 視線をできるだけ胸から離して、俺は女性の顔をガン見する。


 胸の谷間を眺めたいという誘惑につられたくないから、ガン見しているわけではない。



「……主、ボケるには早すぎませんか?」

「まさか、メフィストか」

「ええ、そうです」

「……」


 Why、意味が分からない。誰か助けてくれ。

 目の前の女性が、メフィストらしいぞ。

 どういう事だ?



「お前、女になってるぞ」

「おや、久しぶりにローラシアの神域(こきょう)に戻ってきたせいで、昔の姿になってしまったようですね。それにしても胸が苦しい」


 そう言いながら、女体化したメフィストが、締めていたネクタイを緩め、さらにシャツの第一ボタンまで外す。

 既に第二ボタンは飛んで行った後なので、見える範囲が一気に広がる。


 オ、オオオッ。

 胸が、胸の谷間が見え……


 これは、自然現象なのだ。

 男の子の自然現象だから仕方ない。


 俺はロマンに生きる健全な男子。

 だから、目の前に広がる谷間に、どうしても視線がいってしまうのは仕方がない。



 女体化したメフィストの胸元を、つい覗いたぜぃ。


 ……胸元に、メフィストの本体である目玉が無数にあった。

 目玉が、”向こう側”から、”こちら側”を覗いている。


「おい、なんで本体がそこから覗いてるんだ……」


 先ほどまでのロマンが一瞬にして消え去った。

 死に絶えたと言ってもいい。

 希望のない、絶望の谷間と化してしまった。


 俺が見たいのは、女性の胸元であって、間違っても目玉お化けではない。

 普通の人間が見たら、正気度が激下がりするような眼玉が、俺の方をじっと見てきやがった。



「見た目につられるとは、主もまだまだですねぇ」

「クッ、男の希望を弄びやがって」

「クスクス、だって私はメフィストですから」


 胸元を覗かれたことは、全く気にしてないメフィスト。

 だけど、こんなの酷すぎる。

 目の前の希望が、絶望の谷底だったなんて、男の子に対して酷すぎるだろう。


 ……まあ、女体化したとはいえ、所詮奴はメフィストというだけだ。

 昔から性格が悪いからな。



「やっぱお前、メフィストなんだな」

「当然です」

神域(こきょう)に帰ったら、(ぜんせ)の姿になるのか」

「みたいですね。(もと)の姿に戻った方がいいでしょうか?」


 俺の前で、メフィストがニコリと笑ってきた。


 ……男の時だったら、物凄くうさん臭い笑みだったのに、今の姿だとドギマギしてしまうのはどうしてだ?

 女体化したといっても、相手はあのメフィストだぞ。



「ああ、麗しのエストアーナ様がお戻りになられた」


 そんな中、大天使というか、駄天使アナスフィアが、またしてもメフィストの昔の名を口にした。

 直後、メフィストに蹴られて嬉しそうにする。


 成長がないというか、単に自分の欲望に素直なだけというか……



「メフィストが真の性別に目覚めたー」

「黙れ、クレト!」

「ゴフッ」


 あと、横からからかってきたクレトの腹に、女体化メフィストの拳がめり込んだ。


 容赦ねえな。


「ワーン、痛いよー」

 といっても、拳を決められたクレトだが、大したダメージを受けてないようだ。

 いつものように、女でもないのに、あざとい声を出している。


 あっ、口の端から赤い汁が流れてきた。


「クレト、あまり無理するなよ」

「はーい」

 口から血が流れてるのに、クレトはどこまでも呑気だった。



 魔神は不死身だから、問題ないか。

あとがき




作者

「何も考えずにいつも書いてるんです。だから、ヒロインどうしようって考えた結果、あらぬ方向にー」


野太い声のメイド

 親指を立て、白い歯を輝かせて笑顔を浮かべている。


メフィスト

「この2人は始末ですね」

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