25 長き戦いの幕引き
メフィストとクレトの相手だけしていればいいと思っていた。
そんな風に考えていた、バカな俺を殴り飛ばしてやりたい。
対神用の武器を持ち出した2人だけでなく、魔神化した部下連中まで、「ヒャッハー」と叫びながら、俺に襲い掛かってきた。
あいつら脳筋だから、俺のピンチなんて全くお構いなしだ。
むしろ好機だと、この機に俺を亡き者にしようとしてないか?
ヤバイな。
どれくらい戦い続けているのか、完全に分からなくなって、時間の感覚がなくなった。
何日か、何週間か、何か月か、もしかすると10年以上経ったのか……
長い戦いが続いたせいで、俺の集中力も相当削れてしまった。
「主の腕ゲッチュー」
「……」
だから、今の俺は相当隙だらけだろう。
メフィストの繰り出した剣を回避して、なんとか頬に傷を作るだけで済んだと思ったら、背後に転移してきた魔神に腕を噛み砕かれた。
そのまま、片腕を食い千切られる。
痛さはなかった。
これまでの戦いで、メフィストとクレトの武器に散々斬られ、痛覚が麻痺してしまったらしい。
「これで俺様も、さらなるパワーアップだな。ワハハハ」
俺の腕を食いちぎった魔族は、そのまま俺の腕を食った。
俺の体の一部だから、相当な魔力がこもってるはずだ。それを食えば、確かにパワーアップ間違いなしだ。
「……グボハーッ」
だが食った途端、全身から血を噴き出し、白目を剥いて気絶した。
ガクガクと震え、口から白い泡を吹いている。
「自爆とはバカな奴だな。鮮血魔法・吸血」
原因は、俺の血を体に取り込んだこととしか思えない。
俺は仕方なく、メフィストとクレトの攻撃を掻い潜り、気絶している魔神に接触して魔法を使う。
鮮血魔法・吸血は、相手の体から血と生命力、魔力などを奪い取る魔法だ。
接触した部分から、魔神の力を奪わせてもらう。
俺の腕から得たであろう過剰な力が、元の持ち主である俺の体に還元されていく。
そしていつものことで、俺の魔法の威力がおかしいせいで、吸血も強力過ぎた。
魔神の体が、あっという間に骨と皮だけにやせ細っていき、全身が白一色に変化した。
体の一部が灰になって、パラパラと崩れていってる気がする。
気のせいだと思いたい。
「死んでないよな?」
魔神とは神の1柱なので、いくら俺の魔法が強力でも、これで死ぬなんてことはありえない……はずだ。
「……」
「返事がない、ただの屍のようだ」
「クレト、冗談でもやめとけ」
「はーいっ」
とりあえず、この魔神はこれで戦闘不能だろう。
「こいつも戦闘不能だ。ほら、大賢者の塔に送っといてやれ」
「ウイーッス」
戦闘不能判定をだして、俺は離れた場所にいる別の魔神に、白くなった魔神を放り投げた。
そのまま魔神が転移魔法を使って、大賢者の塔へ戻る。
大賢者の塔には、既に戦闘不能判定を出して、リタイアした魔神たちで溢れている。
塔に戻れば、白くなったあいつも、仲間の魔神から回復魔法なりで、ちゃんと復活させてもらえるだろう。
「おやおや、今での100体目の魔神が戦力外になってしまいましたね」
「残ったのは僕たちだけかー」
メフィストに関しては分からないが、それ以外のメンバーは、俺を含めて本気の殺し合いをしているわけではなかった。
まあ、少々熱が入りすぎて、俺をガチで殺しにきてそうな魔神がいないでもなかったが、そのすべてを返り討ちにした。
高位魔族も、魔神の戦いも、基本は魔力が尽きて戦闘不能になった段階でお終い。
殺し合いではないので、リタイアした魔神は、大人しく大賢者の塔へ戻ってもらうことにした。
そんなこんなで、俺と対峙していた魔神たちもいなくなった。
残ったのは、メフィストとクレトの2人だけ。
「それにしてもおかしいですね。対神用兵器であれば、神の肉体とて回復できないはずなのですが……」
「主ってば普通に回復してるよね。戦ってるうちに、主の回復能力がバカみたいに高くなっちゃった」
