24 たぶん神話級の戦いなので、ドラゴンボールと新世紀もお付けします
宇宙空間で戦闘を続けているせいか、だんだん時間の感覚が怪しくなってきた。
星の上と違って、朝晩の変化がないのが最大の原因だ。
少なくとも、1日以上は戦っているだろう。
しかし魔神化した部下だけでなく、まさか高機動人型戦闘機に宇宙母艦なんて代物まで出てくるとは思わなかった。
モビルスーツだぞ。
戦場に出てきた時は、「ここは宇宙世紀か!実は俺、未来に転生したんじゃないか!」と、真剣に悩んでしまった。
おまけにレーザー兵器を撃ってくるは、重力波なんて、超文明の遺産まで引っ張り出してくるはで、やりたい放題だ。
そして極めつけは、核弾頭混じりのミサイル攻撃。
すべて俺を狙った攻撃だったようだが、たいしたことがなかったので、無傷で済んだ。
というか誤射して、味方である魔神の足を引っ張りまくってたな。
同士討ちが酷い。
ゴブリンどもは、あんなものを持ち出して、一体何をしたかったんだ?
しかも、核兵器なんてどこから持ち出してきた?
イエローケーキは大賢者の塔の封印の間に、保管していたはずだが……
クレトが持ち出したのかも。
あそこの保安体制って、あってないようなものだから仕方ない。
……核兵器が流出したのに、仕方ないって済ませていいわけないよな。
けど、俺らの戦いが、惑星環境を確実に大変動させるか、そのまま滅亡直行コースレベルに達してるせいで、核兵器があまり怖くなくなってきた。
「いかんいかん、パワーインフレに巻き込まれて、俺の中での常識が崩れかけてる」
慌てて頭を振り、自分の中の恐ろしい考えを振り払う。
俺は、普通でノーマルなんだぞ。
「今じゃー、野郎ども突撃を仕掛けろー」
「「「ウオオオーッ」」」
なんて考え事をしてたら、魔神10体が俺に向かって捨て身の突撃をしかけてきた。
「ゲフッ」
油断してた。
まるでラグビーの集団タックルだ。
構えなしに受けてしまい、俺は派手に吹っ飛ばされてしまう。
タックルを受けた拍子に、鼻血が出てしまい、宇宙空間を飛ばされながら、血がきれいに舞う。
「イツツッ、やってくれたな!」
「まだまだいくぜー!」
俺が吹き飛ばされた先で、さらに魔神の1柱が待機していた。
振り上げた両手を握り、俺に叩きつけてこようとする。
「甘いっ」
しかし俺は吹き飛ばされつつも、空中で体勢を立て直す。
「ギャフーッ」
そのまま魔神の胴体を、足蹴りにして吹き飛ばした。
しかしなんだ。
最初は魔法を使っての大決戦をしていたが、今の俺たちは肉体を使っての殴り合い、蹴り合いになっている。
俺だけでなく魔神たちが使う魔法も威力がおかしなことになっていて、魔法の撃ち合いをしていると、単なる流れ弾で星が死にそうなレベルになっていた。
そこで暗黙の了解というわけではないが、いつの頃からか蹴って殴っての戦いがメインになった。
とはいえ、俺たちの身体能力も、そうとうイカレタものになっている。
俺が蹴りをお見舞いして魔神を吹き飛ばせば、宇宙空間を漂っていた100キロ級の岩石に魔神が激突。
その後、衝撃で岩石が木っ端微塵に砕け散ってしまった。
「ゲホゲホ、まだまだー!」
なんて言って、岩石に激突した魔神は大したダメージもなく、すぐに俺に向かって反撃にきていた。
また俺も魔神にぶん殴られ、この星系内にある無人惑星に叩きつけられもした。
地球がある太陽系で言うところの、水星みたいな星だ。
恒星から一番近い惑星で、そこの地面に叩きつけられ、俺は思わずむせ返ってしまった。
「ゲホゲホ、煙たい」
落下した際の衝撃で、土ぼこりが舞い、それが鼻や口に入ってしまった。
それと落下した俺の周囲に、直径うん十キロメートルのクレーターができていたが、俺のせいじゃないぞ。
水星に元からあったクレーターに違いない。
俺が落ちた時は、煙たかったけど、あまり痛くなかったからな。
俺が宇宙空間から落ちただけで、バカでかいクレーターができるわけない。
まあ、そんな感じで、宇宙世紀から、いつの間にかドラゴンボールな世界に変わっていた。
宇宙で戦っているうちに、俺も魔神たちも、さらに限界突破して強くなっていってる気がする。
最初は俺の殴る蹴るで、魔神たちの体があちこち凹んでいたが、それがいつの間にか、殴ってもちょっと切り傷ができる程度で、体が凹まなくなっていた。
その切り傷にしても、回復魔法を使わず、しばらく放置してるだけで回復してしまう。
俺の方もダメージを受けても、回復魔法なしで放っておくと、気づいたら回復しているのが普通になっていた。
なんだか、頑丈さに磨きがかかってないか?
