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29 神界の大地と超巨大宇宙要塞建設

 俺たちが住んでいる大賢者の塔は超巨大な塔で、頂上部分は宇宙空間に存在する。


 大賢者の塔は、この世界に存在しているダンジョンの1種で、その内部をダンジョンコントローラーという道具を用いることで、人為的に自由に作り替えることができた。



 ところで以前までの大賢者の塔なら、1フロア辺り、20キロ×20キロ×20キロメートルの広さまでしか作ることができなかった。

 だが、俺が覚醒だか真の力に目覚めたかが原因で、部下の魔族たちが神化して魔神になってしまったように、大賢者の塔を制御しているダンジョンコアも神化してしまい、”神界の大地”なるものになってしまった。


 意味不明だな。

 この塔のダンジョンコアにしても、初代大賢者(おやじ)がいろいろと手を加えて作り出した代物なので、こんなものと思うしかない。


 俺や魔神たちは既に規格外な存在になってしまったが、それに負けず劣らず、親父も規格外だから仕方ない。

 今では死人なのに、生前の姿のまま「飯はまだかいな」と言って、辺り構わず徘徊しているボケ老人になっている。

 ただし徘徊先が、この世界だけでなく、異世界にまで及んでいる。



 そんな親父の手が加わっていることもあって、神化(パワーアップ)した”神界の大地”の効果は絶大だった。


 今までも大賢者の塔というダンジョンは、魔力さえあれば内部に好きなだけ階層(フロア)を作り出すことができた。

 次元魔法が用いられることで、塔の外見と内部の広さには関係性が全くなく、100フロアの塔にしたり、10万フロア以上の塔にすることもできた。


 まあ、フロア数がむやみやたらと多くても、死蔵して使い道がないので、常識的な範囲に収めているが。



 だが、神界の大地になったことで、フロア数の上限だけでなく、1フロア当たりの大きさの制限も撤廃され、無限になってしまった。

 この無限というのが、恐ろしい。


 以前のように、20キロメートル四方の広さで留まることがなくなり、惑星1個サイズでも、星系1個サイズでも、天の川銀河系サイズでも、150億光年の宇宙サイズでも、それ以上でも、何でもゴザレになってしまった。


 フロアを作成する際、広さに応じて魔力が必要になるので、さすがに真の意味で無制限とはいかない。


 でも、俺が試しに星を一つ浮かべたフロアを作ってみたら、あっさりと出来上がってしまった。

 宇宙空間の中にジャガイモみたいな星が一つ浮かんでいて、生命と呼べるものは何一つない無人の星だ。


 やろうと思えば無人の星に緑を創り出し、雨を降らせ、生命を繁殖させることもできる。

 神界の大地を操作することで、自然環境と生命を”創造”することができるのだ。


 まるで惑星環境を神様視点で操作するゲームみたいな感覚で、簡単にできてしまう。



「なにこれ、ヤバイ」


 もちろん俺は、星に生命を作り出すつもりなどない。

 犬や猫を1匹飼うにも命に対する責任が生じるのに、星丸ごとひとつの責任なんて、どうやっても無理だ。



 前々からチートな塔だったが、ヤバさのレベルが上限突破してしまった。

 神様気分になって、塔の中に世界でも命でも、自由に創り出せるようになってしまった。

 それも魔力が続く限り、無制限に。



 ナンデコウナッタ。



 ちなみに、俺は部下たちに1フロアずつ与え、自分の持っているフロアを自由に操作できる権限を与えている。

 1人1部屋の個室があってもいいよな程度の感覚で、1フロア丸ごと自由にさせてやることにしたのだ。


 その時はまだ、神界の大地の恐ろしさに、気づく前だったんだよ。



 幸いというべきか、大抵の連中はしょうもないことに利用していた。


 チョコレートまみれのプールだとか、単に寝るだけの1ルームマンション風の部屋だとか、高さ4000キロの超高々度バンジージャンプ台だとか、整理整頓できずゴミが散らかってるだけの物置だとか……