俺は最初の方こそ、メフィストとクレトの対神兵器に苦戦させられていた。
だが、気が付いたら傷の回復速度が上がり、さらに攻撃の余波で受けるダメージがどんどん少なくなっていった。
今では、直撃しないとダメージを受けないほど、体が頑丈になっている。
それは非常にありがたいことだ。
ただ、
「お前にバカと言われたくはない!」
「エヘッ」
俺の回復力がバカみたいとはなんだ。
俺は常識人だぞ。
よりにもよって、クレトにバカ扱いされるとは、俺の回復能力が可哀そうじゃないか。
なんてやり取りをしてる間に、俺の食いちぎられた腕も回復して、元に戻った。
「ふーっ、これ以上やり合っても、主に勝てる光景が思い浮かびませんね」
「だよねー。それに僕、お腹がすいちゃった」
散々戦い続け、メフィストもようやく折れてくれるようだ。
「なら、今回はこのくらいでやめておくか。俺も、時間の感覚が分からなくなるほど戦って、だいぶ疲れた」
もう体はクタクタだ。
魔力に余裕はあるものの、体が疲れて正直辛い。
自分でも分かるほど、集中力が落ちているからな。
俺たちは、宇宙空間で一体どれだけ戦い続けているのだろう?
戦ってるうちに髪の毛がやたらと伸びてたので、何日というレベルでないのは確実だ。
「いけませんね、主。私は帝王学で、王たるものは自らの弱点をさらしてはならぬと、かつて教えたはずです。たとえ虚勢を張ってでも、自分が疲れているなどと口にしてはいけませんよ」
「そういうメフィスト、お前も人化が解けかけて、本来の体が出かけてるぞ」
「おやっ……」
普段は人の姿に化け、完璧な執事の姿でいるメフィスト。
だが、今はメフィストの背後の空間から、大量の目玉が”こちらの世界”を覗いていた。
魔族の頃はもっと人間寄りの姿をしていたのだが、神化して魔神になった影響で、メフィストの外見が、以前とはかけ離れたものになってしまった。
人化していれば、本来の姿をさらさないので、外見上の変化を見て取れない。
だが本来の姿は、以前とはもはや全くの別物となっていた。
「これはいけませんね」
自分の背後を振り向いたメフィストが、大量の目玉を見て苦笑する。
目玉を引っ込めて、きちんと人化を維持しようとしているが、目玉は相変わらず闇の中から、”こちらの世界”を覗いたままだ。
「お腹空いたから帰るー」
そんな中、クレトが真っ先に声を出して、転移魔法でこの場から消えてしまった。
メフィストと違って、クレトは完璧に人化を保っていた。
おまけに腹は減っても、戦いに疲れた素振りなんて全くなかった。
俺たちの中で、クレトが一番タフなのかもしれない。
「ふうっ、しかたありませんね。今回はこの辺りで幕引きとしましょうか」
「そうしよう。俺も早く帰ってベッドで寝たい」
メフィストもようやく矛を納めてくれた。
何日も飲まず食わずで、休憩もなかった。
やれやれだ。
「ところで俺たち、なんでこんな戦いしてたんだっけ?」
あまりに長く戦い続けていたせいで、俺は完全に戦いの原因が記憶から抜け落ちていた。
「主、ボケるにはまだ早いのではないですか?」
「いや、俺は親父みたいにボケてないぞ」
だけどメフィストは、クツクツと俺を笑いやがった。
相変わらず性格の悪い奴だが、まあいいか。
「それじゃあ、大賢者の塔に帰るか」
「承知いたしました」
ということで、俺たち2人も、転移魔法で大賢者の塔へと戻った。
「それにしても大賢者、あなたは大変素晴らしいものを作ってくれた。私の期待以上の協力者ですよ」
転移する直前、メフィストが何か口にした気がするが、この時の俺は激しく疲労していたせいで聞きそびれた。
あとがき
長く続いた戦いはこれにて終了です。
終わった理由は、疲れたから。
作者もこれだけ長い戦闘シーン書いたことがないので、裏方的な意味でも疲れました~