……宇宙で戦い続けてるうちに、俺の頭の中の酸素が足りなくなってきたのだろう。
きっと、酸欠で頭の働きが鈍くなって、錯覚してるだけだ。
宇宙空間で戦闘してたら、さらに超パワーアップしてますなんてわけないよな。
ここはいったんクールになる必要がある。
「よし、酸素を補給しておくか」
というわけで、俺は結界魔法を展開して、水と雷魔法で、酸素を作り出すことにする。
人間、酸素が足りてないと変な幻覚を見たり、頭の働きが鈍くなって、思考能力が低下するからな。
「いっけー、ロンギヌスの槍―!」
なんてところで、クレトの大声がした。
正確には”念話”の大音声がして、頭がズキズキするほどの声が脳内で響く。
あいつなにやってるんだと声のする方を見たら、宇宙の彼方から超高速で槍が飛んできた。
とはいえ、俺たちの次元では、もはや武器などなんの役にも立たない。
神鋼鉄どころか、最強硬度を持つ物質と呼ばれる破壊不能物質すら、簡単に破壊できる身体能力だからな。
どんな材質の武器で攻撃されても、武器の方が壊れてお終いだ。
俺たちの場合、武器を持って戦うより、体を使った殴り合いの方が、遥かにダメージを出せる。
今更槍の直撃を受けても、俺の体でなく、槍の方が折れ曲がってしまうだけだ。
しかも、現在俺の周囲には結界魔法を展開しているので、飛んできた槍は結界に弾かれるだけ。
なんて、考えてた。
キュイーンッ、と槍が結界に接触した途端、変な音がした。
「えっ、宇宙なのに、音がする?」
不思議に思って、クレトが投げた槍を見る。
ドリルっぽい形状をした槍が、俺の結界魔法と激突していた。
だが、槍の先端が形を変え、二股に分かれた形へ変化する。
「……」
ビュンッ!
「げ、俺の結界貫通しやがった!」
これはヤバい。
ただの槍じゃない。
危険を感じて、俺は直撃コースだった槍の射線上から咄嗟に逃げた。
回避に成功し、俺の体の傍を槍が高速で飛び去っていった。
槍はそのままの速度で、宇宙の彼方へ飛び去っていく。
「グッ」
しかし槍の直撃を回避したはずなのに、俺のわき腹から血が流れていた。
「おいおい、マジかよ。直撃しなかったのに、ダメージもらうとか」
今の俺の体は、放置していても勝手に傷が回復するはずなのに、なぜか血が止まらない。
「回復魔法・特異回復」
仕方がないので、完全回復魔法を用いることで、傷を塞ぐことにする。
だが、いつもであればすぐに塞がるはずの傷が、簡単に塞がってくれない。
「どういうことだ?」
回復魔法をかけ続けることで、出血量は減っている。
まったく回復していないわけではないが、いつもより回復速度が遅い。
遅すぎる。
魔神たちとの殴り合いですら、こんなに怪我の治りが遅くなることはなかった。
しかし、考えている暇がない。
「戻れー」
クレトの声がすると、遥か彼方に飛び去ったはずの槍が、飛び去った方向から高速で戻ってきた。
「炎魔法・火炎爆発!」
当たらなくても傷を負う槍。
しかも、結界魔法を無効化してきた。
俺は槍の軌道を逸らすために、炎系の中位魔法を使い、宇宙空間に大爆発を発生させる。
戦闘を続けたことで、俺の能力はさらに底上げされたらしく、中位魔法でありながら、一発で星を爆破できる、トンデモ級の威力になっていた。
「ウソだろ、俺の魔方が効いてない?完全に無効化してるのか」
星を爆破できるはずなのに、爆発に巻き込まれても、槍はまるで関係ないといった様子で飛び続ける。
あの槍には触れなくても、傍を通っただけでダメージを食らう。
しかも、回復しにくい傷を負ってしまう。
「次元魔法・転移」
ならば転移して、一旦この場を離れようとしたが、なぜか魔法が不発した。
「あの槍のせいか!」
結界魔法に、火炎爆発、そして転移。
あの槍が全ての魔法を無効化しているせいだと、気づいた。
となると、俺にできるのは今すぐこの場所から全力で逃げることだけだ。
「時魔法・加速」
一応ダメ押しで、自分の時間速度を加速させる魔法を使っておく。
周囲で1の時間が過ぎる際に、俺だけ2以上の時間を得ることができる魔法。