 だが、メフィストの部屋(フロア)では、

「偉大なる魔神王陛下に、(いのち)を捧げるのです。下等生物たる人間に、相応しい役目でしょう。さあ、生贄の首を切りなさい」

 なんて声がしていた。


 あいつのフロアには、有人惑星があって、そこで普通に人類が繁栄していた。

 古代バビロニアだか、古代エジプトみたいな文明があって、そこでは神の王への生贄として、人間が捧げられていた。



 その時、俺は初めて神界の大地の危険性に気づいた。


 だが、時遅しだ。

 既に誕生してしまった人類を、俺の一言で消し去ってなかったことにはできない。

 命を生み出せば、そこには当然責任が伴う。



 そこで俺は、メフィストに生贄をやめるように言った。


「このフロアを好きにしてもいいと言われたのは、主ですよね。フフフッ」

 メフィストはいつものように、笑ってやがった。


 だがそれで、はいそうですかと納得するわけにはいかない。

 毎日毎日、人間が俺への生贄にされていってるなんて知っては、俺のメンタルが死んでしまう。


「魔神王への生贄なんだろ。魔神王って、俺のことだよな?」

「はい、魔神王であられるアーヴィン様への供物です」

「その俺が、いらないって言ってるんだから、生贄はなしだ」

「……つまらないですねぇ」


 とは言いつつも、メフィストは俺の提案を受け入れてくれ、生贄はなくなった。


 代わりに、

「神の王を賛美するのです。皆、王への祈りを捧げなさい。絶やすことなく賛美し続けるのです」

 社畜のように感情が死んだ顔をした人々が集まり、狂信的な祈りを続けるという文明が誕生してしまった。



 ……俺は何も見ていない。

 これ以上、胃痛が酷くなったら大変だ。


 人が神への生贄にされる文明という、最悪の事態は回避したものの、それでも部下の凶行が止まらない。

 俺はそんな現実から、目を逸らすことしかできなかった。


 すまない、俺は所詮無力な凡人なんだ。



 毎日寝ている俺の枕もとで、怪しい呪文のような祈りが聞こえてくるが、あれはきっと気のせいだと信じたい。






 とまあ、大賢者の塔が神界の大地なるものに変貌してしまったが、それはそれだ。


 それはそれで片付けていいレベルを超えているが、この塔は今や本物の神が集う塔なので、これよりもっとひどい事態なんていくらでもある。



「さあ、ロマンに生きよう。これは決して、辛い現実から目を逸らしてるわけじゃないからな」

「兄上、目が遠いところ見てますよ」

「……」


 俺がロマンに傾倒したくなる理由を、少しは察してくれクリス。




 さて、そんな俺たちは、現在大賢者の塔の上層階にきている。


 目の前には直径60キロの巨大岩石が存在し、多量の技術者が動員されて、岩石を工事中だ。


 前回、超巨大宇宙要塞建造計画を承認したので、さっそく宇宙空間に浮かんでいる巨大岩石(いしころ)を、部下の高位魔神に取りに行かせた。


 要塞建設用に用意した塔のフロアに、巨大岩石を転移魔法にて直接持ってこさせた。


 その後は、用意された設計図に従って、巨大岩石の内部を土魔法・採掘(ディグ)を用いて、作業員たちか掘り進めていく。


 採掘(ディグ)は初歩的な土魔法で、土を掘ることができる魔法。

 攻撃魔法ではないものの、土木建築に非常に有用な魔法だ。



「まずは要塞内部に基本的な設備を埋め込むための空間と、各施設を結ぶ通路を掘り進めていきます」

 と、俺の傍で説明をしているのは、今回の超巨大宇宙要塞建設計画を提出した、科学技術者のリッチだ。


 このリッチ、生前から巨大建造物が大好きで、巨大建造物を建てるためなら、命を捧げてでもやり遂げてみせるという、狂信的な技術者だった。

 うちの塔の場合、魔術・科学に関係なく、生前だけでなく死後も自分の研究に取り組みたいなんて連中がわんさかいる。