周囲より倍以上の速度で動き、考えることができるようになる魔法だ。
だが、これも魔法を乱されてしまう。
多少は、加速の効果が発生して、俺の時間が加速された。
それでも、槍を無傷でやり過ごすのは難しい。
ならば、せめて急所にダメージを負わないよう、腕を前に出して頭と胴体をかばう。
「グウッ」
槍が傍を通り過ぎていき、腕に激痛が走った。
だが、そこで安堵できない。
俺は咄嗟にその場から、宙を蹴って後ろに飛びのく。
「私の存在に気づくとはお見事です、主」
「何が見事だ!」
クレトの槍のせいで、腕がズタボロになる傷を負った。
そこにメフィストまで現れ、いきなり俺に剣を振ってきやがった。
腹黒メフィストが、俺相手にただの剣を使うわけがない。
クレトの槍と似たようなものだろう。
そう判断して、俺は咄嗟に後ろに飛びのいたのだが。
「ガアッ」
腕を思い切り斬られた。
斬り飛ばされなかっただけましだが、刀身が右腕を貫通し、骨をあっさりと切断している。
右腕に力が入らなくなって、ダラリとぶら下がってしまった。
酷い有様だ。
左腕はなんとか動くものの、それでも槍の一撃のせいで、だいぶ動きが鈍っている。
右腕は完全に動かない。
「この傷も、回復できないんだろう?」
「ええ。本来であれば、いかなる方法を用いても回復することができない傷です」
俺の前で、メフィストがにこりと笑いながら言い放った。
「ふふーん、凄いでしょう、主。僕たちのとっておきの切り札だから」
そこにクレトも、転移魔法を使って現れた。
手には、先ほど俺に向けて投擲した槍を持っている。
「……」
ヤバすぎる。
俺に確実にダメージを通してくる武器を持った2人を相手に、両腕をほとんど封じられた状態というのは、大変危険だ。
だが2人は、俺に今すぐとどめを刺す、というわけでもなさそうだ。
……い、一応、これって命を懸けた戦いじゃないからな。
でも、魔族の戦いって、本気で命のやり取りしてなくても、つい力が入って殺っちゃった、ということはある……
そういえば俺たち、何が理由で戦ってたんだっけ?
頭に酸素が足りてないからか、はたまた何日も宇宙で戦い続けてたせいか、忘れてしまった。
そんな俺の前で、メフィストは手にした剣を俺に見せるように、掲げる。
「主、この剣はかつてこの世界の神々に戦いを挑み、神を食い殺しまくった原初の魔の牙です」
と、口にするメフィスト。
手に持つ剣を恭しく掲げるメフィストは、まるで剣に魂を奪われたかのように、恍惚とした表情をしていた。
「主もご存じと思いますが、原初の魔は神殺し。ゆえにその牙は、神を含めあらゆるものを切り裂くことができる、対神用兵器なのです」
フフフッと、メフィストは口をまげて笑った。
しかし、メフィストの笑いが、いつも以上に不気味だ。
そして、メフィストが口にした原初の魔。
原初の魔というのは、この世界における最初の魔族のことで、神々に反旗を翻し、世界を創造した神々に襲い掛かって、神々との間に戦争を起こした。
戦いの中で原初の魔は、神々を何柱も食い殺し、神の力を食らうことで、神を上回らんばかりの力を得たという。
戦いは凄惨を極め、神々の半数以上が原初の魔によって食い殺され、残った神々の多くも、戦いで力を失ってしまったという。
だが、最終的に原初の魔は神の1柱と、相打ちになることで打倒されてしまう。
打倒されたのち、原初の魔の体は砕け散り、その破片が魔族となって世界中に散らばった。
原初の魔の魂は、怒り狂った神々によって粉々に砕かれ、地獄にいくこともできず、二度と復活できなくなったとされている。
もはや伝説ですらない、神話の時代の物語だ。
「実は私、この原初の魔と相打ちになった神だったのです」
恍惚とした表情で、原初の魔の牙を眺め続けるメフィスト。
もはや、魅入られているといって過言でない顔だ。
それにしても爆弾発言だ。
「お前、神だったのかよ」
「ええ、私は原初の魔と相打ちになったことで、転生を余儀なくされてしまいましてね。その結果悪魔に身をやつし、現在まで生きてきました」
そういえばメフィストが過去に、神が魔族に転生したという話をしていた。