 寿命が尽きそうになったら魔神と取引してアンデッド化になり、死後も自分の研究を進めている連中がよくいる。


 魔法キチなら、自分でアンデッド化して、リッチやエルダーリッチ化しているのが普通だ。

 だが、この技術者の場合は科学側の人間だったので、魔神に頼んで死後リッチとなったそうだ。


 技術者としては優秀なのだが、魔力が足りなかったため、エルダーリッチにはなれなかったそうだ。



「予算と時間があれば、要塞表面を装甲で覆ってもいいのですが、今回は試作としての意味合いも強いので、表面はむき出しの岩石のままとなってしまいます」

「それでも、核攻撃に耐えられるくらい頑丈なんだろう?」

「はい、攻撃が1か所に集中しない限りは、計算上相当数の核に耐えられます」

「素晴らしい」


 核攻撃に何度も耐えられる。

 まさに夢の無敵要塞だな。



「高位魔神が蹴っただけで壊れる」

「イリア、それは言ってはいけない」


 せっかく夢に胸膨らませていたのに、イリアが余計なことを言ってきた。


「私の魔法でも、1発で壊せそう」

「イリア、それも言ってはいけない」


 イリアの実力はこの塔の中では、中の上といったところ。

 魔王と同等かそれ以上の魔力があり、その火力は目の前の巨大岩石を魔法1発で本当に消し飛ばしかねない。


 あれ、イリアの攻撃力の方が、核より怖いんだけど。



「さすがに魔王や神々相手では、どうにもなりませんね。ハ、ハハハッ」

 そんなイリアの言葉に、リッチが乾いた笑いを上げる。


「いや、お前は悪くない。悪いのは、この塔にいる連中が、どいつもこいつも規格外の強さをしているせいだ。決して、この要塞が弱い訳じゃない」

「ほ、本当ですか、アーヴィン様」

「当たり前だろう」


 ここで技術者リッチのやる気を削いではいけない。


「俺たちは、ロマンのためにこの要塞を作っているんだ。巨大宇宙建造物は、男のロマンだよな」

「さすがは2代目大賢者であるアーヴィン様。やはり、男のロマンの重要性を理解しておられるのですね」

「当たり前だろう、ロマンなくして何が男だ」


 そこで俺とリッチは、互いにがっちりと腕を組みあった。

 やはり男のロマンを理解している男は素晴らしいな。


 まあ、このリッチは既に骸骨姿の死人なので、オスなのかメスなのかは、俺にはよく分からないが。



「アーヴィンお兄様なら、指一本で壊せるくらい脆い」

「「……」」


 せっかく2人でいい雰囲気になっていたのに、イリアさらに余計なことを言ってきやがった。


 な、なにが悪い。

 確かに俺だとこの要塞を指一本で粉微塵にできるけど、ロマンを自分の手で破壊するなんて、馬鹿なことはしないぞ。



「イリア、まだ宇宙艦隊のことを根に持っているのか?」

「……」


 まさかと思って聞いてみると、イリアがプイっと顔を逸らしてしまった。


 なんてことだ。

 イリアもイリアで、自分のロマンに強いこだわりを持っていたんだな。

 だけど、今回は艦隊の母港になる要塞を作ってから、宇宙艦隊を作っていく予定なんだ。


「すまない、イリア。お前を傷つけるつもりは決してなかったんだ。ただ、今回は順番だから、仕方がないんだ」

「ムーッ」


 ああ、俺の妹がどうしても納得してくれない。

 なんて悲しいことだ。



「ロマンだけで宇宙要塞作るのが、そもそもおかしいんだけど……」

 そんな中、クリスが意味の分からないことを言っていた。


 俺の弟だけど、こいつ何言ってるんだ?


 俺とリッチは2人で、クリスをダメな奴だなって顔で見る。

 そしてイリアは、相変わらず顔を背けて拗ねたままだった。

あとがき



作者「昔は普通のファンタジー小説を書いてるつもりじゃったんじゃ。じゃが、膝に矢を受けたせいで、なぜかSF世界に侵略されてしもうてのう」

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