なんのことはない、メフィスト自体が、神が転生した魔族だったわけだ。
「で、そんな元神様が、なんで俺のところにいるんだ?」
「実は、主にお願いしたいことがひとつあるのです。そのためだけに、私は今まで歴代の魔王に仕え、神々と戦わせようとけしかけてきたのです」
うわー、ろくでもねぇ話がてできた。
大魔王の時も似たような話をしてたけど、ついに核心部分が来たぞ。
メフィストの口ぶりから、神々と戦争することが”手段”になっている時点で、もうヤバいなんてレベルの願いじゃない。
「主、この世界の神を殺していただけませんか。私の願いは、それだけです」
「……神殺しを俺にしろ、と」
「はい、そうです。実は私、原初の魔と相打ちになった際、奴と混じってしまいました。そのせいで体や魂が変質してしまい、どうしても神を殺したい、その衝動から逃れられなくなってしまったのです」
満面の笑みのメフィスト。
神と戦争をするのは、神殺しが目的だからかよ。
神と戦争をすれば、自然と神殺しもすることになるだろう。
やっぱ狂ってるな。
「ですが残念ながら、悪魔に転生した私程度では、神を殺せるほどの力がないのです。まあ、つい先ほど”神化”したおかげで、ひょっとすると、今の私なら神の何柱かは仕留められるかもしれませんけど。フフフッ」
「……だったら、自分でやったらいいじゃないか」
俺、そういう危険思想には関わりたくないので、全力で回避させてもらいたい。
世界征服も、世界破壊もイヤだし、この世界の神を殺すなんて、さらに埒外な話だ。
俺はゴクゴク平凡な凡人だぞ。
異世界転生者ではあることは平凡でないかもしれないが、どちらにしても俺の手には余り過ぎる話だ。
でも、俺の考えなんてメフィストはお構いなし。
「私では数柱の神で精一杯です。ですが主であれば、この世界の神々をすべて抹殺しても、有り余る力があります。そのまま、神々の王の玉座を強奪してはいかがですか?世界全てが、真の意味で主のものになりますよ」
「だから、俺はそういうのはいらないって。そもそも世界征服したくないって、いつも言ってるだろう」
「……残念ですねぇ」
俺は世界征服に大反対。
神殺しして、神の世界まで手に入れましょうなんて話も、全力でお断りさせてもらう。
「まったく、困った主です。少しばかり体を刻んであげれば、大人しく言うことを聞いてくれるでしょうか?」
メフィストが、手にしていた剣。原初の魔の牙を、俺に向かって突き付けてきた。
目がマジだ。
確実にダメージが入る武器を向けられ、俺としては身動きが取れない。
チラリと、側にいるクレトの方を見る。
「えっ、僕?」
と、この状況でもクレトは呑気な顔をしていた。
「できれば、この状況を何とかしてもらいたいんだが」
「ムリムリ。僕、そんなに頭良くないから。エヘッ」
俺、もしかするとメフィストに殺されるかもしれないんだけど。
そんな状況で、このバカは、何を言ってるんだ。
本当にバカだ。
バカだバカだと、いつも思っていたが、こいつはどこまでバカなんだー!
「では、主。少々痛いと思いますが、私の従順な道具になっていただくため、切り刻まさせていただきます」
メフィストが、原初の魔の牙を構えた。
「じゃあ、僕もおまけで参加ってことでー」
「余計に状況を混乱させるな!この大バカ」
クレトのバカまで、俺に向かって槍を構えてきやがった。
「フフフーッ、メフィストの武器もそうだけど、僕の武器も対神用のとっておきの武器だから、主の体でも貫けるからねー」
「そんな物騒なものを、なんでお前が持ってるんだよ」
「地獄に落ちてたから、拾ってきちゃった。ブイッ」
「……」
ヤバイ。バカが対神用の武器を持つとか、何の冗談だよ。
核を持たせる以上にヤバいぞ。
「ではクレト。仲良く2人でいきましょうか」
「OK―、主、もしも死んだらごめんね」
こうして俺は、メフィストとバカ相手に、戦わないといけなくなった。
あとがき
新世紀はエヴァンゲリオンの事ですね~
(劇場版があるものの、もはや、おっさん世代の遺産ですね)




